要素
※これは中島視点の物語です。
私はこの学校で一番最初に「幸せを感じる7つの要素」というものを知った。
そして私はこの高校で7つの要素を得ることとなる。
・・・2度も。
霧島第3高校・・・
霧島条新市の中央に位置する、私が通うことになった高校。
比較的都会であるここら一帯は交通面も充実しており・・・
事故に巻き込まれてしまう可能性も否定できなくはない。
そのためこの高校では自転車通学は禁止となっている。
「自転車通学が禁止の高校なんて・・・」
いくら駅から徒歩10分で、坂などもなく交通面が充実しているからといっても・・・
自転車が使えないというのは、高校にしてはなんとも変・・・
というか、かわった高校だ。
だがこの高校にはもっとかわっているものが存在していた・・・
それが今、一番の問題となっている“帝国主義”だ。
とはいえども、帝国主義・・・
ましてや生徒会に強い権限が与えられていることなど・・・
入学当初の私は知る由もなかった。
入学当初、この高校での最初のクラスがB組となったことに私は自分の運のなさをつくづく実感していた。
「だからそれは昔の話だろって!!曖昧なこと言うな!」
「バ~カ、昔の話っちゅうても今でも鮮明に覚えとるけん。」
このクラスはとにかくにぎやかだった。
・・・にぎやかすぎた。
始まってたったの4日間でまわりはどんどんまとまっていった。
・・・中学と同じ道には進みたくない・・・
そう考えていても、どうにもこうにもやっぱり知らない人にいきなり声をかける勇気がでなかった。
入学して最初の3日間は私にもこのB組はいやすいところだった。
誰もがまわりと間をあけるのだ。
おかげで静かで、平和な日々が続いていた。
ところが4日目となると、慣れというものもでてきて声を掛け合っていく。
おかげで1週間後にはこのにぎやかさだ。
・・・中学校では散々な目にあってきたからこそ・・・
勉強を頑張って、必死に机に向かって、この高校にきたのだ。
ハイレベルな高校なら孤立することはない、と思って。
ところが現状はまったく違った。
中学と同様に私は気づけば教室の隅で孤立してしまっていた。
唯一の救いは中学時の大親友だった卯月ちゃんがいたことだけど・・・
それも過去の栄光、というもので今はまったく話をしないから話しかけづらい。
・・・嫌だ・・・
このままではまた1人ぼっちになってしまう。
そうなれば、またからかわれて、皆から笑いものにされて・・・
そんなのはもう嫌だ・・・!
でも・・・
話しかける勇気なんてない。
皆との距離を縮められない。
グッと、暗い未来を想像し苦しむ胸に耐えていたそのときだった。
1人の男性が私に声をかけてきたのだ。
「今日の授業ダルくない?」
最初の言葉はこんなにも気の抜けた言葉だった。
「え・・・あ、うん・・・」
「特に数学!もうコレに関してはできる人はすべて神だと僕は思ってるよ。」
「あはは・・・そ・そうだね・・・」
いきなり話しかけられて・・・
どうにもこうにも混乱してしまう。
上手くもない苦笑いで、この場をどうにかしようとしている自分がいた。
こういった逃げの体勢がよくない、ということぐらいわかっているのに・・・
昔からよくないところはわかっているのに、一歩踏み出すことができない自分が嫌いだ。
「このクラスに慣れない?」
「え?」
「いや・・・いつもなんか寂しそうにしてるからさ。」
「そう・・・かな?」
「うん。」
不思議なものだ。
私は「寂しい」なんてこと口にしていないのに・・・
彼にはそう見えていたらしい。
きっと言葉にはだしていなくても・・・
表面にはでていたのだろう。
「このクラスはいい奴らばっかりだよ?」
「そう・・・?」
「うん。」
たしかにいい人たちなのはわかっている。
でも・・・
「まぁ、慣れたくてもなかなか慣れれない、っていうのはあるよね。」
「!」
彼は私が言いたくてもいえない本心まで見事にあててくる。
今の自分の弱みと嫌いなところをあててくる。
的確な彼の言葉に驚かされる。
「お~い、十六夜!お前もこっちこいよ!」
すると目の前にいる彼は他の男子生徒グループに呼ばれた。
彼の名前は十六夜・・・
十六夜 星矢という。
・・・かわった名字だ。
せっかく友達に呼ばれているというのに・・・
彼は少しもどかしそうな顔で、彼らに言い返した。
「ごめん、あと少ししたら行く!」
なぜ彼は皆のところにいかないのだろうか。
「みんなのところにいってきたら?」
「え?あ~・・・まぁ、アレだ。せっかく話せたんだし、もう少し話し込むのも悪くはないかな、と思ってさ。」
「私と話していても面白くなんてないよ?」
「おいおい、マイナス思考はいけないぜ?それは僕が決めることだからさ。」
なぜだろうか・・・
なぜ彼は友達数名よりも私1人を優先しているのだろうか?
私にはその感覚がわからない。
きっと1人と話すよりも、たくさんの人と話したほうが楽しそうなのに。
そもそもなぜ私に話しかけたのだろうか?
彼にはもうまわりにたくさんの友達がいるのだ。
このクラスに馴染めていない生徒などほおっておけばいいのに・・・
もうたくさんの友達がいるのだから・・・
私に話しかける理由もなかっただろう。
せっかくだ、わからないことは聞いてみようと思う。
「ねぇ?」
「ん?」
「なんで私1人を優先して話してるの?たくさんの人と話したほうが面白いしょ?」
「そうかな?僕的には1人と話すのも皆と話すのも、たしかににぎやかさは違うけどそこまで何かがかわるって感じはしないけど・・・」
そういうものなのか・・・
人の感じ方の違いというものか、わからないものだ。
「じゃぁ、なんで私に話しかけたの?」
「話しかけないほうがよかった?」
うわっ・・・
聞き方がまずかった・・・
そういう意味で言ったわけではない。
焦って言葉を返す。
「そういうことじゃなくて・・・」
「ハハハッ、わかってるって。」
私の焦り具合とは裏腹に彼は落ち着いた様子で軽く笑みをこぼしていった。
なんかからかわれている気分だ・・・
だけど今までのと違って、妙な圧迫感というか・・・
重さというか・・・
それらがない。
本気で「ひどい」とは思えない感じで、ゆったりふんわかとしている。
「・・・からかってる?」
「うん、からかってる。」
彼の笑みはとどまることをしらない。
けどいつまでたっても、今まで感じてきた嫌な感じがしない。
どちらかといえば、優しい感じがする。
「ま、中島の質問に応えるとしたら・・・気分かな?」
「・・・え?」
「気分だよ、気分。」
気分って・・・
そんなに簡単に彼は始めての人に話しかけられるのだろうか?
