②
『オンセン』を守っていくと決意したとはいえ、当時の私はまだ10歳。初めは何をしていいのか全くわからず、とにかく『オンセン』の掃除をし、店を開けることに必死になりました。
しかし、いつしか客足がひとり、またひとりと減っていったのです。
不思議に思っていると、村の人たちが教えてくれたのです。
『オンセンの守り方』を。
そしてその方法は、どのみち父ではいけないことを理解したのでした。
「さぁ、おいで」
人が寝静まる夜、私は初めてそこに足を踏み入れました。
ごつごつとした岩の階段を降りていき、どんどん進んでいった先に、それはありました。
目の前には、鮮やかな緑色をした女神の像が、隙間から入った光に照らされ、キラキラと輝いています。
何とも幻想的な風景に、私は見惚れ、「はわぁ、、、」と思わず感嘆の声を漏らすほどでした。
「シエルちゃん、よう来たねぇ」
「村長さま!」
「お母さんのことは残念だったけど、こればかりはお前さんにやってもらわにゃいけんくてのぉ、、、すまないねぇ」
「?、、、村長さま? 私にできることがあるならがんばります!!」
その言い回しに首を傾げつつも、私の決意を村長に伝えました。
「本当にあの男ときたら、もう少しマシなやつかと思うて、あの子との結婚も認めたと言うのに、、、」
「エラもまぁ、あやつに話す前にこんなことになってしもうたからのー」
母の名前に心がツキリと痛みました。亡き母を思い、大きな悲しみが押し寄せてきたのです。
気丈に振る舞っていても、所詮はただの10歳の子ども。母を亡くした悲しみを、そう簡単に割り切ることはできません。
そんな私をよそに、村長は話を続けます。
「この泉はのぉ、代々泡沫の一族が祈りを捧げることでそのお力をお借りしていたんじゃよ。」
「うたかたのいちぞく?」
「そうさね、神の御使である人魚の血を引く一族さね。
あの女神様の像はの、女神様の依代となっておっての。
あの像に泡沫の一族が祈りを捧げることで、女神ユーノー様のお力をお借りすることができるのじゃ。
ユーノー様は全てのものを癒す力をお持ちなのじゃよ」
村長のお話は、当時の私には難しく、きちんと理解できていたかはわかりません。
しかし、何かに導かれるように私はその名前を口にしたのでした。
「癒しの女神、ユーノー様、、、」
そう口にした瞬間、私の胸の奥底から、何かが溢れてくるのを感じました。
そして突然、あたりに静寂が立ち込め、女神様の像から金の粒子が舞い始めたのです。
『アァ、、、ワタクシの愛し子、マダ幼きワタクシの愛し子ヨ。汝に我ノ祝福ヲ、、、』
カッ!!!!!!!!!
一際眩く女神像が輝いたと同時に、溢れんばかりの力が漲ってくるのを感じたました。
ザッ、、、。
突然目の前で、村長をはじめ、ここに案内してくれた隣のメリダおばさんや、そこにいたのも知らなかった村の人々が私に向かって跪きました。
「えっ、何を、、、」
私が驚くのをよそに、村長は声高らかに祝いの言葉を述べたのです。
「愛し子様の継承をここに確認いたしました。
無事に終えられたこと、心よりお祝い申し上げます。
我ら一同の忠義を御身に」
『我ら一同の忠義を御身に!』
皆が一斉に傅き、首を垂れながらその言葉に続いたのです。
私はますます混乱するばかりで、その時は、なかなか理解することができませんでした。




