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覆いをして温度を高めたプランター……の代用品である底に穴を開けた器数十個に、種をまき、発芽して少し経ったら一度目の間引きをして、数センチ程度の大きさまで育てる。さらに間引きして、育てる苗を器一つにつき五、六株程度にまで絞る。そうしてある程度大きくなるまで大事に育ててやってから、畑に移植する。
もちろん、直接畑にまいてもいい。けれど、今はこの国にある二つの季節、暖季と寒季の中間の気候で、これからもっと寒くなっていく。地温があまり低いと種は発芽できないし、苗から育てた方が失敗も少ない。今回苗にした植物は寒さに強い種だから、畑に植えて数日様子を見て苗が弱らなければ後は大丈夫。数ヶ月も経てば、デクラという名のジャガイモ系作物がごろごろと収穫できる予定だ。ジャガイモ似なのに種とはこれ如何に。
「デクラか……あんたが作ったのはすごいよな。丸くて大きくて、ずっしりしてる。普通はもっと小さくて、その割にとれる量もたいしたことないって野菜なのに」
「土も育て方も全然違うから。こういう根茎……根が太るタイプの野菜は、下に育つ空間がいっぱいほしいから、土を盛り上げて。葉っぱじゃなくて根を太らせるためには窒素過多は厳禁……ええと、葉っぱばかりが育たないように肥料とか工夫したりするの」
「土を盛り上げてるのは、そういう理由なのか」
「うん。他にもね、こうやって土を盛り上げてあげると、この土山……畝っていうんだけど、畝と畝の間に通路ができて、色々作業しやすくなるでしょ。あと雨が降った時に作物が水につからなくてすむの。それに、作った畝に植えていけば、作物を真っ直ぐ埋めることもできる。バラバラに植わってたら管理が大変でしょ?」
「へえ、色んな理由があんだな」
「そうだね。まあ、私が考えたわけではなくて、先祖たちの知恵を借りてるだけなんだけどね」
「あんたの先祖か……人間ってのはすごいこと考えんだな」
「そう、だね。……魔法は使えないし環境の変化にも弱いし、生物としては強くないんだろうけど、でもその分頭を使うってことが、どんな種族よりも深く身にしみついた種族だから」
この世界の人間も、私が知ってるものとそう大差ないことは知識として知ってる。賢くて、努力家で、数の多い種族。言い換えれば、狡猾で、貪欲で、排他的な種族だ。種族としては、最悪の部類に入るだろう。だから彼らは手を差し伸べなかった。はるか昔の戦争をいまだに取りあげて、実際に貧しさに喘ぐ、この国の人々を当然のように見捨てる。敵に情けは無用だと。
そんな人間の私を、この国のひとたちは。よく、考えてみれば。
……一回も、人間だからという理由で、敵視したことはない。