「気分って・・・そんなに簡単に人に話しかけられるものなの?」
「うん。てかね、人と話すのって声をかけるのが一番大変なんだぜ、実は。話しちまえば、結構話って勝手に進むからね、今みたいに。」
「・・・」
「だから話しかけるまでがベルリンの壁。話しかけちまえばもう勝ちゲー、壁崩壊。」
「・・・そういうものなの?」
「そうそう、てか話しかけていきなりキレる奴のほうが珍しいから。てかいきなりキレられたら逆ギレしていいと思うよ。」
まぁ、たしかに彼の言葉は正論だけど・・・
後半は正論かどうか微妙だけど。
「お~い!十六夜、まだか~?」
すると再び彼は友達に呼ばれた。
彼は「はぁ・・・」とため息をつくと、彼らの方を向いて苦笑して応えた。
「おう、今行く!!」
そう短く返事をすると彼はこちらを向いて先ほどのように軽く微笑んだ。
「んじゃぁあいつらが呼んでるからそろそろ・・・じゃぁな。」
そうして彼は友達のほうに走っていったわけだが・・・
彼がいなくなってからあることに気づく。
「・・・男子と・・・普通に話せた?」
しかも始めてあった男子と、だ。
敬語も使わず、途中からは思ったことをありのままに・・・
今までの苦悩をここにきていとも簡単に話していた自分がいた。
「・・・十六夜・・・星矢・・・」
なんどいってもかわっている名前だ。
・・・だけど、かわっているのはどうやら名前だけのようではない。
そう感じた。
それから3日後だ。
3日後に私の運命をかえた、といってもいいぐらい大きな出来事が起こった。
「はぁ・・・」
・・・相変わらず私の友達作成は上手く行っていなかった。
あの後、十六夜くんの話を信じて話しかけてみようとは試みたものの・・・
結局ダメ・・・
それが続きに続いて、すでに1週間たっていた。
中学時からまったく成長することのない、このへたれっぷりをどうにか克服するために私はある方法を思いついた。
・・・放課後に話しかけるのだ。
放課後ならまわりにたくさんの生徒がいないし、いても2~3名だからきっと自分でも話しかけられる。
“彼”の言うことが本当なら話しかけられれば“勝ちゲー”なのだ、そこまで頑張るしかない。
授業が終わり、あっさりと放課後となった。
「・・・」
ホームルームを終え、生徒たちが一斉に立ち上がって教室からでていく。
廊下は他の組の生徒たちも混ざって大渋滞している。
ひとまず下校する生徒たちを待って・・・
ある程度人数が減ってから動こう!
そう考え、私は暇つぶしをすることにした。
向かう先は・・・
「・・・図書室。」
ここも入学当時は人気のところだった。
入学仕立ての生徒たちは熱心なものなのだ、誰もがここへときて難しい歴史書に手を伸ばしていた。
昼休みも、放課後にもここは多くの生徒がいたものだ。
ところが最近はここは「もぬけの殻」だ。
昼休みはまだ人気が多少あるが、少なくても放課後はもぬけの殻だ。
というのも、この図書室には歴史書しかないのだ。
いくら熱心な生徒でも歴史書ばかりでは飽きてしまう。
それも「太平洋戦争」関連の歴史書ばかり。
・・・もはやここは「図書室」という名の「歴史資料室」といっても過言ではなかった。
「・・・」
今日もドアをあけると、過去の賑わいはどこへやら・・・
生徒は誰一人といない。
寂れた部屋の電気をつけて、とりあえず本をみてみる。
「うわぁ・・・」
しかしながら何度きても厚い歴史書がたくさん並んでいる。
ごく稀に「戦国時代」とか「中国史」とかもあるが、それでもこの図書室では「当たり」なのだ。
ま、当然のことながら新しく面白そうな本が増えない、というのは理解していても・・・
わずなか期待を胸にここへとやってきているが・・・
今日もあまり進歩はないらしい。
私は戸棚の奥深くにほこりかぶっている1冊の本を取り出す。
「・・・“幸せの掴み方と感じ方”・・・?」
珍しいこともあるものだ。
この高校のこの図書室にまさか「歴史書」ではない本があったとは・・・!
これは当たりも当たり、大当たりなのかもしれない。
私はこの「幸せの掴み方」という言葉にひきつけられてしまう。
とりあえずその他の歴史書に比べると薄く、大きな本をもって椅子へと座る。
「あなたは“幸せ”というと何を思い浮かべるでしょうか?幸せとは人々の感じ方によって幾億ものモノがあります。この言葉は一単語でありながらも重く深い言葉。あなたは何をみて“幸せ”と感じますか?」
本の表紙には大きな題名の下に、小さく言葉が書いてあった。
副題にしてはやたらに長いものだ。
とりあえずページをあけてみる。
「世界には・・・11億人の人が貧困で・・・4億人の人が危機的状況にある・・・」
だいぶ古い本らしく、前書きのページもいたるところにほこりがかぶっていて、ほこりを払いながら読んでいくのに必死だ。
手が多少汚れてしまうが、とりあえずは読んでみることにする。
「世界中で多くの人が募金をしている面、その支援金が役にたったという証拠はない。それは一向に貧困状態がよくならず、本当に必要としている人々に届かない可能性もあるからだ。またお金がないから貧しい、お金がないから不幸せという関連付けもどうなのだろう?」
うちも父がいなくなり、所得は減ったがある意味平和になった。
そういった意味ではある意味所得は関係ないのかもしれない。
「たとえば日本では敗戦後、非常に貧しい状況にもありながら国の調査による住民たちの幸せ度は10点満点中6~7だった。それは所得が8倍にあがった現在に至っても同じ点数で、国際的にもかなりの高得点である。つまり所得そのものが人々の幸せ度には関与しないということだ。」
この「敗戦後」という言葉をみて、「結局は歴史か・・・」と少しガックシしてしまっている私がいる。
