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なんで僕が!?  作者: へたれ度100%
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意思

今、絆同盟ならびにB組同盟は校長室内にいる。


前々にきたときより味方は多い。

が・・・

相変わらずピリッと張り詰めた空気がある。

ここにいるだけで胃が痛くなりそうである。



「・・・」



ここにいる先生は学年主任。

・・・だけのはずなのだが、校長と桐山もいる。


校長と桐山は他の先生たちを説得する予定だったのだが・・・

わけあり今、こうして前と先生たちは同じメンツで話している。


だが前と決定的に違うことは・・・

川口が味方。

そして、校長と桐山が最初から味方。

B組が味方。


・・・味方が多い。



さて・・・

校長と桐山がここにいる理由・・・

それはほんの数分前にさかのぼる。



「きみたち・・・やはり先ほど他の先生方を説得してみたが・・・学年主任についてくときかない。」


校長は困り顔で言った。



「学年主任を説得しないと・・・話をきいてくれない・・・か。」

「あぁ。みたいだな。」

「面目ない。」



校長と桐山は下を向いた。

とくに桐山はこぶしにグッと力をいれて、自分の無力さに飽き飽きとしていた。



(生徒たちがこんなにもがんばっているというのに・・・教える側の人間である教師が・・・何もできないなんて・・・)



ひたすらに説得しても帝国主義賛成派の先生たちは聞く耳をもたなかった。

だからいくらいってもきいてくれなかったのだ。


・・・そう、何一つきいてくれない。

帝国主義という伝統をつないでいくことが、この学校のためと信じきっている。

こちらも「負けられない」という意思がかたいが・・・

あちらも相当かたいという表れである。



「じゃぁ、先生たちは私たちの説得に協力してくれませんか?」


咲良が言う。


咲良の目は、4月・・・僕に告白したときの目とはだいぶ違う。

あのときの咲良と比べたら、天と地の差だろう。

過去の咲良が今の咲良をみてらびっくりするだろう。


今の咲良には、教頭がいった「熱いハート」がある。

決して負けないというかたい意思、折れない心。

闘志が燃え上がっている。


それは皆ももちろんそうだが・・・

やはり4月から一番かわったのはこいつだな。

そう改めて実感する。




「そうですね。お二人が協力してくれれば、かなり説得力は上がりますしね。」

「異論はないな。」


皆も賛成だった。

まぁ・・・当たり前だな。



その後、学年主任がくるまでの間に少しアドバイスをもらった。



「君たちはもう少し自信をもって攻めなさい。」

「え?」


自信をもって?



「生徒会の脅威を取り除いたのは、紛れもない・・・君たちだ。」

「あれはまぐれというか・・・ながれというか・・・」


実際、運がよかっただけだ。



「そこだよ。そこをもっと誇りなさい。ながれとかまぐれとかじゃなく、君たちの諦めない心が勝利を導いたんだ。」


校長ははっきりという。

この言葉はほんの少しだけ、皆を勇気付けてくれる。




「それに・・・君たちは間違ったことなどしていない。皆のためを思っての行動だろ?」


なぜそんなことを確認してくるのだろうか?


・・・学年主任はそういうところを攻めてくるのだろうか?



「君たち・・・学年主任は頭がかたい。だからちょっとやそっとじゃ考えをかえない。」

「・・・」

「君たちは、ナルシストだな、と思えるぐらいに自分たちのすごさを最大限にアピールしなさい。」


おいおい・・・

それ、すごく苦手なですけど?



「じゃないと勝てない。」

「わかりました。」


なんていったが・・・

正直つらいな。



「このことを忘れないでくれたまえ。」





そうして今に至るわけだ。

この状況で、学年主任に「諦めない心」がどれだけ強いかを見せ付けてやろうじゃないか。



「・・・学年主任、あなたが帝国主義賛成派の中央にいるとききました。」

「ほう?」

「単刀直入にいいます。帝国主義を解除してください。」



と、いってみるが・・・

解除してくれるわけもないだろう。

そんな簡単にいけば、むしろつまらない。



「帝国主義賛成派の中央にいる男が、そんな簡単に解除を認めると思ってるのか?」


ということは・・・

認めるんだな?

