再び王都へ.7
現れたのは十数人の騎士で、その先頭にいる人物にあっ、と私は声を洩らす。
「ディン様」
「遅かったな」
「申し訳ありません。少々手こずりましたが、偽聖木の果実の製造に関わっていた者と、商人を連れてきました」
ディン様が右手を挙げると、捕縛された男たちがクロスフォード殿下の前に連れてこられる。
クロスフォード殿下とディン様は国王陛下の前に膝を突き、捕縛に至る経緯の説明を始める。
それを聞く国王陛下に驚いた様子はなかった。
王族だから感情が表に出ていないだけなのかも知れないけれど、もしかしたら事前にクロスフォード殿下から話を聞いていたのかもしれない。
この光景を見た貴族たちは、クロスフォード殿下とヘルクライド殿下、どちらが次期国王に相応しいか分かっただろう。
これで私だけでなく、クロスフォード殿下の疑いも晴れた。
ほっと息をついたのに、なぜかまだ胸がもやもやとする。
何かが解決していない気がした。
理由を探すように会場に目をやると、カルロッタがしているネックレスが視界に入る。
カルロッタの首にあるのは、ふたつのネックレス。
「どうして、お揃いのネックレスをまだしているのかしら?」
お揃いでもらった模様の入った金のネックレス。その中には魔石そのものが入っていた。
砕いていない原石そのものだから、粉末をコーティングした偽聖木の果実より効果が大きいはず。
でも、私のしていたネックレスは、クロスフォード殿下によって魔力を流すという模様が消されていた。つまり、私からカルロッタに魔力が流れることはない。
「アマンダに来たお客さんは、聖木に葉が茂り、花が咲いたと言っていたわ」
とすれば、それは偽聖木の果実が、カルロッタの生命力と魔力をもとに葉や花を咲かせたのだろう。
カルロッタの顔は疲れ切っていて、肌は荒れ髪にも艶はない。
相当な量の魔力と生命力が奪われているようだ。
でも、いくら考えても、魔石の原石が入ったネックレスをつける理由が分からない。
思案する私に近寄る足音がした。
振り返ると、思わぬ人物がそこにいる。
「ジゼルさん、どうしてここに?」
「ヘルクライド殿下と聖木の女神の姿絵を見て、驚いたわ。だからディンに頼んで強引についてきたの」
ジゼルさんは、騎士に取り囲まれたカルロッタに足を向けた。
騎士たちが身構えたので、私も急いで後を追う。
剣に手をかける騎士たちに手を翳せば、すっと剣から手を離してくれた。
どうやら、私が真の聖木の女神だと認めているようだ。
「どうして、あんたがここにいるの?」
ジゼルさんの声は小さいにもかかわらず、その声は会場によく響いた。
琥珀色の瞳は、アディシアにじっと向けられている。
「ジゼルさん、彼女は私の義母で、聖木の女神とされていたカルロッタの実母、アディシア・バルトアです」
「そんなはずないわ。そもそも、そこにいる『カルロッタ』を産んだのは師匠だもの」
えっ、と私とカルロッタが同時に目を見開く。
ジゼルさんはしゃがむと、カルロッタの首に指を添わした。
「ベルサートの大通りに貼られた姿絵に、カルロッタが描かれていてびっくりしたわ。首のホクロはもちろんだけれど、師匠に生き写しの容姿をしているんだもの」
「あなた、突然現れて何を言っているの? 私を産んだのはここにいる母で、父はバルトア伯爵よ。そうよね、お母様?」
縋るような視線を向けられ、アディシアは頬を強張らせる。
そんなアディシアに、ジゼルさんは冷たい声で言い放った。
「あんた、隣町にいたエリアだよね。何度かアマンダにきたことがあるし、師匠とも知り合いだったよね。私を覚えていないかい? 吟遊詩人をしていた師匠アディシアの弟子、ジゼルだよ」
ジゼルさんの言葉に、アディシアがさぁと顔を青くさせた。
わなわなと震える唇からは息が漏れるばかりで、言葉を発せないでいる。
「ジゼルさん、どういうことですか?」
「どうもこうも、この女はエリアさ。そういえばカルロッタを引き取った商人は、あんたがいる娼館の常連だったよね。えっ、ということは、商人を使ってカルロッタを手に入れたというの? そういえば、身なりのよい貴族が師匠とカルロッタを訪ねてきたとき、あんた、興味津々と師匠にあれこれ聞いていたよね?」
当時の話をジゼルさんが語り出す。
エリアと呼ばれたアディシアの顔は、もはや蒼白に近い。
カルロッタは理解を飲み込めず、えっ、えっ、と実母とジゼルさんに目をやるばかりだ。
「あ、あの。ジゼルさん。つまりこういうことですか? ジゼルさんのお師匠さん、アディシアさんが生んだ子供がカルロッタ。カルロッタはお師匠さん亡きあと商人に引き取られたと聞きました。その商人がエリアにカルロッタを預け、エリアは自分を『アディシア』だと名乗り、バルトア伯爵家にカルロッタを連れてきた」
「そうそう! そう言うこと! ルーシャ、話を纏めるのがうまいね」
ジゼルさんは再びカルロッタと視線を合わせると、師匠そっくりだと感慨深そうに頷き、縛っている縄に辛そうに眉根を寄せた。
そんなジゼルさんを見ながら、私は小さく深呼吸をする。そうして、覚悟を決め最後の質問をした。
「ジゼルさん、カルロッタの父親は、貴族ですか?」
