序章
虚無の狭間にて。
あるいは、広大なる宇宙の彼方にて。
または、限りなき無極の中にて——。
瞳がゆっくりと開かれた。
刹那、海は枯れ、石は砕け、沧海は桑田へと変わる。
一瞬にして、衆生は浮き沈み、縁は起こり、また消えていく。
彼がただ一度目を閉じると、無極の道が生まれた。
——知其雄,守其雌,為天下谿。為天下谿,常德不離,復歸於嬰兒。知其白,守其黑,為天下式。為天下式,常德不忒,復歸於無極。
「始めよう。」
どこからともなく響く声が、世界を貫いた。
まるで誰かに命令を下すかのように——。
その瞬間、時間と空間は意味を持ち、世界と星々は回転を始めた。
生と死の概念が生まれ、この世のすべてがまるで生命を得たかのように動き出した。
そして「彼」は、消えた。
その代わりに、新たな生命が誕生した。
その存在は、人の形を持つ生き物だ。この生き物はまるで白昼と霜雪によって創られたかのようだった。
全身に冷淡で超然とした気配をまとい、その長い髪は銀の糸のごとくしなやかに揺れる。
光を映すその髪は、わずかに動くだけで流れる月の光のようだった。
眉も睫毛も白く、灰白色の瞳はより深遠さを増している。
それはまるで霜に覆われた湖の水面のように、静かで波ひとつ立たない。
だが、その奥底に潜む幽玄なる光影を覗きたくなるほどの魅力があった。
その顔立ちは、あまりにも精緻で非現実的なほどだった。
まるで創造主が最も温かな玉を用いて、一筆一筆、奇跡のごとく彫り上げたかのよう。
どの線も、どの形も、一点の無駄もなく、完璧に整っていた。
纏う衣はない。
だが、その身体は淡い光に包まれており、白く透き通る肌はほのかに輝いている。
その光は塵すらも寄せつけず、降り注ぐ微光が触れるたびに、冷たい色合いを映し出した。
指は細くしなやかで、まるで初雪のように柔らかいが、決して青白くはない。
その身形もまた然り。
天地の造形の極致とも言うべき均整の取れた姿は、一分も多くなく、一寸も少なくない——まさに天成の存在。
彼は虚空を踏みながらも、何か見えぬ支点の上に立つかのように、安然と広大な世界に浮かんでいた。
灰白色の瞳が微かに揺らぎ、彼の視線が向かう先では、広大な星々が生まれ、滅び、そして巡りゆく。
彼は、二つの惑星がゆっくりと近づき、灼熱の閃光を放ちながら衝突するのを見た。
砕かれた無数の星屑は重力に引かれ、やがて新たな星へと再生していく。
星々は彼の視線のもと、静寂の闇を切り裂き、無数の流星となって流れ落ちる。
尾を引く光の軌跡の一つ一つが、新たな独立した世界を育んでいた。
壮大な宇宙の変遷を前に、彼はただ静かに見つめていた。
その瞳に浮かぶのは、淡い好奇心。
やがて、彼は微かに眉をひそめた。
その瞬間、瞳がわずかに動いたかと思うと、すべてが静止したかのように感じられた。
いや、むしろ、すべてが無数倍の速さで加速されたようでもあった。
そして、この世に、第二の声が響き渡った——。
「無窮無極、我は無極なり——」