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なんで僕が!?  作者: へたれ度100%
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決戦(Ⅸ)

誰もいない廊下。

とても静かな廊下。


霧島第3高校での戦いは全校生徒側に追い風が吹き始めていた。

と、同時に青い空、白い雲が流れる外も強い風が吹き始めていた。


そんな静かな廊下を窓ガラスに風があたって、カタカタを音をたてる。



「風、強くなって参りましたわね。」



川中の前を歩いている砕川がその音をきいて、まるで全校生徒と生徒会が今敵同士ではないかのように、笑い話のように、極めて普通な感じで話をかけてくる。


川中にはそれが意外だった。

今まで基本的に絆同盟の最前線で時津風とともに動いてきた彼女は、攻撃的な生徒会しか見てきていなかった。

そのため、今の状況でこのようにフレンドリーに話しかけてくる生徒会がいようとは・・・


彼女らの上にいる厳島、という人物は自分が思っている以上に信頼できる人物なのかもしれない。

そんな根拠もない期待が心の奥底で渦巻いている。



「知ってまして?本日は風速16,4mの強風でしてよ。外に行くときには注意しませんと。」

「・・・」

「え・え~と・・・普通の台風の風速が大体30mですので、その半分ぐらいの風ですわ。」



彼女は川中と凛動の気まずい空気を察してか、今日の天気の話をしてみるものの・・・

当然ながら盛り上がるわけがない。



「・・・それも彼に教わったんですか?」



しばらくしてから凛動が少し呆れたような顔をしてから口を開く。



「さて・・・どうでしょうね?」



先ほどから彼女らの言う“彼”というのは誰なのだろうか・・・

川中は疑問で疑問でしょうがない。



「・・・心配ですか?」

「知りませんわ、あんな馬鹿。どうせ今頃お気楽に寝ていますわよ、こっちの身も知らないで。」



とりあえず誰かは知らないが・・・

だいぶフリーダムな人のようだ。

彼女らの会話からそんな印象がつく。



「質問させてもらっていいか?」

「えぇ、どうぞ?」

「なぜ砕川さんは私を信用したんだ?」



ぶっちゃけ信用してもらえたという件では嬉しいが、いくらなんでも簡単に信用しすぎ、というのが川中の見解だ。

生徒会というのは非常に慎重な組織、とも川口からきいているが故に余計疑問となっていた。


それに凛動さんはまだ信用してくれていないみたいだし・・・

というか、本来なら凛動さんみたいな人が普通なのだ。



「う~ん、そうですわねぇ・・・」

「・・・」



彼女は少し考え込んでから、苦笑いをしてこちらをみる。



「ま、ぶっちゃけ私は“中立”だから、ですかねぇ・・・」

「中立?」

「そう、中立ですわ。今回の勝負は私個人としては別にどっちが勝とうが負けようがどうでもいいことですの。」



これまたすごい発言が飛び出したものだ・・・


彼女は前に学年主任を説得するときに“中立”の立場をとった人物を思い出した。

教頭だ。

・・・彼女もまた、教頭のように“流れに逆らわない”といったタイプの人なのだろうか。



「ですが怪我人が増えてもらうのはよろしくなくてよ?問題が校外にバレたら大変ですので。」

「・・・」

「怪我人を出さないためには一刻も早くこの事態を終わらせるのが得策ですわ。そのために私は、早く終わらせるために早く終わりそうな展開へと導くんですの、それだけですわ。」



それは私と厳島さんが話すことで早くこの事態が終わる展開へと進む、ということなのだろうか。



「ということは私と厳島さんが話せば早く終わるのか?」

「さぁ?それはわかりませんが・・・ま、その可能性は十分ありますわよね?」



彼女はただ単純にこの事態を早く終わらせたいようだ。

教頭の“流れに任せる”という考え方とは中立でも少し違うようだ。


それから砕川は川中のほうをジッと見つめてから少し呆れ顔でいった。



「しかし、やっぱり“中立”という意見をいうと皆驚くものですわね。」

「・・・?」



皆というのは私のほかにも誰かにいったのだろうか?