「幸せを感じるには7つの要素、最低限度の所得/仕事・教育・健康・家族・友情・治安・尊厳が必要だ。過去の日本にはそれらがあり、整っていたといえる。だからこそ人々は希望を見失わず、今に至るまでの成長をたった60年間で行ってこれたのだ。この本ではこの7つの要素を題材に人々の幸せの掴み方、そして感じ方を書き留めていき、1人でも多くの人に“幸せとは何か”を考えてもらいたい。」
こう、前書きは終わっていた。
「・・・幸せの7つの要素・・・」
今の自分と照らし合わせてみる。
ま、最低限度の所得はあって生活できないまでではないから大丈夫。
教育もこんなにレベルの高い高校にこれたのだ、問題ない。
健康的にも問題はないし、家族だって父はいないけど母は優しいし、すごく幸せだ。
ここまでは順調だった。
ところが・・・
“友情”
「・・・」
“治安”
「・・・」
“尊厳”
「・・・」
私にはあまり友達がいないし、部活動にも参加していない・・・
友情といえるほどの熱い展開も15年生きてきたなかで1度も経験がない。
治安だって、自分のなかでは「良い」とは到底いえない。
中学の過去から、独りぼっちで孤独となり、まわりからからかわれるようなことをいつも恐れている。
そして何より・・・
私には「尊厳」。
尊敬できるような人がいない・・・
信頼できるような人もいない・・・
たしかに卯月ちゃんは過去にすごく尊敬していたし、今でも尊敬はしている。
けれども彼女とも、もう話さなくなってしまったし・・・
彼女と何の関係もなくなってしまった以上、それは尊敬ではなく一方的な「憧れ」でしかなくなってしまっている。
尊敬とはお互いに敬うことだと私は思っている。
だから今の私の状況では一方的な憧れでしかないのだ。
それに今の状況で・・・
過去、彼女は私を守ってくれたのに私は守れなかったという事がある以上、お互いに信頼する最良の信頼関係は築けていない。
「はぁ・・・」
しかしながらまだ「最低限度の所得」や「家族」などがあるだけマシなのかもしれない、とも思ったりする。
私は深いため息をつきながら本を置いて、椅子に深く腰掛ける。
それからさりげなく目の前の本の貸し出しや受け取りのためのカウンターがある奥の壁の上部に取り付けられた時計をみる。
「・・・あ・・・」
気づいてみればもうこんな時間ではないか!!
ちょっとこの退屈な時間を潰そうと思っていたら、思わず本に夢中になり、いろいろ考えすぎて・・・
計画していた時間を大幅に越してしまっている。
急いで本を元の場所に戻してから、急いで廊下に出る。
当たりの廊下をみても人気はまったくない。
窓の外の景色をみてみれば、もう外はオレンジ色の夕焼け空となっている。
(うわぁ・・・こんな時間じゃもう生徒いないよ・・・出直すしかないか・・・)
窓からは外の夕焼けの光が校舎内にも入ってきて、廊下をオレンジ色に染めていた。
「おい、お前。こんな時間に何をしている?」
「え?」
誰もいない、そう思っていたオレンジ色の廊下・・・
その空間で、自分の後ろからいきなり声をかけられ、不意につかれたこともあり「ビクッ」と体が反応してしまう。
恐る恐る後ろを向いてみれば、そこには私よりも背がずっと大きくて・・・
顔立ちも私のクラスの男子たちよりも、少し大人びた感じの生徒がたっていた。
「お前・・・一般の生徒か?・・・警備部は何をしてたんだ?」
「現在は厳島さんの案で新たに入った1年生にパトロールを2年が教えているとかで・・・おそらくまわりきれていないのでは?」
「・・・まぁ、最初はそれぐらいのミスは仕方のないこと・・・か。」
彼の後ろには数名の男子生徒がいた。
彼らには同じ特徴点があった。
制服の襟の部分に私たち一般の生徒にはない、「菊の紋章」がついているのだ。
そうか・・・
彼らがこの学校の柱となっていて大きな権力を持つ組織・・・
そして放課後、この高校の校舎内を牛耳っている・・・
“せーとかい”か。
「一般の生徒は用がないのなら速やかに帰れ。」
同じ言葉で、元中学には“生徒会”というものならあった。
だがこの高校の“せーとかい”はどうやら一定の役割は同じなのかもしれないが・・・
組織的意味でも、権力的意味でも、そして一定の上限を超えた役割的意味でも、中学とは大きく異なっているらしい。
どうやら彼らの言葉から、中学では放課後の校内の見回りは教師が行っていたが・・・
それも高校では“せーとかい”の仕事らしい。
「副会長。・・・ここでなら例の件の勧誘も行えますが・・・」
「・・・あぁ、そうだな。」
なんと・・・!
目の前にいる男性は副会長というポジションにいる優等生だった。
「お前、ここで会ったのも何かの縁だ。」
「?」
「単刀直入に言おう。我らが生徒会に入らないか?」
「・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」
ちょっ・・・
いきなり初対面で何を言い出すかと思えば・・・
私の人材的適応能力の悪さも知らずによくそういったことが言えるものだ。
この学校を支えている柱に私のような生徒が参加したら逆に足手まといになってしまうだろう・・・
「いえ、その・・・私は・・・」
私がしどろもどろになって、どうにか「遠慮する」という方面の言葉を言おうとすると・・・
目の前の男性は苦笑する。
「そんなに焦る必要はない。行うことはごく単純で誰でも行えるようなものだ。問題など存在しない。」
「いえ・・・でも・・・」
「生徒会生徒となれば、生徒会本部からこの高校の様々な情報を公開される。それはこの高校生活で十分に活用できると思うが?」
何がもらえるとか・・・
誰でも行えるとか・・・
そういうことではないのだ。
私にはこの高校の柱となるには荷が重過ぎるのだ・・・
「あの・・・ホントに結構ですので!!」
私はそういって、目の前にいる押しの強そうな男性に軽く会釈をするとそのままその場を立ち去った。
立ち去る?
