再び王都へ.5
「まずは、ヘルクライドが飲んだ毒について聞きたい。毒は、誰がどこで見つけたんだ?」
クロスフォード殿下の問いに前に進み出たのはガイル様だった。
「それについては私が。あなたの隣にいる聖木の女神の姉であるルーシャの部屋で見つけました」
クロスフォード殿下が私に目配せをしてきた。その目が自分で話すか? と問うている。
これは、私に掛けられた偽の罪でもあるのだ。
今までずっと我慢して耐えてきたけれど、それだけでは何も変わらない。
欲しいものは自分で選ぶことを、ベルサートでの暮らしで私は学んだ。
「私は毒を手に入れていませんし、作ってもいません」
「嘘を吐くな! お前は聖木の女神と崇められるカルロッタ嬢を日頃から虐め、ヘルクライド殿下と親しくなったことを妬み、暗殺計画に協力した」
私は指を突きつけてくるガイル様と、しっかりと目を合わせる。
もう逃げないと決めたのだ。
「ガイル様、毒は私の部屋のどこに隠していたのでしょうか?」
「ふん、自分で隠しておいてシラを切るつもりか。お前の部屋のドレッサーの中だ!」
「それは、おかしいですね。屋根裏にある私の部屋に、ドレッサーはありませんのに。いったい、誰の部屋を探されたのですか?」
「や、屋根裏だと!?」
「はい。義母が叔父と結婚すると同時に、私は屋根裏に押しやられていましたから。自由にできるお金はなく、下着だけ半年に一度新しいものを渡されていました。そんな私に毒を買うお金はございません」
バルトア伯爵の直系である私が、そんな目に遭っているなんて思っていなかったのでしょう。会場中がシンと静かになった。
そのうち「そう言えば、夜会で見たことがない」「教会で見かけたことがあるが、修道女と同じ服を着ていた」「ちらっと見たことがあるが、平民かと思うような容姿だった」と囁きが交わされ出す。
その囁きの中から、セフォンヌ公爵様が前へ進み出てきた。
「バルトア伯爵家の使用人から、ルーシャ嬢が屋根裏で暮らしていたとの証言は得ている。また、送り迎えは伯爵家の馬車が行い、一人で万能薬と回復薬を作っていた彼女に毒を買いに行く時間の余裕がないことは、教皇が証言した。あぁ、それから、ヘルクライド殿下、教皇が病気の子供を盾に取られあなたに脅されたとも言っているが、心当たりはあるか?」
セフォンヌ公爵様の言葉に、ヘルクライド殿下は唇を震わせ顔を青くさせる。
教皇様のお子さんが身体が弱いのは知っていた。
言うことを聞かなければ、万能薬も回復薬も渡さないと言われたなら、従うしかない。そんなやりとりが容易に想像できた。
セフォンヌ公爵はさらに言葉を続けた。
「公爵家の私兵に、毒を販売していた奴を探させていた。今朝捕まえたと連絡が来て、今は我が家の地下牢にいる。そいつの話では、眼鏡をかけた灰色の目の男が毒を買いにきたそうだ」
一斉にガイル様に視線が向けられる。
その視線から逃れるように、ガイル様は眼鏡を押し上げるふりをしながら、顔を隠した。
「セフォンヌ公爵、それは本当か」
国王陛下が玉座から立ち上がり問えば、セフォンヌ公爵は胸に手を当て頭を下げる。
「王族の血を引く私の良心と命にかけ、真実だと証言いたします。捕らえた人物は、すぐに衛兵に引き渡しましょう」
ざわざわと囁く声がどんどん大きくなる。
「では、暗殺未遂事件はヘルクライド殿下の自作自演だったのか?」
「クロスフォード殿下を陥れるために、聖木の女神まで巻き込んだ?」
「聖木の女神もこれに関わっているのか?」
騒然となる会場を鎮めたのは、クロスフォード殿下の声だった。
「衛兵、この二人を捕らえよ!」
「ま、待ってください。私は何も知りません。暗殺未遂事件や毒の偽証について何も聞かされていません!!」
叫んだのは、カルロッタだ。
聖木の女神である彼女を崇拝する貴族は多い。
あちこちで「聖木の女神は関係ないだろう!」と非難の声が上がりだす。
でも、クロスフォード殿下は動じることなく歩を進めると、会場の端に用意されたテーブルにある聖木の果実を手にした。
「聖木の女神の罪はふたつ。まず、そもそも彼女は聖木の女神ではない」
「そんな! 私は聖木の審判で女神と認められ、いままでも葉を茂らせ花を咲かせてきました」
「そうですわ! いくらクロスフォード殿下とはいえ、聖木の女神である娘を疑うなど、許されることではありません」
アディシアが衛兵を押しのけカルロッタに駆け寄ると、その肩をぎゅっと引き寄せた。
娘を守る母親の姿は同情をさそうけれど、クロスフォード殿下の視線は鋭いままだ。
「辺境の土地、ベルサートにて、不思議な石が採掘された。もとは隣国側の山の麓で採れていたもので、最近になってベルサートでも採掘が始まった。同時期、そこを治めるのが男爵からバルトア伯爵に代わっている。男爵が抱えていた借金もなぜか全額返済されていた」
聖木の女神がいるバルトア伯爵家には、王家から多額の謝礼金が渡されている。
男爵の借金がどれほどかは分からないけれど、肩代わりできるだけの余裕がバルトア伯爵家にはあった。
「採掘された石は、光を浴びると脆く割れる。ルーシャ、君のしているネックレスを貸してくれないか?」
「これを、ですか?」
ネックレスを差し出すと、クロスフォード殿下は剣を抜くと同時に、金の球体を宙に投げた。
何が起きるのかと球体の描く放物線を目で追っていると、サッと剣が振り降ろされ、カランと硬質な音が響く。
鋭い剣先によって球体は真っ二つになった。
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