川中も砕川のほうを見ると、彼女は再び苦笑して口を開いた。



「前に川口元副会長と話しましてね。・・・まぁ、彼には“それは生徒会だから思えることだ”といわれてしまいましたが。」



たしかにその通りだ。

生徒会という抑圧する立場の生徒だからこそ、抑圧される側の生徒の気持ちはわからない。

だから問題視できない。



「ただ彼に言われてたしかにそうかもしれない、とも思いましたわ。私は問題を軽く見すぎていたのかもしれない・・・でもそれでも暴力で物事を解決してはいけないと思いますわ。」

「・・・」

「私もあなたと会う前はあなた方は攻撃的な方法で解決を図ろうとしていたのだと思っていましたわ。」



ま、それも無理もないことだ。

いくら自己防衛とはいえ、そして眠らせたとはいえ、攻撃してきた相手を返り討ちにしてきてしまっていたのだから。



「だからあなたの言葉をきいて信じてみたくもなりましたの。あなた方は我々の上とは違うと。」

「・・・」


問題を解決するには、まずは小さいところからでも和解する必要がある。

お互いを勘違いして考え方が食い違っていたとき、少しでも勘違いがとける可能性があるのであれば互いを信用して、話し合いの場を設ける。

それが中立としての勤め、ということか。



「早期終結にはあなたの力と和解が必要だからこそ、信じるんですわ。」



彼女はまっすぐ前を向きながらそういって長い廊下を歩き続けていった。







一方放送室前では、4人の生徒が重たいドアを立て直している。



「よっしゃぁ・・・!」



その重たいドア、というのはジャスティスの配下によって壊された放送室の防音ドアだ。

これを立て直して軽い応急手当のようなものをして、一時的にドア・・・というよりは生徒会の新手が来る可能性があるので、それらを防ぐための壁の役割を果たすようにしていたのだ。


ようやくその厚く重たいドアの応急手当てが終わったようだ。

・・・といっても単に壁によりかけただけなのだが。


最終仕上げとしては内部から横に立てかけてあるドアを引っ張ってきて、入り口前のところにおけば完成だ。

まぁ、内部に倒れてこないように、内部に棚やらなにやらをおいて防ぐ、ということもしなければならないのだが。




とりあえずはドアを壁によりかけて一息ついている。



「では俺らは一旦戻ります。」



鷹村は中島から生徒会の印である自らが先ほどまでつけていた菊の紋章を手にとり、こういった。

中島は菊の紋章を渡し終わると無言で頷いた。


「ホントにすみません。」

「いえ。・・・では。」



そう彼は短く挨拶をすると、寝ている生徒たちの肩をたたいて起こしていき・・・

やがて伝達部は戻っていった。



「さて・・・と、俺らは放送の続きといきますか・・・」



桶狭間がそう少し安心感をみせて言って、関ヶ原が先に放送室内部へと入る。

そんな時、静かな廊下で何かを落とすような音がきこえた。


後ろを振り返ってみれば1人の男性がたっている。



「・・・チッ、待機組は使えない連中ばかりか。」



彼はイライラとした機嫌が非常に悪そうな様子で桶狭間たちの足元で寝ている生徒たちを見ていった。

それから桶狭間たちを、今にもとびついてきそうな鋭い目つきでにらみつける。


彼の足元には今、寝ている生徒たちがもっていたモデルガンが落ちていた。



「くっ・・・教師陣の足止めの失敗は響いても・・・ここを処理すればどうにかなる・・・か。」



彼はそうつぶやいて、納得したような気味の悪い笑みをうかべると、制服の内ポケットの中から2丁の新しいモデルガンをだして、素早く彼らの方向へと向ける。



「ヤバイ!!」



桶狭間の咄嗟の判断で、中島の手をつかんで、壁の角へと逃げ込んだ。

おかげでどうにか相手の攻撃をかわすことができた。


連射させたその弾は壁に多くの穴をあけ、一部は奥の放送室内部にまで届き・・・

一番奥のガラスを撃ち割る。



「関ヶ原!!俺たちはなんとかすっから先に始めてろ!!」

「わかったっぺ。」



桶狭間の言葉で関ヶ原は頷いて、桶狭間の逃げ込んだ方向へと相手の攻撃が集中している間に自らで扉を閉めて最終作業を完了させた。



桶狭間たちが相手の視界には入らない壁の角に逃げ込んだとわかっているのに相手は連射をやめない。

見る見るうちに、角ばっていた角の壁は削られていく。



「おいおい、ありゃぁヤケくそにもほどがあるぞ?」



なんでも物量を与えりゃいいって問題じゃねぇんだよ。

というか、いきなり銃乱射ってどういうことだよ!?