中央にいるということを。


これで確認はできた。



「いや、思ってねぇ~よ。てかよぉ、帝国主義になんで、んなにこだわるんだ?」


時津風が呆れ顔で言う。

背もたれに腰をつけて、少し見下し風味をだしている。

手をくんでいるから・・・なんとも態度がでかい。



「それはこの学校の伝統だからだ。」

「それだけか?」


時津風は目を細める。

体勢をなおし、今度は前に体勢を傾ける。

机にひじをのせ、手をくんでいる。



「それだけだ。」

「・・・ホントに?」


相変わらず念を押す。



「あぁ、何度もそういっているだろう?」

「いや、あんたがそこまで帝国主義にこだわるってのは学校ためじゃなく、むしろあんた自身のためなんじゃないかと主ってな。」

「なに?」



学年主任も目を細める。




「なんでそこまで帝国主義にこだわる?」

「だから伝統のため・・・」

「たかが自分とは直接関係ないこの学校の伝統になぜそこまでこだわる?」

「・・・」


学年主任が黙った!?

これは時津風が攻めているところが有効だということだろう。



「まぁ、あんたの祖先がこの学校を作ったってなら別だが、それはないだろう?」



あと「転生」の可能性もあるぞ・・・時津風。




「あんた、帝国主義についてどう思ってるんだ?」

「それは素晴らしいと思う。今の生意気な餓鬼どもにはちょうどいいものだ。」


ムカつく返答だな。

だが・・・

冷静さを失えば、物事を見極める力を失い、自ら地雷を踏むことすらある。

ここは慎重にだ。



「素晴らしい・・・ねぇ?その素晴らしさを消したくないというあんた自身の意見もあるんじゃないのか?」

「あればどうだというんだ?」


あったなら・・・

それはとんだ「詐欺」だな。

今まで「学校の伝統のため」とかなんとかいってきたくせに、結局は自分のため。

「学校の伝統のため」というのは、自らの考えを貫くための「盾」でしかない。




「今まで散々学校のためとかいってきたのがうそだったってことになるな。」

「学校のためを思っていたのは本当だ。この学校は現に帝国主義によって支えられている。」


まだ、そんなことをいってやがる・・・



「で?実際にあったのか?」

「どうだろうな?君たちの想像にまかせるよ。」


逃げた?



「それより・・・君たちこそ、なぜ帝国主義をそこまで解除したがるのだ?」



逃げるついでの置き土産が「反撃」かよ・・・



「帝国主義はどう考えてもおかしいだろ?皆を抑圧してる。」



川中が言う。

川中は正面突破タイプ。

何事もまっすぐ言う。



「抑圧?笑わせるな。何も言わない連中が何もしないから、帝国主義で支えてるんじゃないか。」

「俺も最初はそう思ってました。」



川口が静かに言う。



「だけど・・・生徒会にいて、それは間違っていると気づきました。そう・・・彼らが気づかせてくれました。」

「間違ってる?」

「はい。帝国主義で生徒会は強大な力を得ています。それが怖いから・・・何もいえないし、何もできないんです。」


学年主任は少し考え込んだ。

やはり元生徒会副会長の川口がいうと説得力があるのだろうか。



「皆だって、本当は帝国主義を解除したがっているんです。」

「その証拠は?」

「証拠・・・ですか?」


川口は困った。

まぁ、実在する証拠はないが・・・

証拠がないわけではない。



「あるさ。さっきの放送をきいただろ。あれはD組の連中も帝国主義を解除したいという気持ちのあらわれだ。」


川中が川口をフォローする。



「だがそれはあくまで「D組」のみでしかない。」


ということは・・・

学校全体が反対すれば帝国主義は解除されるのだろうか?



