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聖血のロゼル  作者: ハナハル


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11/13

フロアボス

石扉が、重く軋んだ。

ロゼインが押すと、巨大な石がゆっくりと左右へ開く。

古い石が擦れ合う音が、円形の空間に低く響いた。

その向こうに広がっていたのは――

広い闘技場だった。

天井は高く、

円を描く石壁が暗闇へと続いている。

崩れた柱。

砕けた石段。

かつては観客席だったのかもしれない。

だが今は――

誰もいない。

静まり返っている。

ロゼインは一歩、足を踏み入れた。

かつん。

乾いた音が響く。

靴の下で、何かが砕けた。

骨だった。

床には、無数の骸骨が散らばっている。

折れた剣。

砕けた盾。

錆びた鎧。

すべて――冒険者のものだ。

ロゼインはゆっくり歩く。

足元で骨が転がる。

その時。

視界が、ふっと揺れた。

「……っ」

一瞬、足がよろめく。

胃の奥が、きりきりと痛む。

空腹。

体は回復している。

だが――

栄養が足りない。

ロゼインはすぐに体勢を立て直した。

だがそれを見ていた。

「ロゼイン様!」

アゼリアの青い炎が強く揺れる。

骸骨が一歩前に出た。

「お体が……!」

「平気だ」

短く言う。

ロゼインは軽く肩を回した。

骨が小さく鳴る。

「腹が減ってるだけだ」

だがアゼリアの炎は落ち着かない。

「しかし……!」

ロゼインは手を軽く振る。

「騒ぐな」

そして歩き出す。

足元で骨が乾いた音を立てる。

その時。

一体の骸骨の前で、ロゼインは足を止めた。

「……」

腕がない。

肩から先が、綺麗にもぎ取られている。

別の骸骨。

今度は脚がない。

さらに別の骸骨。

手首ごと、指がない。

ロゼインは周囲を見回した。

転がる骸骨。

そのほとんどが――

腕を失っている。

アゼリアの炎が小さく揺れた。

「……ロゼイン様」

ロゼインは視線を上げる。

闘技場の中央。

そこに――

肉の塊があった。

最初は死体の山に見えた。

腐った肉が折り重なり、

鎧の破片や骨が埋もれている。

だが。

ぐちゃ……

小さな音がした。

肉が動く。

ぎち……

骨が鳴る。

塊が、ゆっくり膨らむ。

肉が裂ける。

その中から――

腕が現れた。

一本。

長い腕。

指が床を掴む。

さらに。

別の腕。

また一本。

腕。

腕。

腕。

まだある。

ロゼインは眉をひそめた。

数えようとして――

途中でやめた。

多すぎる。

それらが一斉に床を掴み、

ぎち、ぎち、と骨を鳴らしながら体を持ち上げる。

肉の塊が、立ち上がる。

異形だった。

背骨は不自然に曲がり、

肩は左右で高さが違う。

胸から。

脇腹から。

背中から。

腕が生えている。

すべてが不規則に動く。

指が床を引っ掻く。

石に爪が擦れる。

きぃ……

甲高い音が闘技場に響いた。

そして――

頭が持ち上がる。

歪んだ顔。

皮膚の色が左右で違う。

片側は腐った肉。

もう片側は、まだ新しい皮膚。

目が二つ。

だが位置がおかしい。

ぐるりと動く。

ロゼインを見た。

ぐるる……

喉の奥から、低い音が漏れる。

ロゼインは拳を握った。

ごきり。

骨が鳴る。

だがその瞬間――

再び視界が揺れた。

一歩、体がよろめく。

「ロゼイン様!」

アゼリアの声が鋭くなる。

青い炎が激しく揺れた。

「申し訳ございません……!」

ロゼインは舌打ちした。

「大丈夫さ」

それでも口の端が、わずかに上がる。

「まだ動ける」

拳を構える。

異形の主が体を低くした。

何本もの腕が床につく。

蜘蛛のように。

ぎち……

ぎち……

骨が軋む。

ロゼインは前に出た。

小さな体。

だが拳は構えられている。

「作戦通りだ」

短く言う。

「やれ」

アゼリアの青い炎が大きく揺れた。

「……はい!いきます!」

次の瞬間。

闘技場の床から――

骨の手が突き出した。


アゼリアの青い炎が、静かに揺れた。

その炎が、ふっと一つ揺れる。

そして――

ぽたり。

一滴の青い光が、地面に落ちた。

まるで水滴だった。

闘技場の石床に触れた瞬間、

その光が、静かな水面のように広がる。

円形の波紋。

青い炎の輪が、床を滑るように広がっていく。

一つ。

二つ。

三つ。

ぽたり。

ぽたり。

アゼリアの炎から、次々と光が落ちる。

それらはすべて、

石床の上で静かな炎の波紋になる。

闘技場の床に、

青い円がいくつも浮かぶ。

その中心で――

石が、わずかに動いた。

かり……

小さな音。

次の瞬間。

炎の中心から、

骨の指が現れた。

石の隙間を掴む。

ぎし。

もう一本。

さらに一本。

白い指が、炎の中から這い出してくる。

まるで、

水の底から浮かび上がる死体のように。

腕が現れる。

肘が出る。

肩が持ち上がる。

そして。

骸骨が、ゆっくりと地面から這い出した。

炎は燃えていない。

ただ静かに揺れている。

青い波紋の中から、

一体。

また一体。

骸骨が立ち上がる。

散らばっていた骨も、

まるで呼ばれたように動き始める。

指が震え、

肋骨が持ち上がり、

頭蓋骨が転がって体に戻る。

闘技場の床に、

次々と骸骨が立ち上がった。

錆びた剣を拾う者。

盾を引きずる者。

腕のない骸骨さえ、

残った骨で体を支える。

そしてすべてが、

同じ方向を向いた。

闘技場の中央。

異形の怪物。

アゼリアの声が、静かに響く。

「行きなさい」

骸骨たちが動いた。

ぎし。

ぎし。

骨の音が闘技場に満ちる。

怪物の腕が持ち上がる。

長さの違う腕。

逆に曲がる関節。

体が、ぐにゃりと波打った。

そして――

戦いが始まった。



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