役目
さて、次の日・・・
土曜日がやってきた。
やってきてしまった!!
朝5時に起きるも・・・
「あいつ(卯月)の家ってどこだよぉ~!?」
とか迷いながら結局6時となった。
やべぇ・・・怒ってるかな?
いや、待て待て。
そもそも僕はやらされ役じゃないか・・・
なんて思っていると・・・
「ピンポーン」
とインターホンがなる。
まったく誰だよ・・・こんな早い時間に。
ゆっくり立ち上がると、インターホンが再度なる。
しかも連打で・・・
「はいはい、今、あけます・・・」
ガチャリとドアをあけるとそこには卯月さんがいた。
「・・・遅いから・・・きた。」
「・・・」
てか、なんでこいつは僕の家を知ってるんだ!?
怖ッ!
「ひぐらし」なら雛見沢症候群にかかるぐらい怖いぞ、これ。
「・・・なんでうち、知ってるの?」
「使用人に調べさせたの。」
このストーカー野郎が・・・
とかは微塵も思ったりはしていない。
のだが・・・
「権力の高い人ってうらやましいねぇ・・・」
なんてことをいっておくことにしよう。
とりあえず支度をして、いく。
「・・・ごめんね・・・ボディーガードなんて急に・・・」
「いや、大丈夫だよ。」
実際大丈夫でもないが。
外にでると、黒い長い車があった。
「どうぞお乗りください、お嬢様。」
「ありがとう。」
はい?
お嬢様?
こいつって・・・ここまで金持ちだったのか?
でも、よく考えればそうか・・・
なんたって、「卯月コーポレーション」の娘だもんな。
「どうぞ、お乗りください。」
「え?僕?」
「はい。」
僕も半強制的に車にのる。
しかし・・・これだけ金持ちならボディーガードだっているだろう・・・
なんで僕に頼むんだか・・・
そんな不満を思っていると彼女の家についた。
てか家っつ~か・・・
「・・・屋敷じゃん。」
でかい。
とにかくでかい。
おまけに敷地もでかい。
こりゃぁ・・・とんでもねぇやつが近くにいたものだ。
車からおり、屋敷に入る。
入ってもやっぱり大きい。
「・・・どうしたの?」
「いや・・・大きいなぁ・・・って思ってね。」
「そりゃそうです。だって卯月コーポレーション社長の日本の屋敷ですから。」
ちょっと待て!
今、こいつ「日本の」っていったよな?
・・・日本以外にもこのレベルがあるってのか・・・
・・・すごいの一言とは、まさにこのことなのだろう。
「・・・てか、なんで卯月さん家にきたの?」
「外にでる支度をするから。」
・・・じゃぁ、準備をしてうちにくればよかったじゃん!
とか思ってしまう僕である。
さて、どれほど歩いただろうか・・・
「てか・・・どんだけ広いんだよ!?」
びっくりを通り越して、「わぁお!」である。
「ここが私の部屋。」
「・・・で?」
「・・・入って。」
「はぁ・・・」
なんとも気まずい空気である。
部屋に入ると、そこはまたすごく豪華である。
部屋の片隅にピアノが置いてあった。
「ねぇ?あのピアノ・・・弾いていい?」
「別にいいけど・・・」
とりあえずピアノをあけて、「ド」の音を弾いてみる。
(うん・・・よく調律されているピアノだ・・・)
関心する。
「ピアノやってるの?」
「えぇ。まぁ、父に強制的にやらされているんですけどね・・・」
「へぇ・・・」
とりあえず弾いてみることにした。
・・・テキトーに。
「!?」
さすがに卯月さんもびっくりのようだった。
何しろ音楽になっていない。
騒音だ。
戦闘機よりうるさいかもしれない。
「・・・るっさいっての!!!」
「・・・」
「・・・なんていうと思った?えへ・・・」
・・・なんというごまかし方だ・・・
いや、すごい演技力というべきか・・・
つなぎ方が素晴らしい。
「あ、私、準備があるから、ちょっといってくるね。」
「へいへい・・・」
すると彼女は逃げるように部屋を出て行った。
彼女が外にでて10秒ほどたった。
外から物音はしない。
(いったか・・・)
これでやっと落ち着いてピアノが弾ける。
そして、ゆっくりと・・・ピアノを弾く。
僕がピアノがうまいかどうかはわからない。
けど、1回だけ中学で弾いたら、音楽の先生にうまいと言われた。
まぁ、趣味で五月雨にピアノを貸してもらいにいって、練習をしたりする。
五月雨はいい奴だから、基本いつも貸してくれる。
だから、まぁ、ある程度の曲は弾けるようになった。
これはいうまでもない、五月雨のおかげである。
ならなぜ表向きで弾かないかって?
