表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんで僕が!?  作者: へたれ度100%
43/79

努め

※川口視点の物語です。

また今までのに比べるとかなり長めです(3~5話分ぐらいあるかもしれません)

今日は木曜日。

「オメガ」が出されたというのに、絆同盟・・・

いや、今では「B組」そのものが立ち上がり、「B組同盟」として、2つの同盟が動いている。


こんな大きなことがおきたのに、空は相変わらずのオレンジ色。

皆は帰り道で「オメガ」が出されているというのにもかかわらず、普通に会話して帰っている。






俺は生徒会を入学してから今まで2ヶ月やってきた。

小学校で学年委員長、中学校で委員会委員長、のちに生徒会会長・・・

そして高校で、生徒会1年副会長となっている。


いろんなことをやってきたが・・・

志はどこへいってもかわらない。


より良い方向へもっていく。


それが生徒会の仕事だと思う。

その心を忘れたことはない。


入学して、生徒会に入り、1年副会長として、天王山会長から菊の紋章を3ついただきに本部会議室会長室へ訪れたとき・・・



「この学校の連中は自らで動かない。自らで動かないなら、我々生徒会が引っ張っていくしかない。」


そういわれた。

ラッキーなことに、この高校は「帝国主義」だった。


生徒たちが行動不能なら、生徒会の絶対的力を使って皆を良い方向へ動かしていけばいい。


そう思った。




だが・・・

俺はあるときにそれが本当に正しいことなのか・・・

疑うときがくる。


1回目は・・・

卯月咲良に「アルファー」を宣告したときだ。



「今日の出来事で生徒会は、正式に「危機レベル4」と判断したため、「プラン・アルファー」の処置がとられることとなります。」

「なっ!?」


彼女の顔に浮かんだのは、大きな悲しみと絶望。


たしかに十六夜星矢のことを考えればこのほうがよいのかもしれない。

だが・・・



「なんで私と十六夜の関係がレベル「4」なんですか!?」

「これ以上あなたが必要以上の接触を行うと、彼が壊れてしまう危険性があります。」

「そ・そんな!!」


彼女の目には涙があった。

彼女がどんな人物だったか・・・

それは良く「第5同盟」・・・

いわば、姐さんと時津風によくきく。


だけど・・・

今回もホントにそうなのだろうか?

仮に遊びだったなら・・・

涙をこらえようとする姿勢など見せるのだろうか・・・


このときまでに「アルファー」の宣告をしてきたのは3組。

が、これが一番最悪である。

やはり・・・人の関係は「帝国主義」などでは解決できないのではないだろうか・・・


彼女が大きな悲しみと絶望に立たされている・・・

そうとわかっていながらに、次の言葉を出さなければならない。


「つまり・・・これ以上彼に近寄らないでください。」



・・・やはり「アルファー」を宣告するのは気分の良いことではない・・・



「逆らった場合はどうなりますか?」


彼女は勇敢にも抗おうとした。

だが・・・

彼女1人の行動が十六夜星矢や他の人物を傷つけるのであれば・・・

放置するわけにはいかない。



「これは生徒会じきじきの厳令です。あまり逆らわないことをオススメします。」

「くっ・・・」

「伝えるべきことは伝えたな。よし、我々は学校に戻るぞ。」

「えぇ。」



このときはまだ卯月咲良という人物を理解していなかった。

姐さんのいうように遊びだと思っていた。

いくら涙が出せても、演技という可能性もあるからである。







その次の日。

生徒会についての不満・疑問が生まれる2回目のこと。


十六夜星矢はその日、学校にこなかった。

やはり・・・十六夜にとっては、かなり深刻な問題なのだろうか。


結局その日は何事もなく終わるように見えた。

だが・・・

放課後。


桶狭間たちは、生徒会に抗うという話をしていた。


生徒会に抗う?

