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鏡の中のあたしと愛実2

 あたしのいる鏡のすぐ横には小さなキティちゃんの丼が置いてあった。頂き物で、別にあたしの趣味じゃないんだけど、我が家の他の丼は大き過ぎるので重宝している。ま、大きくてもちょっとだけ入れれば良い話なんだけど、なんかついつい入れ過ぎちゃう気がするんだよね。

 その丼の中にはお粥が少しだけ残っていた。そのすぐ横にはシャケのふりかけの袋もおいてあったから、おそらくそれが愛実の夕食だったんだろう。

 鏡の中から覗き込むような姿勢だった私に気付いて鏡を覗き込んだ愛実にあたしは、

「愛実、辛い?」

と聞いた。愛実は、

「ううん、全然」

と答えた。痩せ我慢なんかしなくていいのに、どう見たってあんた、相当調子悪そうだよ。


 その時、玄関のチャイムが鳴った。隆一が来たのだ。隆一はしばらくお母さんと会話した後、階段を昇ってあたしの部屋のドアをノックして入ってきた。

「メグミ、ちっとは元気になったか」

隆一はそう言って頷いている愛実の頭を撫でた。そして、おでこを軽くぺちっと叩くと、

「ウソつけ、まだ熱下がってないじゃん」

と言って笑った。

「でも、今朝よりは気分良いよ」

それに対して愛実は、ガチガチに緊張しながらそう返した。ちょっと、そんなんじゃばれちゃうって! あたしはハラハラしたけど、それを今のあたしは注意することができない。うー、ストレス溜まるったら!

「お前やっぱし、かなりきついんだろ。じゃなきゃ、こんなにおとなしい訳ないもんな」

案の定、隆一にそう言われた。ま、入れ替わってるなんて想像もできないだろうから、隆一は風邪のせいだと思ってるみたいだ。

「そんなことないよ」

「夏風邪なんだろ?」

「たぶんね」

愛実はそう言うと隆一から顔を逸らせた。

「じゃぁ、こうすりゃ治るな」

でも、隆一はそう言って顔を背けた愛実のそれをまた自分の方に向けさせて、立て膝でベッドにいる愛実の肩を抱くとキスをした。しかも軽くじゃなく……愛実の眼は完全に見開いて、宙を泳いでいる。あたしたち鏡の前でキスなんてしたことないし、当然コレ、愛実にはファーストキスなんだろうな。あたしはそんなパニクってる愛実が面白くて、ヤキモチを焼く気にはならなかった。

「何すんのよ、隆一!!」

「何って、キス」

唇が離れた後、そう言って隆一をぶっ叩こうとしてくにくに暴れていた愛実に隆一はニッと笑ってそう答えた。普段からあの重たいあんこを練って鍛えてる? んだもん。そうそう抜け出せる訳ないじゃん。

「移るよ、風邪」

「昔から言うじゃん、風邪は移せば治るって」

「ダメだよ、お店休めないし……風邪はもらった人の方が酷くなるんでしょ。これ以上酷くなったら……」

「俺の事心配してくれてんの? 大丈夫だよ、普段から親父たちにこき使われてるから、体力だけには自信あるし、移ったとこで毎日思いっきり修行させられてっから、たまには休息もらってもいいんじゃね?」

「隆一……」

「でもやっぱお前相当辛いんじゃん。辛くなきゃ、あんな言い方しないだろ」

「あ……」

辛さを言い当てられて愛実は、熱で赤い顔をさらに赤くして俯いた。

「だから、そんなしおらしいの変だってば。早く元気になって噛みついてくれないと調子狂うぞ」

隆一はそう言ってそんな愛実の頭をまた優しく撫でて、

「じゃぁ、俺帰るわ。ぐっすり寝て早く元気になれよ」

と言うと手を振ってあたしの部屋を出て行った。


 隆一が階段を降りて玄関先でお母さんに挨拶をしているのを聞きながら愛実はポツンと独り言のように、

「恵実、ゴメンね」

と言った。

「何? キスの事? あたしヤキモチなんか焼いてないよ。一応隆一はあたしにしてくれてるわけだし」

だからあたしは、愛実にそう返した。

「隆一さんに風邪移っちゃったらどうしよう」

心配してたのそこかよっ!

「心配ないって」

「移したらゴメンね」

「いいよいいよ。これから結婚したらずっと一緒なんだから。何度だって移し合いするだろうしさ。それより愛実」

「何?」

「もしかして、隆一に惚れた?」

ニヤニヤ笑いながら言う私の言葉に、愛実はふくれっ面で睨んだ。

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