僕が弾いたら、皆、「意外」という顔でこちらを見る。
その視線が地味に僕には痛い。
だから、表向きで弾かない。
単にそれだけの理由だ。
せっかくピアノがあるのだから、弾ける曲をすべて弾いてしまおう。
僕が弾けるのはたったの5曲。
だけど、綺麗に弾けたらいいな、と思う。
そして5曲目が弾き終わって、ピアノをとじた。
「・・・まったく・・・どんだけ広いんだよ・・・ここは。」
びっくりしすぎで逆に呆れてしまうぐらいである。
辺りを見渡していると、ドアがひらいた。
「おまたせしました。」
「・・・遅ぇぞ・・・」
服は着替えて、綺麗なものになっていた。
が、あえてそこはふれないでおくことにする。
「ごめんなさい・・・」
「いや、素直に謝られると困る。」
「ならどう対応すればいいんです?」
「・・・るっさいって~の・・・とかは?」
なんとなくいつも追われる立場なので、逆の立場に立ちたくなる。
いってみれば、いじめてみたくなってしまう。
「・・・」
これにはさすがの卯月さんも困った様子だ。
「・・・るっさい・・・て~の?」
・・・可愛い。
これはアニメ好きの僕でも正直に可愛いと思った。
よくもまぁ、うまく切り替えができるなぁ・・・とも少し関心。
「・・・さて、いきましょうか。」
「・・・どこに?」
「町です。」
「町って・・・どこの?」
「知りません。」
はい?
目的地なしですかい?
それはお客さん、困りますよ・・・
ってタクシー運転手なら答えるだろう。
が!
あいにく僕はタクシーの運転手ではない。
それに断る理由もない。
何しろ今日は僕は卯月さんの「ボディーガード」なのだから・・・
「わかったよ・・・」
それから長い敷地を越えて、門を通り抜け、やっとのことで町にでた。
なんかこれだけで非常に疲れた。
あぁ・・・なんで僕がこんな目に・・・
・・・「ボディーガード」のことを引き受けたからか・・・
「・・・ねぇ?オススメの場所は?」
「え?僕の?」
「えぇ。」
オススメって・・・
ねぇ~・・・
どうしよう?
とりあえずゲーセンにでもいくか。
「ゲーセンなんてどう?」
「げ~・・・せん?」
またとぼけているのか?
それとも本気なのか?
「知らないの?」
「うっ・・・し・知らないわけないじゃないですか。さぁさぁ、行きましょう!」
・・・ありゃぁ、知らないな。
「・・・なぁ、方向違うぞ。」
「え?あ・あれ?・・・あはは・・・間違えちゃいました・・・こっちでしたね、こっち・・・」
「・・・そっちも違う。」
「あれ!?・・・こっちだったっけ?」
「・・・お前、わざとやってる?」
「・・・」
少し卯月さんの目つきが悪くなった気がしたが、見なかったことにしておこう。
「もしかして・・・方向音痴~?」
「なっ!?なにを言う!?この私がそんなもののわけがないだろうが!!!」
「・・・」
「・・・と強くしていうと、こうなります。」
「・・・そうですか。」
もうふれないことにしよう。
うん、それがいい。
いちいちふれていると疲れるだけだ・・・
「で・・・こっちもあっちもそっちもダメだったってことは・・・こっちですね!!」
「・・・はぁ・・・」
「・・・正解は?」
「あっちだ。」
それは最初に行こうとした方向だった。
「・・・一番最初のであってるじゃないですか。」
「いやぁ~、からかいがいがあるな、と思ってな。」
「・・・」
今、卯月さんの目つきが鬼のように悪くなった気がしたが・・・見なかったことにしておこう。
「んじゃぁ、いきますか。」
「・・・」
なんか不機嫌になったようだ。
あまりしゃべらなくなった。
いじりすぎたか?
まぁ、いつも追われる立場なので今日ぐらいはいいだろう。
・・・いいでしょ、神様?
「ついたぞ。」
「・・・ずいぶんと明るい感じですね。」
「そうだな。まぁ、明るい感じにしないとお客さんはこないでしょう・・・」
「そうですね。さて入りましょう。」
そしてゲーセンに入ると・・・
ゲーセン特有のタバコ臭いにおいがした。
「煙草臭ッ!チョーありえな・・・くはないけれど。」
「・・・やめとくか?」
「・・・そうですね。」
というわけでゲーセンにきたも、1発アウト。
「他のオススメってありますか?」
「・・・」
考えろ、僕。
あまりテキトーなことをいうと、逆鱗にふれるかもしれん。
ここは・・・よくいくBOOK OFFにするか。
「本屋はどうだ?」
「・・・本屋さん・・・ですか?」
「あぁ。」
「・・・オススメというなら・・・行きましょう。」
が、問題はそこへ向かう途中におきた。
「なぁ・・・さっきからずっと思ってるんだが・・・僕たちつけられてない?」
「・・・」
だが、これに珍しく彼女が静かだ。
「・・・どうしたの?」
「・・・あの・・・」
「ん?」
彼女はしたを向いたままだった。
再度いう。
この現象は、おそらく日本に竜巻がくるぐらい珍しいことだと僕は思う。
「・・・ここ最近・・・私、つけられてるんです。」
「は?」
なに、その・・・ゲームみたいな話は!?