そんなことしたら・・・


姐さんには基本、すべてを報告している。

だから・・・俺の気持ちも理解してくれている。


姐さんは先陣をきって、彼らをとめにいった。

生徒会から見た正当な理由をつけて・・・

だが・・・

それでも彼らはくじけない。



「今日は十六夜は学校にこなかった。・・・それだけで十分アルファーを発動させるだけの条件は整っている。」

「んなのわからねぇぜ?まだ十六夜と卯月ちゃんは話してない。」



そういえば・・・

喧嘩してから、十六夜と卯月は話をしていない。

もしかしたら・・・低い確率だが、仲直りしたいと思っているかもしれない。

え?なんで低い確率か?

それは「第5同盟」からきいたが、十六夜星矢は基本、毎回卯月に付き合わされて困り果てていたようだ。

そんな困っている男が面倒な女と仲直りしたいと思う確率はきわめて低い。



「それが・・・お前らの意思なんだな・・・」


我慢できなかった。」

どうしても・・・

自ら目で彼らの意思を確認したかった。



「一番きかれたくないやつにきかれちまったか・・・」

「・・・」


場に気まずい空気がただよう。

すると姐さんがいった。


「・・・まぁ、やれるだけのことはしてみたらどうだ?」


やはり・・・

俺のことを思ってくれての言葉。

ホントに感謝である。



「え?」

「せいぜい足掻くんだな・・・」



そういうと姐さんはでていった。

そこまでやってくれたなら・・・

俺も少し言っておかなければ。


彼らの意思はかたい。

ならば・・・

せめて彼らが有利になれることだけ・・・

アドバイスしてしておいてやろう。


「・・・これだけはいっておきます。生徒会を敵にまわすなら・・・卯月さんと十六夜くんが仲直りしてからのほうがいいと思います。」



彼らの意思は・・・かなりかたい。

教室をでてからも、心に残る。

もう・・・生徒たちは自らの脚で前に進むことが出来るのではないだろうか?

生徒会の絶対的力なんてなくても・・・


これが2回目の疑問。








そのさらに次の日・・・

案外、人の関係の修復というものは簡単なことらしく・・・

その日、彼らは2人で歩いてやってきた。

それをたまたま廊下で見かけた。



「お前、だからそれはダメだろ!!」

「なんでだよ・・・納豆には卵だろ・・・」

「お前はわかってない。普通はネギのみでシンプルかつ単純に食べるんだ。」

「・・・シンプルも単純も同じ意味だし・・・てか、金持ちでも納豆食うんだな・・・」

「当たり前だ!!まぁ・・・わざと腐らせている豆を食う、ときいたときは一瞬ひいたがな・・・」

「・・・お前、もしかしてこの前の話を根に持っていたのか?」



なんてどうでもいい話をしながらにやってくる。

こうしてみていると・・・2人とも自ら意見を通そうとするので必死だが・・・

とても楽しそうだ。



「・・・これはもう「アルファー」の意味はないな。」



急いで生徒会本部会議室に報告しにいこう。

サッさと解除して、2人には笑顔でいてほしい。

姐さんだって、今の2人を見れば納得してくれるだろう。



だが・・・

現実はあまくなかった。

これが・・・生徒会の強大な権限で支配することが正しいのか疑問になる3回目のこと。



「・・・それはどういうことです?」

「我々生徒会は十六夜星矢と卯月咲良の関係に対してだした「アルファー」を解除しない。」


どういうことだ!?

あんなに・・・

もうあんなに楽しそうだったのに・・・

あの笑顔を消せというのか!?



「その理由を教えてください。」

「なに?」

「でなければ、私は彼らに解除した、と報告します。」


天王山会長は目を細める。

会長は女性だが・・・

抜け目のない、いわば戦略家である。



「なら言おう。」

「・・・」


あの笑顔を消すほどの理由・・・

相当な理由なのだろう・・・



「それは、この高校での生徒会のプライドを守るためだ。」

「・・・はい?」


プライド?



「我が生徒会はこの学校が創立されたから無敗で、プライドの高い組織だ。自らだした権限を自らでとくなど、面汚しもいいところ。生徒会の顔に泥をぬることはできん。」



それだけ?