「たかが1割の考えだよ。」



1割もいるというのに・・・

それでも「たかが」なのか?



「ですが、現に1割帝国主義反対派がいるのはたしかですよね?」



そうだ・・・

それでも相手に反対派がいるということを確信させなければならない。




「なぁ、君たちはもし残りの9割が帝国主義賛成だったらどうするつもりだね?」

「潔く負けを認め、行動を終了します。」



いまやっていることは帝国主義の解除だが・・・

それを皆が望まなければ意味がない。

僕たちの行動は何の意味もないのだ。




「その覚悟はあるのかね?」

「はい。」



意味がなければやる必要もないし・・・

無理に自分の考えを押し付ければ、歴史で言う「独裁」になる可能性すらある。




「逆にお尋ねしますが・・・もし残りの9割が帝国主義反対派だったらあなたは帝国主義を解除してくれますか?」

「君たちがその覚悟があるというのであれば、私も覚悟を決めよう。」


いったな?

その言葉・・・あとで後悔させてやるぜ。



「覚悟を決め、他の先生たちにも説得しようじゃないか。これでフェアだ。」

「それ・・・お約束ですよ?」

「あぁ。」



とりあえずここまでもってこれてよかった。

早く勝負がつきそうである。




そんなときに急にドアがあいた。



「主任!生徒たちが帝国主義を解除しろと騒ぎ始めました!!」


国語科の先生が報告にきたのだ。


他の生徒たち・・・というのは先ほど放送にあった「D組」のことだろうか。



「なに?」

「現在、各担任・副担任がとめていますが・・・」



「各」?

ということは・・・



「・・・一応きくぞ。規模は?」

「ほぼ全クラスです。」



それは・・・

帝国主義反対の動きがついに学校中に知れ渡り・・・

しかも、それが始動されたことを意味する言葉だった。


グットタイミングとはこのことだ。


おそらく先ほどの放送で、消えかけた火がまた燃え上がったのだろう。

「空駆ける天馬」作戦がここまで重要だったとは・・・

だが、ほめるべきは「空駆ける天馬」ではない。

この学校の生徒1人1人である。

ついに自らの意見を持ち、積極的に言うようになったのだから。



「生徒会は何をしてる?」

「今、会議中です。」

「すぐに警備部を使って、各担任・副担任とともに生徒の動きをとめろ。」

「なっ!?」



おい・・・

さっきの約束はどうした!?




「学年主任!先ほどの約束は?」

「忘れた。」



なっ!?

またしても逃げた!?


なにが「フェア」だよ!?



「・・・主任、あなたはそれでも教師ですか?」


桐山はついに口をひらいた。


(私としては生徒たちに主任を説得してもらいたかったのですが・・・仕方ない。)


