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聖血のロゼル  作者: ハナハル


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12/13

異形の肉塊。激闘。

最初に踏み込んだのは、五体の骸骨だった。

低い姿勢。

無駄のない動き。

間合いを詰めていく。

盾が前に出る。

槍がその陰から伸びる。

ごつ。

穂先が、怪物の脚に突き刺さる。

確かな手応え。

同時に、左右から剣が入る。

肉を裂き、骨を断つ。

ぶち、と鈍い音。

だが。

怪物の体が、波打った。

ぐにゃり、と。

刃が滑る。

突きが沈む。

傷はつく。

裂ける。

だが。

閉じる。

ぐじゅ、と音を立てて。

なかったことにするように。

赤い瞳が細くなる。

「これがギルドの記録にあった“再生持ち”か」

ロゼルは一歩も動かない。

ただ、観ている。

次の瞬間。

怪物の腕が、落ちた。

どん。

盾の骸骨が、正面から叩き潰される。

骨が弾ける。

残り四体。

それでも攻撃は止まらない。

関節を狙う。

脚を折る。

ごき、と音が鳴る。

だが。

波打つ。

戻る。

再生する。

完全に。

ロゼルが、わずかに息を吐いた。

「……面倒だな」

視線はアゼリアへ向かない。

だが。

声だけが、落ちる。

「アゼリア」

わずかな間。

「囮、出せるか?」

短い言葉。

すぐに続く。

「数はできるだけ多い方がいい」

青い炎が一瞬強く揺れた。

返事はない。

だが。

次の瞬間。

床に散らばっていた骨が、震えた。

かた、と音が鳴る。

一つ。

また一つ。

転がっていた頭蓋が跳ねる。

腕が這う。

折れた脚が、ぎこちなく立ち上がる。

骸だ。

不完全なままの死体。

動きは遅い。

軋み、引きずる。

だが。

数だけは、増える。

一体。

二体。

三体――

次々と、立ち上がる。

闘技場の床を、埋めるように。

怪物の視界が、埋まる。

腕が振るわれる。

叩き潰す。

砕く。

散らす。

だが。

止まらない。

壊れても、なお這い寄る。

掴む。

しがみつく。

足に。

腕に。

体に。

まとわりつく。

動きが、鈍る。

ほんの一瞬。

ほんのわずかな遅れ。

それで十分だった。

ロゼインの足が、沈む。

踏み込み。

空気が、歪む。

「行くぞ」

次の瞬間。

姿が、消えた。


ロゼインの足が、石を砕いた。

踏み込みは鋭い。

だが、軽くはない。

踏んだ瞬間、石床が沈む。

ひびが走る。

遅れて、破片が跳ねる。

その中心から――ロゼインが前へ滑る。

押し潰すような加速。

空気が歪む。

息が荒い。

それでも、止まらない。

怪物の腕が振り下ろされる。

避けない。

半歩だけ、ずらす。

直後、風が裂けた。

頬が切れる。

血が、弧を描く。

そのまま、懐へ。

拳が、突き上がる。

一瞬の静止。

次の瞬間。

ばんッ!

脇腹が内側から弾ける。

肉片が散り、骨が覗く。

だが。

盛り上がる。

ぐじゅ、と。

潰れた肉が、押し戻される。

再生。

「……やっぱり、面倒だな」

吐き捨てる。

踏み込む。

肘を、叩き落とす。

どんッ――!!

内部が弾ける。

骨が押し出され、肉が裂ける。

再生が、わずかに遅れる。

その瞬間。

骸が絡む。

足に。

腕に。

引き止める。

一瞬。

それでいい。

ロゼインが、さらに踏み込む。

だが――

怪物が、にちゃりと笑った。

潰れた顔で。

裂けた口を、無理やり引き広げるように。

愉しむように。

次の瞬間。

腕が、落ちる。

どんッ――!!

