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なんで僕が!?  作者: へたれ度100%
53/79

脅威 教

※学年主任視点の物語です。

 またこれは学年主任の考え方です

俺の目の前には、帝国主義を否定する大きな意志が9人そびえたっている。

彼らには「大きな意志」と「団結力」があった。


だが、それこそが彼らの一番の弱点なのだ。

「団結」などという、所詮は「人との和」に頼りすぎた考えをもった言葉など・・・

彼らにはどの程度までの「団結力」があるのだろうか。

仮に1つが崩れ落ちたら、どこまで保てるのだろうか。



「・・・とりあえず君たち・・・席に座りたまえ。」


校長はここでも冷静に対応した。

この状況でも、今までの状況でも一番校長が落ち着いている。


俺も彼を見習わなければならない。


ここは俺も一回落ち着こう。

相手の挑発にのって怒り狂っても、意味はない。


むしろ勝手に地雷を踏むことですらありそうだ。

冷静に少しずつ相手を攻めていく。



「・・・では確認するが・・・先ほどの騒ぎは、彼1人ではなく、きみたち9人全員が関係しているのだね?」

「はい、その通りです。」

「きみたちが・・・退学が怖くないのかね?」

「そんなのもう覚悟済みです。それに・・・いざ退学となれば、絆同盟全員でやめる覚悟です。」

「・・・」


校長は1つ1つを確実に確認していく。


いざとなれば全員でやめる、か。

全員がその覚悟ができているというのか。

仮にまだ覚悟ができていなければ、それは単なる押し付けたもの。

巻き込みでしかない。


しかし、彼らの目をみるに、どうやら全員が覚悟を決めているようだった。

皆、まっすぐな目をしている。


彼らはやはり自らを犠牲にしてまで帝国主義を解除しようとしている。


つまり先ほど話し合った男が彼らのためにやっていることではない。

ということが理解できた。



なら・・・

彼らは帝国主義を解除して、何が目的なのだろうか?




「私たちは誰一人見捨てはしません。どんな困難も私たちの絆で乗り越える、それがこの同盟の名前の由来です。」



それは明らかな9人による宣戦布告だった。


校長や副会長も目を細めた。

場の空気がほんの少しだけ重くなったように感じた。



「君たちの意思はわかった。・・・で?何が目的だね?」



そこだ!

そこを俺は一番知りたい。


だが、俺の期待している答えとは違った。



「この学校を「帝国主義」から解放するのが目的です。」


そんなことはわかりきっている。

その帝国主義解除をして、結局何が目的なのか・・・

そのことを俺は知りたいのである。




「・・・そこにいたるまでの経路は?」



どうやら校長も俺と同じことが気になっているようだった。


自らを犠牲にしてまで叶えたいことは何なのだろうか。

俺はもうこの歳だからともかく、彼らはまだ若い。

これから社会に飛び立つ「子供」なのだ。


その成長過程がいかに大切かは彼らが一番理解しているはず。

下手をすれば、人生そのものを棒に振ってしまう可能性すらある。


人生をかけてまで、彼らが行いたいことには確実に大きな理由があるはずだ。




「最初は十六夜と卯月の生徒会の権限「アルファー」解除のために動く予定でした。・・・が、考え方がかわりました。」



アルファー・・・

引き裂きのことか。


それがこんな大事になってしまうなんて・・・

こちらとしても驚きである。



そして彼らは「後に考え方がかわった」という言葉以降は語ろうとしなかった。

それは我々の前だからいえない、という理由ではなさそうだ。


おそらくこのことに関しては彼らたちもお互いに話をしていないのだろう。

だが、彼らは心を1つにしている。

だから言わなくても皆が理解できているだろう、という考えの表れでもあった。



・・・彼らの「団結力」は確かに通常の団結よりは強いようだ。

俺は今の言動からそれを読み取った。



「・・・なるほど。・・・だが、ここで帝国主義を解除したら、この高校の柱がなくなる。」



そうなれば、もはや「誇り」を教える、なんてことではすまなくなるのだ。


俺は教師だ。

今まで生徒たちに「誇り」というものを教えてきた。


が、結局聞く耳をもってはくれなかった。


だからこそ、帝国主義が一番の近道であり、教育の礎だと俺は気づいた。

これさえあれば、皆に「誇り」を持たせることができる。


俺はそこを目指しているのだ。

その実現まであと少しだというのに・・・

なぜ邪魔をするのだ!?




