4 アイス
旦那はアイスが好きだ。しかし、そこにはこだわりがある。
基本バニラしか食べず、他のアイスを勧めても食わず嫌いなのだ。
私は、アイス自体がそこまで好きというわけではないもののマスカットやソーダ、みかんなど大体はおいしく食べている。
旦那が他の種類の味が嫌いということ自体は別に許せるのだが、食わず嫌いとなると一回は食べさせてから本当に嫌いなのかを試してみたくなる。
…ということで、試しに5本くらいバニラ以外のアイスを買ってきた。勿論、食べれなかったときのために私が食べれる覚悟も決めている。
「あのさ」
私は声をかけた。
「ん~?」
旦那は風呂上がりだからか、顔全体の筋肉がいつもより少しだけ緩んでいる気がする。
「アイス買ったんだけど、一緒に食べない?」
「何味?」
旦那は一瞬、味については聞き逃すまいと目つきが鋭くなる。
「それはなんとね、食べる時のお楽しみ!」
「なら食べない」
急にそっけなくなって、そっぽを向いてしまった。……フッフッフ。そんなことくらい、想定済みさ。
「でも、バニラもあるよ?」
急に体が、微動だしなくなった。ほう、予想以上にアイスが好きなんだな。私はここで、勝負にでる!
「バニラを食べる前にさ、他の味一緒に食べない?その、あとでバニラを食べる時、私の分をほぼあげるから」
何故か、呼吸している音だけ聞こえる。静かだ。だめだったのか……?
「他の味って、何味だ?」
よしきたァァ!
「えっとね、選べるようにしてて、ミカンと、抹茶と、巨峰と、コーヒーと、小豆!」
「……多くないか?」
「大丈夫、カップの形の詰め合わせみたいなやつで買ったから。」
「俺が食べれなくても不機嫌にならないでよ?」
「もちろん、そしたら私は今日食べれるバニラが増えるからね。」
「……っ」
旦那の顔が少しムッとした表情を浮かべている。まあ昔からバニラを食べていた時、すでにご飯をたくさん食べていても意外と食べてたからな。そう来ると思っていたのさ。
「元々一人分食べれるよ?」
「……俺の腹が、デザートの消化なんてへっちゃらだと言っている。」
フフッ
旦那が意外と本気で謎に拗ねていて?私は失笑した。
「なら、頑張って他の味のアイスも頑張って」
「仕方ない、付き合うか」
1ミカン
旦那の顔がまるで散歩を嫌がる犬のようで、なかなか食べたがらない。と思っていたら、遂に食べた。
「ん、意外と美味しい」
冷たそうにしながら、食べている。少し驚いた顔をしている。かわいい。
2抹茶
さっきよりは、かなり早めに食べた。ついでに言うと、ミカンの時も今回も、食べる直前にするはずのないにおいを必死に嗅ごうとしていた。不思議だ。
今回はどうだろうか。
お、シャリシャリした音立てて、意外と顔がほころんでんぞ。美味しそうに食いやがって。
なのに、こう言いやがった。
「さっきよりはあんまりだな」
私が食べたくなったということもあり、私がすぐに残り全部を食おうとした。
なのに残っていたのは3分の1を切っていた。くそ、今度から抹茶を買ってきたときは私が先に食おう。
3巨峰
もう用意したら、自ら食い始めた。
そうだよ、だから食わず嫌いは嫌いなんだよ。私は思っていたことが正しく嬉しいとも思ったが、そんなに好きなんだったら最初から食わず嫌いなんかせず食ってろよといったような、嬉しい気持ちと謎の怒りの気持ちがこもった状態で旦那を見つめていた。
「なんで、そんな顔してるんだ?」
急に声をかけてきた。
「味がおいしいのか美味しくないのか、早く聞きたいからよ。それで、どうなの?」
「美味しいけど、なんか怒ってる?」
「べつに?怒ってなんかないけど」
あれ、なんでかわかんないけど本当に怒ってる感じの素振りしちゃったよ、私。なんでだろ。
「いいから、早く他のも食べなよ」
旦那の顔が少し曇った。少し、心が暗くなった。
旦那は、何とも言えない顔をしつつ巨峰を完食した。
4コーヒー
旦那がスプーンですくって、食べようとした瞬間、こちらを向いた。私はキョトンとした顔でいた。びっくりした。急に私の口の中にアイスを入れてきた。途中まで口に入ってしまったから、しょうがない、そのまま食べた。
「アイス、食べたかったの?」
旦那も少しむすっとしつつ、聞いてきた。
「食べたいなら残してって言ってくれれば残すのに」
言われて気づいた。元々怒っていたのは、そんな気持ちもあったかもしれない。というより初めは嫌いだとかなんだとかどうでもよくて、純粋に美味しいって言って驚きと嬉しさが一緒になって食べてる彼の顔が見たかったんだ。馬鹿だな、私。泣きそう。結局気遣わせてアイスがどうこうじゃなくなっちゃった……。笑ってくれなくなったじゃん。
妻が急に泣きそうな顔になってきた。なぜだろう、どんな言葉をかけてあげたらいいんだ。さっきはわからなかったけど、抹茶の時にあまり食べれなくて残念みたいな顔をしていたのを思い出して、一口あげた。なのに今度は泣き始めてしまった。とりあえずこっちを向いたときに、またもう一口あげるか。
