あなたの番【つがい】は私です
それは突然の事でした。
私、ルナティア・シェルイナは、婚約者である第二王子ジョルジュ様に話があると呼び出され
「私の番が見つかったんだ。たから、婚約を解消して欲しい」と言われたのです。
確かに学園で、いつも一緒にいる令嬢がいると噂にはなっていましたが…。
「ジョルジュ様、申し訳ありませんが説明をしていただけますか。急に言われてもなんのことだか」
「リーナと言って1つ下の学年の子なんだ。初めて会った時に、この子が僕の番だとすぐに分かったんだ。王家にとって番は大切な存在だ。君も王家の血をひいているんだから分かるだろう」
「ベルモンド子爵のご令嬢ですね」
「そうだ。最近彼女の周りで嫌がらせが続いていてね、きちんと婚約すれば、それもなくなると思うんだ。だから彼女との婚約を急ぎたい。彼女を守りたいんだ」
「ジョルジュ様と私は番なので、他の方と番になる事はないと思いますが」
「番は生涯に1人と言われているからね。だから、君との番が間違いだったんだ」
「そうですか。でも、私たちの婚約は王家が決めた事なので、今ここでお返事はできません」
「それは大丈夫。正しい番が見つかったんだ。すぐに認められるよ」
「父と相談してからお返事致します」
「君は番じゃなかったんだから、君たちの許可なんていらないんだ。君に話したのは僕の優しさだよ」
「承知しました。では、失礼します」
どうしてこんな事になったのでしょう。
とりあえず家に帰って家族に相談ですね。
夕食の時間です。
今日は全員が揃っています。相談するにはちょうどいいですね。
「今日、ジョルジュ様より婚約破棄破棄したいとお話がありました」
お父様もお母様も顔が怖いです…。
「どういう事か説明しなさい」とお父様。
私は学園での噂話と合わせて、今日の事を話しました。
「リーナ・ベルモンド子爵令嬢の話は、かなり広まっているよ。もう王の耳にも入っているから、何か動きがあるはずだ。しかし、第二王子にも困ったものだ。婚約破棄などしたらどれだけ大事になるか…」
「本人が知らないのだから仕方ないのでは」
とお母様。
「明日、王に相談をする。ティアは心配しなくていいよ」
「いいえ、お父様。婚約破棄でも構いません。
ジョルジュ様がそれを望んでいるのなら受け入れます」
「ティアの番だぞ。番と離れるのがどれだけ辛いか…」
「ジョルジュ様の心に私がいないのに一緒にいる方が辛いです」
お母様が優しく抱きしめて下さいました。
「あなたは本当に第二王子の事が好きだったものね。諦めると決めたのもすごく辛かったと思うわ」
私はその言葉を聞いて我慢していた涙がこぼれてしまいました。
この国では、王家だけに番【つがい】という存在が現れる事があります。その番は、王家に繁栄をもたらすと言われていて、とても大切な存在となっています。
王家の血をひく人間にも番は現れますが、血が薄まると現れなくなるようです。
わがシェルイナ侯爵家は、お祖母様が王女だったので、王家の血が受け継がれています。
私が7才の事でした。
初めてお城に行った時の事です。
その日は第二王子ジョルジュ様のの誕生日会で、同じ年の子どもたちがたくさん招待されていました。
そして、ジョルジュ様に挨拶をした時に私は、一目で、この人が番だと分かりました。
思わず
「私の番だ」と口から出てしまったので周りの大人たちが大騒ぎになってしまったのを覚えています。
ジョルジュ様はキョトンとしていましたっけ。
次の日。
お父様が城に行き、王に謁見を申し出ました。
王に新しい番と婚約破棄の件を伝えたのです。
息子から何も聞かされていなかった王は、頭をかかえてしまいました。
そして、少し時間が欲しいと言われ、とりあえず婚約はそのままとなりました。
「ティア様、また今日もあの2人一緒でしたのよ、婚約者がいる殿方にあのようにくっついて貴族として恥ずかしくないのかしら」
「周りがとめても第二王子が全く聞いてくれないとか…。みんな困っているようですわ」
ローズ様とベルーナ様は入学した時からのお友達です。ベルーナ様の婚約者はジョルジュ様の側近なので、一緒に行動している事が多いので、きっと色々な話を聞いているのでしょう。