桐山はほんの少し残念そうな顔をする。

だがそれでも学年主任の手段の汚さには目を瞑れなかったらしい。



「なんだと、貴様!?」


その言葉に学年主任がブチ切れる。



「教師でありながら生徒たちを抑圧し、さらには生徒との公平な約束を破るというのですか!?そんなの教師を務めている権利なんてありません。」


相変わらず桐山先生は言うときには言う人である。




「桐山先生の言うとおりだ。言ったことには責任を持ちたまえ。」

「くっ・・・」


校長も言う。

なんか・・・まわりがみんな敵って可哀想だな・・・

とまで思えてきてしまう。



「ですが!帝国主義はこの学校の柱で・・・」

「この高校の目標は「一人一人がしっかり意見をもてる学校」です。帝国主義はその役目を果たすための柱で重要な柱ではない。」

「その柱が邪魔となっているのだ。きるしかあるまい?」


校長と桐山の最大支援である。

おかげでずいぶんと押せている。

あとは・・・

学年主任が納得するかどうかの問題だ。




「生徒たちが意見をもてないから、帝国主義を使って・・・」

「見たまえ。彼らはすでに立派に意見を主張しておる。帝国主義は必要ない・・・と。」

「!!」



学年主任の目にうつったのは、絆同盟とB組同盟の36名。

だが、その後ろには、今、この場にはいないが全校生徒が見えた。



「私の考えは・・・間違っているというのか・・・」

「間違っているのではない。・・・だが、もう帝国主義は必要ない時代なんだ。私たちは・・・時代の流れについていけてなかったんだ。」



校長は静かに言う。



「これからは・・・若い世代に託そう。我々の教えられてきた考えは時代遅れなのだよ。」

「・・・」


学年主任は下を向いたままである。



「彼らなら安心だろ?こんなにも立派に意見している。勝てないとわかっていても間違っていることを指摘し、ここまで進んできた。これこそが・・・本来の日本人の姿じゃないのかね?」



それは・・・

やはり太平洋戦争のことか?


アジアを開放するために・・・

アジア全体を植民地化させないために・・・

強大な列強諸国に戦いを挑んだ帝国。

日本人としてのプライドをかけて戦った。


そういう考えもあるが、校長や学年主任の時代なら、彼らの父たちにそう教わっていてもおかしくはない。



「安心してください。少なくても俺たちは・・・日本人としてのプライドは持ち合わせています。」

「・・・」

「それは・・・ここで帝国主義のやり方を教わったからかもしれません。・・・でも、もういいんです。」


桶狭間が静かに言う。


たしかにそうだ。

もしここにこなければ、僕はただただ平凡な高校生活をおくって・・・

その後、普通に大学にいって、普通に仕事をするだけ・・・

「誇り」とか「絆」とか、そういう話は多分関係なかったと思う。


ここにきて・・・

僕たちは「勉学」よりも大切なものを学んだんだ。

・・・帝国主義のおかげで。



「もう彼らは十分日本人としてのプライドを理解している。・・・十分にやりすぎたのだよ。」


校長が学年主任の肩に手を置く。



「くっ・・・私は・・・私はただ・・・教師として生徒たちに日本人としての誇りを知ってほしかった・・・」

「わかっています。そのおかげで俺たちは、大切なことを学ぶことができました。」


帝国主義のおかげで大切なことを学び・・・

そして、この高校生活を非常に充実させてくれたのは、言うまでもない。



「私たちはやりすぎた・・・そろそろ生徒たちを束縛するのをやめよう。そして・・・彼らを信じるんだ。」

「・・・」


学年主任はゆっくりとこちらを見直した。


先ほどと同じで、36人が勇ましく立っている。

その後ろには約600人の生徒たちが助けを求めている。




「・・・わかりました。」

「!」


学年主任が首を縦にふった。



「彼らを信じましょう・・・」

「うむ。」


校長は満足気だった。



「きみたち・・・この私をここまでズタボロにしてくれたんだ。・・・もうとまることはない。きみたちの意見を通しなさい。」


それは学年主任からの応援だった。



「ここで学んだ・・・大切なことを証明してきなさい。」

「はい!!」


36名はいっせいに返事をした。

そう・・・希望に満ち溢れた返事だ。


・・・ついに希望が見えてきたのだ。

勝利という名の希望が。



「とりあえずきみたちは一回教室に戻ってなさい。俺たちはすぐさま会議をする。」

「学年主任が納得したんだ。もう学校が君たち側につくのは時間の問題だ。」


学年主任と校長がそういった。

学校が・・・味方につく・・・

これなら・・・勝てるかもしれない。





「フフフ・・・これで・・・ホントに勝てるかもしれないね。」

「あぁ・・・」


帝国主義の解除。

ホントにそれが実現すればいいな・・・

そう思って、何日たっただろう。


今・・・僕たちはそれに王手をかけたのだ。




さぁ・・・生徒会。

次で終わらせようじゃないか。

1つの物語に・・・

ピリオドを打とう。


僕たちは最後の作戦に向けて、教室で作戦を練るのだった。


                   

                              「意思」  完

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