ルールもスタート宣言もなしかよ・・・



「おかしいですね・・・」



中島は眉をひそめながら攻撃がやんだ一瞬のときに、相手の方をみて言う。



「さっきから気になっていたんですが、情報では彼はもともと放送室を奪い返すための生徒でしたのに、なぜいなかったんでしょう・・・?」

「あ~・・・」



その言葉に桶狭間は「そういえば・・・」といった感じで納得したような顔をした。



「なんかあいつ、あの扉を壊すためにもっと強力なのを借りてくるとか言って撤退してったな。・・・ずいぶん帰りが遅いから忘れてたぜ。」



桶狭間は“そういえばそんな奴いたなぁ・・・”と言わんばかりに疲れ果てたような様子をみせる。

おそらく帰りが遅れたのは彼がつぶやいていた、教師陣足止めの役へといっていたからであろう。



「にしてもなぜ彼が教師陣足止めのほうへ・・・?」

「暇だったんじゃねぇの?」

「こっちをやれと上から命令されてるんですよ?それに教師陣の足止めは他の生徒が・・・」

「んなこたぁ俺に聞かれても知らねぇ~よ・・・」



せっかく中島を取り戻して、一息つけると思っていたのに、その瞬間これだ・・・

ホント生徒会の連中は仕事に真面目で困る。


桶狭間は彼らの仕事っぷりにある意味で称えつつも、呆れていた。



「それになんだよ、あの銃・・・反則じゃね?」



彼が使っている2丁の銃は、「強力なのを借りてくる」というに相応しい銃だった。

小型なので、両手に1丁ずつ持てる上に連射ができる。


彼は片方ずつうって、片方の弾がなくなったときにそっちを装填リロードしつつももう片方を連射し、隙を作らないようにしている。



「あれは“明太子”と“焼き鱈子”ですね。」

「・・・」



とりあえず名前をつけたやつちょっとこようか。

なにそのセンスのない名前。

明らかにモデルガンにつける名前じゃないだろ。


名前つけた奴はそうとう食い意地がはってるんじゃないのか・・・?



