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無極の隙間  作者: 東の冬
幽州
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第三章ー虫突猛進

 徐夜ジョ ヤは一秒前まで門の外で叫んでいたのに、次の瞬間、目の前の光景ががらりと変わり、堅い地面が迫ってきた。彼は胸が締め付けるような感じをして、ほぼ本能で叫んだ。


土行者ドギョウジャ、来たれ!」


 すると、徐夜の周りに白い霧がマトわり付き、薄いベールのように彼を包み込んだ。次の瞬間、彼の体は魚が水に飛び込むようにカロやかに地面へと消えていった。


「へぇー、これが君の能力か。実に不思議だね。他にも何か技があるのかい?」


 地中でようやく身を落ち着けた徐夜は、頭上から沐衡ムーハンの驚き混じりの声を聞き、再び魚のように地中を泳ぎだした。今度は頭を上にして、声がする方向へと素早く近づいていく。


「プハッ!」


 土から飛び出した徐夜は、服の埃を払いながら、にやにや笑う沐衡に向かって不機嫌に言った。


「土行者をサッと召喚できなかったら、ここで命を落とすところだったぜ。」


 そして彼は周囲を見回した。自分がいるのは深い洞窟の中だった。後ろには入ってきたはずの門はなく、ただ分厚い土の壁がそびえているだけ。周囲は暗く、前方唯一の狭い通路からかすかな光が差し込み、洞窟の一角をかろうじて照らしていた。空気には湿シメった土の匂いが漂い、どこか腐敗したような臭いも混じっている。


「我々のチーム『無垠ムギン』に入ったからには、こんな小さな困難で挫けるわけにはいかない。さあ、君の能力について説明してくれないか。後で私も自分の能力を教えから。」


 沐衡を含む七人と、目の前の徐夜を加えた八人で結成された「無垠」は、今まで誰も辿り着けなかった地を開拓し、前人が未達成の偉業を成し遂げることを目的としている。そのため、「限界がない」という意味の名が付けられた。無垠のメンバーは皆、特異な霊標レイヒョウを持っているからこそ、そんな野望を抱けるのだ。徐夜の現在のレベルはまだ低いが、将来は有望で計り知れない。


「ああ。我が徐の一族が幽州ユウシュウ四大宗族の一つだということは知っているだろう。我々一族の霊標はただ一つ、それは『魂』だ。具体的には、亡者の魂を操り、憑依ヒョウイさせてその能力を使うことができる。さっきは土行者に憑依してもらい、土を柔らかくして衝撃を緩和したんだ。」


 説明を終えると、徐夜は手を振るい、幾つかの白い霧を呼び出した。沐衡はふと陰気が肌を掠めるのを感じ、思わず身震いし、半歩後ずさった。


 徐夜はそれを見て、ゆっくりと説明を続けた。


「一般人には魂は見えない。我々にしか見えないのだ。君たちにはただの白い霧にしか映らないだろう。今回僕は金・木・水・火・土の五行者ゴギョウジャを連れてきた。彼らは百年前に亡くなった者たちで、それぞれの属性を操る能力を持っている。徐家に代々仕え、俺の守護霊シュゴレイのような存在だ。一度に使えるのは最大三人まで。それ以上は制御できない。そして、今の俺にはまだ独自の『魂』がない。この旅で、自分のものとなる魂を捕まえたいと思っている。」


 さらに徐夜は説明を続けた。徐家の修行は初期は極めて遅いが、21レベルに達し、「霊能レイノウ」と「拘魂コウコン(魂を縛るの意)」のスキルを習得すると、捕らえた魂を使って修行を加速できる。そのため、初期は力を蓄え、中盤以降で一気に開花する。つまり「鳴かねばそれまで。ひとたび鳴けば人を驚かす」ということだ。


 また、魂の生前の実力が操作者を上回っていた場合、その魂は操作者と同じレベルまで抑えられ、その後は共に成長する。そのため、反撃のリスクはない。さらに、弱い魂のほとんどは肉体の死と共に自我を失っている。俗に言う「三魂七魄サンコンシチハク」がほぼ消散し、輪廻リンネに戻っている状態だ。そのため、三魂がまだ残っているうちに「拘魂」を使わないといけない。