「うん? まさか、違うよ。師匠の相手は隣街の雑貨屋の息子だ。次男だったから家業を継がずに騎士になった。あっ、もしかして師匠の相手は王都の貴族だって噂を聞いたのかい? それ、上司だよ。騎士が亡くなり、乳飲み子を一人で育てなくてはいけない師匠を随分と気にして、良くしてくれた。十七年前にも様子を見にわざわざ訪ねて来てくれたからね」
十七年前といえば、両親がベルサートへ行った年だ。
エリアは、突然アディシアを訪ねてきた貴族に興味を持ち、あれこれ聞いていたと言う。
その流れで、父がアディシアに渡した手紙を見た可能性があり、カルロッタの父親が貴族かもしれないと疑いを持ったのかもしれない。
そうして、アディシア亡きあとはカルロッタを引き取り、自身をアディシアだと偽ってバルトア伯爵家を訪ねてきた。
こう考えれば全ての辻褄が合う。
聖木の審査の前に私にネックレスを渡したのは、カルロッタが本当に父の血を引くか確信が持てなかったから。
私の魔力をカルロッタに流し、確実に父の娘と認めさせることで、バルトア伯爵家へ潜り込もうと考えたのだ。
でも、そこで思いもよらないことが起きた。
私が聖木の女神だったのは、エリアにとって誤算だっただろう。
でも、彼女はそれを最大限に利用しようとした。
どこまで図々しく、欲深いのか。
偽聖木の果実はカルロッタの魔力と生命力を糧に、聖木に花を咲かせていた。
でもカルロッタに魔力はない。そうなると。
「カルロッタ、あなたがしているネックレスとよく似たものをした人が身近にいるはずよ」
私に名を呼ばれ、カルロッタは泣きそうな顔を上げた。
彼女は何も知らなかった。
バルトア伯爵家に連れて来られたときはまだ四歳だった。エリアを本当の母親だと思っていたとしてもおかしくない。
そして、私とお揃いのネックレスについても、恐らく何も聞かされていない。
「お父様がしていたわ」
「この場に来ていないようだけれど、どうしたの?」
「体調が悪くてずっと寝込んでいるの。も、もしかして、このネックレスのせい?」
「そのネックレスにより、叔父の魔力がカルロッタに流れているはず。体調不良は魔力枯渇によるものだと考えられるわ」
この四ヶ月、聖木に咲いた花と葉は、叔父の魔力とカルロッタの生命力を元にしていた。
それにやっと思い至ったのか、カルロッタが口を震わせる。
「お、お姉様、私はどうなるの?」
「知っていることを全て話しなさい。私を貶めた罪は問われるけれど、ネックレスについては何も知らなかったのでしょう? 」
「わ、私、お姉様がいなくなれば、今よりもっと持て囃されると思って……。ヘルクライド殿下の暗殺未遂だって本当に何も知らないの!」
子供のように声を上げ泣き出したカルロッタの首から、二つのネックレスを外してあげる。
それをクロスフォード殿下に渡すと、クロスフォード殿下は国王陛下に二つを見せた。
幾つか言葉を交わすと、クロスフォード殿下は改めて広間にいる貴族と向かい合う。
「第二皇子ヘルクライドによる自作自演の暗殺未遂事件と、聖木の女神を偽った件、ならびに偽聖木の果実については、俺の名において徹底的に調べる。関係者を全員、牢へ連れていけ」
きゃぁ、やめて、とカルロッタの悲鳴が響く。
騎士はそれを無視し、引きずるようにして会場から連れ出していく。
アディシアを名乗っていたエリアも、拘束され後に続いた。
ヘルクライド殿下は、縄で縛られこそしていないが、両方の腕を騎士にがっしり掴まれていた。それと同じように、両脇を騎士に囲まれたガイル様が退出していく。
騎士が広場の扉を閉めると、ピンと張り詰めた空気が広間に広がる。
国王陛下が玉座を降り、クロスフォード殿下の肩をガシリと抱いた。
「クロスフォード、不甲斐ない父を許してくれ」
「いいえ。あの状況でヘルクライドを断罪できない事情は理解しています。俺を信じて裏で事件について調べていてくれたからこそ、スムーズにことが運びました」
王妃殿下はそんなふたりを遠くからじっと見ていた。
彼女についても、クロスフォード殿下は追及をするだろう。
それを示唆するように、国王陛下は力強く述べる。
「王族が王族を貶めるのは許されることではない。これを機に膿を出し切るよう、儂も協力する。クロスフォード、過酷な状況に耐え戻って来てくれたことを感謝する」
「いえ、存外楽しい日々でした。素晴らしい出会いもありましたし」
そう言ってクロスフォード殿下は私に歩み寄り、あろうことかぐっと腰を引き寄せた。
これは……。
「あ、あの。私、まだ何も返事していません」
「知っている。だけれど、俺の自惚れでなければ、期待してよいと思っている。それに、外堀は埋めておきたい」
覗き込むように身体を屈め、私に甘い視線を送るクロスフォード殿下に、国王陛下は目を開き微笑む。
「では、真の聖木の女神よ。どうか、その力を見せてくれないか?」
国王陛下が私に命じる。
本当に私に女神の力があるのだろうか。
不安になって両手を見つめると、その手をクロスフォード殿下が包んだ。
「大丈夫だ。そして俺の予想が正しければ、それ以上の結果が現れる」
行こう、と言われ、手をとられたまま、私たちは夜会会場をあとにした。
次回、ラストです!
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