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聖血のロゼル  作者: ハナハル


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静かな遠征

第1章

その遠征に、断る理由はなかった。

ロゼインは中年のCランク冒険者だったが、腕は悪くない。

剣の扱い、罠の察知、魔物の動きの読み。

派手な技も魔法もないが、生き残るための勘だけは鋭い。

そんな彼に声をかけてきたのは、街でもそれなりに名の知れた探索隊だった。

二十人規模の遠征。

護衛、荷運び、前衛、後衛、回復役。

役割も人数も整っている。

目的は単純だった。

第十三階層付近の地図更新。

危険はあるが、深層ではない。

報酬も悪くない。

新人や低ランクの冒険者が報酬や経験を積むにはちょうどいい仕事だった。

「おい、新入り。名前は?」

重たい鎧の男が振り向く。

背丈は大きく、肩幅も広い。

鉄板を重ねた鎧に、巨大な戦斧。

その姿を見て、ロゼインはすぐ気付いた。

周囲の冒険者たちの態度が違う。

少し距離を置き、敬意を払っている。

男は有名人だった。

重戦士 グラド。

Bランク冒険者。

この街では知らない者は殆どいない。

ロゼインは軽く頭を下げた。

「ロゼインだ」

「へえ、聞いたことねぇな」

グラドは鼻で笑う。

ロゼインなど眼中にないと言わんばかりの態度。

もうすぐ40に届く年齢なのにランクはC。

当然な扱いかもしれない

「まあいい。今回は安全な仕事だ。

 第十二階層までの巡回みたいなもんだ」

別の男が笑った。

「最近は魔物も減ってるらしいしな」

「迷宮が枯れてんのかもな」

そんな軽口が飛ぶ。

誰も緊張していない。

それも当然だった。

二十人の探索隊。

Bランク冒険者。

回復術師も二人。

普通なら、まず事故は起きない。

普通なら。

迷宮の入口を越えた瞬間、空気が変わる。

湿った石の匂い。

古い血の鉄臭さ。

地上の風は、ここには届かない。

カンテラの灯りが揺れ、

石壁に長い影を作る。

足音が反響する。

コツ、コツ、コツ。

迷宮は静かだった。

静かすぎるほどに。

「……妙だな」

誰かが呟いた。

魔物が出ない。

本来なら、

この辺りにはゴブリンや洞窟狼が出る。

だが影すらない。

死体もない。

気配が、ない。

「楽でいいじゃねぇか」

笑う者もいる。

だがロゼインは、違和感を覚えていた。

迷宮には、音がある。

水滴。

小さな爪の音。

何かが動く気配。

それが——ない。

まるで。

何かに追い払われたみたいに。

第十階層。

隊は順調に進んだ。

誰も傷を負っていない。

魔物は、わずかに数匹。

それも弱いものばかりだった。

「本当に枯れてんじゃねぇか?」

誰かが笑う。

グラドも肩をすくめた。

「楽な仕事は嫌いじゃねぇ」

だがその時だった。

ロゼインの足が止まる。

床。

石の上に、黒い染み。

血だ。

乾いている。

それも、かなりの量。

「……誰かここ通ったのか?」

後ろの男が言う。

だがその血痕は、普通ではなかった。

壁。

天井。

そこまで飛び散っている。

まるで。

何かが叩き潰されたみたいに。

「……魔物同士の争いか?」

誰かが言う。

グラドは少しだけ眉をひそめた。

だがすぐ歩き出す。

「気にすんな。進むぞ」

隊は進んだ。

そして。

第十二階層。

そこから先で。

迷宮は、完全に沈黙していた。

音がない。

水滴すら、聞こえない。

ロゼインの背中に、冷たい汗が流れる。

その時だった。

隊の前を歩いていた探索者が止まる。

「……なんだこれ」

カンテラの灯りが前を照らす。

そこにあったのは。

潰れた鎧。

中身ごと、押し潰されたような鉄の塊。

そして。

その横の壁に——

巨大な爪痕。

三本。

石壁を、深く、深く、抉っていた。

グラドが初めて声を低くする。

「……おい」

「なんだよ」

「これ……」

その時。

迷宮の奥から。

重い音が響いた。

ドン。

石を踏み砕く音。

ゆっくり。

ゆっくり。

何かが、歩いてくる。

暗闇の奥。

カンテラの光が届かない場所。

そこから。

二本の角が現れた。

そして。

巨体。

岩のような腕。

鬼の顔。

トロールのような筋肉。

その怪物は、ゆっくりと姿を現した。

隊の誰かが、震えた声で言う。

「……嘘だろ」

グラドが呟く。

その声には、初めて恐怖が混じっていた。

「……奈落鬼」

怪物の口が、ゆっくり裂ける。

牙が並ぶ。

そして——

ユニークモンスター。

奈落鬼バルガスが笑った。


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