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我らが土地は肥沃ではない。大昔の人間との領地争いに負け、この荒廃した土地に追われた。
切実に、作物の実る大地を欲していた。けれど、我らにはそれだけの技術も、知識もない。技術も知識もある人間どもは我らの貧しさを見ていい気味だと高笑いするのみで、助けようとはしない。
事は切迫していた。助力しない人間を憎む暇すらないほど、我らの生活は極限まで削られていた。
だから、他世界にその力を求めたのだ。この荒れた土地に、緑の色を取り戻してくれる者を。
*
眼前で静かに怒り狂う娘は、そう、六年ほど前に求めた、その力だ。やきもきしたのも初め一年ほど、段々と期待以上の成果を上げ、ついには我らの暮らしに作物の実りをもたらした娘。
「信じて、いたのに……叶えれば、還してくれると信じてたのに」
――元の世界に還してほしくばこの大地に緑を取り戻せ。その力がある者を呼んだのだから、お前には、できるはずだ。
そう脅し、その力を奮わせた。
無論、最初は奴隷のように扱った覚えがある。しかし最初の作物がひ弱いながらも実った頃――十ヶ月ほど経った時分だった――には待遇を改善したつもりであったし、それから月日が経つにつれ娘もここに腰を落ち着け始めているように見えた。
……しかし、どうであろう。今、娘は、眼前で今までにないほど感情をあらわにして立っている。
「……王よ、いかがしましょう」
「……宥めすかしましょう。この娘に去られては、困ります故」
筆頭騎士、宰相。我の周囲の者どもは、二人の発言をかわぎりに口々に娘の有用性を語る。まだ使える、作物が育つようになってからまだ日も浅く今娘がいなくなっては困る。うまくやって、もっと言うことをきかせましょう。……まるでもののように。
改めて、娘を見る。六年前ここに、この玉座前に連れられてきた際の娘は、もう少しふくよかであったように思う。肌は人種的なものか黄味がかってはいたが、もっと焼けの少ない白色をしていた。黒髪はずっとつややかであったし、長さも胸辺りまであったはずだ。初見での印象は、ふわふわとした、女だった。今は違う。まるで研いだ刃物のごとき印象を持つ。
「……還れないんですか、私は。ずっと。一生?ここで?」
柔らかな体は削られて、色気のない着古した衣服に身を包み、焼けた肌と髪は荒れ、瞳は、亡羊とした様子で揺れている。
同じ年頃の娘と比べ、それでもこうもくたびれきった風体の者は稀に見ることに思い至り。
これはただの拷問だ、と私はようやく気が付いた。