いや、逃げたといってもいい。
だって、親友一人守れない自分に学校など守れるはずがないのだから。
現に中学のときだって、ただ皆の前で「その考えは違うと思う」と言えばいいだけの簡単なことすら行えなかったのだから。
中島が立ち去った廊下、中島を勧誘した男性の後ろにいた1人の男性が彼に声をかける。
「・・・よろしいのですか~?賤ヶ岳さん・・・」
「・・・なわけないだろう?・・・どうすればいいのかわかるよな?」
「・・・指示を。」
後ろの男性の気の利かない返答に彼は舌打ちをする。
「言わないと動けないのか?」
「はい、仮に自らで推測しても間違いの可能性はありますね~。確実に正しい解答をだすのであればあなたの“言葉”が一番の近道だと私は思っています。それに物事ははっきりと伝えないと。曖昧はよくありませんよ~、ね~副会長?」
「・・・」
彼・・・“金ヶ崎”の言葉に賤ヶ岳は再び舌打ちをしてから彼に指示を始める。
「下駄箱を封鎖しろ。それから警備部に“仕事を徹底しろ”と連絡。今の時間に残っている一般生徒がいれば全員捕まえて俺のところにつれてこい、と伝えておけ。」
警備部の最高責任者は厳島だ。
彼女は常日頃からあまり生徒会のごり押しなやり方に賛同していないが・・・
しかしこれは警備部の本来の仕事でもある。
それぐらいのことは厳島は理解しているし、賤ヶ岳は安心して命令を下せる。
「金ヶ崎、お前らは下駄箱を封鎖するとともにさっきの女子生徒を必ず見つけ出して捕まえろ。」
「はい、わかりました。」
それから金ヶ崎が合図をして、1名が警備部会議室のほうへと走っていく。
そしてここにいる生徒会生徒の約半数が下駄箱のほうへと走っていくが、残り半数は未だに待機をしている。
金ヶ崎の指示待ちなのだ。
「・・・賤ヶ岳さんはどちらへ?まさか敵前逃亡ですか~?」
「この後に会議があるんだ。とりあえず俺は本部会議室に向かうが、お前らはさっきの女子生徒を見つけ出して五稜郭のところまで連れて行った後は警備部が捕まえた連中を会議が終わるまで見張っといてくれ。」
「はい。」
「では任せたぞ。」
そういうと賤ヶ岳は本部会議室の方向へと歩き出す。
それを確認すると、金ヶ崎は苦笑しつつ、後ろで待機している生徒会生徒たちをみる。
「ふっ・・・あなた方も指示待ちですか~?」
「はい。」
実はここにいる生徒の半数は警備部であった。
だが彼は皆、下駄箱封鎖と警備部への連絡のため行ってしまって・・・
今は“監視部”のごくわずかな生徒のみとなっている。
金ヶ崎は彼らの返答に軽く笑みをうかべ満足そうな様子をみせてから首を左右に傾けてボキボキとならしてからゆっくりと歩き出す。
「よし、カモ狩りだ。行くぞ。」
「はいッ!」
そういうと彼らは中島捜索のため、金ヶ崎に続いて前へ歩き出した。
一方中島はそんなことになっているとは知らず、階段を下っていた。
「・・・はぁ・・・」
気づけば深いため息がでていた。
「・・・」
理由はどうであれ、またしても逃げてしまった・・・
もしかしたら自分をかえられるチャンスだったかもしれないのに・・・
そんなことを思いながら私は下向きに階段を下っている。
でも再び「生徒会に参加しないか?」といわれても私はきっと先ほどと同じ答えをだすだろう。
実際は無理でも後々どうしても後悔してしまう、それが人間なのだ。
ゆっくりと階段を下り終わり、廊下にでようとするとちょうど目の前の廊下を1名の生徒会生徒が走っていく。
「ん?」
この時間になるとパトロールもより本格的になるのか・・・?
でも走る意味はあるのか?
不思議に思いつつも、私にはとりあえず関係ない。
下駄箱まで歩いていく。
すると下駄箱へと向かう廊下の途中で今度は2名の生徒が角で話していた。
「おい、見つかったか?」
「いや、あっちにはいなかった。」
「そうか・・・これ、やっぱでてくるまで待って、封鎖組みに任せればよくね?」
「んなこといったって上からの命令なんだから仕方ねぇだろ・・・」
どうやら誰かを探しているようだ・・・
「・・・ご苦労様です。」
なんて小声でいってしまう。
生徒会というのはやはり大変なんだなぁ・・・
なんて彼女はおめでたい考えをしていた。
やがて話していた2人は自らの方に向かってくる探し人、中島に気づくこともなく違う方向の廊下へ走っていってしまった。
ようやく下駄箱につくと、そこにも何名かの生徒が誰かを見張っているかのように巡回していた。
そのなかの1人と中島はちょうど目があった。
中島は軽く会釈をするが・・・
「おい、いたぞ!!」
生徒会生徒はそんなことをする間もなく、中島のほうへと向かっていく。
「・・・え?」
私はつい後ろを見てしまう。
・・・が、誰もいなかった。
・・・ということは先ほどから探していたのは・・・私?
それからふっとあることを思い出す。
・・・生徒会につかまると大変、ということだ。
「と・とりあえず逃げないと!!」
私は本能に身を任せ、とりあえず逃げて逃げて逃げまくる。
「・・・」
なんで私が追われてしまっているのだろう・・・?
やはりさっきの断り方がまずかったのだろうか・・・?
なんてことを反省する。
それと同時に走っていると、当然疲れてくるわけで・・・
疲れてくるとネガティブな発想が生まれてくる。
“捕まったら大変だけど、ここで逃げ切っても目をつけられたら今後も追われるしもっと大変じゃないか?”
そんな疑問に直面するとなんだか体の力も抜けてきてしまう。
やがて一本の直線廊下にでた。
(ここを超えれば・・・!)
ここをこえれば、グルッと校舎内をまわってきたので下駄箱に行き着くことができる。
どうにか逃げられそう・・・
そう思い、少し安心をするが・・・
その安心も長くは続かない。
目の前から何名かの生徒がやってきたのだ。
(挟み撃ち・・・!?)
一直線の廊下で前からも、後ろからも追っ手がきている。
それはつまり挟み撃ちということで・・・
「・・・完全に詰みました・・・」
詰んだ・・・
完全に詰んだ・・・!!
やはり生徒会を相手に逃げ切れると思った自分がバカだった・・・
外からはカラスの「アホー」という鳴き声が幾度と寂しげにきこえてくる。
中島は自分の運のなさがつくづく嫌になる。
「困りますねぇ、勝手に逃げられては。おかげで探すのが大変でしたよ。」
「・・・何の話です?」
ここまできてしまったのだ・・・
ここはどうしてこうなったのか・・・
せめてそれぐらいはきかないとおさまらない。
「さっきの話ですよ。は・な・し♪」
「さっきの話ならお断りしたはずです。」
「いやいや、人生そう甘くはないんですよ。実はさっきの話ね、重大なことをさりげなく言っちゃったんですよ、うちの副バ会長。」
金ヶ崎は苦笑しつつ、呆れ顔で言う。
「重大なこと?」
「そうそう。“生徒会に参加しないか”って話。」
それって根本的な話では・・・?
