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ばぁァァアアアん!!


金属と金属がぶつかる音。ガラスの破片が宙を舞い、キラキラとおちてゆく。


その物体はゆっくりと底へと向かって走りだす。


ブクブク…


水の中?ぉ…溺れる!!!




目をゆっくりとあける。そこは真っ白な部屋だった。特徴があるとすれば透明の花瓶に黄色のチューリップがいけてある。

黄色のチューリップは私の大好きな花だ。


「葉月姉?」


女の子はナースコールを鳴らす。

「先生葉月ねぇが起きました!」


すごく嬉しそう…その子の笑顔はとても美しい。でもどこか寂しげである。







でも…この子…










誰だっけ?

ナースコールをしたあとすぐに、ナースと医者が私の病室に現れた。

整っている顔の医者はすごく若く見えた。まだぼやける目でゆっくりとナースをみるとナースはこっちをじっとみていた。

「よっこいしょ。どれどれ」

顔に似合わず、おやじくさい医者は、椅子に座り私の服を少し上に動かし聴診器をあて心臓の音をきいている。

「大丈夫なようです…あそこからよくここまで回復できたね。よくがんばったな葉月ちゃん。」

と医者はえくぼを見せて笑う。それがとても愛らしい。

そうか…私の名前が葉月なのか。私はぼんやりと医者をみていた。やっとはっきりしてきた輪郭は医者の顔をはっきりと映し出す。思ったとおり若い。

「葉月…ちゃん?」医者はすこし慌てている。

「葉月ちゃん、コレなんだかわかるかぃ?」

そこにあるのは黄色の大好きなチューリップ

「…チューリップ」

私の第一声に医者もろとも安心感をかくしきれない。

「じゃぁ僕は?」

何をきくんだ。そんなの知るわけないじゃないか。

「ぇっと私の担当医…?」


「名前は?」

「名前?知りません。」

沈黙が続いた。




すくなからずこの医者はショックのようである。一度ためらいながら、後ろにいき女の子の肩に手をのせる。


「じゃぁこの子は?」


ナースコールした女の子…今にも涙があふれそうである。肩に触れられ少しびくつく。

「わかりません。」

そんなに親しい関係だったのか…おもいだせない。

女の子はその場にいれなくなったのかすぐさまでていってしまった。

私は申し訳ない気持ちと苛立ちで目線をチューリップにやった。チューリップはそこで綺麗に咲いていた。今は花瓶にあるチューリップは地面が土であることをまだ覚えているかのようだった。

「…あの。」

医者はいつの間にか私の一番近くに座っていた。医者が微笑みながらこっちを見た。

「私は記憶障害なのでしょうか…」

「おそらく…。脳に異常はみられないし、基礎知識ははっきりしているから…多分一時的なものだと思うよ。」

「そうですか。すいません。」

医者は私の頭に手をあてた。そして諭すように言った。

「君が謝ることなぃよ。あんなに凄い事故だったのに無傷だったんだから。奇跡的だよ。」


「事故?私は事故にあったんですか?」

「…凄い事故だった。車ごと橋を飛び越えて川にまっさかさま、誰もがみんなもうダメだと思ったのに、数時間後、君は岸辺で発見された。」

何かが胸に刺さるかんじがした…。

「運転手の方は?」

「運転手は車の中で死んでいたよ。」

「そうでしたか…」

自分がすごく薄情なヤツだと思ったが、そんな余裕はなかったんだと自分を正当化させた。

医者は膝を叩いてさてと…といった様子で無理に明るい声をだした。

「さっきの女の子は君の妹の亜美ちゃんだよ。僕は君の担当医の乃木だ。じゃぁ、何かあったらまたナースコールしてくれ。」

乃木先生はそう言って出ていった。あとに続くようにナースも一礼して病室をでた。


何日か入院が延びた。延びたところで私の日常は変わらない。退院の日が近くなっても自分の名前でさえ思い出せなかったし、亜美ちゃんも見舞いに来なくなっていた。

ずっと考えているのに、答えはでずに焦るばかりだった。とりぁぇず今日も屋上に上がって空を見上げることにした。

屋上にのぼると太陽が私を迎えた。

「太陽のことはちゃんと覚えているのにね」

そうつぶやくと何故だか悲しくなった。

私はいったいなんなんだ…私はいったい誰なんだ。

「君は記憶喪失なの?」

後ろから声がする。なんだか肩の荷が降りた気がした。

「ぁぁ…まぁね」

そっけなくぶっきらぼうに返答し、また空を見上げた。今日は晴天である。

顔をおろすと目がチカチカしていたふと気付くとさっきの男が隣に座っている。

「ずっといたの?」

「ああ。」

目が合う。すごく緊張するのに何故か安心する。

「暇人ね」

そう言って下をむくのが精一杯だった。

間があく。凄く不安になる。私はツマラナイ人間ではないだろうか…そんなふうにさえ思える。

「あなたもここの住人?」

思いきって言葉にする。

「いゃ、見舞いだけど」

「ならその病室行かないの?」

あまり行ってほしくないけど…

「本人が病室にいないんでね」

ここにいてくれる。それだけで安心した。でも口からでるものは皮肉ばかり…こんな自分が大嫌い。

「ふぅん…暇潰しに利用してるわけ?」


なんでこんな言葉しかでないのか…


その男の人は困った顔で笑った。切ない顔だった。

「見舞い人此処にいんだけど…」

「ぇ?屋上にいるの?」

立ってグルグルと見回した。近くにいるのはおじいさんおばあさんとナースばかり。そんな私の様子をずっと見つめながら彼はゆっくりと口をひらく。
















「あなただから。」


ハッとした。予想外だった。

そうか…私か…

どうしていいかわからず、呆然と立ち尽くすしかなかった。

「ま、そのうち思い出すだろ。」

さっきとは違う顔で笑って私の手を握った。


温かい手。


なぜだか懐かしい。

「もう少し話たいんだけど」

そういって私を隣に座らせた。昔の私はどんなふうに話をしていたのかわからない。私は対人関係がすっかり抜けてしまっているのだと実感した。

「あなたは…誰?」

何がなんでも思い出さなければ…

「俺はなんだ…青空小僧にでもしといて(笑)」

「は?」

私の顔がひきつる。

「俺が名前教えたらつまんないだろ?」

つまるつまんないの話か?困ってんだけどこっちは。

「そ。」


ま、いっか。

「さてと…学校あるし行くゎ。」

「学校?」

この歳で学校?二十歳…いや、それ以上なのに?

「これでも教師なんでね」

「教師?!似合わない」

「似合わなくて結構!じゃまたな。」

小さく手を振り、青空小僧は去って行った。

青空小僧?小僧っていう年齢か?久しぶりの来客で考えてなかったけど今思うとおかしい。


はやくおもいだしたいな。亜美ちゃんのことも、乃木先生のことももちろん青空小僧のこともね。

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