「これはたしか神威さんが命名してた気がします。・・・飛沫さんはドン引きしてましたが。」



その神威と飛沫、という人は知らないが・・・

とりあえず飛沫さんとやらの気持ちがわからないわけでもない。

・・・簡単にまとめれば変人だな。


桶狭間は“生徒会には変な奴しかいねぇな”と呆れ顔をする。



「もとの銃は両方ともM-10という銃らしいですが、右の赤いラインが入っているのが“明太子”で・・・」

「あ~、もういいもういい。」



てかききたくねぇよ、そんな解説。

興味があるわけでもねぇし。



「とりあえずお前は先に体育館に戻ってろ。」

「え?でも・・・」

「いいから。ここは引き受けるから。」

「でもホントに再び皆は私を信用してくれるでしょうか・・・?」

「大丈夫だって。あいつらを信用しろ。」



彼女の深い問題の質問に彼は軽く答える。

彼女は困り顔をするものの、桶狭間のほうをみて渋々頷いた。



「わかりました。・・・でも桶狭間くん、ここホントに大丈夫ですか?なんか対策はあるんですか?」

「今はねぇが・・・ま、そのうちお前のロング睡眠スプレー対策みたいにテキトーに案が浮かんでくるだろ。」

「・・・どこまででもテキトーな人ですね。」

「るっせぇよ。」



桶狭間が意地をはってそういうと、彼女は軽く苦笑してから会釈をする。



「・・・ではお願いします。すみません。」



そういうと彼女は顔をあげて体育館の方向へと走っていった。



「・・・やれやれ・・・」



やっと心配性姫様が戻っていった。


しかし我ながらよくもこんなところを引き受けたものだ。

相手だってさすがに弾がきれるまで撃ちまくるような馬鹿ではない。

なら弾がきれるまで逃げてればいいが、ここをあければ放送室がまずい。


逃げれもせず、だが攻めもできず。

相手の前にでればたちまちアウトだし、唯一の隙の装填時ももう片方の銃があるため隙がなくなっている。

なんとも厳しい場所だ。



「はぁ・・・やっちまったなぁ・・・」



後悔後先に立たず・・・

だが無意味としっていても後悔する。


桶狭間はまた対策を考え始めるのだった。







一方時津風たちは1階へとやってきていた。



「やっと着いたぜ・・・」



目の前の壁には“保健室”と書いてる看板のような板が貼ってある。



「飛沫、俺たちに借りを作らせたくなかったら、保健室内にはお前だけでこいつをつれてけ。」



陽炎が保健室前でこのようなことを言い出した。


彼はもともと彼らとよくつるんでいたのだ。

時津風よりも彼らのことを知っているのであろう。



「わぁ~った。」



簡潔に答えを述べると飛沫は保健室内へと神威に肩をかけてつれていく。


時津風が静かにドアをあけると、飛沫と神威は無言で保健室内に入っていった。

どうやらチラッと中をのぞいた限りでは、今は保健室は無人のようだ。



「あの飛沫が無言になるなんて・・・ありゃぁそうとうだな。」



時津風が彼らが中に入ったのを確認して扉を閉めると、陽炎が少し驚きの様子で話す。



「普段なら常に人を見下してないと息ができなくなっちまうような奴だからな。」

「うぇ・・・」



想像するだけで恐ろしい。

そんな体にだけはなりたくないものだ。



「・・・お前はいいのか?彼らと仲たがいしちまったけど・・・」

「こんな状況だ、しゃぁないだろ。ま、この状況が終われば俺のほうから関係修復に乗り出すよ。」



陽炎は苦笑いをして、保健室の方を見る。

ホントは彼は彼で神威が心配なのかもしれない。



「“雨降って地固まる”。ことわざにもちゃんとそういう意味の言葉があるだろ?」



果たしてそんなに上手くいくのだろうか・・・?

時津風個人としてはすごく疑問だが、ま、当の本人が大丈夫だといっているのだから大丈夫なのだろう。




「ま、困ったときは言えよ?今度は俺が協力してやるからよ。」



今回の件では陽炎には借りを作りすぎてしまっているし・・・

いわば“恩返し”がしたい、という考えだ、簡単にいえば。



「あぁ。困ったときは遠慮なく頼らせてもらおう。心強そうだしな。」



陽炎はにっこりを微笑むと、背を向けて歩き出す。



「・・・どこいくんだ?」

「俺もお前とは別に、正式にお願いされてることがあってな。・・・ちょいちょい忙しいんだ。悪いが席を外すぞ?」

「・・・あぁ。」



彼は少し早足で歩いていく。

まったくやれやれなことだ。



「仮に飛沫とまたやりあうことになれば俺一人でどうにかする。だからお前はそっちを優先させろ。」

「・・・大丈夫か?」

「超余裕だぜッ!」

「・・・そうか、なら安心だな。」



陽炎は背を向けてそういうと、歩くペースがゆっくりになった。

その後は無言で歩いていき、彼は違う方向へと行ってしまった。




「・・・しかしこの状況でまたやりあうことになんてなるのかねぇ・・・」



そんなことも思うのだが・・・

とりあえずはここで待機、ということだ。


時津風自身もようやくの休み、といったところである。

保健室前の壁の前に座りこむ。

それから自分の左手をみて、困り顔をする。



(・・・これ、姫様になんて言い訳しよう?)



