再び王都へ.4
余裕のない歩き方に、質問はあとにしようと思いついていくと、侍女は大きな扉を少しだけ開けた。
「こちらです。すぐ横の壁に大きな幕が掛けられていますので、その後ろに隠れてください」
「分かった。ではあとは首尾よく頼む」
「はい。ばあやを信じてくださいませ」
軽く言葉を交わすと、フォードさんは私の手を引いたまま扉をすり抜け、幕の後ろに身を隠した。
この幕は、ほとんど壁一面に掛けられているらしく、幕の前には玉座があるようだ。すぐ側で国王陛下の声が聞こえた。
こんな近くにいて、気づかれたらどうするつもりなのかと不安になってくる。
当然ながら安易に声を出せないので、聞きたいことも聞けない。
やがて一曲終わったところで、会場内がシンと静かになった。
何かが始まる気配がして、さらに息を潜めてると、ヘルクライド殿下の声が会場内に響き渡る。
「今宵は、俺と聖木の大女神の婚約披露だ。遠慮なく、楽しんで欲しい。また、特別に聖木の果実を用意してある。欲しい者は俺まで申し出よ」
会場が一斉に沸き立ち、拍手と喝采が起きる。
それが鳴りやむと、ヘルクライド殿下は「それから」と言葉を続けた。
「今宵をもって、俺は王太子となる。次期国王としてこれまで以上に国政に関わ……」
次の瞬間バサッと大きな音がして、急に目の前が明るくなった。
幕が落ちたのだと気づき慌てる私に対し、隣に立つフォードさんは堂々と前に進み出る。
左右を見れば、先程の侍女と騎士が幕をぶら下げていた紐を握っている。どうやら彼らが紐を切って幕を落としたらしい。
フォードさんの姿を見た途端、会場中がどよめき騒然となる。
「ま、まさかどうして」
「そんな、死んだのではなかったのか?」
驚きとも畏怖とも言える言葉があちこちから沸き起こり、そのうち幾人かが彼の名を口にした。
「どうしてクロスフォード殿下がここにいるんだ?」
その言葉に、あぁ、やっぱり、と私は納得した。
少し前にある背中から漂う威厳は、間違いなく人を従え導く者だ。
さっきまであれほど近くに感じられた存在が、急に遠くなってしまったことに胸が苦しくなる。
「クロスフォード殿下……」
私の声が届いたのか、クロスフォード殿下が振り返り、凛々しい笑みを見せた。
でもすぐに前を向き、朗々と話し出す。
「皆の者、心配をかけた。だが、俺はこうして生きている。そして、第二皇子暗殺未遂事件における、俺と聖木の女神の姉であるルーシャの無実を証明すべく登城した」
どよめきがさらに大きくなるのを、クロスフォード殿下は手を翳し鎮める。
そうして、ヘルクライド殿下と向き合った。
婚約者であるカルロッタもその隣にいて、怯えるようにヘルクライド殿下の腕にしがみついている。
「な、何を言っているんだ。俺を殺そうとしたのは明白。おい、騎士たち何をしている。こやつを捕縛せよ」
声をひっくり返しながらヘルクライド殿下が叫べば、数人の騎士と眼鏡をかけた文官――ディン様の弟であるガイル様が進み出た。
彼らが歩を進める姿に、堪らず私はフォードさんに駆け寄る。
そんな私に、皆が怪訝な表情を浮かべた。
でも、私はもう隠れない。フォードさんの「必ず守る」という言葉に背中を押されるように、ぐっと顔をあげた。
「だ、誰だお前は!? 関係ないものは下がっていろ! いや、仲間か。それなら纏めて……」
「お久ぶりです。ヘルクライド殿下。ルーシャ・バルトアでございます」
カーテシーをすればヘルクライド殿下は顔を歪め、カルロッタは眉を吊り上げた。
再び会場がざわざわと騒ぎ出す。
「ははは、これはいい。皆、見よ! この二人が一緒にいることこそ、二人が俺の暗殺を企てた何よりの証拠だ!」
私たちが揃って現れたことで、会場内の目が険しいものとなる。やはり共謀していたのかと、囁く声が聞こえた。
ざわめきが収拾が付かなくなるほど大きくなってきたとき、それを鎮めるかのように杖を床に打ち鳴らす音が聞こえた。
玉座から聞こえたその音に、全員がぴたりと声を止める。
「クロスフォード、ならびにルーシャ・バルトア。このパーティに参加を認めていないお前たちが現れたことは大変遺憾だ。だが、申し開きがあるのなら聞こう。それを以て、お前たちの罪を改めて審議する」
「国王陛下、お待ちを! 彼らが結託して私を暗殺しようとしたのはすでに明白。今更、審議を行う必要はありません」
ヘルクライド殿下の訴えに、国王陛下は冷静な目を返すだけでその言葉に応えようとしない。
「国王陛下! もう一度いいます。いますぐ彼らを捕縛してください」
再度の訴えに、国王陛下はヘルクライド殿下ではなくクロスフォード殿下に視線を向ける。
「クロスフォード、儂はお前の口から何も話を聞いていない。片方の意見のみを聞き真意を確かめるのは愚鈍な者のすること。言いたいことは言えばよい。ただし、罪は罪として罰する」
「国王陛下!! こいつは……」
「ありがたきお言葉、感謝いたします」
クロスフォード殿下はヘルクライド殿下の言葉を遮ると、深く腰を折った。
そうして、改めて会場内にいる貴族たちに視線を向ける。
ある者は気まずく逸らし、またある者は希望を見つけたかのように目を潤ませていた。
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