「その前に「生徒一人一人がしっかり意見を持てる学校」というのが目標でしたね?」

「矛盾してるんじゃねぇのか?」



またしてもその話か・・・

それは先ほど説明したばかりだ。


が、前に話した男以外の8人はそのことを知るはずもない。

仕方のないことなのだが、少し「要領が悪い」ように思えた。



「失礼だが・・・あんたらはこの目標を達成しようとする気はあるのか?」


相手は9人と増えたことでより豪快に・・・

単刀直入に言い切ってくるようになった。


だが、こちらとてその体勢のほうがやりやすい。



「ないなら、こんな目標、世間に堂々いうべきではないんじゃないじゃないですか?」


たしかにこの目標が一番の誤解を生んでしまっているのかもしれない。

とすれば、この問題はすぐさまに処理する必要があると思える。




「やろうとする気はある。」


だが、校長はその誤解を生んでしまっている可能性がある目標を「やる気はある」と答えた。


俺としてはこれ以上反対者を増やさないように・・・

誤解者を増やさないように取り消すべきだと思うが・・・



この目標はもともとは今の校長が言い出したことだ。

最初のほうにも若干ながらの反対派もいた。

しかし、それでも校長は折れず、現に今のようにこの目標を世間に発表している。


そんなにこの目標が大切なのだろうか。



「・・・だが、今や帝国主義はこの高校の柱であり、象徴であり、伝統なのだ。」


校長はその後に付け加えをした。


やはりこの高校は「帝国主義」は捨てられない、ということを遠まわしにいっているようにも思える。




「伝統を守るのは大切だ。」



伝統というのは引き継いでいく。

そしてよりよくしていくのだ。


そのための伝統なのだ。

そのための帝国主義だ。



「・・・裏でこそこそと続けてるのが、伝統だというんですか?」


あと3年あれば・・・

あと3年あれば世の中に公表する準備が整う。


そうなれば「裏でこそこそ」などといったこともなくなる。


だが、それをいえば、「伝統」の否定となってしまう。



「伝統に裏も表もない。続けてればそれは伝統なんだ。」



俺はそう答えた。

そう答えるしかなかった。

我ながら無理やりな答えだと自覚している。



「だとしても・・・裏で続けているような伝統を本校の象徴にするのはどうかと思います。」

「伝統を象徴にすることの何が悪い?」


またしても、我ながら無理やりな答えで返す。



「良い伝統は本校の象徴として残すべきだと思いますが・・・いらない伝統は捨てるべきです。そんな伝統、本校の象徴にも誇りにもなりません。」



長く続けてきたものは伝統となる。

そして、その伝統が周囲に対し、誇れるようになって初めて「象徴」となるのだ。


実際今までも帝国主義は弱弱しくも一応続けられてきたのだ。

それは立派な伝統をいえよう。


あともう一歩で象徴として、日本中に誇れるようになる。

この学校の誇るべきものとなる。


ホントにもう少しなのだ。



「・・・きみは・・・」

「卯月です。・・・卯月咲良。」

「!!」


そう聞くと、校長は顔色をかえた。


それもそのはずだ。

この高校は卯月家からの莫大すぎる援助とはいえないほどの援助をうけているからだ。

この高校と卯月家は切っても切り離せない仲になる。


というより、学校側がそういう関係でいたがっている。



「・・・なぜ言わなかったのだね、学年主任。」


校長はこちらを見て、静かにいった。


だが言うわけにはいかなかったのだ。



「・・・すみません、隠してたことは謝ります。ですが、いくら卯月家の人間でも、生徒に学校の方針をかえさせるわけにはいかないんです。」



そうなればこの学校が卯月家に乗っ取られた、といっても過言ではなくなってしまう。