たったそれだけで・・・

あんなに幸せそうな2人を救えないというのか?



「お前も生徒会なら自覚しろ。生徒会が帝国主義の権力をもてなくなれば、生徒会は朽ちるのみ。」


生徒会の権力の依存のために・・・

自らがだした権限を解除しない?


それが・・・

生徒会のやることなのか?



「どうしてもというのなら、3年になってお前が会長を務めるときにかえればいい。」

「・・・」

「この学校をかえたいなら、耐えることだ。私はかえる気などない。」


こんなことを・・・

皆に報告しろというのか?


だが・・・

それでもあと2年たてば・・・

俺が会長になれれば・・・

この学校をかえることができる。


それまで・・・

俺は生徒会をやめるわけにはいかない。


俺の夢は・・・

この学校をかえるんだ!!


そのとき、そう心に刻んだ。



それから教室に戻り、皆に報告する。



「・・・理由を言えよ、川口。」


桶狭間が言う。


いえるわけない。

言ったら・・・

天王山会長が前にいっていた・・・

「ベータ」「ガンマ」・・・

そして最悪「オメガ」が発動されてしまうかもしれない。

そんなこと・・・させない。



「それは機密事項だ。言うことはできない。」


物事を隠すには、生徒会であることを最大限に生かす。



「な・・・なんだと!?」


しかし・・・

その態度が気に食わなかったらしい・・・

桶狭間が逆上した。

想定外のことである・・・



「おい、生徒会は生徒の代表だろうが!!その生徒代表が隠し事なんてしていいのか?」


わかってる!!

だが・・・

言ったらこいつらは逆らうはずだ。

そうなれば・・・

最悪「退学者」が増えてしまう。


それだけは避けなくてはならない。



「機密事項だといっている。」

「なんだよ!?機密事項って!生徒会はいつもいつも機密事項じゃねぇか!!」

「いつもではない。伝えるべきことはしっかり伝えている。」

「ふっ・・・わかったぞ。」


すると桶狭間がニヤリとする。



「?」

「おい、てめぇが継続させるように報告したんだろうが!!あぁ!?」



何もいえなかった。

それは、彼が言っていることが俺のしたこと同然であるから。

ほぼあたっているから。


俺が・・・

もっとしっかりとうまく報告できれば解除できていたかもしれない。



「それともなんだ?そう報告するように時津風か川中にでも頼まれたのか!?」


なっ!?

桶狭間・・・

いくらクラスメイトでも、言っていいことと悪いことがある。

だが・・・

俺が逆上すれば何の意味もなくなる。


ここは冷静に対処するしかない。


「それは違う!姐さんは・・・時津風は・・・そんな人じゃない。」

「そうか?実際お前らはいつも卯月ちゃんを敵視してるじゃねぇか!!」


「第5同盟」は卯月咲良を敵視しているのではない。

「警戒」しているんだ。

それは前々に時津風が教えてた。

だが・・・

それと同時に時津風から絶対に言うなという命令を受けている。

言うわけにはいかない。



「おい、やめろ、桶狭間!!生徒会副会長の胸倉をつかむなんて、下手すれば校長室行きだぞ!!」

「そうだ、ここは冷静になれ。」

「くっ・・・悪かった。」

「別に気にしていない。」



彼が胸倉をはなした。


だが・・・

問題はそこではない。

これほど大きな騒ぎにしたんだ。

本部に伝わらないはずがない。



急いで報告に行く。


「失礼します。」

「・・・いきなり騒ぎがあったようだな。」


やはり・・・

情報が早い。



「はい。」

「なんでもお前の胸倉をつかんだ・・・とか。」

「えぇ。」


どこまで詳しく知ってるんだ?

これは下手に嘘はいえない。



「おい!」

「はい。」


すると会長は2年副会長に話しかける。



「その生徒とやらを退学させるように職員室に持ちかけろ。」

「なっ!?」



退学!?

なぜ!?



「なぜ彼を退学にする必要があるんです?」

「先ほどに言ったばかりだろ?生徒会はプライドが高い。逆らった者を甘やかすわけにはいかん。」


それは・・・

見せしめにするということか?