僕の冗談でいったのに・・・マジな話になっちゃいました☆
なんて笑えない冗談もいいところだ・・・
「つけられてる?・・・誰に?」
「わかりません。でも・・・私・・・卯月コーポレーションの社長の・・・娘だから・・・」
なるほどね。
金持ちだと、厄介なこともあるようだ。
・・・てか犯罪じゃね?
「なんで警察に頼らないんだ?」
「・・・え?」
「ほら、警察に頼ればいいじゃないか。」
「・・・その・・・え~と・・・」
「?」
「卯月コーポレーションの娘がストーカーにあった、なんて警察にいえば、マスコミにも知られます。」
「なるほど・・・マスコミはねぇ・・・」
とりあえず察した。
金持ちでなおかつ有名となると、厄介なこともあるようだ。
・・・てか犯罪じゃね?
「それに・・・到底信じてもらえるとも思えませんし・・・」
なるほどね。
金持ち、なおかつ有名、さらにお子様1人だと、厄介なこともあるようだ。
・・・てか犯罪じゃね?
・・・警察の役立たず。
このとき、初めて警察の役立たずさを知った気がした・・・
しかしながら、こいつにも怖いものがあるんだな・・・とも思った。
そりゃそうか。
こいつも同じ、人間だもんな。
その後、いろんなところへいくも、結局卯月さんが気に入るようなところはなかった。
そして、夕方となってしまった。
やれやれ・・・暇な時間をすごしすぎた・・・
と我ながら後悔しながら、今、こうして公園のベンチに1人、座り込んでいる。
ちなみに問題児はというと、ジュースを買いに行った。
僕はここで待たされている。
「はぁ・・・」
でるのはため息ばかりである。
カラスの「アホー」というのが本当に「アホ」と聞こえてならない。
くっ、カラスって意外に嫌な性格してやがるな・・・
そう初めて思った瞬間だった。
それから空を眺めていると・・・
不意に缶ジュースを頬にあてらえた。
「冷たッ!!」
「・・・びっくりしましたか?」
「・・・心臓がとまるかと思った。」
「ごめんなさい。お詫びといってはなんですが差し入れです。」
「・・・ありがとう。」
こうして2人でベンチで並んでジュースを飲んでいるとデートをしているように見えてしまう・・・
はぁ・・・桶狭間がいなくてよかった。
あいつがここにいて、この一部シーンを見れば、確実にデートだと思い込むだろう・・・
よく考えたら僕のまわりは問題児ばかりだ。
「卯月」といい、「桶狭間」といい・・・
その問題児のうちの1人を相手しているかと思うと僕も大変な人生を歩んじゃったなぁ・・・
なんて思う。
まぁ、2人じゃないだけマシだとも思うのだが。
「ねぇ?」
「ん?」
「・・・こうして2人で並んでジュースを飲んでいると、デートをしているように見えませんか?」
不意に僕は飲んでいるジュースを吐き出しそうになった。
まさに僕が思っていたことをいったのだから。
「・・・そうだな・・・」
「・・・ありがとうございます。」
「え?」
「今日は付き合ってもらっちゃって。」
・・・無理やり付き合わせたんだろうが・・・
とかはあまり思っていない。
「・・・いや。」
「・・・」
会話が続かない。
・・・てか、僕が悪いんじゃん。
しかし、まだ気になることがある。
気にしていたこと。
彼女のストーカーの件だ。
・・・なぁに、せっかく感謝してもらったんだ。
せめて1個ぐらいは「ボディーガード」としての役目を果たしにいくとするか。
「ごめん、ちょっとトイレ。」
「・・・うん。」
僕はそんなテキトーな理由をつけて、抜け出す。
ストーカーの目的が卯月だけならば・・・
そこから動かないはずだ。
ストーカーにばれないように大回りをして、視線を感じた場所をみてみる。
気づけば、僕たちが座っていたベンチからずいぶん遠い。
ここからじゃぁ、肉眼でベンチが見えるか見えないかぐらいである。
目の悪い僕にはぜんッぜん見えないが、方向から推測して間違いないだろう。
そのストーカーには双眼鏡という素晴らしいアイテムがあるようだ。
「・・・ねぇ、きみ。」
「!!!」
ストーカーは双眼鏡をのぞくのに必死で、いきなり声をかけられてびっくりした模様だ。
「こんなところで双眼鏡なんて見ちゃってなにしてるの?」
「・・・」
「何か見えるの?・・・なら見せてよ。」
地味に責める。
これが技のうちの1つ。
「・・・ねぇ。」
「・・・関係ないだろう。」
ほう、そうくるか。
たしかこの公園は警察が定期的に見回りをしている。
この時間も・・・まわっている。
なら・・・
ストーカーめ。
腕力も運動能力もない僕だけど・・・
こんな僕を敵にまわしたことを後悔するがいい!!
