こんな社長は嫌だ。
昨日、仕事の昼休憩中に同僚と話した下らない内容を、文章にしてみました。
最近喋る内容は、こんなしょーもないifばっかりな気がします…。
『おーい、晶!』
私が彼を呼ぶと、ひょろりとした人影が振り向いた。
「…久しぶりだね、夏目さん。」
今にも折れそうな体躯とは裏腹に、しゃんと伸びた背と力強い目線は、彼の背負うものを顕しているように思える。
彼と会うのは高校卒業以来なので、かれこれ八年ぶりである。
「…こっちに戻ってきてたんだ。」
『そう。世間一般の連休は稼ぎ時だからね、ずらして休暇貰ってきたの。』
「そうか、お互い大変だね。」
どこか遠い目をした彼の台詞に、私の目が据わる。
「いや、あんた…寧ろ、社長になったんでしょ?新聞で見て、驚いたんだから…」
『ああ…知ってたのか。』
眼鏡の奥の、切れ長の目を少しばかり見開いて、彼は言う。
『世の中狭くて困るな…』
「ってわけで、あんた幼なじみにコーヒーの一杯ぐらい奢りなさいよ!」
『…何故そうなるんだ。』
隠そうともしない、不服そうな態度は、昔となんら変わらない。
…変わらないと言えば、もしかして。
私の中に、一抹の不安がよぎる。
「…。
もう!美人なおねーさんがお茶に誘ってるのに、そんな態度じゃ社交界渡れないわよ!」
その理由は…。
『そう言われても…俺、三次元の女に興味ないから…。』
ふいと逸らされた目に、私は思わず頭を抱えたくなった。
そうなのだ。彼は所謂、オタクという分類の人間なのだ。
昔から、美少女アニメキャラのポスターが張ってあったり、プラモデルやフィギュア専用のガラス棚があったりしたものだ。
だが。
「あ、あぁ…そう。…あんた、雑貨屋の社長よね?アニメ関連じゃなく。」
『それは…就職、できなくて…』
みるみる内に、しょんぼりと丸まっていく背中に、私は抱えた頭に頭痛が広がって行くのを覚えた。
…こんなヘタレが社長で、大丈夫なんだろうか?
一応、全国展開している会社で、そこそこ有名なのだが。
私の不安を余所に、彼は呟く。
『高校時代にバイトしてた店で、なんとか社員にしてもらった途端、前の店長が転勤になっちゃって…そうしたら、繰り上がっちゃったわけで。
ほら、近くに大学が移転してきただろ?それで、成績が良くて、今度は俺が本社勤務になっちゃって…』
彼は、未だブツブツと呟いているが、要はトントン拍子に繰り上がって、今の地位にたどり着いたらしい。
藁蘂長者じゃあるまいし、25歳の若社長に、そうそうなれるわけが無いと思うのだが…。
そう思いながら、ふと彼を見やった私は、思わず後ずさってしまった。
青なのか、黒なのかわからない、どんよりとしたオーラが漂っている!
普通の人間は、こんな異様なモノ出さないぞ?!と、思わず叫びそうになる息を、ぐっと飲み込む。
「ちょ、ちょっと。あんた、社長になったんだから、自分の思う分野にも着手したらいいんじゃないの?権限くらいあるでしょ?」
…マズイ。
非常にマズイ。このままドンヨリオーラが出てしまうと、捕まって帰れなくなりそうだ。
小中学生時代の苦い思い出が頭をよぎる。
ここは、なんとか踏みとどまってもらって、少しでも気分を上げたところで、さっさと退散させて頂こう。
そんな私の思惑に反して、彼の目がキラリと光る。
『…そうだ、そうだよ。夏目さん、俺はいいことを思いついたよ!』
ガバッと顔をあげた彼に、私はたじろいてしまった。
何かいけないスイッチを押してしまった模様…なぞと考え始める前に、生気を取り戻し、いや、顔を輝かせた彼が喋り出す。
『そうだよ、こうすればいいんだ!俺の苦手な接待は、メイドカフェで行う…いや、女子社員の制服を、ふりふりのメイド服にするんだ!』
…あんた、三次元の女に興味ないんじゃなかったの?と突っ込む前に、彼は続ける。
『ああ、でも妙齢の社員と…あと、パートのおばさんは拙いな。よし、彼女たちには、ナニーにでもなってもらおうか…』
どうやら私は、禁断の扉の鍵をぶっ壊してしまったらしい。
思わず遠い目をしてしまったが、これくらいは許されるだろう。いや、許して欲しい。
『男性社員は…鬱陶しいが…』
いい加減、物騒になりそうで、私は逃げ出したい気持ちでいっぱいになってきた。
しかし、彼はそれを許すような人間ではない。
これは、長年の経験によるものである。
『夏目さん!』
「ひゃいっ!」
しまった、聞いていないのがバレたのだろうか?
声がひっくり返ってしまったのは仕方がないにしても、これ以上この場に留まりたくない私としては、肝がつぶれそうだ。
ああ、帰りに胃薬買わないと…。
『ありがとう!俺、この仕事続けられそうだよ!早速、文書に纏めておかなくては。お礼はまた!じゃ!』
爽やかになんとも形容しがたい笑顔を浮かべ、颯爽と彼は立ち去っていった。
まるで、嵐か台風が過ぎたような、そんな感じだ。
やはり、彼に声をかけたのは失敗だった。
懐かしさに、流されてはいけないと学習したように思う。
とりあえず、私の思うことは。
何が何でも、二度と彼には会いたくない、ということだけだった。
お粗末様でした。(土下座)