たかが生徒会のプライドとやらを守るためだけのために・・・



「申し訳ありません!!今回の喧嘩、実は個人的な考え方の喧嘩でして・・・今思えば私が悪いんです。」


あまりに都合のいい話すぎる・・・

普通は誰も信じてくれないだろう・・・

まして前にいるのは会長である。



「・・・個人的な考え方・・・ねぇ?」


だが、会長はそこをついてこなかった。



「どういう考え方だ?」

「はい。それは・・・」


咄嗟の判断で言う。



「納豆に関してです。」

「・・・納豆?」

「はい。納豆にはネギをいれるか、卵をいれるか・・・という話でして・・・」


朝にさりげなく耳に入った楽しそうな2人の会話をパクることにする。



「私はネギでシンプルにいくべきといったのですが。彼は卵でスルッといくべきだといいまして・・・」


会長は目を細めている。

ヤバイか・・・



「個人的に納豆は好物でして、彼がそのシンプルな食べ方を馬鹿にしたので・・・それが許せなくて殴ったんです。」



いやいや・・・

普通、そんなに馬鹿なことはしないが・・・

一応つじつまはあっているような気がする。




「・・・珍しいこともあるもんだ。」

「はい?」

「お前がそんな小さなことで逆上するなんて・・・」

「先ほども言ったとおり、好物でして・・・」


そういうと、会長は微笑んだ。

おそらく初めて俺が見た会長の笑顔である。



「そうかそうか・・・わかった、ならそいつの罪は軽くしておこう。」

「ありがとうございます。」

「・・・が、校長室ぐらいは覚悟してくれ。」

「はい。十分です。」



まぁ・・・

退学よりは遥かにいい。

生徒会のプライドとやらを考えると校長室でもかなり軽いところだろう。

会長に感謝しなければな。



「ホントにありがとうございます。では失礼します。」



そういって、会長室をでる。

・・・疲れた・・・







そして、明くる日。

放課後に会議室に向かう途中・・・



「おい、川口。」


不意に声をかけられる。

聞きなれた声である。




「姐さん・・・どうしたんです?」


俺の後ろには、何か雰囲気がスッキリとした姐さんがいた。



「・・・1つききたいことがある。」

「・・・はい?」

「・・・「引き裂き」は誰の意思で続いている?」



なぜそんなことをきくのだろうか・・・

姐さんは絆同盟につくのか?