彼は先が思いやられるような思いをしながらも、つかの間の休憩で体を休めるのだった。








ちょうどその頃、川中たちは警備部会議室前に到着していた。

いや、正確には今、ちょうど到着したところだった。



「つきましたわよ。」



砕川が扉をあけると・・・

川中は自分が想像していた人物よりだいぶ違った外見をもつ女性を目の前にした。



「おかえり、輝・・・っと、川中水旋さん・・・かな?」

「はい。」

「ま、とりあえず入って。」



厳島はたって、皆を歓迎した。

それから最後尾、凛動が入ってきて、厳島はホッとしたような顔をする。



「おかえり、癒梨。」

「只今帰りました。」

「大丈夫だった?」

「えぇ、少し問題が起こりましたので帰るのに時間がかかりました。申し訳ありません。」

「いや、謝らなくていいよ。それよりも無事でよかったよ。」



それからは皆が席に座り、さっそく話し合いが始まった。

厳島は絆同盟のうちの誰かがやってくることをある程度は想定していたのかもしれない。

落ち着き具合も、進む進行も想定していたようにしか思えないぐらい良い方向性のものだった。


進み具合が良いこともあり、意外と早く川中は言いたいことを述べられた。



「つまり・・・きみたちもできるだけ早くこの状況を終わらせたい、という認識でいいのかな?」

「はい。」



川中がそう頷くと、少し困り顔で話し始める。



「ま、大体のきみたちの考えは理解できたけど・・・きみたちを信用するための絶対的な証拠はあるかな?」

「いえ・・・」

「きみたちを信用しないわけではないけど、前々から警備部は散々な目にあってるからね。・・・たとえこちら側に否があったとしても。」

「・・・」

「いくら“自己防衛”とはいえ、一回は全滅寸前に追い込まれたこともあるしね。」

「ですがそれは・・・」



砕川が途中で厳島に何かを言おうとすると・・・

厳島も無言で頷く。



「わかってる。それは彼らからしたら仕方のないことなんだけど・・・彼女の言葉には彼らがボクたちをどこまで信頼できるのかがわかる言葉が欠けてたからね。」


今までに何度も争ったからこそ・・・

お互いどこまで信頼できるかが鍵ということか。



「きみたちもボクたち警備部には少しの抵抗があるんじゃないかな?それがどの程度なのかボクは知りたい。・・・あまり信用されてないのであれば協力してもかえって不信がられるだけだからね。」