中島は首を傾げる。
「ぶっちゃけね、生徒会は最初の立候補でしか入れないんですよ。」
そうか・・・
そういえば、ついこの間、後から生徒会生徒は勧誘など絶対しない、と桐山先生がいっていたな・・・
ということを思い出す。
「ところが今さっき途中参加者を求めてしまった・・・これは大きなミスです。」
「・・・」
「ま、実際理由もあるんですが。意味もなくこんなミス、フツーは賤ヶ岳さんはしませんからね。つまりこれはミスという名の・・・あれ、なんていうんだろ?まぁ、いいや。・・・とりあえずまぁ、そういうことなのであなたは我々に声をかけられた地点で詰んでいた、ということです。はい、お疲れ様。」
その理由に私は怒りがジワジワと芽生えてくる。
そんなのあまりに・・・
「自分勝手すぎませんか?」
「えぇ、そうですよ。生徒会というのは自分勝手です。権力がありますからね。権力を盾に事を進めればどんなことでも正当化できてしまう・・・いや~、理不尽な世の中ですね。」
「・・・」
「死んでくれ?それはうちの上にいってください、私には関係のないことです。あくまで私は命令に従っただけですから。」
彼はそういうと、合図をする。
そして生徒たちが私を取り囲んだ。
「・・・どうするつもりです?」
「あ~、別に何にもしませんよ?・・・何もしなければ。」
「・・・」
後半で目の前の男性の雰囲気がガラリとかわった。
その雰囲気はあまりにも冷たく、ゾッとする。
「とりあえずは情報処理室にまでいってもらいます。そこで我々の仕事は終了ですので。」
「・・・」
「詳しい説明は“彼ら”にでもきいてください。」
そういうと、彼らは歩き出し必然的に私もそれについていかなければならなくなった。
情報処理室というのはパソコンが置いてあるところだが、パソコンルームとは少し違う。
パソコンルームは全員にパソコンを教えるため、多くのパソコンが置いてあるところだが・・・
情報処理室では、性能の良いパソコン1台を中心にして多くの作業を行う。
まぁ、平たく言えばパソコンルームは授業でも使うが、情報処理室は生徒会や教師専用の部屋となっている。
そのため私自身も名前とどういう教室か、ということぐらいしか知らないため・・・
その部屋に入るのも初めて、となる。
私を取り囲んでいた生徒たちの足がとまった。
気づけば自分は「情報処理室」と右上に書いてある部屋の前にいる。
「んじゃぁ諸君は一足先に警備部のところへ向かってください、賤ヶ岳の命令通りに。」
「はい。」
そう金ヶ崎がいうと、彼らは警備部が捕まえた生徒を見張りにいくために警備部方面へと歩いていく。
「では入りましょうか。」
ドアをあけると、そこには2人の生徒がいた。
「だからお前はもっと強気でモノを見るべきだ!!お前は2年副会長だろうが!!」
「お前は物事を厳しく見すぎなんだよ・・・」
「お前が甘すぎるんだって何度いえばわかる!!そんなんだから生徒会内部からもなめられるんだ。」
・・・なんだか取り組み中のようだ。
「アッハッハ、今日もやってますね~、いやぁ~毎日毎日精が出ることで。」
「金ヶ崎か。・・・お前も言ってやってくれ。こいつはもう少し態度を改める必要がある、と。」
「いいえ、ご遠慮しておきます。自分は面倒なことには首を突っ込みたくないもので。」
「おい、金ヶ崎。言わせてもらうが俺も毎日好きで怒られてるわけじゃねぇんだぞ。」
「はて、そうだったんですか?何も言わないので、副会長殿には“M属性”があると思っていたのですが。つまりませんね。」
「俺がMなんじゃなくて、こいつが怒るのが好きだからSなの。」
よくはわからないがこの会話から目の前にいる2人のうちの1人は「副会長」というポジションにいるようだ。
ただ先ほど生徒会に勧誘してきた男性とは違う男性なので、「3年副会長」ではないようだ。
・・・よく考えてみれば、うちのクラスの川口が「1年副会長」である。
ということは・・・
彼は「2年副会長」ということか。
「人を怒りの塊みたいに言わないでくれるか?」
「ま~、趣味が副会長殿へ怒鳴り散らすこと、に見えないこともないですからね。」
「そうか、金ヶ崎。お前の目は腐っているんだな。つまり・・・死にたいか?死にたいということか?」
「アッハッハ、そっちも勘弁させてもらいます。まだあと60年ほどは生きたいものですから。」
私をここに連れてきた男性はおどけながら高笑いをする。
「いや~、今日は2人を煽りにきたわけじゃなかったんですけどね~。」
「ん?その子は?」
2年副会長が私のほうをみて首を傾げる。
「見ない顔だが・・・」
「どうせ賤ヶ岳さんの命令でここにつれてこられたんだろ?」
「ご名答。さすがは情報処理部の最高責任者様ですね~、感心感心。」
「・・・これで3人目だ。」
「アッハッハ、ご苦労様です。」
「お互いにな。」
2人は疲れ果てたような様子をしながらも苦笑しあう。
どうやら私以外にも、私と同様な感じでつれてこられたものが2名いるようだ。
「ま~、賤ヶ岳さんも上からの命令に忠実なあなただからこそ、この役を与えているのではないでしょうかね。」
「無駄なお世辞は結構だ。」
「お世辞のつもりはないんですけどね~。」
「だったらお前も、なんやかんやで確実に仕事をこなすところが賤ヶ岳さんに気に入られている最大の理由かもな。」
「ま~、完璧主義者ですからね~、私。理想も行いも常に高く、なんてねぇ。・・・実際成功する例は極めて少ないわけですが。」
その言葉に2年副会長は苦笑しつつ言う。
「いや、実際お前は頑張っているよ。仕事も確実にこなしてるんだから成功例も多いだろうが・・・」
「おや、山崎次期会長殿からも高評価とはありがたいものですねぇ・・・。来年は出世街道まっしぐらですかね?」
「どうだろうな?このままいけば昇進かもな。」
「案外大変なんですよ?遠まわしに過労死しろと・・・?相変わらず次期会長殿には勝てませんな、うんうん。」
“山崎”という言葉をきいて、ふっと思い出した。
彼か、山崎とよばれる次期会長候補生は。
なんでも一般の生徒でもそれなりに有名なところだ。
「人がいい」と。
なんやかんやいっている間に五稜郭さんが苦笑しながらこちらにやってきた。
「とりあえず自己紹介をしないとな。」
「そうだな。俺は生徒会2年副会長の山崎だ。よろしく。」
すると山崎は優しく微笑みながら握手をする手を差し伸べてきた。
「よ・よろしくお願いします・・・」
どうにか断りきれないものか・・・
テキトーな理由でもつけて断ろうか。
だけど、それにしたって簡単な理由では済ましてくれそうにない。
・・・どんな理由にしようか・・・
なんて彼と握手をしつつも、考えたりしている。
「オレはここ、情報処理部の最高責任者を努めている五稜郭だ。」
ちなみに五稜郭さんは女性である。
「まぁ、自分のことを“オレ”とか言ってる痛い奴だけどよろしくしてやってくれよ。」
