再び王都へ.2
「フォードさん、皇子様みたいです」
「!!」
正直に述べた感想に、なぜか店長さんと侍女が凍りついた。
どうしたのだろうと怪訝に思っていると、クツクツと笑う声がして、それがどんどん大きくなっていく。
「フォードさん?」
「いや、すまない。そう言ってもらえて光栄だ。それから、ルーシャ、とても美しい。月の女神かと思ったほどだ」
「それは言い過ぎです」
きっと、私が皇子様だと言ったから、そのお返しにおべっかを言ってくれているのでしょう。
それでも、美しいの言葉は私の胸を高鳴らせる。
「でも、そう言ってもらえて嬉しいです。フォードさんに綺麗だって言われたくて選んだドレスですから」
素直に感謝を述べた途端、フォードさんがうっと言葉を詰まらせ、片手で顔を覆う。
見えている耳が真っ赤に染まっていった。
「あ、あの。私、おかしなことを言いましたか?」
「いや、そうではない」
フォードさんはそう言うと、気持ちを落ち着けるかのように息を吸った。と同時に、店長さんと侍女がスッと部屋を出ていく。
その後ろ姿を不思議に眺めていると、名を呼ばれ、改めてフォードさんと向き合う。
「ルーシャ、聖木の果実については、道中、伝えたよな」
「はい。最近王都で出回っていると聞きました」
「ヘルクライドの暗殺未遂事件を含め、今夜すべてを明らかにするつもりだ。それがすべて無事終わったら」
そこでフォードさんは言葉を止めると、私の手を掬い上げる。
そうして、指先に口付けを落とした。
あまりに突然のことに、事態を飲み込めず呆然とする私に、フォードさんは甘い笑みを浮かべる。
「俺に、求婚する許可を与えて欲しい」
「きゅう、こん?」
「随分分かりやすく接していたつもりだが。まさか、まったく気づいていないわけではないだろう?」
その言葉の意味を察し、じわじわと頬に熱が集まっていく。
これは、私の勘違いでも、自惚れでもない。
だって、まっすぐに向けられる視線には、はっきりと恋慕の情が浮かんでいた。
「初めて会ったときから、ルーシャのことを忘れられなかった」
「私を盗賊から助けてくれた日から、ですか?」
「いいや、もっと前だ。俺はルーシャが大聖堂で薬を作っているのを知っている」
私が薬を作っていたのを知っている人は、教会関係者以外ではいないはず。
聖職者なら、全員の顔が分かる。
フォードさんが聖職者でないのは、明らかだ。そうなると、考えられるのは……。
「もしかして、私にパンや花、マフラーを差し入れてくれていたのは、フォードさんですか?」
「そうだ。二年前、聖木の近くで助けられてから、ずっとルーシャを見ていた」
聖木の近くと聞いて、一人の男性を思い出した。
身なりの良い服を着た貴族で、毒に苦しめられていた。
回復薬を飲ませると元気になったけれど、私が薬を作っているのは秘密なので、名乗らず、名前も聞いていない。
青白い顔と歪められた苦し気な表情だけが印象に残っていて、フォードさんだと言われるまで気が付かなかった。
普段、軽装か騎士服しか見ていなかったのもあるだろう。
でも、今日の正装姿を改めて見れば、助けた彼と似ているように思う。
「だから、ベルサートでも私を見守ってくれていたのですか?」
「もちろん初めは親切心が勝っていた。だが、一緒に過ごす時間が増えるにつれ、逆境でも明るく笑うその強さにどんどん惹かれていった。ルーシャの笑顔に後押しされ、俺は覚悟を決めることができたんだ。だからこそ、これからの人生、俺の隣にいて欲しい」
フォードさんの覚悟が何かは知らない。
でも、それがとても大きなものだというのは、王都へ来るまでに聞いた話からも感じられた。
なんと答えれば良いのかと、頭の中を言葉がぐるぐると回る。
フォードさんの思いを知って、胸は高鳴り幸福感が全身を駆け巡る。
私のことを想ってくれているなんて、こんな奇跡があっていいのかと歓喜が足元から湧き上がってくる。
それと同時に、今まで感じていた彼への気持ちがはっきりとしてきた。
目が合えば鼓動が跳ね、言葉を交わすだけで幸せになる。
笑った顔を思い出せば胸の奥がきゅんと切なくなり、隣にいると触れたくなる。
私の抱いていた気持ちが恋だと思い至った途端、顔が真っ赤になった。
いますぐ、この気持ちをフォードさんに伝えたいけれど、私はヘルクライド殿下の暗殺未遂に加担したと疑われている。
フォードさんとディン様は、独自にその事件について調べ、私が無実だと信じてくれたけれど、多くの人にとって私は犯罪者なのだ。
フォードさんの立場は分からないけれど、セフォンヌ公爵との会話から、かなり爵位の高い人なのは想像できた。
とすれば、安易に彼の気持ちを受け入れることはできない。
フォードさんの足を引っ張るような存在にはなりたくなかった。
逡巡する私の手を、フォードさんは苦笑いと一緒に離す。
「求婚する許可をくれと言ってすぐにこれでは、矛盾しすぎているな。忘れてくれ」
「あ、あの……」
「でも、少しでも考えてくれると、嬉しい」
優しく微笑みかけられ、いけないと思いつつ気づけば頷いていた。
できることなら、その手を取って頷きたいという気持ちをぐっとこらえる。
そんな私に、フォードさんは改まって手を差し出してきた。
「では、行こう。絶対に俺から離れないように」
「はい」
フォードさんが具体的に何をしようとしているか分からない。
ただ、危険があるのは、言葉と雰囲気から察せられる。
それでも私を連れていくのだから、フォードさんがしようとしていることが私に関係し、また私が必要なのだと思う。
エスコートの手に手を重ね、私は背筋を伸ばす。
この手を離さなければ大丈夫だと、信頼できる。
こうして私たちは、お城で開かれる披露宴パーティへ向かったのだった。
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