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見たことのない植物が多かったけれど、私の知ってる知識をフルに使って、どう育てるのがいいか考え、実践し、繰り返した。
畝作り、マルチング、支柱立て、防虫駆虫作業、除草、追肥、病気への対処、適切なまき時期の特定、品種改良。やることは山とあって、大学で数年学んだ程度の知識では全然足りない。何度も枯らし、根腐れを起こし、虫にやられ、鳥にもつつかれ、収穫しても美味しくなかった。
それでも続けた。若芽が育ち、花が咲いて、実や根が大きくなり、収穫する、そのサイクル。育てやすそうで大量に取れそうな根茎の植物――見た目はサツマイモに似ている――から始め、それが安定収穫できるようになるまでが一年半。次に育てたのはリコピンが豊富に入ってそうな赤い植物――トマトとパプリカを混ぜて割ったような植物だ――で、これがだいたい半年。次はピーマンのような植物、その次はナスのような植物、キュウリのような植物、ジャガイモのような、サトイモのような、スイカのような、キャベツのような……とどんどん畑を拡大し、種類を増やしていった。
それらの作物の育て方を私は、貴重な紙とペンを存分に使い、イラストや図も入れてわかりやすく解説した上で、数冊の本としてまとめた。その内容はもっと安価な木板や、動物の皮でできた皮板にそっくりそのまま写し取られ、国中に配布されたそうだ。そして、私が書いた原本は、大切に王宮で保管されている。
けれど、まだ貧困問題は解決していない。肥沃でない土地を、一から開拓するのだ。根気はいるし、本からの知識だけでは、絶対足りない。
畑に戻ってまずやろうと決めたのは、指導者の教育だ。私一人じゃ、国全体に畑作りの方法を教えて回ることなんてできるはずがない。私と同じレベルで農作業できるひとを育成して派遣する、それが現実的な方法だった。
私がいなかった十日間、その間も作業してくれたひとたちにその考えを説明し、やってはくれないかと打診してみたところ、十数人全員が、まさかの快い返事をくれた。その目はどれも、やる気に満ちて静かに燃えていた。
「あんたがそう言うの、待ってたぜ」
「女の身でさあ、こんなきつい仕事してんの、本当すげえって尊敬してたんだ。……ここ十日くらい、体、壊してたんだろ?ああやっぱりなって思ってたんだ、俺ら」
「もう少し、頼って、いや、こき使ってくれて構わねえんだ。この国のことは、あんただけの問題じゃねえんだから」
「見ての通り、俺たちはくだんねえチンピラだ。街でちょいと悪さやらかして、懲罰の代わりにここで働くって流れができて、土いじりなんて子どもじゃねえんだ、何やったってどうせ作物なんて育たねえよって、なあ、皆最初はそう思ってたわけよ」
「この国はどうせ駄目なんだってな。馬鹿なやつばかりだからよ、暴力に走るしか、能がなかった」
「そんな俺たちを変えたのは、あんただよ」
「あんたがたった一人で、頑張ってくれた。この国の土でもうめえ野菜がとれるって教えてくれた」
「あんたの力になりたい。あんたが求めてくれんのを、俺たちはみんな、待ってたんだ」
……今までここに作業に来た人たちの合計は、今ここにいるひとたちの数十倍になる。『みんな』というのは、その数も含むらしい。私は唖然として、言葉がでなくて、嬉しくなって、泣きたくなって、恥ずかしく、なった。ずっと、一人で頑張ってきた、つもりだった。なんて恥ずかしいんだろう!
こんなに沢山、私の行動を見てくれているひとがいた。一人で開拓していたわけじゃなかった。助けてくれてる、ひとがいた!
--よろしくな、お嬢ちゃん。
羞恥に震える私に、彼らはそれでも優しく手を差し伸べてくれた。