それはもはや「伝統」や「誇り」などは跡形もなく消し去ってしまう行動となる。

形は学校であっても、所詮は卯月家の所有物となる。



「・・・というか、なんでそこまで帝国主義にこだわるんだ?」


今度はあちらからの質問だ。

先ほど馬鹿にされたぶんの仕返しもこめて答える。



「帝国主義は、上下関係をしっかり教えるための要となる。今の子供はお前らのように、上の人間にも平気で暴言をはくからな。」



帝国主義が完璧な存在であるということになぜ皆は理解しようとしないのだろうか。

俺はつくづく疑問である。




「あのなぁ・・・これは考え方の問題だ。地位なんて関係ねぇんだよ、じじぃが。」



だが彼らの態度も言動も一向に変わる様子はない。


しかしここには桐山がいる。

彼に注意させれば終わるかもしれない。


何しろ彼は彼らの担任である。

担任が相手となると厄介なはず。

ある程度のストッパーとなり、彼らの行動を限定することができる。


俺はそう考えた。



「ふん・・・桐山先生、あなたはどう思いますか?」


そう俺が問うと、桐山は少し考えてから静かに言い始めた。



「・・・私がこの高校にきて早3年。最初はおかしいと思いましたが、今はむしろ帝国主義は上下関係をはっきりわからせるために必要だと思います。」


素晴らしい答えだ。


この高校にきて少しして論争はしたが・・・

彼もやっと帝国主義の素晴らしさを理解したか・・・


担任である桐山の答えをきいて、目の前の9人は始めて顔色をかえた。

おそらく少し自信喪失につながったのかもしれない。


彼らはある程度桐山にも期待していたのかもしれない。

彼らを一番わかっていると思われるのは、他でもない、彼らの担任なのだから。



「ですが・・・」


だが彼の言葉はそこで終わりではなかった。

続きがあったのだ。



「彼らの必死な様子をみていて、考え方を改める必要があると思いました。」

「なに!?」


俺はその言葉を聞く、再び怒りの衝動にかられた。


桐山め、この期におよんで帝国主義反対派にまわるか!


・・・やはり生徒が生徒なら教師も教師。

というより、教師が教師なら生徒も生徒・・・か。



彼の言葉をきき、再び9人は顔を上げた。



桐山は、仮にまだ「反対」の心を持っていたとしても・・・

あきらめていたはずだ。


だからこそ今まで何も言わなかった。

たしかに、はじめの若い教師たちの論争が終了してからも、桐山や一定に若い教師たちはごく稀に抗議してきたときもあった。

だが、それは時の流れと共に、少なくなっていった。

今では完全に彼や若い教師たちの「火」は「消化」されていたはずだ。



それもそのはず、この学校の教師の半分以上が賛成だった。

彼らは「完全」なる「諦め」の下にあったはずだ。


本来、完全に消化された物質から、再び炎があがることなんてありえない。



まさか・・・

彼らが、その完全に消された桐山の火を再び燃え上がらせたとでもいうのか!?



俺は桐山の反対派復活と同時に、9人の脅威に初めて気づいた気がした。




「彼らは今、実際にこの高校の目標である「生徒一人一人がしっかり意見をもてる学校」というのを実現しています。」



俺にはそんな言葉は耳に入ってなかった。


この9人を甘く見すぎていた・・・

ということなのか?

この9人には「大きな意志」「団結」以外にも、さらなる武器があるとでもいうのか!?



俺の心は大きく揺さぶられていた。




「もし・・・彼らのように、のびのびとどの生徒でも意見をいえるようになれば、どれほどいいことでしょう。」


そして、ようやく桐山の言葉が耳に入るようになった。


のびのびと意見をいえるようになれば・・・だと?

それだけ上下関係が緩くなる!!

