再び王都へ.3
どうやって披露宴パーティの招待状を手に入れたかは分からない。
ただ、セフォンヌ公爵夫妻と一緒に乗った馬車は、とてもいたたまれなかった。
フォードさんはどうして、国王陛下の弟であるセフォンヌ公爵と、あんなに気安く話せるのだろう。
馬車がお城の門に差し掛かると、御者が招待状を見せる。
門番は招待状を確認すると、馬車の中を改めるので窓を開けて欲しいと恭しく述べた。
でも、招待状に掛かれた人数と、馬車内の人の数を確認するようにさっと目を配ると、すぐ通してくれる。
俯いていた私や、門番から顔を逸らしていたフォードさんについては、何も聞いてこない。
これは、私たちが乗っているのがセフォンヌ公爵家の紋入りだからかもしれない。
門番の立場では、公爵の同行人に無礼な真似はできないのだろう。
そうして会場の前までくると、セフォンヌ公爵夫妻だけが馬車を降りる。
私たちはお城の一角に作られた馬車の待機場所まで車内に残り、そこでタイミングを見て馬車を降り、裏口からこっそりと披露宴パーティに乗り込む予定だ。
招待状はあるとはいえ、正面玄関から入るわけにはいかない。
警邏している騎士の隙をつき、フォードさんは私の手を引きながら裏口へと進んで行く。
時には身をかがめ低木に隠れ、どうしても隠れる場所がない時は身体を密着させ逢引のふりもした。
そうすれば、騎士は私たちの姿を認めながらも、顔を確かめてはこない。
すべて作戦のためだと分かっているけれど、その距離の近さに頭がくらくらとしてしまう。
「大丈夫か」
「はい。心拍数がすごいことになっていますが、なんとか息ができています」
そこで再び騎士が来たので、フォードさんは私の身体を木の幹に押し付け、覆いかぶさるように顔を近づけてくる。
「あと少しで裏口だ」
吐息が頬にかかり、鼓動がありえない速さで脈打つ。
それでなくても整った容姿をしているのに、今夜は正装のせいで威力が倍、いや十倍にもなっている。
それに、先程フォードさんの気持ちを知り、自分の恋心に気づいてしまった私は、嫌でも彼の存在を今まで以上に意識してしまう。
伝わるぬくもりに汗が滲み、私の息がフォードさんに掛からないようにと、薄く息をする。
やがて足音が遠のいていった。
「……もう動いてもいいと思いますよ?」
「そうだな。でも裏口がすぐそこなんだ」
「それは良かったです?」
「ちょっと、ルーシャのぬくもりが名残惜しい」
耳もとで囁かれ、私は真っ赤になりながら、逞しい胸を押しのける。
「フォードさん!」
「すまん。ちょっと可愛すぎで揶揄いたくなった」
はぁはぁと、肩で息をする私に、フォードさんは肩を竦めたあと真剣な顔をした。
「緊張しているんだろう。大丈夫だ。すべて俺に任せて欲しい、信じてくれ」
ふっと気の抜けた笑みを見せたフォードさんは、服装こそ違えど、私の知っているフォードさんだった。
どうやら、私が緊張しているのを知って、ふざけてくれたみたい。
「分かりました」
「それから、これを身に着けて欲しい」
そう言って手渡されたのは、お義母様からもらったネックレス。
三ヶ月ほど前にアマンダに来たお客さんに、切れたチェーンを修理してもらった。
でも、鉱山から帰ったあと、フォードさんが調べたいことがあるというので預けていた。
ネックレスは、金の球体に描かれた模様の一部がやすりのようなもので削り取られてる。
「すまないが、わけあって表面を少々傷つけた」
「構いません。修理はしたけれど、もう着けるつもりはありませんでしたから。でも、フォードさんが仰るなら、今夜だけ着けます」
久しぶりに着けたネックレスは、なんだか当時と違うように思う。
なにが、と聞かれると困るのだけれど、そう感じるのだ。
裏口には見張りの衛兵がいたけれど、彼もまたフォードさんの協力者だった。
フォードさんを見て彼は恭しく頭を下げると、涙の滲んだ目でフォードさんを見上げる。
「よくぞ、戻ってくださいました」
「あぁ、首尾はどうだ」
「すべて整っています。国王陛下含め王族は全員会場に入られ、間もなくダンスが始まります。そのタイミングで会場に入り、カーテン裏で控えていてください」
そっと年配の侍女が歩み寄ってきたかと思うと、ポロポロと涙を零しながらフォードさんに抱き着いた。
「坊ちゃま、生きて、生きてくれ……ばあやは嬉しゅうございます」
「おいおい、泣くのはまだ早い。これから一仕事しなくてはいけないんだ。それから、坊ちゃんはいい加減やめてくれ」
苦笑いで、優しく女性の肩を押す。それでもまだ女性は「坊ちゃま」と目を潤ませた。
坊ちゃま?
やはりフォードさんは高貴な身分のようだ。
でも、なんだろう、この違和感は。
国王陛下の弟と親し気にして、衛兵やお城の侍女がその無事に涙をする人物。
そんな人は、限られているように思う。
もし、私の考えが正しければ――そう思いフォードさんに問いかけようとしたのだけれど、侍女がこちらだと先に立って歩き始めてしまった。
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