まぁ、100%完全に信用している、といえば嘘になる。

だが0%全く信用していない、といえば大嘘になる。



「私の知る限りたしかに若干の警備部への抵抗はありますが・・・ホントに信頼できないのであればわざわざ頼みにはきません。」



その言葉に厳島はにこやかに頷く。



「オッケー、合格。正直で大変よろしい。」

「・・・はい?」

「ごめんね、少し試させてもらったんだよ。・・・協力したいがために嘘言うような人たちはあまり信用できないからね。」



彼女はそういうと、軽くノビをする。



「なんか圧力面接みたいになっちゃったけど大丈夫?こういうのって意外と疲れるんだよね・・・」

「・・・」



なんか警備の人たちはどうも自分の印象とだいぶ違うというか・・・

硬いようで、実はそうでもなくて・・・

川中は軽く混乱している。




「さて、こっからが本番だよね。ボクたちが動くにしても・・・ここにいるのはボクと輝、癒梨に水旋の4人しかいないからね。」

「みんな体育館にいってますもんね。」



砕川と厳島は顔をあわせて苦笑いをする。


となるとこの4人で動かなければならないわけだが・・・

4人ですべてを終わらせるのはさすがに無理があることだ。



「・・・人数不足。」

「ですわね。」

「そうだよね。だから直接解決は無理そうだね。」



厳島はそういうとこちらをみた。



「絆同盟はたしか今、放送室を確保してるんだよね?」

「えぇ・・・」

「ならそこを使わせてもらってもいいかな?それなら校内全体に伝わるんじゃないかな?」

「多分大丈夫だと思いますが・・・」



だが問題は今、放送室の放送がきれていることだ。

つまりあっちはあっちで苦戦している可能性が高い。


厳島は厳島で困り顔をする。



「ただ・・・これ、ボクたちがしゃべっても効果があるかな・・・」



そういえば川口が、厳島さんは力での解決は反対をしていてまわりから煙たがられてるって言ってたな。

それは多分まわりにいる凛動さんや砕川さんも同じなんだろう。

もちろん絆同盟である私がしゃべっても効果はない。

効果を狙うは生徒会だ、敵の言葉になど目も向けないだろう。

つまり、いつも反対しているような人が放送を使ってしゃべっても意味がない・・・ということか。



だが厳島さんは生徒会の幹部だし・・・

それをやれば、少なくても体育館はどうにかすることができるのではないだろうか。

故に川中はこう答える。



「あると思います。特に厳島さんなら。」

「・・・ま、少ない可能性にかけてみるとしようか?」



彼女は冗談交じりなのだろうか、自分への皮肉をこめたような言い方をした。



「ごめんね、ホントはきみのいう時津風のところにいきたいのもやまやまなんだけど・・・」

「実際そのためにきたんですわ。少し残念かもしれませんわね。」



いやいや、時津風だけのために来たわけではない。

彼が心配なのも十分あるが・・・

全員が心配なのにかわりはない。



「いえ、全員が心配ですので・・・」

「・・・ただジャスティスの動向も気になるね。」

「まぁ、うちの生徒会じゃ彼らが一番暴力的ですものね。」

「・・・暴力集団。」



要するに彼らが一番危険な存在、ということか。

ま、わかってはいたが・・・

味方にまでいわれているのをみると、結構切ないものである。



「きみの話だと時津風が飛沫の相手をしてるんだよね?」

「はい。」

「・・・癒梨、状況を見てくるのをお願いしてもいいかい?」

「はい。」



凛動は頷くと、厳島は念を押すようにいった。



「見てくるだけでいいからね。」

「はい。・・・確認後は?」

「放送室にきてもらえるかな?」

「わかりました。・・・ではいってきます。」



仕事の早い人だ・・・

もう行くのか。


川中は少し関心する。



彼女がでていくと、こちらに向かって厳島が苦笑しながらいう。



「状況をきいて、ホントにまずそうだったらボクもそっちに向かう・・・それでいいかな?」

「はい、ありがとうございます。」



川中が感謝の気持ちをこめてそういうと、厳島も微笑んだ。



「さて、じゃぁ私たちは放送室へレッツゴーですわ。」



こうして厳島、砕川、川中の異色3人組は放送室へと向かい始めた。







体育館。

ここはすでに時間が解決してくれた、というに等しい有様だった。



もともとの警備部に続き、教師たちの参戦。

これによって、完全にこちら側に風が吹き始め・・・

やがて時間がたつにつれ、相手の警備部は1人また1人と武器を捨て始める。


武器をすてた生徒たちの顔は諦めの様子で・・・

先ほどまで自分の身を危険にさらしてまで生徒会の権限を守り抜く、との勇ましい様子はどこへやら。



そして相手の警備部の半数以上が武器を捨てたとき・・・

僕の前にいる、山崎の隣にいる警備部の生徒たちもついに武器を捨て始めた。


それを間近で確認して、僕の心は少し落ち着きを取り戻す。

目の前の生徒が1人武器を捨て始めると、まるで流れ作業のように警備部の生徒たちの手から武器はどんどん滑り落ちていく。



すでに半数以上武器を捨てている。

これはもはや勝利確実だ。


もともとの警備部の生徒たちも、そして教師たちも、前にいる絆同盟の者たちも皆、安心して肩を落とす。

結局は誰も怪我人はでなかったのだ。


この状況を僕のことを“ゆとり”といった彼女・・・

“五稜郭”さんに見せてあげたいぐらいだ。



心が躍る。

まだ勝利していないのに勝利気分だ。




やがて最後の一人・・・

山崎が手にもっている竹刀を捨てると・・・

体育館内では「大歓声」という名に相応しい喜びの声があがった。



僕自身はそんなまわりの様子をみて、皆が喜んでいるところをみて嬉しい。

そもそも僕と咲良の喧嘩がきっかけだったのに、不思議なことだ。

だが“暴力なしに勝てた”、そう考えるとやっぱり僕も嬉しい。


僕たちのやり方が他校の生徒たちとか、一般の人からみればどうなのかはわからないけど・・・

とりあえず僕たちなりにやって勝利をつかめたのだ。

・・・一応五稜郭さんにいったことも有限実行はできた、ということだ。



一方で生徒会の生徒たちはその場の床に座りつくす。

拳にグッと力が入っていて、悔しさがにじみ出ている。

彼らにはやはり彼の見方があったのだ、当然といえば当然だ。


今まで生徒会とは多くの面で考えの食い違いがおこっていたが・・・

勝利と敗北、そこで感じる感情は唯一自分たちと生徒会は同じだ、ということを思ったりする。



もしかしたら生徒会にとって学校という存在は僕たち以上に大きい存在だったのかもしれない。

そもそもこの高校の生徒会は学校のために動く組織でもあった。

つまり学校がこちら側についたことで、今生徒会がやっていることは単なる学校への対抗行動にしかならない。

教師たちが目の前で自分たちと対立する立場をとったことで、そこに気づいたのかもしれない。




「はぁ・・・」



一息ため息をつくと、ようやく笑みをこぼすことができた。

今までずっと緊張に押しつぶされそうな感じで、なかなかこの明るいムードに適用できない。



後ろを向くと、真っ先に咲良と目が合った。

・・・あ、ときめきとかそういうのじゃないからね。

僕が愛するのは二次元の女の子のみで(ry



彼女は彼女で皆を巻き込んだ責任を今でも感じていたのかもしれない。

どうにか勝利を得ることができて、嬉しいと同時にようやく重荷から解放される、といったような感じで・・・

今までに比べて少しさっぱりしたような顔つきをしているように見える。



とりあえず僕がこの“生贄ゾーン”にいる必要もこれでなくなったわけだ。

あまり・・・というか、全く目立った活動はできなかったが・・・

僕も皆のところに戻ろう。



そう思い、背を向けた瞬間だった。


・・・あ・・・れ?