そうなれば、「我慢」や「気遣い」といった言葉を知らない生徒たちが増えていってしまう。


現に「我慢」「気遣い」が足りない人間が多いから、こんなにも犯罪が多く発生するのではないか!

このままいけば、確実にこの国は衰退していく!!



「のびのびと・・・だと?単に生徒が生意気になるだけだ。」

「帝国主義は子供たちが意見をいえなくしているだけです。それどころではない、個性・性格までも、抑圧しています。」



帝国主義による完璧な上下関係作成のせいで、意見をいえなくしている・・・


そう考えれば、たしかに「個性・性格」を抑圧しているのかもしれない。


だが、桐山の言葉には1つだけミスがある。

それは「抑圧」などではない。

むしろ「矯正」。


「抑圧」と「矯正」という言葉は違う。


抑圧は単に締め付けるだけで、何の得もない。


だが、矯正というのは違う。

締め付ける、という部分では同じかもしれない。

だが、それによって確実に良い方向に向かうのだ。



「個人の個性」?

「個人の性格」?

「個性や性格を尊重」?

そんなぬるいことをいっているから、マイナスな部分ばかりが増えていく。

長所である部分は廃れていく。


それは「人権の尊重」などでは断じてない。

単なる「甘やかし」だ。



「帝国主義はたしかに抑圧しているかもしれんが、この高校には必要なのだ。」



だが、俺はそこであえて「抑圧」という言葉を使った。


なぜなら、帝国主義は「抑圧」という意味でも役割を果たしている。

それこそが、「治安の維持」。


帝国主義における完全な上下関係で生徒たちを「矯正」し、帝国主義における絶対的権力で「治安を維持」する!


この国は、自由すぎるのだ。

自由すぎるから、こんなにも廃れていくのだ。


「廃れるのも自由」?

ふざけるな。



この国には、ある程度の「矯正」と「抑圧」を行えるシステム。

そう・・・まさに「帝国主義」のようなシステムが再び必要なのだ。




「学校とは勉学を教えるところであり、同時に生徒一人一人の個性・性格・意見をのばすところでもあります。その学校で抑圧していれば、何の意味もありません。」



桐山は若い。

だから、視野が狭すぎるのだ。


今のこの国を見てなんとも思わないのだろうか?


仮に何か思っていたとしても・・・

考えが甘すぎる。



先ほども思ったが、やはりこの国は自由すぎる。

だから、学校というシステムを使い、ある程度の「矯正」を行わなければらない。



学校とは、これから世に羽ばたく生徒に、多くのことを教えていくシステムだ。

それは決して「勉学」だけではない。

人としての「心」も教えていかなければならない。

その学校を甘くしてしまえば、彼らの心はさらにだらけきる!!


それを防ぐために、本来学校というものは存在するのではないのだろうか?


すなわち、学校は「抑圧」してこそ、本来の役割を果たすのだ。




「じゃぁ、仮に帝国主義をぬいて、この高校が荒れたらどうするつもりだね?」


俺は1つの仮定をだした。


これを貴様は答えられるか、桐山!!



人の心を育成する学校そのものが荒れてしまったら・・・

そのときにはもう遅すぎるのだ!!




「それこそ、我々教師の仕事でしょう。間違っていることは間違っていると生徒に自覚させる。こんな抑圧よりよっぽど効率的だと思います。」



生徒が果たして、そこまで聞く耳を持つだろうか・・・


前の高校ではまったく聞く耳を持たなかった。


彼の言うことはたしかに正論かもしれない。

だが、できる確率は?

正論でも成功率が低ければ意味はない。



「貴様!教師だろうが!彼らは学校に歯向かっているんだぞ?注意するのが普通だろうが!!」


目の前の9人は学校の伝統、「帝国主義」に歯向かっている。

それはもはや、学校そのものに歯向かっているも同然だ。


それはすでに「荒れ」というものの一歩手前・・・

いや、もうそのものに入っているのかもしれない。


桐山がいうように、本当に教師の注意でとめられるのなら、彼らをとめてみろ。

証明してみろ。




「彼らは彼らで正しいと思っていることをやっているのみです。それを私にはとめる権限はありません。」



それこそ「教育放棄」だ!!


