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Love Grace1

 次に目覚めたとき、あたしのベッドの脇には隆一がいて、あたしの手をしっかり握ったまま眠っていた。体中がギシギシと痛い。

 それにしても寒い。あまりの寒さに身体が小刻みに震えて、歯が鳴ってしまう。冷やし過ぎて風邪がひどくなっちゃったんだ。早くクーラー止めなきゃ。隆一までホントに移しちゃう。


「あれ」

クーラーを止めるために起き上がろうとしたあたしは、自分の腕からチューブが伸びているのに気づいた。点滴されてるのか……そう思って見ると、そこはあたしの部屋じゃなくって、四方を全部カーテンに仕切られていた。病院にいるんだ、あたし。


「あ、メグミ。俺、いつの間にか寝てたのか」

その時、起き上がろうとしたあたしに気付いて隆一も目を覚ました。

「寒いか? まだ熱いな、お前の身体。そういや薬が本格的に効いてくるまで後2〜3日は熱が出るかもって医者に言われたか」

隆一はそう言って震えてるあたしの首筋を心配そうに撫でた。

「ゴメン、心配かけたね」

「そうだよ、こんなのもうホントに御免だぞ。昨日から生きた心地がしなかった。元気がなさすぎるところで、ただの風邪じゃないって気付くべきだった」

謝ったあたしに、いつものデコピンではなく、そっと人差し指をおでこに当ててそう言った隆一は涙目だった。


 その時、お母さんが病室に入ってきた。

「お母さん、あたし戻ってきたよ」

あたしがそう言うと、お母さんは唇を噛みしめながら何度も頷いた。そして、あの時の事を話し始めた。


 あの時、お母さんの腕の中で意識を飛ばした愛実つまりあたしの身体が、一気に熱を帯びたのだという。測ると、体温計が示した数字はなんと40度8分! しばらくするとあたしはガタガタと震えだし、うわ言で「寒い……痛い……」と意識のないまま繰り返し始めたので、お母さんは慌ててあたしを救急車で病院に運んだ。


 風邪だと思っていたあたしの病名は急性腎盂腎炎だった。しかも、かなり症状は酷くなっていたらしく、

「なんでこんなになるまで我慢してるんですか。命にかかわりますよ」

と、翌日回診に来た先生に叱られたほどだ。


 あの時、愛実が口ごもった『でないと……』の続きは、でないとあたし自身の身体が持たないだったのだろう。

 なら、どうしてそんな病気の時に入れ替わったりしたのだろう。もっと元気な時ならいろんな経験もできただろうに。鏡を持ってあたしにナビゲートさせれば、たぶんどこにだって行けただろう。

 もしかしたら……こういう弱ったときにしか替われないのかもしれないし、人一倍痛みに弱いあたしの痛みを替わって受けてくれたのかも知れないと思ったら、なんか切なかった。

『痛いのも嬉しかったよ。だってそれって生きてる証拠じゃん』

そう言った愛実。痛みが生きてる実感だなんて、それ悲し過ぎるよ、あんた……

「メグミ! どうした? また苦しいのか?!」

「ううん、違うよ……心配しなくていいから……」

あたしは、隆一が心配するからと思いながらも、涙を止めることができなかった。


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