表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/14

あたしのお母さん 2

お母さんは大賞をとったその賞金で、もう一台パソコンを買って、それもネットにつないだ。

でも、あいかわらず、お母さんはエディターの使い方も、原稿のメール送信の仕方も知らない。


結局、何とか覚えたCD焼きつけで原稿をコピーして郵送するんだったら本当はネットにつながってなくてもいいはずなのだが、彼女の本心は実は別のところにあったのだ。

彼女はちゃっかりとゲーム機のインターネット配線をついでにお願いしていた。要するにお家でカラオケがしたかったらしい。

「賞金なんて一回こっきりなんだから。なかったと思えばさ」


だけど、一番なかったことにできなかったのは当のお母さん本人。あれから、編集部の担当の人が来て、とっとと次の作品を書かされていた。結局、今まで勤めている仕事をまだ辞めていないお母さんは、彼女が思っていたほどカラオケなんてできない位、家では毎日パソコンに向かって原稿を書いていた。


そしてなんと、その作品があの「青木賞」にノミネートされたというのだ。「青木賞」と言えば「喜多川賞」と並ぶ権威ある文学賞だ。


発表の当日、我が家は編集部の人が前日から詰めているわ、外には報道陣がいるわと、ピリピリとした空気が流れていた。


だけど、そんな中、お母さんだけは妙に冷静でお茶(偶然見つけたんだとはしゃいでいたマンゴーフレーバーの紅茶)なんか入れている。やがて、

「お茶入りましたよぉ」

と、私たちはもちろん、紙コップに入れて外にいる報道陣にまで振る舞ったときには、この人ってやっぱり凄い人なのかもしれないって、一瞬だけ思った。


それからたった2時間後、お母さんはその作品が「青木賞」に選ばれたと連絡があってから逆に震えだし、

「絶対に選ばれないと思ったから、わざわざ無駄足踏ませたから悪いなって思って、お茶差し上げたのに……ホントに私なんかがもらっていいんですか?!」

と受賞の感想を聞かれた記者に逆に質問で返した。


そっか……あの余裕は、絶対に選ばれないという逆の自信だった訳ね。あたしはその時、そのことに妙に納得しちゃったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