やはり桐山は若すぎる。

何一つわかっていない。




「我々は教師です。教師の仕事は生徒たちの指導・育成であり、抑圧ではありません。」



そう、指導・育成が我々教師の仕事だ。

それを否定できる者はもはやいまい。


だが問題なのは、生徒たちがどこまで我々の努力に振り向いてくれるか。

振り向いてくれないからこそ、「矯正」システムである「帝国主義」を使うのだ。



帝国主義はどこまでも幅広く教育に役立つ。

ここまで完璧な帝国主義に、なぜ反対するのだろうか。




「帝国主義と抑圧はイコールではつながらない。」


彼らのいっている抑圧とは、「治安の維持」ではない。

「矯正」のほうである。


帝国主義による生徒の心の「矯正」は、「抑圧」とはイコールではつながらない。

言葉の通りだ。




「私たちは生徒たちの意見をきき、それが正しいか間違っているか、そこを指導しなければなりません。その意見を言えなくている帝国主義は抑圧とイコールでつながります。」



桐山のいうことは正論だが、やはり客観的な希望理論でしかない。




「やめたまえ。」



すると、校長の止めが入る。

またやってしまった・・・


校長の声で、ようやく頭に血が上っていたことに気がつく。

我に返る。



「桐山先生のいうことは正しい。学校は生徒の心を育てるところだ。」


たしかに「心を育てる」というところに対しての反論は俺もない。

だが問題なのは、そこではないのだ!


「・・・」


だが、それをまた言ってしまえば3度目の「進行妨害」となる。

ここは抑えるべきだ。


俺はどうにか抑えることにした。




「私は、彼らをとめることはしません。むしろ・・・「絆同盟」を応援します。」



帝国主義を否定する生徒の味方になるというのか・・・

まさか教師側からも9人側についてしまう人間がでるとは・・・



「絆同盟・・・それが君たちのチームの名前かね?」

「あぁ。」


やはり目上の人間に対してのマナーがなっていない。

彼の言葉遣いに再び不満を覚える。




「・・・彼らとゆっくり話しがしてみたくなった。すまんが、皆は席をはずしてくれないか?」



よかろう。

俺も彼らの戯言は聞き飽きたところだ。


俺は静かに校長室をあとにした。




だが、今回の彼らとの会話は無駄ではなかった。

何しろ、彼ら9人・・・

そう、「絆同盟」の脅威を知れたのだから。




俺はすぐさま生徒会へと向かう。


生徒会本部会議室へと入ると、そこには天王山はいなかった。



「・・・」


ま、本来は今は授業中だ。

いるわけもない・・・か。


冷静に考えれば気がつくことだ。

先ほどの頭に血が上ってしまった熱がまだ冷めていないようだ。




だが、今の俺には1分、いや1秒として無駄にできない。

一刻も早くあの「絆同盟」とやらをとめなければ、火はどんどん燃え移っていく。



「・・・ということだ。」


俺は手始めに、帝国主義を尊重する同志たちに先ほどの話をした。



「くっ、ここまできて!!」

「生徒会を至急動かせるべきだ。」



彼らも皆、自らのできることを探し始めた。


これで・・・

まずはよし!!