「は?黙れよ厨二。てめーよりはマシだ。」
「中二病も一人称もわがままに比べれば可愛いもんですよ、ね~賤ヶ岳さん?・・・っていね~のか、残念。」
軽く自己紹介が終わると、ちょうどいいタイミングでドアが開く。
「・・・ん?これはずいぶんとまた2年生が集まってるね。2年生大集会でもやってた?」
「いえいえ、たまたまのメンツですよ。いや~、それにしても厳島さん、相変わらず背が小さいですね~。」
「きみ・・・喧嘩売ってる?いきなり気にしてることをいうって喧嘩売ってるよね???」
「アッハッハ、冗談ですよ、冗談。冗談じゃないけど。」
「これ絶対喧嘩売ってるよね?ムカつくからやっちゃっていい?やっちゃっていいよね?」
それをみた山崎が呆れ顔をしながら言う。
「煮るなり焼くなりご自由に。」
「ちょっ・・・すみませんでした!」
先ほど開いたドアからは新たに3名入ってきた。
背の低い、多分厳島という人と・・・
あとさらに2人入ってきた。
「おっ、ハル、お帰り。警備部への定期連絡ご苦労。」
「いえいえ。」
どうやら「ハル」と呼ばれている人は五稜郭の・・・
というか、情報処理部の生徒のようだ。
それから五稜郭は厳島に確認をする。
「厳島に凛動・・・2人ともここにきちゃって大丈夫なのか?」
「今はとりあえず輝(砕川)に任せてあるから。・・・っと、これ、頼まれてた書類とラノベ。それからここ1週間の警備部の様子。」
「あ~、サンキュー。わざわざわりーな、助かるぜ。」
「どういたしまして。」
五稜郭は厳島から多くのプリントをもらうと、棚の上にのせる。
どうやらここでは「情報処理部」という名の通り、「多くの情報を整理している」ようだ。
それから厳島から受け取った小さな本を机の中に丁寧に彼女はいれた。
厳島の言葉から「ライトノベル」小説であろう。
「何を読んでるんですか?」
なんとなく気になったのできいてみる。
「“GOSICK -ゴシック-”っていうミステリー小説だ。」
「あ~、アニメ版なら見たことがあります。面白いですよね。」
どうやら五稜郭さんや厳島さんとは話があいそうだ・・・
なんてことを心の奥底で思ったり。
「しかしいいところにきたな、お前ら。」
「え?」
「今ちょうど自己紹介をしてたんだ。」
「なんで今頃に?」
「まぁ、ちょいちょいワケがあってな。」
この言葉から厳島たちは私が無理やりここにつれてこられた・・・
強いては無理やり生徒会をやらされそうになっている、ということを知らないようだ。
「ふ~ん・・・ま、いいや。一応警備部最高責任者、厳島、こっちは凛動ね。」
厳島は彼女の隣にいる生徒まで丁寧に紹介してくれた。
「こいつも自分のことを“ボク”っていう痛い奴だけど、どうかよろしくしてやってくれ。」
「・・・厨二病に言われたくないです。・・・ってきっと厳島さんが思ってます。」
「・・・癒梨・・・」
凛動の言葉に厳島が深いため息をつく。
・・・1つのため息のはずなのだが、なぜか2つきこえた。
「・・・はぁ・・・そんなに厨二ってダメ?」
もう1つのため息は山崎のものだった。
彼は「ハル」と呼ばれていた男性に向かって、質問している。
「え?あ・あぁ・・・ま・ま、イインジャナイデスカ?」
「・・・目あわせて言おうぜ、その台詞。」
「安心しろ、山崎。お前が如何に痛い奴でも、ハルには勝てないから。」
五稜郭さんがよいのか悪いのか、変な断言をして、山崎はほっとしたような様子をとる。
・・・てか、この生徒会には痛い奴しかいないのか・・・?
「あ、え~と・・・僕は勢場ヶ原といいます。長いので「ハル」とでも呼んでください。」
「は・はい。」
・・・う~ん、そんなに痛くはなさそうだが・・・
なんてことを思ったりしている。
「あ、ハル。ごめん、そこのプリントとってくれない?」
すると、五稜郭さんという人はさすがは「最高責任者」だと思わされる。
皆と話をしながらも、しっかり仕事をしていた。
右手にボールペンをもって、下敷きを組んだ足の上にのせて書類を書いているようだ。
すでに終わったと思われるプリントが、おそらくこれからやろうとしている山積みのプリントの隣にちょこんと1枚だけ置いてある。
どうやら今書いているのは過去の書類の資料が必要だったらしく、その必要だった資料がハルさんの近くにある机の上にクリップでまとめられた多くのプリント群のなかにあったらしい。
「了解ですにゃん。」
その言葉で・・・まわりは至ってフツーだが、少なくても私の中では空気が完全に静まり返った。
ハルさんは何事もなかったかのようにプリント群をそのままとって、五稜郭に渡そうとする。
「・・・いや、だからその「にゃん」、ホントにやめろよ・・・男子でそれはホントにキモいしウザいだけだから。マジ氏ねよってなるし、空気も死ぬから。」
私のひき具合をみて、五稜郭は困り顔で注意をした。
「多分フツーの人なら第一印象最悪だよね・・・」
「そんなことないですにゃん。」
「じゃぁ、せめてオレにだけ言うのをやめてくれ・・・他に人にもいってやってくれ。」
「これは我が部のリーダーへのサービスですにゃん。」
「いらないし。」
これはひどい・・・
・・・痛い・・・というより・・・
五稜郭さんの言うとおり、「キモイ」の部類に入るのかもしれない。
「いや~、よくもまぁ、これだけバカが集まりましたよね~。」
「我が生徒会に2年は「死んでる」っていわれてるからな。」
・・・ダメじゃん・・・
「だからこの際開き直って“死んだ世界戦線”って名前にしようっていってるじゃん。」
「ハル、それいろいろ間違ってるから。」
「てかそれ、もはや生徒会でもなんでもないんですけどね~。」
でも、しかしながら・・・
なんとなく話しかけやすいオーラがある。
皆良い人たちのようだ。
「ま、オレや厳島は真面目なんだけどな。ハルがすべてをぶち壊す。」
「僕がすべてをぶち壊します!」
そんなこんなで15分ほど皆で話し込んだが・・・
皆が皆、仲がよさそうだった。
その光景は今、孤独な私にとってとても羨ましいものでもあった。
やがて少しすると厳島さんと凛動さんは警備部のところへ戻っていき、金ヶ崎も「仕事がある」といって行ってしまった。
3人もいなくなると、だいぶ少なくなったように見えた。
というより3名がいなくなってから五稜郭さんは厳島がもってきたプリントをチョロチョロとみていた。
それで山崎とハルさんが話しこんでいたが、やはり先ほどに比べると勢い的に劣るものがある。
それから五稜郭さんはザッと簡単に書類全体に目を通し終わったのか・・・
一息ついてから私のほうをみた。
「あ~、悪いな。だいぶ話が横道にズレちまったな。」
そう五稜郭さんがいうと、山崎さんもハルさんも話すのをやめた。
おかげで先ほどまでカオスだったこの空間も、どことなく圧迫されるような雰囲気が流れ始めている。
とりあえず一段落ついたことだし・・・
やはり「やめることはできないか」きいてみることにしよう!!