あげてもさらに、泣いてしまった。妻の泣き方は声を上げるわけでもなく静かに泣く。息はしゃくり泣く感じで呼吸しづらそうだ。迷惑と思うよりは、どうしたら泣き止んでもらえるだろうかという方向に頭が働く。
とりあえず初めにバニラじゃない味のアイスを食べきることを条件に食べ始めたから、それを食い終わればいいだろうか。確か残りは……小豆で最後か。
まだ、食えていないコーヒー味を俺も少し味わいつつ、静かに泣いている妻に、残りの小豆味のアイスの場所を聞いて用意に向かった。
5小豆
用意したところで、妻もかなり落ち着いたようだ。
「落ち着いた?」
妻にひと口あげた。
「うん」
彼女は涙を拭いて、喋り始めた。
「私は、ただアイスのバニラ以外の味を食わず嫌いでいられるのがなんか嫌で、美味しさをわかってほしくて、それで……。」
また涙が込み上げてきたのだろうか、俺はティッシュを渡す。
彼女は受け取りつつ、息を整えて続ける。
「それで、わかってくれたのがうれしかったのに、私も元々食べたかったことと、初めから食わず嫌いしないでよって思う気持ちも強くなっちゃって、イラっとしちゃったの」
また、ティッシュを渡す。
というより、なぜそんなに俺はいら立たせているんだろうか……。別に悪いことはしていない気もするが。とりあえず、今は小豆が溶けてきそうなので、一口かじる。
「でもっ、本当は、アイスがおいしいに決まってるから、美味しそうに食べてる姿が見たかっただけなの。面倒かけて、ごめん。」
なんだよ。馬鹿だな。そういうことだったのか。
「なら、最後の小豆は半分あげるからバニラも少しくれよ?」
彼女の体が少し止まった思ったら、また泣き始めてこう言った。
「うん、ありがとう」
本当は小豆はほかの味より好きではなかったが、彼女を喜ばせたくて美味しそうに食べた。きっと、言葉で言わなければ言質はとられていないからな、まだ俺は悪い奴認定には引っかからない気がする。うん、きっとセーフだ、セーフ。
勿論、妻にもアイスをあげた。
妻がまた笑った、良かった。
6バニラ
「そういえばどうして、食わず嫌いだったの?」
妻がきく。そんなにおかしいのか?
そんなこともないだろうが、とりあえずアイスに関連する記憶をたどってみる。
旦那は長い間、思い出そうと目をつむっていた。そんなに昔からバニラしか食べていないんだろうか、もったいない。そう考えているうちに、旦那は何か思い出したようだ。
「確か、チョコミントで嫌いになったんだ。」
「え、チョコミント?」
チョコミントと言えば、好き嫌いが分かれる有名な味だ。そうか、それがだめだったのか。
「それって好き嫌いかなりわかれる味じゃん。」
「そうなの?」
「そうだよ」
「そうだったのか……。バニラの次に食べたのがそれだったんだよ。俺が食べたとき、小学生だったんだけど、周りの奴らはみんな食えてたんだよ。」
そんなことでか。まあ初めに嫌なことがあったらそのあと克服するのは確かに難しいもんな。
「けどとりあえず、他の味はどうだったの?」
妻がきく。
「美味しかったです。」
「なら、また今度買って来るわね、特に小豆多めで。」
何故か、旦那の顔に冗談じゃないって気持ちが書かれている気がする。
「嫌なの?美味しそうに食べてたじゃん。」
「実は、それ以外の味の方が好きだったんだ」
「あ、それなら私が丁度小豆好きだからの詰め合わせを買っても変に残したりしないね。」
「あ、そういうことか。はい、小豆は差し上げます。」
彼は小さく安堵のため息をついた。
「ちなみに、バニラ以外の味で特に気に入ったものは?」
「ミカンと、巨峰がおいしかった。次に、抹茶とコーヒー。最後が小豆。」
「バニラはどこに入る?」
「勿論、一番上」
なんだそのどや顔は。しかも結局順位は変わらないのか。
でもよかった、食わず嫌いは解消できた。
そんなことを考えていた時だった。
「でも、バニラ以外もうまいってこと、知れて良かった。……その、ありがと。」
私は普段あまり聞き慣れない照れた感じのありがとって言葉で、嬉しさと恥ずかしさが私に移ってきた。
そういえば、私も言い忘れていた。恥ずかしさはいったん抜きだ。ちゃんと言おう。
「私に付き合ってくれてありがと!あと、アイスも分けてくれてありがと、美味しかった。」
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回は思ったよりも長く書きました。
アイスは美味しいですが、食べ初めに毎回キーンとなるのが少しネックになっており最近は食べていません。それでも、アイスという言葉だけでも聞くだけで部屋の温度が下がった感じがして好きです。
私もたまには、一日に沢山食べてみたいです。
あとがきもお読みいただきありがとうございました!