「たしかに関係ないね。・・・けどさぁ・・・」
「?」
「のぞかれて、ずっと視線を受けて、おびえてる人もいるんですけど!!!」
大声でさけぶ。
もちろんまわりには一般の人もいる。
「皆さん、きいてくださいよ!この人、ストーカーなんですよ?」
まわりはザワザワし始める。
「その証拠にこの双眼鏡!」
「こ・これは・・・バードウォッチングのための・・・」
「この時間はカラスしかいないんですけど!!」
ん?今、僕は世界中のカラスファンを敵にまわす言葉をいったか?
まぁ・・・いいか。
「この時間にカラスしか見てないっておかしくない!?」
「か・カラスが好きなんだよ。」
「でも見ていた方向・・・あっちだよね?・・・何もないし、カラスもいないよ。ここから見えるのは・・・あのベンチぐらいなんですけどね!!!」
・・・実際見えてないけど。
「てか、まずそんなに欲求不満ならアニメを見なさい!!SHUFFLEとかTo Lovesとか・・・」
「・・・勝手にシャッフルしてろよ・・・」
「!!」
貴様・・・
ストーカーのくせに、アニメというわが国最高(だと僕が勝手に思い込んでいる)の開発品になんてことを!!
「おい、坊主。お前・・・SHUFFLEを馬鹿にしやがったな・・・」
「・・・え?」
「なめんなよ、SHUFFLEを!空鍋を!!」
「・・・は?」
さすがにこれにはストーカーもついてこれないようだった。
だが・・・
そんなの僕には知ったことか!
アニメを馬鹿にしたこと、後悔されてやる!
そして、僕という男を敵にまわしたことを絶対に後悔させてやる!!
「お前、SHUFFLEのOPの「YOU」は神曲なんだよッ!!それをお前は!!」
「・・・」
さすがにストーカーのほうも参ったのか、逃げ出そうとし始める。
「このストーカー野郎!逃げるな!」
僕は桶狭間から学んだ「相手を逃がさない」ための妙技。
「腕つかみ」を炸裂・・・
というほどでもないが、発動させる。
「は・放せ!!」
「逃がすかよ・・・こっちにはな・・・おびえている人間がいるんだ。そいつが安全に過ごせるようにさせるのが、ボディーガードとしての役目なんだよ!」
「うっ・・・」
するとやっと警察がやってきた。
周りの人が呼んでくれたようだ。
どうにかこうにかギリギリで時間を稼ぐことに成功した。
「あれ、どうしたの!?」
「う・うわぁ~!!」
「きみ、待ちなさい!!」
ストーカーは逃げ出し、警察が追いかけていく。
ストーカーのくせになんとも脚の遅いストーカーだ。
「ありゃぁ・・・つかまったな。」
なんていっていると、まわりから拍手された。
「え?」
「きみ、偉いよ。」
・・・ボディーガードとして当然までのことをしたまでです。
とここでいったら格好良かっただろう。
でも、僕にそんな格好良さはもったいないし、いらない。
「いえいえ・・・あ、僕、用事があるんで失礼します。」
「頑張れよ、少年!」
公園の人々から祝福をうけた。
うれしかった。
けど・・・まずい!
トイレにしては長すぎるだろ、これ!
卯月に殺されるんじゃないか?
とりあえず急がなければ!
走って走って走りまくった。
で、ベンチについた。
「・・・遅かったじゃないですか。」
「悪い悪い、昼食を食べてないのに歩きっぱなしだったから、腹が減りすぎて下痢になった。」
なんともありえない言い訳である。
腹が減りすぎて、下痢になったら、余計に腹が減るだろうが・・・
「・・・そうですか。さっ、いきますよ。すっかり暗くなってしまいましたし。」
が、彼女は怒っている様子はなかった。
結構待たせてしまったのに・・・
怒るというより、少し満足げな顔をしていた。
・・・本来なら怒るのに珍しいものだ。
その後、彼女を家・・・てか屋敷におくり、僕も家に帰った。
今日はなんかいろいろと疲れた。
けど・・・この地味な達成感は悪くないものだ、と思った。(正直怖かったけど・・・)
「役目」 完