空気ごと叩き潰す一撃。

ロゼインの体が弾き飛ばされる。

転がる。

石が砕ける。

血が散る。

「――がっ……!」

呼吸が潰れる。

視界が揺れる。

遠くで。

また、にちゃりと笑う。

“効いた”と、分かっている顔。

ロゼインの指が、石を掴む。

震える。

遅い。

その間にも、再生が戻る。

完全に。

「……くそ……」

間に合わない。

削り切れない。

怪物が迫る。

終わる。

――その時。

青い炎が、揺れた。

アゼリアの視界には、すべてが見えている。

崩れかけたロゼイン。

戻りきる怪物の肉。

足りない。

決定的に。

(このままでは――負ける)

炎が、震える。

迷いが、よぎる。

(私に……できるのか)

骨を操る。

それはできる。

だが、これは違う。

こんな密度。

こんな形。

こんな――“武器”。

一瞬。

躊躇。

だが。

ロゼインの血が、床に落ちた。

赤が、広がる。

その一点で、思考が切り替わる。

(――否)

(やるしかない)

炎が、燃え上がる。

(やらなければ)

(彼は、死ぬ)

次の瞬間。

青い炎が、弾けた。

闘技場中の骸が、跳ね上がる。

砕けた骨。

折れた腕。

潰れた肋骨。

すべてが、引き寄せられる。

空中へ。

渦を巻く。

軋む。

砕ける。

それでも、繋ぐ。

無理やり、噛み合わせる。

組み上げる。

圧縮する。

密度を上げる。

ただの骨ではない。

塊。

刃へ。

巨大な、異形の剣へ。

青い炎が、そこへ流れ込む。

縫い付けるように。

焼き固める。

歪で、荒々しい。

だが――

強い。

その瞬間。

怪物の腕が、ロゼインへ振り下ろされる。

間に合わない。

だが。

アゼリアは、躊躇しない。

完成したそれを――

放った。

投げる、ではない。

撃ち出す。

青い軌跡が、一直線に走る。

空気を裂きながら。

ロゼインへ。

ロゼインが、顔を上げる。

迫る腕。

迫る死。

その視界に――

青が、突き刺さる。

考えるより先に、体が動く。

手を伸ばす。

掴む。

重い。

だが――

“間に合った”。

そのまま。

止まらない。

踏み込む。

怪物の腕の内側へ。

滑り込む。

体ごと、叩き込む。

そして――

振り抜く。

青い軌跡が、残る。

一閃。

一拍。

遅れて。

ずれた。

怪物の体が。

斜めに。

次の瞬間。

弾け飛んだ。

上半身が、まとめて爆散する。

青い炎が、断面から噴き上がる。

内側を焼く。

喰らう。

削る。

再生が、止まる。

完全に。

怪物が暴れる。

だが、遅い。

炎が絡みつく。

壊す。

崩す。

やがて。

巨体が、沈む。

完全に、動かなくなる。

静寂。

ロゼインの手から、剣が滑り落ちる。

指先の感覚が、薄い。

音が、遠い。

視界の端が、暗く滲む。

(……終わった、か)

自分の声すら、どこか他人のように遠い。

力が抜ける。

膝が、折れる。

倒れる――

その前に。

支えられた。

きし、と骨の音。

硬いはずの腕。

だが。

触れた瞬間、わずかな違和感。

冷たくない。

むしろ――

「……お休みになってください、ロゼイン」

静かな声。

近い。

すぐ傍で。

「私が、ついています」

離さないように。

落とさないように。

抱きとめる力だけが、わずかに強くなる。

ロゼインの視界が、揺れる。

声が、遠い。

だが。

確かに届いている。

その言葉と。

その“温度”。

「……あったかい、な」

かすれた声。

意識が、沈む。

青い炎が、ゆっくりと揺れる。

最後に見えたのは――

その、淡い光だった。

すべてが、静かに落ちていく。


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