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畑に戻った娘は、以前以上に精力的に農作業をしているらしい。何でも、指導者を育てるつもりなのだそうだ。確かに、本は配布したが、地方での農作はまだまだうまくいっていないのが現状だった。
農業が我が国に着々と広まっていくのと反比例して、異界渡りの方法は見つからない。娘との約束を一度反故にした側としては、このまま情報一つ得ることができなかったら今度こそ国として、王としての威信が立たぬ。娘も、呼び出してから六年も経っていれば、もう我が国の民といってよいだろう。民の願いを叶えることのできない王がいる国など、たとえ農作が地に根付いたとしても遠からず沈没する。
……そういった理由を抜きにしても、このまま還ることができないとなるとあまりにも哀れすぎる。
そもそも、異なる世界から何かを呼びだすというのは、一般的ではないにしろ国家的には時折行われていることだった。だから部下から召喚の申し出があった時、我は賛同した。事を成したら還す、告げた言葉は嘘では決してなかった。しかし、前例を探れば、全ての召喚物は命無きモノ。生物を呼んだ者は、いなかった。それを知った時、深い溜息が出た。若い頃のように、机に突っ伏してどうしようもないことに頭を抱えたくなった。
――禁忌だったのかもしれぬ。だとすればおそらく、あと数ヶ月もせぬうちに、我はあの娘に残酷な宣告をせねばならぬのだろう。
お前は還れない、と。