「ジョルジュ様も学園ではたくさんの方とお話ししたいのでしょうから、私からは何も言えませんわ。
ベルーナ様、心配させてしまってごめんなさい」
私はそれを言うのが精一杯でした。
「ティア様が気にならない訳ないですよね、私の方こそごめんなさい。ねえ、息抜きに放課後出かけましょう。いつものカフェで期間限定のスイーツが美味しかったと侍女が教えてくれたの」
「わあ、それは素敵ね。ね、ティア様行きましょう」
2人とも優しいです。
この学園は15才から18才までの貴族子息と令嬢が通っています。
勉強も大切ですが、それ以上に人脈作りが大切と言われていて身分関係なく交流しています。
ジョルジュ様とリーナ嬢は距離が近いと噂になっていましたが、私に婚約破棄の話をしてからは毎日のように一緒にいます。ランチも一緒のようです。
その姿を見る度に私は胸が苦しくなっていました。だって、私の番が、他の人と仲良くしている姿なんて見たくないですもの。婚約破棄しても番はそのままなので、この思いはずっと続くみたいです。私、耐えられるかしら…。
学園はとても楽しいです。たくさんの友達がいるし、勉強も楽しい。でも、学園に行けば嫌でもあの2人の姿を見てしまいます。段々と休学を考えたある日の事、2人を見ても、前のような苦しみを感じなくなりました。突然何かを奪われたような不安を感じましたが。これは何でしょう。気持ちが落ち着いた訳でもなさそうです。
学園が休みの日にお祖母様の家に遊びに行きました。お祖父様とお祖母様は番だったので、私の今の気持ちを分かってくれると思い、色々お話をしました。途中、お祖母様は、びっくりしたような顔をしていましたが、何か変な事言ったのかな…。
しばらくして私はお父様と一緒に城へ呼び出しがありました。
客間へ通されると、しばらくして王と第一王子アルベルト様がいらっしゃいました。
「ルナティア嬢、久しぶりだね。
この度は弟が迷惑をかけてすまない」
第一王子は来る早々、私に頭を下げました。
「頭をお上げください、第一王子様が謝る事ではありませんから」
と私は慌ててしまいました。
王は
「実は前シェルイナ侯爵夫人から気になる話を聞いてね、急遽来てもらった」
前シェルイナ侯爵夫人とは私のお祖母様の事です。
「ジョルジュの番の儀式は行われたのかと質問されたよ」
「番の儀式とは?」
初めて聞いた言葉です。私は聞き返してしまいました。
「ティア、発言の前に許可を取らないと」
お父様に注意され、自分が無礼な態度を取ってしまった事に気づきました。
「申し訳ございません」
謝罪をする私に優しく
「気にしなくていい、公式の場ではないのだから。それに突然の話で驚いているのだろう」と話してくれました。
「番の儀式を行うと、番同士の結びつきが強くなり王家に繁栄をもたらすと言われている。
しかし、番が違う相手と儀式を行うと番の縁が切れてしまう。ルナティア嬢がジョルジュを見て悲しく感じたと聞いたので、儀式が行われたのではないかと前シェルイナ侯爵夫人から相談があったんだ」
「ルナティア嬢はヨハン・マードン公爵子息の婚約者の話は聞いた事ある?」
と第一王子が私に質問してきました。
ヨハン・マードン様は学園の同級生です。時々お話もしますが、話していて楽しい方です。
「ヨハン様の婚約者は去年病気で亡くなられたとお聞きしています」
「ヨハンの婚約者は番だったんだ。とても仲の良い2人だったんだけど、亡くなった時の落ち込みようはひどくてね、周りが心配するほどだった。亡くなる直前に儀式を行いたいと希望していたんだが、彼女が拒否した。死んでからも彼を縛りたくないとね。儀式を行うと番以外愛せなくなると言われているから」
第一王子は更に話を続けました。
「後から彼が教えてくれたんだ。彼女が亡くなった時、うまく言えないけど、何か突然不安になるような喪失感は番の縁が切れた時に感じる事だと気づいたと」
あ、私が感じた気持ちと似ているかもしれません。
もしかして、ジョルジュ様と私の番の縁も切れたのでしょうか?
