「東京の水は不味かった」と大阪の友人が言う
『夏のホラー2025』参加作品です。
◎テーマ「水」
「ホンマ東京の水はドブ臭くて飲めたもんやない。あんなに不味い水は生まれて初めて飲んだわ!」
そう言って、大阪の水質を自慢する俺の友人はとても素直でいいやつだ。ただ、余計なことを言い反感も買いやすい。
友人の隣りにいる俺は居心地の悪さを感じていた。コイツが何かポロッと要らないことを言わないか、陰ながら見張っていた。
「あのホテル、お前が選んだんよな〜。旅行好きなお前があんな最悪なホテルとるなんて、ちょっとガッカリしたで〜東京の人はみんな鉄臭いんやな!」
「ハハハ……」
友人の話を聞いて、周囲は少し気まずそうな顔をした。さすがに言いすぎだ。
実際に、大阪の水質は改善されて飲みやすくなったと訊く。だが、東京の水道水も飲めるレベルではある。比べるな。
というか、格安ホテルの一室にあるバスタブに浸かったら体臭が変わったって……言いがかりにもほどがある。
東京の水は決して臭くない。
それは俺がよく知っている。しかし、それを俺が言えば友人は「何でや?」と食い付いてきそうで何も言えないでいた。色々と面倒だからだ。
「あ。そう言えば、裕太は俺がホテルについて真っ先に寝た時、何してたんや。俺が話し相手になってられへんくてごめんな。詰まらんかったやろ?」
「……タバコ吸いに行ってたんだよ」
「ふうん」
そう相槌をうって、友人はまた、ペラペラと東京の水は不味かったと言い始めた。
「そうやそうや、なんか東京ってウェルカムドリンクも苦くて飲めたもんじゃないんや。緑茶やのに渋すぎて渋すぎて」
「そうだな」
「トイレに行ってる間にお前なんか入れたんとちゃうか? 睡眠薬とか! ワハハ!」
「……」
やめろ。
あまり当時の俺の行動を詮索するな。
「もしかして、お前なんかやらかしたんちゃうん?」
戯けながらそういう友人に寒気を覚えた。
────いずれ、バレる。そう思った。
(ひとり殺したら、終わらないな……)
最初は金で揉めた友人Aを登山に誘い、滑落事故を装って殺した。それを知った、友人の友人である裕太が強請ってきた。困った俺は、何も知らない友人と共に裕太をホテルに誘い出した。友人が寝ている間に、裕太を屋上に呼び出して金を渡した。
そして、不意をつきスタンガンで眠らせ、裕太を貯水タンクに生きたまま突き落としたんだ。
そりゃ不味いだろう。死体の浮いたタンクの水は。
ごめんな、お前は何も知らないだろうが、また何処かに誘う必要ができた。せめてその時は上手い水が飲める場所にしてやるよ。
◆
「なぁ、夜の海にでも行かないか?」
「おぉ〜ええなぁ! 俺、泳がれへんから浮き輪持ってかな〜、なんてなwww」
BAD END...
最後まで読んでくれてありがとうございます!
(誤字報告感謝です!)