計画
※これは卯月視点です。
今日は金曜日。
つまり明日から土日、休みとなる。
今まで何度か告白してきた男・・・
十六夜は何度告白しても落ちない。
攻略できない。
やはり連打作戦は無理があったか・・・
おのれ、「奴隷」のくせに、この「飼い主」である私をここまでてこずらせるとは・・・
しかし、真っ直ぐな連打作戦では無理だとしたら・・・
どうすればいい?
今までは告白すればそれで皆、私の前に跪いた。
ところが、今回は始めての告白失敗にせいで、いろいろと考えさせられる。
あの男はどのようにどの方向からどのレベルの力で押せば倒れるのだろう?
やはりこの土日をつぎ込もう。
どのように?
そこが問題である。
そんなことを考えていると・・・
「ねぇ・・・十六夜くん、笑ってるよ?」
フッと見てみると、たしかに笑っている。
気持ち悪ッ!
最低。
「卯月さんに追われすぎて精神的に狂っちゃったんじゃない?」
な・なんだと!?
失礼な!
怒りゲージが少しずつ少しずつ上がっていく。
「だぁ~!僕はいけれてなんてない!!」
「!!」
不意をつかれた。
今、まさに私が立ち上がろうとした瞬間に、十六夜という男が立ち上がったのだ。
へぇ・・・彼もやるときはやるんだ・・・草食系のくせに。なかなか上出来じゃない。
なんて思っている。
「ほぅ、いかれていない・・・か。じゃぁ、十六夜、この問題を解いてみろ。」
「え!?先生、そのノリはおかしくないですか?」
「なにをいっているんだ!さぁ、解け!」
先生に責められて、彼は困っていた。
ここで救えば、好感度アップか?
いや、そんなんでアップするわけがない。
彼の守りは堅い。
しかし・・・
彼はあんな問題も解けないのか・・・
まったく、馬鹿にもほどがある。
あれでよくこの高校にこれたものだ。
「おい、先公、その答え・・・25√3。」
すると、予想外のことが起きた。
長篠が十六夜を救ったのだ。
へぇ・・・彼って頭いいんだぁ・・・
ん?待てよ、救う?
救う?誰を?
・・・十六夜を。
・・・これだ!!
これを利用すればいいんだ。
私は完璧なる作戦を思いついた。
だが、それに彼がのってくれるかが、問題だ。
そもそもいつも体育館裏というのが問題なのでは?
じゃぁ・・・
そうだ、廊下にしよう。
廊下なら一般の奴らもいる。
そこで私に「泣き落とし」をされたら、あいつもさすがに参るだろう。
授業が終わり、休み時間になった。
思ったとおり、彼は長篠にお礼をしている。
これで私の作戦はうまくいく、そう実証されたのだ。
あとは誘うだけ。
「・・・あの・・・十六夜くん。」
肩をふれると、彼は一瞬ブルッと震えたような感じがした。
そこまで嫌われたか?
いや、それはないだろう。
びっくりしただけだろう。
とりあえず廊下まで誘う。
カモは所詮カモだ。
餌をまけば、しっかりそれについてくる。
馬鹿なやつめ。
「・・・あの・・・さ。」
「ん?なんだい?」
「・・・え~と・・・」
とりあえずいつもと同じようにいく。
急にとばしていって、勘付かれたら意味がない。
ここはゆっくり慎重に。
「・・・明日、1日でいいか・・・その・・・」
「?」
やはりここまでいっても気づかないとは・・・
相変わらず鈍感なやつだ。
しかし・・・問題が起きた。
当初の予定では「デート」にさそう、これが正解だった。
そして、そこでストーカーされ、「私は大企業の社長の娘だから」と理由をつけて、逆に彼に不安をあおる。
でも、実はそのストーカーは単なる私のまわし人。
使用人のうちの1人にやれせておけばいい。
で、彼を帰り道に使用人5~6人で囲ませる。
そのときに私がなんらかをして救えれば、作戦完了だ。
彼は私に感謝し、そして惚れるだろう。
実に見事な作戦だ。
・・・ところが・・・
いざ、いうとなると「デート」という言葉がでてこない。
いや、度忘れではない。
ただ、喉の奥に詰まったような感じだ。
なぜか言いにくいのだ。
だから言い換えることにした。
「・・・私のボディーガードになってほしいの。」
「・・・はぁ!?」
当然あっちの反応もびっくりだ。
我ながらよくもまぁ・・・こんな嘘がいえたものだ。
彼は根っからの運動音痴。
体系も細いし、喧嘩に向いていそうにもない。
どこからどうみても頼れない。
てか、誰がお前なんかに実際はボディーガードなんてつけるかっての。
「なんで・・・僕なの?」
しかし・・・
実際にボディーガードに誘うとなればこの理由しかなくなってしまう。
「・・・その・・・頼れそうだから。」
ここにきて、やはり「デート」といっておくべきだった・・・
そう思い始めた。
「ちょっと待って!僕が頼れそう?筋力だってないし、球技音痴の僕が?」
あ、自覚あるんだ?
なんて思ってしまう。
ふ~ん、自覚があるってなら、なおさら使えるわね。
「そうじゃないの・・・優しいから。・・・引き受けてくれそうだし・・・そういう意味で頼りになるから・・・」
こうでもいっておけばいいだろう、優柔不断な男には。
これが一番の正解答案だ。
「・・・でも・・・」
「お金はちゃんと出す!」
ここまでしても落ちないとは。
でも・・・
知ってるのよ、私は。
あなたの家が貧乏だってこと。
なら、お金が欲しいんでしょ?
だったら好きなくらいお金なんてくれてやる。
だから、おとなしく「奴隷」になれ。
「そういう意味じゃなくて・・・」
お金がほしくないの?
私はまたしてもびっくりした。
だって、あなたの家、貧乏なんでしょ?
なら、お金が欲しいんじゃないの?
そういう意味ってどういう意味?
私は完全にパニックになっていた。
授業中にあれほど念入りに作戦を練った。
どこでどう言うか、まだ考えた。
にも「ボディーガード」ということで作戦はめちゃくちゃになった。
我ながら、あのときの自分が憎い。
もう言えることがない。
この一言しか。
「お願い!」
この私が頭をさげているんだ。
断るなんて許さない。
だが、私には「なき落とし」というものがある。
もし、ダメなら最終手段で・・・
「・・・わかったよ・・・」
え?
今なんて・・・
わかった?
・・・勝った?
勝ったんだ!!
ざまぁみろ。
よくよく考えてみればこの私が負けるはずがないじゃないか。
妙なうれしさが体中にほとばしる。
「本当に!?ありがとう!」
これは今日で唯一彼としゃべっての本音だったのかもしれない。
これで計画はすべて出来上がった。
父は今、ニューヨークで仕事をしているから、こっちには帰ってこない。
使用人には、口止めをしておけばいい。
完璧だ。
これで・・・やっとあいつを落とすことができる。
この私の一歩は彼への考え方が変化する1歩となる。
ここでまた私は1歩、大切な思い出へ脚を進めるのである。
「計画」 完