その日の放課後。

なんともタイミングの良い出来事が起こった。



「お久しぶりです、主任。」

「おぉ!!」


大学に進んだ三方ヶ原はやってきたのだ。



「どうです?今の生徒会の様子は?」


これは素晴らしくいいタイミングだ。


俺は教師たちと同じように、今の状況をこと細かく説明した。




「なるほど・・・」


彼は顎に手をあて、いつしかのように目を細める。



「・・・わかりました。この三方ヶ原、可能な限り現体制の収拾に協力します。」


彼はにこやかに微笑みながらに言う。

だが、彼はもはやこの高校の人間ではない。


どうするのだろうか。




「可能な限り放課後にこの高校へと足を運びます。その後は私がアドバイザーとして生徒会を支えます。」


なるほど・・・


去年だったかにも、ホントに軽い「反帝国主義運動」がおきそうになった。

そのとき、彼は火が拡大する前に、すぐに事態を収拾してみせた。


・・・そのやり方に手加減などない。

力でねじ伏せたのだ。


だがそれも実力がなければできないこと。

しくじれば、大失態へとつながる。



つまり、彼が放課後の会議に参加したり、多くの指揮をとったりすれば・・・

かなりこちらとしても心強い。



「・・・協力感謝する。」





そして、それからさらに日はたった。

その日の放課後・・・

生徒会はついに動いた。


「闇討ち」の決行を決心したのだ。



俺はその「闇討ち」決行の少し前の時間にPC室へとやってきた。

ここには生徒会のなかでも、三方ヶ原と同じぐらい勝つためなら手段を選ばない男がいる。


俺がドアを開けて入ると、その男は静かにこちらに拳銃を向けた。

・・・モデル銃だろうか?



「なんだ・・・あんたか。」


その男は、パソコンの頭に椅子から長い足を組んで乗っけている。

ポケットからはイヤホンがでていて、彼の右耳についている。


右手でマウスとキーボードを器用に操り、明日に配る予定のプリントをワードソフトに打ち込んでいる。

左手では、モデル銃らしきものをもっている。



彼の後ろには2人の生徒がいる。



「なぁ、紀龍?」

「はい、なんでしょう?」


2人のうちの1人は「紀龍」という名の生徒。

たしか生徒会警備部の男だった男の1人だ。


・・・現在はこの男の部下、ということにでもなっているのだろうか。



「今回の闇討ち、成功すると思うか?」

「はい、これだけ大規模な闇討ちは初だと聞きますし、我らの勝利は確実だと思われます。」


彼はその答えに、フッと少し笑みを浮かべる。



「お前は?西本。」


もう片方の男はめがねをかけていて、いかにも「勉強派」という感じの男だ。

西本という名の男。


・・・彼はたしか監視部の人間じゃなかったか?