「この先は内密な話となるから、他言無用だ。
といっても2人ともある程度は知っている事だが」
王はそう言いました。
「ジョルジュを問い詰めたところ、勝手に儀式を行っていた。まだ見習いの神官を言いくるめていた。とはいえ、儀式は認められてしまった。
ルナティア嬢、本当に申し訳ない」
王と第一王子は頭をさげました。
「ジョルジュ王子の今後はどうなりますか?
ルナティアとの結婚がなければ王子は王家に残れなくなりますよね、ジョルジュ王子はご存知なのでしょうか?」
お父様が質問しました。
「ジョルジュは何も知らないで儀式を行った。
正しい事をしたの一点張りで話し合いにならないから、今は謹慎させている。王妃の処分が決まってから真実を伝える事になると思う」
「王妃様はどうなるのでしょうか?」
「王家を欺いたのだからそれ相応の処分がくだされる。
これは、婚約破棄の書類だ。第二王子有責としてある。2人ともサインをして欲しい」
王は書類を私たちの前に置きました。
お父様と私は書類にサインをしました。
「これから王家は大変な騒ぎになるだろう。恐らく私も王を退く事になるだろう。どうかアルベルトを支えて欲しい」
王と第一王子にまた頭をさげられ、重い気持ちのまま城を後にしました。
あの7才のお茶会の時、私が言った「私の番だ」の言葉はある疑問が生みました。
第二王子はなぜ番に気づかないのだろうと…。
そして密かに調査された結果、第二王子は王の子ではないということが分かりました。
その事実を突きつけられた王妃様は、最初は黙秘を貫いていましたが、王の説得によりやっと事実を話しました。
王との婚姻前、好きだった人がいたそうです。王妃としての重圧に苦しんでいた時にたまたま出会ってしまい、ついその方にすがってしまったそうです。
妊娠が分かった時にはどちらの子か分からず、ずっと苦しかった、私はどうなっても構わないからジョルジュは助けて欲しいと泣きながら訴えたそうです。
王は悩んだ末に私の父母を呼びました。
そして、事実を打ち明け、私とジョルジュ様を結婚させて、公爵家を与えたいと言いました。
これなら、王妃も第二王子も守れるからと。
王に頼まれては断る事はできません。そうして、私とジョルジュ様の婚約が決まったのでした。
その後、王家は予想通り大荒れとなりました。
王妃様は、王家を裏切った重罪として、修道院で生涯幽閉となりました。
王は責任をとって引退し、第一王子アルベルト様が即位しました。
ジョルジュ様に罪はないものの王の子ではないため、王妃の実家預かりとなりました。
事実を知ったジョルジュ様は呆然としていてしばらくは考える時間が必要のようです。
でも、1つ発見がありました。番の儀式を王家の血を引いた人間以外が行うと他から恋愛対象としては拒絶されるようです。リーナ・ベルモンド子爵令嬢はお見合いする度に即行お断りされていて、近いうちに50回目のお見合いをするとかの噂を聞きました。
私はいつも通り学園に通っています。
気持ちの整理はついていませんが、優しいお友達に救われて楽しい時間をすごしています。
最近は、ヨハン・マードン様と少し話す機会が増えてきました。番を失った苦しみを分かってくれる方がいるのはとても心強いです。
読んでいただきありがとうございます。
誤字報告の連絡いただきました。
修正しました、ありがとうございます。