自分の見ている今の明るい景色がボヤつく。

足元がフラッとする。


それから・・・

いつか弱気になっている僕を強気にするために、関ヶ原からうけた拳を思い出させるような・・・

頬に痛みを感じる。



「・・・」



フラついて千鳥足のようになりながらも・・・

どうにか体勢を立て直す。


やっとのことで体勢を立て直して、まわりをみていると・・・

先ほどのは夢だったのか・・・?

まさかの夢オチですか・・・?


そう思わされるような状況が目の前にあった。


先ほどの明るいムードは一転して、険悪なムードになっている。

シンとしたその場だが、後ろの方ではヒソヒソ声がきこえる。



「なにがあったんだ?」

「殴られたんだってよ。」



短く要点をおさえた簡単な答えがきこえた。

一瞬誰が殴られたのだろうか、そう考えた。


そうか・・・

やっぱり僕は殴られたのか。


それから2秒ぐらいしてからようやく殴られたのは自分自身だということを自覚する。

あまりに突然のことで、今の状況を整理するだけで精一杯だ。



気づけば自分の前には桐山先生と咲良、それに五月雨たちがいた。



「大丈夫か?十六夜。」

「え・えぇ、まぁ・・・」

「あんた、いきなり後ろからってサイテーね。」



桐山先生の質問に戸惑いながらも答えると、咲良がおっかない形相をして目の前をにらんでいる。

その視線の先には・・・

先ほどまでもっと遠くにいたはずの山崎が超身近にいた。



それから再び険悪なムードになる。

時間がたつにつれざわつきも徐々に小さくなっていく。

それだけ今の状況を皆が把握したということでもある。


やがてこの静粛を破る声が体育館中に響いた。


「ふざけやがって!」

「こっちが何も出来ないと思って!思い知らせてやろうぜ!!」



全校生徒のなかから声がきこえた。


この声は今の僕にでもすぐにわかった。

僕たちが一番恐れていた、簡単にいえば“過激派”の誕生だった。



勝利を目前にして・・・

ここまできておいて、最悪の方向へと進みそうになってしまった。




最後の一踏ん張りだ。

次でこの状況を終わらせよう。


僕たちはやっと見えてきたゴールに向かってラストスパート・・・

精一杯走り続けるのだった。




                        「決戦Ⅸ」  完

おまけ  春といえば・・・?


参加者→十六夜、五月雨、卯月、桶狭間




十「最近は寒くなったりあったかくなったり忙しかったけど、ようやく暖かさが定着してきたな。」


五「春ですよー。」


十「リリーホワイト自重。」


五「最初から出鼻を挫かれた・・・」


十「最近は東方ネタが異常に多いんだから自重しなさいッ!」


卯「絶対五月雨のせいでしょ。」


五「ぶ~ん(´・ω・`)」


十「・・・ま、あったかくなり始めたのはいいことだよな。」


桶「ただ桜は例年にくらべて少し開花が遅いよな。」


卯「・・・」


桶「・・・なんでそんなに怖い顔で俺をにらむの・・・?咲良ちゃん。」


卯「別に。」


桶「あ!俺いいこと思いついた!!」


十(うわ、さっそく嫌な予感・・・)

五(なんとなく想像がつくが・・・やめといたほうがいいと思うぞ・・・)