「私も紀龍の意見と同意です。むしろ負けるほうが難しいほうかと。」

「そうか・・・」



その言葉にまたしても満足気な顔をする。



「・・・主任はどう思いますかい?」


彼はプリント作成のため、右手で画面もキーボードも見ないで打ち続けている。

恐ろしいほど正確で、早い。


左手では、今はモデルガンらしきものに何か細工をしているようだ。

口に細い棒をくわえ、これまた器用になんらかの細工をしている。


彼はその左手にある細工している銃を見つめつつに俺に問う。




「俺も彼らと同じだよ。勝つと思う。」

「・・・そうですかい。」



彼は笑みをこぼして言う。



「きみはどう思うんだ?」

「俺ですか?」


彼はそういうと、左手にあるモデルガンを机の上へと起き、回転式の椅子をクルりとまわしてこちらのほうへと向いた。



「負けると思いますね。」


それから彼は先ほどの笑みを消していった。


その言葉に皆は目を丸くした。




「それはいくらなんでも考えすぎでは?」


西本は苦笑しつつ言う。



「あのなぁ、勝負ってのは数が多けりゃいいってもんじゃねぇ。しかも今回は一気に全員で攻めるんじゃなくて、半数以上は警備だ。」

「しかし・・・」

「治安維持部の人数はせいぜい十数人。あっちは9人だが、あっちには・・・紀龍、お前のモトチューの「最強コンビ」がいるんだろ?」


彼の言葉に西本は少し考える。



「しかし指揮は陽炎さんがとるんですよ?」

「あいつは戦略的意味では向いてねぇよ。・・・警備部最高責任者のほうが向いてると思うんだが、本人が反対しちゃぁ、外されるのも無理はねぇわな。」



たしかに陽炎は対人戦には強い。

だが、最高責任者として指揮などはしたことがなかった。


彼は指揮するものというより、むしろ攻撃する側に向いている人間だった。



「あの女ですか?」



警備部の最高責任者のことだろうか。


警備部の最高責任者は2年生だ。

彼女には圧倒的カリスマ性がある。


それは俺も納得だった。


故に彼女は指揮するほうに向いている人間ともいえた。

だが、先ほどのこの男の言葉から、彼女は今回の闇討ちに反対をしたようだ。

結果外されたらしい。




そんなことを思っていると、急にドアが開いた。



「・・・言ってるそばからご登場だぜ。」


入り口からは3人の女性が入ってきた。


真ん中にいる、小柄な女性が、その警備部最高責任者・・・

「厳島」だ。




「今回の闇討ちにおける警備部投入は誰が許可したのかな?」


ついて来るなり、彼女は目の前の男に抗議をした。



「さて・・・誰だったかねぇ?」

「・・・少なくてもボクは許可してないんだけど。」


彼女は自分のことを「ボク」というらしい。



「警備部最高責任者の許可なく、勝手に警備部を使わないでくれるかな?」


なんだか気まずい空気になる。



「そうはいったって、あんたは外されたんだ。しゃぁねぇだろ?」

「貴様・・・」


彼女は目の前の男をにらむ。



「厳島さん、落ち着いてくださいですわ。」

「その通りです。無駄な争いは人と人との間に溝を深めるだけです。」


後ろの2人が彼女をとめる。



「とめるな、癒梨、輝!」


右にいる、「ですわ」口調を使うのが「砕川さいがわ ひかる」。

左にいる、データ的分析と最低限度の言葉しかしゃべらないのが「凛動りんどう 癒梨ゆり」。


どちらも女性である。



「ここは冷静になるべきですわ。」

「その通りです。怒りに身を任せれば的確な判断ができなくなります。」

「・・・」


2人にいわれ、しぶしぶ彼女は後ろに退く。



「今回の闇討ち・・・負けるよ?」


それから厳島は顔色1つ変えない目の前の男に冷静にいった。



「かもな。」

「・・・きみは参加しなくていいのかい?」

「俺はここでプリント作りに専念しろ、と会長に言われてますんで。」


彼は意地の悪い笑みを浮かべて言う。



「鴨居くんも今回はきみについていけなくなったかい?帰っちゃったみたいだね。」


鴨居・・・

鴨居かもい 神威しんい」という名の男。

皆からは「神威」と親しまれている、バスケットボールが非常に得意な背の高い男だ。



「このままだと・・・陽炎くんも失っちゃうよ?きみはそれでいいのかい?」

「神威はまだ失っていない。陽炎とて、生徒会であるという自覚ぐらいはあるはずだ。」


彼は少しだけ顔色をかえた。

やはり彼とよく一緒にいる「神威」と「陽炎」を失うのは彼も恐れているのだろうか・・・




「そんなことより、こんなところで遊んでていいですか、厳島さん。」


彼はあえておちょくるような口調で言う。



「もうすぐ生徒会幹部会議が始める時間でしょう?」

「くっ・・・ボクはきみの人形じゃない。ボクのやるべきことはボクが決めるよ。」


彼女はそう言い残すと、静かに出て行った。



「おっと・・・闇討ち開始の時間が迫ってますね。・・・俺もいってきます。」


紀龍はそういうと、部屋を出て行った。



「今回のが失敗すれば、俺も本気を出さないといけなくなるのかねぇ?」


彼はパソコンを見つめ、苦笑する。



「どうでしょうかね?ただ今回は必ず成功しますよ。」




その日の闇討ちは彼と警備部最高責任者である厳島以外誰もが成功すると思っていた。


彼の名前は「ヒマツ・飛沫」。

学校の看板男。



・・・その日の闇討ちは失敗に終わった。




                        「脅威」 完

おそらく次回で学年主任視点物語は終わると思います。


次回もよろしくお願いします(ペコリ

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