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そして……

 あたしと隆一は結婚し、1年半後息子隆誠りゅうせいを産んだ。

『恵実ってさぁ、ホント痛みに弱いよね。一晩中騒ぎ続けるんだもん。何なら歌でも歌えばよかったのに。恵実合唱部だったでしょ』

初めての育児に疲れきったあたしにそう言ったのは、鏡の中の“あの子”……

 結婚してしばらくすると、愛実は何食わぬ顔をしてまた私の前に現れるようになった。

しばらくぶりに現れた時、腰を抜かすほど驚いたあたしに、

『あたしと恵実は元々一つだって言ったでしょ? そんなに驚くことないじゃない。それに、座敷童が家に憑くと家は栄えんのよ。竹林堂はこれで安泰っと。手始めは跡取りね。あと8ヶ月たったら、男の子生まれっから』

と、まだ妊娠の兆候も感じてなかったあたしに隆誠の妊娠を知らせた。確かに、愛実が戻ってきてくれたことは嬉しくなかった訳じゃないけど、どっちが生まれるのか最初から言わないでほしかったと思う。おかげで、お腹を眺めてどっちかなっていう楽しみ、なかったじゃん。


 そして、鏡に話しかける嫁なんてばれたら即刻離婚ものだと思いつつも、愛実との会話はあたしの日常になってしまっている。

「バカ言わないでよ。そんな余裕があるわけないでしょ!? そんなこと言うんだったら、愛実が代わってくれれば良かったじゃん。痛みが生きてる証拠だって言ったくせに」

『ヤダヨ、痛いもんは痛いもん。それより恵実こそ、そのオイシイとこ採りの性格を何とかしたらどうなのよ』


 ただ、愛実の性格がどんどんと悪くなっていってると思うのは……気のせいなんだろうか。

「ああ、入れ替わって今度はホントに乗っ取られても困るしね」

あたしがそう言うと、

『解ればよろしい』

と返ってきた。お前、ホントにその気かいっ!!


 その時、眠っていた隆誠が起きてぐずった。

『恵実リューちゃん泣いてるよ』

「分ってるって」

『ねぇ、抱かせて抱かせて!』

あたしは隆誠を抱いたまま、その部屋にある大きな姿見の前に立った。それは愛実との入れ替わりの後、急遽買って嫁入り道具の中に入れてもらったもの。”鏡の中のあたし”は、溶けそうな笑顔で息子を抱きしめている。


「愛実もさぁ、どっかに生まれ変わるとかそういうのないの?」

そういったあたしに、

『恵実、あたしを追い出したいの?』

と問い返す愛実。

「別にそういうわけじゃないけど……」

『じゃぁ、恵実が幸せでいて。そしたら、同じように鏡の中にあたしの幸せがあるから』

「愛実……」

『バカ、泣くんじゃないわよ。同情なんかしないでね。あたしにはあたしの、あんたにはあんたの幸せがあっていいはずよ』

「あんたの幸せ?」

『そう、あたしがずっと笑ってられるように、ずっと幸せでいて』

「うん……ずっと幸せでいるね」

『だから、泣くなって!』

鏡の中に照れながら泣き笑いしている「愛実」がいた。


あたし、うんと幸せになるから。あんたがずっとずっと幸せでいられるように……


                                  -The End-



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