まぁ、それはそれでいいのだが。


絆同盟は、今はまだクラス内には噂はひろがっていない。

だが・・・いつまでもつのやら・・・



「・・・お前の意思はわかっている。理解しているつもりだ。だから、生徒会副会長である責務を真っ当すればそれでいいと思う。」

「・・・はい。」



そういえば、前に姐さんと時津風には、自分の夢を話したっけ・・・

たった数日前のことなのだが・・・

その夢を達成させたい・・・と。


姐さんや時津風は俺のことは俺のことを理解してくれている。

もちろん俺も理解している。

その信頼関係なら・・・

隠し事はなしだ。

そう前に時津風にいわれた。



「・・・「引き裂き」は生徒会そのものが動いています。私が報告したわけではありません。」



隠し事がなしというのならば仕方のないこと。



「・・・なぜ生徒会は「引き裂き」を解除しない?もう卯月と十六夜は問題ないはずだ。」

「ここだけの話ですが・・・生徒会には「プライド」というものがあります。」


それもついこの間にきいた事実・・・

そして、俺の夢を作り上げた原因。



「生徒会は権力が強く、学校ができて以来、一度も敗北はありません。」

「・・・」

「そんな生徒会が自ら発動させた権限を、解除するなんて恥ずかしい真似はできないんですよ。」


姐さんは目を丸くする。


そりゃそうだろう・・・

誰もがきいたらびっくりする。

まさかこんな理由だったんてな。

くだらなすぎる。



「恥ずかしい・・・だと?」

「えぇ。一度自らが発動させた権限を解除するのは、生徒会の甘さを見せる行為で、生徒会そのものの顔に泥を塗るようなものなんです。」


それを解除するために俺は夢を作り上げた。

・・・姐さんたちには夢の内容しかいっていない。

このことは知らないはず。


おそらくそろそろ気づき始めたのだろう・・・

俺が急に夢なんて言い出した理由を。



「・・・このことは黙っていてください。」


こんなことをひろめるわけにはいかない。



「わかっている。」

「・・・姐さん。」

「なんだ?」


今度は俺が質問するばん。

聞いておきたいことをきいておくことにする。



「姐さんは・・・「絆」同盟につくつもりですか?」


すると姐さんは少し考えた。

どうなのだろう・・・

まだ考え中ということなのだろうか・・・



「・・・もしかしたら・・・な。」


やはり・・・

考え中ということか。



「そうですか・・・なら、たとえ敵になったとしても、あのことだけは忘れないでください。」

「わかっている。」



あのことというのは、もちろん「夢」のことである。

俺が3年になって会長になったら・・・

この高校を作り変える!

その「夢」。



「・・・これを。」



少し間があいてから姐さんは俺に一枚の封筒をさしだした。



「これは?」

「いわば・・・「絆」同盟の生徒会に対する「宣戦布告書」だ。」



宣戦布告書・・・

となれば、生徒会と絆同盟との衝突は避けられない・・・




「・・・これを会長に渡せ・・・と?」

「そうじゃない。これを生徒会から・・・お前から学校に渡して欲しい。」


宣戦布告書を会長ではなく、学校に?

それは学校も協同で協力するということなのだろうか・・・

わからない。



「これが私が生徒会としてのお前に頼む最後の頼みだと思う。」


参ったな・・・

そういわれると断れない。



「・・・わかりました。中身は?」

「確認するな。」

「はい。」



確認するな・・・

ということはやはり中身はヤバイものなのだろうか・・・


・・・と、ヤバイ!

時間が・・・

また会議に遅刻してしまう。

以前に遅刻したら、大変な目にあったからな・・・



「・・・失礼します、姐さん。」

「・・・頼んだぞ。」



封筒をバックにしまいこみ、走る。

とりあえず封筒は後回しだ。

まずは遅刻しないようにしなければ!!



会議室に入ると、すでに会議は終わっていた。

完全なる遅刻。

いや・・・これじゃぁ、サボりか・・・



「申し訳ありません。」

「おう、もう終わったぞ。」

「何について話してたんですか?」



親しい先輩・・・

2年副会長にきいてみる。



「ほら・・・お前が前に遅刻したときに話し合ったことの続きだよ。」


あ~・・・

あのときの。

しかし、その内容は教えてもらっていない。


会長いわく、遅れてた者に会議の内容を説明する必要はない・・・らしい。



「いい加減に前の会議の内容を教えてくださいよ・・・」

「悪いな・・・これは会長命令だ。」

「はぁ・・・」



なんで教えてくれないんだか・・・



しかし、会議は終わっているのであれば・・・

サクッと校長室にいって、封筒を渡してくるべきだろうか。


・・・というか、封筒・・・

どうするべきか?

これが「宣戦布告書」なら・・・

これをだせば衝突するのは確実。

自らで引き金をひくことになる。


やはり中身も確認するべきだろうか・・・

確認して安心できる内容のものなら学校に渡すべきだろうか・・・


だが・・・

姐さんの頼みも断れない。



生徒会としての「務め」を果たすか・・・

それとも、友からの頼みを果たすか・・・



気が付くと目の前に会長がいる。



「どうした?そんなに難しい顔をして。」

「・・・」


気遣ってくれるのだろうか・・・



「すでに会議は終了している。用がないなら邪魔なだけだ。去れ。」


が、会長がそんなゆとりのある人なわけがない。



「は・はい・・・」

「・・・自分が正しいと思った道を進め。」

「え?」


会長はもしかして俺の考えを知っている?