「あの・・・今更なんですけど、断ることってできますか?」
「多分それは無理だと思う。」
その質問には山崎が応える。
「いきなりで強制で理不尽だし、ホント運がないって思うかもしれないけどこれは変えられないことだ。」
「ま、しょうもない人間に限ってすぐ自分が一番つらいって思ったりするんだけどな。」
さりげなく今の五稜郭さんの言葉が胸にグサリと刺さったりする。
ま、先ほどのカオスな空間もあり、だいぶ荷の重さもなくなってきた。
それにホントにやることが簡単ならありがたいし・・・
断ることができないのであれば仕方がないのでやるしかないか・・・
と自分のなかで諦め始めてもいる。
「一応先に言っておくが、これからお前は“情報処理部”の一員となるわけだから、ここのルールには従ってもらう。」
「ルール?」
「そうだ。ま、とはいっても簡単なことなんだけどな。」
そういうと五稜郭さんはハルさんをみる。
「・・・上の命令は絶対、でしたよね?」
「あぁ、正解だ。・・・一応生徒会も組織だからな。下が自分の考えで勝手に動けば、生徒会は組織体を保てなくなっちまう。だからこいつだけは守ってもらう。」
「・・・」
「ルールを破る奴にオレは容赦しない。・・・いいな?」
「はい。」
「よし。」
私がそう返事をすると、彼女は微笑みながら頷いた。
それに山崎が苦笑しつつ、言う。
「じゃぁ、弱腰でお前を怒らせまくっている俺の命令も、命令すればお前は従うのか?」
「あぁ、もちろんだ。」
「・・・ふ~ん。」
山崎は外の空を見て、どこはかとなくどうでもよさそうな声で答えた。
「まぁ・・・俺は絶対人には命令しないがな。」
「だろうな。」
五稜郭はわかりきっていた様子で素っ気なく山崎の言葉に応えてから、再びこちらをみた。
「じゃぁ、実際の仕事説明だけど、やってもらうことは簡単だ。毎日メールでクラスの出来事を報告してくれればいい。」
「・・・え?それだけですか?」
思っていたよりもあっさりで・・・
ホントに「簡単」で、驚いてしまう。
「あぁ。ただしできるだけ細かく・・・な。」
できるだけ細かく・・・か。
それだけこの学校の柱となっている生徒会はクラスの状況などを知る必要などがある、ということか。
「ただしお前はこれから生徒会生徒であって、生徒会生徒ではない。」
「・・・え?」
どういうことだ?
生徒会生徒であって、生徒会生徒ではない・・・?
「ま、正確にいえば生徒会なんだが、お前のことを知っているのがこの生徒会でもごくわずかな幹部たちだけだ。」
「・・・」
「あとお前が生徒会だとまわりには知られては意味がない。あくまで一般生徒として物事に参加して、情報を提供してくれ。」
あくまで一般生徒として情報を提供・・・
それってつまり・・・
「つまり生徒会から一般生徒への“スパイ”というのがいいあらわし方・・・」
「厨二乙。」
私よりも先に山崎さんが私が言おうとしたことを言おうとすると、あっけなく五稜郭さんにかき消されている。
・・・言わなくてよかった・・・
と思ったりしている。
「いや、今の結構真面目な発言だからな。厨二病関係ないから。」
しかしながら実際問題、生徒会として一般生徒を演じて生徒たちを監視する、ということを仕事にする・・・
ということは「スパイ」といっても過言ではないのかもしれない。
「まぁ、一般生徒となんら変わりはないが、生徒会とかかわっているんだ。もちろんメリットも多い。」
「・・・メリット?」
たしかにこの生徒会は権力が強いし、入れば襟の菊の紋章をみただけで一般の生徒は生徒会だとわかるから・・・
基本的に問題事などにも巻き込まれないだろう。
・・・だけど、私の場合はあくまで一般生徒なのだ。
・・・そんな私にメリットなどあるのだろうか・・・?