 沐衡はそれを聞いて背筋が凍る思いがし、無意識に自分の頭を触り、見えもしない魂が奪われていないか確認したかようだ。


「その技……生きている人間の魂は奪えないんだろうな? まさかできるわけないよな?」


「今の俺には無理だ。だが、昔は生きている人間の魂を肉体から叩き出し、捕らえることのできた家主もいたらしい。だから……理論上は可能?」


 徐夜は頭を掻きながら言った。


「ひえっ……それは……防ぎようがないな。」


 沐衡は口角がわずかに動いた。何か言おうとした瞬間、周囲からカサカサと微かな音が聞こえてきた。


 沐衡は即座に警戒し、両手を大きく広げると、そのショウからマブしい光が輝き、洞窟全体を白昼ハクチュウのように照らし出した。


 左手には高輝度コウキドの電球のような光球が浮かび、右手には光でできた金色の細剣が現れた。その剣身ケンシンはかすかに揺らめき、実体のない輝きを放っている。


「何かが来るぞ。よく見ておけ。俺の能力を見せてやる。」


 沐衡がそう言い終わるや否や、洞窟は明るく照らし出された。地面には分厚く積もった落ち葉と水たまりがあり、影に潜んでいた無数の黒い影が突如として光に驚き、波のようにうごめきだした。


「うわっ!? これはこれは......俺……俺はもうこの浮生門フショウモンにいたくないぞ!」


 沐衡はそれらの正体を見た瞬間、飛び上がるほど驚き、言葉もろくに出せず、明らかに震えた声を出した。


 徐夜もまた、地面にう小さな生き物たちの正体をはっきりと見た。なんと、それは無数の虫だった! その種類は多様で、細長く平たいもの、丸くて滑らかなもの、八本足のもの、中には数百本の足を持つものまでいる。色も緑、黒、虹色と様々で、光に照らされると一層不気味だった。


 それらはウゴメき、コロがり、闇の中に這い回り、気持ち悪い体をくねらせながら、ぞっとするようなサラサラという音を立てていた。


 さらに、無数の真っ白なウジが腐った木板の隙間から湧き出て、肥えた体をくねらせている。その透けた皮膚の下には、黒い内臓がうっすらと見える。


 隅には巨大な赤黒い蜈蚣ムカデがうずくまっており、鋭い足で壁や地面を擦り、かすかなきしむ音を立てている。真っ赤なハサミをゆっくり開閉し、襲う機会を伺っているようだ。壁の裂け目からは、細長い白い蠕虫ゼンチュウがゆっくりと顔を出し、外の様子をのぞいている。


 さらに恐ろしいことに、地上の虫の群れはどんどんと彼らに向かって進軍しており、うごめく音と沐衡の絶叫が洞窟に響き渡った。


 レベル50の沐衡にとって、こんな低レベルの浮生門の中の生物など恐れるに足りない。彼が手を振るえば、たちまちこれらの虫は灰燼カイジンに帰するだろう。しかし、彼が感じている恐怖は生理的なものだ。一方の徐夜は、特に大きな反応を示さず、ただ眉をしかめただけだった。


 そして、徐夜は右手の二本指を天に向け、大声で叫んだ。


火行者カギョウジャ、来たれ!」


 彼の傍らにいた一つの魂がそれに応え、徐夜の体に飛び込んだ。すると、徐夜はその二本指を唇の前に立て、大きく息を吸い込み、頬を膨らませた。まるで膨れたフグのようだ。


「ハッ!」


 彼が一気に息を吐き出すと、口から扇状の炎が噴き出し、前方の虫の群れを包み込んだ。


 しかし、虫たちは焼け死ぬどころか、むしろ怒り狂ったように、体をくねらせ、不快な摩擦音を立てながら、さらに速い速度で彼らに向かって這い寄ってきた。


 一時的に、虫の群れはさらに狂暴さを増した。無数の虫たちが炎に包まれ、空中に焦げた肉の臭いが漂ってくる。


 こうして、地獄絵図が二人の目の前に広がったのだ。

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