桶「咲良ちゃんが春に桜の花見をする!」


十「・・・」

五「・・・」

卯「・・・」

十「・・・」

五「・・・」


五「やってくれたなwどーすんの、この雰囲気?」


桶「なんでみんな反応しないの?ねぇ?ねぇ?」


五「あ~・・・虚しい。」


十「やめてあげてよぉ!」


桶「・・・じゃぁ・・・咲良ちゃんと桜とかけます。」


五「・・・その心は?(棒 」


桶「どちらも美しい!!(ドヤッ 」


卯「・・・」

五「・・・」

十「・・・」


十「・・・いや、上手くねぇよ。なに“上手いこと言ったぜ!”みたいな顔してんの?」


桶「え?俺的に結構いけたと思ったんだけどな。」


卯「・・・ちょっとこようか。」


桶「・・・なんでしょう、咲良さん☆どうしてそんなに優しい声なんでしょうか?」


卯「ふふふ、私はいつでも優しいわよ~。」


十「・・・嘘つけ(ボソッ 」


卯「なんかいった?」


十「なんにもいってないでありますッ!!」


桶「俺は時々思うんだ。春といえばやはり桜。桜といえば花見。」


十「うんうん。」


桶「花見といえば昔から人々が花を見て想いをよせ、明るく前を向かわせる行事。桜は世の中を明るくしてくれようとしてくれているのだと。」


五「そーなのかー。」


十「だから東方ネタは自重しろと(ry 」


卯「・・・スルーすればいいじゃない。」


十「なに?お前、そんなんでいいと思ってんの!?」


卯「え?」


十「わかるネタがあれば突撃する、これ必須すぐるだろうが!ネット世界のマナーなんだよッ!!それともなにか?まさかのわかるネタをスルーミアしろってのか?お前は鬼か!?」


五「スルーミア・・・誰が上手いこと言えと(ry 」


桶「上手いか・・・?ま、とりあえず落ち着け。」


五(・・・しばらくは違う方向で攻めよう・・・)



十「ま、話はズレたけど・・・そろそろ本格的な春だからな。皆は春といえば?」


桶「入学式!」


十「ロリコン(ボソッ 」


五「ぶっwww」

卯「アハハハ・・・キモッ(ボソッ 」


桶「てめぇら、なにやらされてる感丸出しの反応してんだよ!」


十「話を続けようか。」


桶「お前らも入学式は懐かしい思い出だろ?」


五「すでに覚えていないという孔明の罠w」


十「記憶力悪いな、おい。てか孔明関係ねーw」


桶「ついに主人公にまで“w”の飛び火が・・・!」


卯「・・・というか、花見、入学式以外にはないの?」


十「う~ん・・・春一番・・・とか?」


卯「あ~、台風もどきね。」

五「あらぶる突風w」


十「すごく嫌な言い方。」


桶「実際風はかなり強いからな。目にゴミが入るんだよな・・・」


五「目が!目がァァァァァァァ!!」


十「お前、ホントなんでもありだな。」


五「すごいだろ?(キリッ 」


十「いや、褒めてない。」


桶「咲良ちゃんは何か思い浮かぶ?」


卯「花粉症。」


十「・・・」

桶「・・・」

五「・・・」


卯「なによ?」


十「いや、よくもまぁ、毎回毎回そうマイナスなことばかり思い浮かぶなぁ、と思ってな。」


卯「えっへん!」


十「言っとくけどすごくねぇからな?てかいやだよ、マイナス要素ばかり思い浮かぶヒロインなんて。」


卯「二次元に恋してる主人公なんてもっと嫌よ。」


十「なに!?」


卯「なによ!?」


五「・・・夫婦喧嘩が始まったお・・・俺らどうするよ?」


桶「・・・なんかホント、虚しいな・・・心の春もこないかな~・・・」


五「・・・あれ?前がかすんでよく見えないや・・・」



十「そういえば春といえば4月だよな。」


桶「そうだな。」


十「ということはアニメのスタートではないか!!」


五「今期は数がホントにヤバイからな。・・・全部見れるかな?」


十「気合で全部見る!!」


五「なんだろ、認めたくないけどすごく格好良く見える・・・気がする。」


十「これが世に言う“主人公補正”というやつなんだぜ。」


桶「有利だな、チクショー。」


十「こうしちゃいられない!!僕はこれから家に帰ってアニメを見なければ!!」


五「俺もだw」


十「こうしちゃいられない!帰るぞ、親友!!」


五「任せろ、親友!!」


卯「・・・うわ~・・・こういう風にはなりたくね~・・・」


桶(咲良ちゃんも大変だな・・・)


十「そういうわけで今回はここで終了とします。」


五「今回もありがとうございました(ペコリ 」



                

                  「春といえば・・・?」  完

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