表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

こんな社長は嫌だ。

作者: 藤白竜胆
掲載日:2011/02/27

昨日、仕事の昼休憩中に同僚と話した下らない内容を、文章にしてみました。

最近喋る内容は、こんなしょーもないifばっかりな気がします…。

『おーい、晶!』


私が彼を呼ぶと、ひょろりとした人影が振り向いた。

「…久しぶりだね、夏目さん。」


今にも折れそうな体躯とは裏腹に、しゃんと伸びた背と力強い目線は、彼の背負うものを顕しているように思える。

彼と会うのは高校卒業以来なので、かれこれ八年ぶりである。


「…こっちに戻ってきてたんだ。」

『そう。世間一般の連休は稼ぎ時だからね、ずらして休暇貰ってきたの。』

「そうか、お互い大変だね。」

どこか遠い目をした彼の台詞に、私の目が据わる。


「いや、あんた…寧ろ、社長になったんでしょ?新聞で見て、驚いたんだから…」


『ああ…知ってたのか。』

眼鏡の奥の、切れ長の目を少しばかり見開いて、彼は言う。

『世の中狭くて困るな…』

「ってわけで、あんた幼なじみにコーヒーの一杯ぐらい奢りなさいよ!」

『…何故そうなるんだ。』

隠そうともしない、不服そうな態度は、昔となんら変わらない。



…変わらないと言えば、もしかして。


私の中に、一抹の不安がよぎる。

「…。

もう!美人なおねーさんがお茶に誘ってるのに、そんな態度じゃ社交界渡れないわよ!」

その理由は…。


『そう言われても…俺、三次元の女に興味ないから…。』


ふいと逸らされた目に、私は思わず頭を抱えたくなった。


そうなのだ。彼は所謂、オタクという分類の人間なのだ。


昔から、美少女アニメキャラのポスターが張ってあったり、プラモデルやフィギュア専用のガラス棚があったりしたものだ。

だが。


「あ、あぁ…そう。…あんた、雑貨屋の社長よね?アニメ関連じゃなく。」

『それは…就職、できなくて…』

みるみる内に、しょんぼりと丸まっていく背中に、私は抱えた頭に頭痛が広がって行くのを覚えた。


…こんなヘタレが社長で、大丈夫なんだろうか?

一応、全国展開している会社で、そこそこ有名なのだが。


私の不安を余所に、彼は呟く。

『高校時代にバイトしてた店で、なんとか社員にしてもらった途端、前の店長が転勤になっちゃって…そうしたら、繰り上がっちゃったわけで。

ほら、近くに大学が移転してきただろ?それで、成績が良くて、今度は俺が本社勤務になっちゃって…』


彼は、未だブツブツと呟いているが、要はトントン拍子に繰り上がって、今の地位にたどり着いたらしい。

藁蘂長者じゃあるまいし、25歳の若社長に、そうそうなれるわけが無いと思うのだが…。


そう思いながら、ふと彼を見やった私は、思わず後ずさってしまった。


青なのか、黒なのかわからない、どんよりとしたオーラが漂っている!

普通の人間は、こんな異様なモノ出さないぞ?!と、思わず叫びそうになる息を、ぐっと飲み込む。


「ちょ、ちょっと。あんた、社長になったんだから、自分の思う分野にも着手したらいいんじゃないの?権限くらいあるでしょ?」


…マズイ。

非常にマズイ。このままドンヨリオーラが出てしまうと、捕まって帰れなくなりそうだ。

小中学生時代の苦い思い出が頭をよぎる。


ここは、なんとか踏みとどまってもらって、少しでも気分を上げたところで、さっさと退散させて頂こう。


そんな私の思惑に反して、彼の目がキラリと光る。


『…そうだ、そうだよ。夏目さん、俺はいいことを思いついたよ!』


ガバッと顔をあげた彼に、私はたじろいてしまった。

何かいけないスイッチを押してしまった模様…なぞと考え始める前に、生気を取り戻し、いや、顔を輝かせた彼が喋り出す。


『そうだよ、こうすればいいんだ!俺の苦手な接待は、メイドカフェで行う…いや、女子社員の制服を、ふりふりのメイド服にするんだ!』


…あんた、三次元の女に興味ないんじゃなかったの?と突っ込む前に、彼は続ける。


『ああ、でも妙齢の社員と…あと、パートのおばさんは拙いな。よし、彼女たちには、ナニーにでもなってもらおうか…』


どうやら私は、禁断の扉の鍵をぶっ壊してしまったらしい。

思わず遠い目をしてしまったが、これくらいは許されるだろう。いや、許して欲しい。


『男性社員は…鬱陶しいが…』


いい加減、物騒になりそうで、私は逃げ出したい気持ちでいっぱいになってきた。

しかし、彼はそれを許すような人間ではない。

これは、長年の経験によるものである。


『夏目さん!』

「ひゃいっ!」


しまった、聞いていないのがバレたのだろうか?

声がひっくり返ってしまったのは仕方がないにしても、これ以上この場に留まりたくない私としては、肝がつぶれそうだ。

ああ、帰りに胃薬買わないと…。


『ありがとう!俺、この仕事続けられそうだよ!早速、文書に纏めておかなくては。お礼はまた!じゃ!』


爽やかになんとも形容しがたい笑顔を浮かべ、颯爽と彼は立ち去っていった。

まるで、嵐か台風が過ぎたような、そんな感じだ。


やはり、彼に声をかけたのは失敗だった。

懐かしさに、流されてはいけないと学習したように思う。


とりあえず、私の思うことは。

何が何でも、二度と彼には会いたくない、ということだけだった。

お粗末様でした。(土下座)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  こんばんは、安芸です。  ようやくお礼参りに伺っている最中です。遅くなりまして申しわけありません!  おお、なんてタイムリーな更新か! って、え、実話?? メイドにナニーって……そんな制…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