山崎の言葉をついつい聞き返してしまう。
「あぁ、わからない情報は基本的に生徒会内部の情報も含めてほとんど教えてやれるってのが一番の特権かもな。」
そうか・・・
一般の生徒には生徒会内部の情報などは教えるはずがない。
この学校は先ほどから何度も言うとおり、生徒会が学校の柱となっている。
つまり生徒会主導の事々も多くあるはずで、それらのなかには一般生徒には公開されないものもあるが・・・
私は今後一応生徒会の一員となるのだから、そういった生徒会しか知らない情報も知ることができる。
となればそれを生かして学校生活を過ごして行けば、いろいろと便利になるかもしれない。
「ま、一般生徒になりきってもらうから襟の紋章とかはもらえないし、ほとんどがお前らの存在を知らないが・・・何かあればオレを呼べ。出来る限り最大限の協力はしてやるから。」
五稜郭さんの心強い言葉に感謝をしつつ、今の言葉の「お前ら」というものに着目した。
・・・お前ら、ということは私以外にもこの役目の人がいる、ということか。
せっかくだ、きいてみよう。
「えっと・・・私以外にもこういった方々はいるんですか?」
「今のところは2人いるな。・・・ま、多分今後に増えていくんだろうが。」
五稜郭さんは「先が思いやられる」といった表情で苦笑いをする。
それから背伸びをして、椅子から立ち上がってこちらへとやってくる。
「まぁ、大体こんなところだ。・・・とりあえず仕事は来週からだから、今日はもう遅いし帰りな。」
「は・はぁ・・・」
「説明するべきことはしたし、もう帰っても大丈夫だと思うから安心しろ。」
そう彼女はいうと、情報処理室の扉をあけた。
「わからないことがあれば放課後にまたここにきな、質問に応えてやるから。」
「いろいろと親切にしていただきありがとうございます。」
初日はこの言葉を最後に私は情報処理室・・・
そして学校を後にした。
帰り道はすでに真っ暗で街灯が照らされている。
気づけばもうすでに完全に生徒会の一員となっている、という生徒会の押しの強さ・・・
そして身勝手さ・・・
そして自分の鈍感さに驚く。
「はぁ・・・」
上手いことのせられたなぁ・・・
なんてことを思ったりしている。
実際あの話をきいているとすごく簡単そうにきこえたが・・・
はたしてどこまで私は仕事をまともにすることができるのだろうか・・・
不安が波状に押し寄せる。
そんなときにある要素を思い出した。
「幸せの掴み方・・・」
先ほど図書室で読んだものだ。
7つの幸せの感じ方。
足りなかった3つ、友情・治安・尊厳。
この3つ、生徒会に参加して仕事をすれば案外簡単に得られるものなのではないだろうか・・・?
そんなことに今更、一人ポツンと暗い道を歩いていて気づいた。
まず“友情”。
私のことを知っている生徒会生徒はかなり少ない、とのことだけど・・・
それでも2年生徒会幹部の先輩たちは結構良い人たちそうだった。
それに私以外にも、こういった仕事をしている生徒がいるなら、いつか彼らと話す時も来るだろう。
次に“治安”。
治安はそもそも、生徒会が維持をしている。
そして私自身も生徒会生徒となり、何かよからぬことがあれば生徒会本部へ報告し、治安の維持を間接的にかかわる。
そうなればこの高校の治安もよくなるし、いいことではないか。
最後に“尊厳”。
これだって、2年の先輩たちはかわった人が多かったけど、すでに同じ組織の上に立つ先輩として尊敬していくべき生徒たちだ。
もう尊敬するべき人たちは決まっている。
つまり生徒会に入ることによって、私の幸せの感じ方も少しかわるかもしれない。
そんなわずかな期待が生まれる。
それに確かに荷が重いかもしれないけど・・・
これをすることによって私自身もいくらかかわるかもしれない。
今までかわろうとしたけど勇気がでず、ずっとかわらず仕舞いの私にはある意味チャンスなのではないだろうか・・・?
「・・・よし・・・頑張ろう!」
私はそんな小さくわずかな希望に期待しつつも・・・
私自身がかわるための1歩とするためにも・・・
私は来週からの仕事に意気込むのだった。
「要素」 完
今回は生徒会の人物のまとめ「その2」です。
“情報処理部”・・・主にプリント作成などを行う部。
↓
“諜報部(伝達部)”・・・今年から賤ヶ岳によって作成されたチームで、このチームの存在は一定の者以外はほとんど知らない。
五稜郭(女性)・・・口調が非常に悪いが、チームの輪を誰よりも大切にする女性。2年副会長である山崎の弱腰には呆れているが、それでも命令が下れば従う。どんなに嫌な命令でも上からの命令には絶対従うタイプ。決戦時は輪を乱す厳島をはじめとする警備部を強く批判することとなる。アニメなどが好きで、特に推理物を好む。上からの命令は絶対、という考えをもっているため、上がいなければ何もできない典型的なタイプのように一見見えるが、実は吹奏楽部の部長でもあり霧島高校の名を他の町に広めるため貢献している。音楽系が好きならしく、歌も非常に上手いらしい。なお、彼女曰く人生最大の悔いは「男性として生まれてこなかったこと」らしい。
|
|ー勢場ヶ原(男性)・・・皆からは「ハル」と呼ばれて、親しまれている。将来の夢は声優で、人の真似をするのが大得意。そのため生徒会の癒しの存在となっている。また男性でありながら語尾に「にゃん」と変な単語をつけているため、五稜郭に「キモい」といわれているが、一向にやめる様子はなさそうである。かなりマイペース。辛いものが好き。
中島 華癒輝(女性)・・・元伝達部最高責任者。絆同盟に潜入するが、どんどん絆同盟に惹かれていく。最終的に生徒会を辞め、絆同盟へと戻っていく。
|
|-鷹村(男性)・・・中島がチームから抜けたことで、現伝達部最高責任者となる。
”監視部”・・・基本的には問題が起こらないように「問題児」を監視している部。また普段はフツーの生徒でも一度問題を起こした生徒なども監視する部で、闇討ち前までは警備部の次に人数の多かった部だが、闇討ち時にはほとんどの生徒が警備部へと移動してしまうため、まともに仕事ができないほど規模の小さい部となってしまう。
金ヶ崎・・・2年にて監視部の副責任者でもあり、闇討ち時には自ら進んで治安維持部へ。治安維持部解体後のC班・D班のリーダーでもある。彼は誰に対しても、明確な指示がないと動かない。これは彼の中のモットー的存在で、もしミスが起こっても上へ責任を押し付けることができる一種の責任転嫁のための術でもあるが、逆にその態度からは生徒会への熱意があまりないように傍からは見え、結果副責任者というポジションとなる。しゃべり方はどちらかというとゆっくりで語尾をのばす癖がある。
今回はここまでです。
今回の本編での生徒が多かったですね・・・(苦笑
・・・ホントは今回で終わらせる予定だったのですが、本編が思った以上に進まず・・・
まとめで紹介したい人物でもまだ紹介できないところが・・・orz
そんなわけで次回の「その3」でまとめは終了とします(毎度無計画ですみません)
今回も読んでいただきありがとうございました(ペコリ
反省・・・
まず更新がかなり遅れてしまい申し訳ありません。
この時期は受験の方面も見えてきて、かなり忙しくなかなか更新できませんでした。
来週の期末テストが終わってからは、できるだけ更新ができるように頑張りたいです。
本編に対しては、明らかに中間~後半の間が「おまけ」的なノリとなってしまいました・・・
前回鍵カッコが少なかったので、増やしてみればこのザマだよッ!!
バランス、というのは難しいな、と思わされました。
あと相変わらず長くてすみません。
最後に、2度目になりますが今回も読んでいただきありがとうございました(ペコリ