んな馬鹿な・・・



「おい、こいつをつまみだせ。」

「はい。・・・悪く思うな。」


2年副会長はそういうと、俺を生徒会室からだす。


廊下は誰も歩いていない。

静かだ。

・・・静かすぎる。



「はぁ・・・」



そんな、まるで時間が停止しているような空間のなかでため息を1つつけば・・・

わざと大きくため息をしているような感じで、大きく聞こえる。



「自分の正しいと思った道を進め」・・・か。


会長が何の意味もなくそんなことをいうわけがない。

やはり・・・理解していたのだろうか?

となれば・・・

生徒会としてではなく、1人の生徒として、封筒を出せ。

ということなのだろうか?

生徒会を優先する必要はない・・・と?



いやいや、待て。

思い上がるな。

ここは本来の意味でとらえるんだ。


俺は今の生徒会をどう思っている?

やはり、この学校の生徒たちは自ら脚で進もうとしないのは見てきた。

けど・・・

やりすぎではないのか?

いうならば、正当防衛を通り越して、過剰防衛。

そんな感じだ。



カバンのなかをみると、問題の封筒が1枚。



「参ったなぁ・・・」


でるのはため息と弱音のみ。

やれやれ・・・生徒会副会長という立場であるのに・・・

これでは二重スパイもいいところじゃないか。




しかし・・・

姐さんには絶対的覚悟があった。

もちろん絆同盟にも覚悟はあるだろう。

仮に「ベータ」や「ガンマ」が発動しても、空手黒帯の姐さんと剣道が上手い時津風ならなんとかなるだろう・・・

だが・・・

他の絆同盟のメンツはどうする?



すると足音がきこえる。

だんだんこちらに近づいてくる。



「・・・どうした?」


やってきたのは監視部の生徒。

十六夜と卯月を監視している生徒である。



「も・申し訳ありません!!」

「だからどうした?」



急に謝られても困る。



「変な女に痴漢扱いされて逃げ出してきたら・・・その間に十六夜と卯月を見失いました。」

「・・・」



変な女?

女ということは・・・

姐さんのことか?

だが、痴漢扱い・・・

などということを姐さんはしない。

姐さんは堂々と正面突破派の人だ。



「教室からなかなかでてこないので、階段付近で教室からでてくるのを見張っていたらいきなりでして・・・」

「わかった。」



おそらく絆同盟の人間の仕業だろう・・・

となればうちのクラス?

うちのクラスにそんな悪知恵の働く女などいただろうか・・・


それに・・・

絆同盟の女といえば、卯月と・・・仮に姐さん。

2人のみ。

いくら2人でもあわないな・・・

なら・・・

新しい人物だろう。



だが、実際そいつは生徒を傷つけることなく追い払った。

となれば・・・

なかなかの戦力となるはず。

姐さんに時津風、それにその女となれば・・・

なんとかなるだろうか。


まぁ、桶狭間や関ヶ原は結構運動神経がいいし・・・

万が一「ベータ」や「ガンマ」が出されても大丈夫だろう。



「・・・渡しにいくか。」



「自分の正しいと思った道を進め」。

なら、俺は姐さんの頼みを優先する。


生徒会の務めも大切だ。

この学校をよりよくしていかなけばならない。

が!

その前の俺は1人の生徒なのだ。


その後、校長室で校長に封筒を渡した。

もちろん生徒会として。

中身は見ていないため、どんなことが書いてあるのか、サッパリだ。


・・・絆同盟と生徒会の衝突の引き金をひいてしまった。

だが、絆同盟には生徒会とやりあう意思があり・・・

なおかつ望んでいるのなら仕方のないことだ。


だが・・・

俺はあくまで生徒会側の人間。

生徒会としての「務め」を貫く。

たとえ姐さんが相手でも・・・

秩序を乱すことはさせない!!






生徒会・絆同盟の衝突は意外と早くきた。

それは月曜日のことである。



「おい、てめぇら!!よく耳をかっぽじってききやがれ!!!」


絆同盟のリーダー的存在である桶狭間が壇上で暴言をはいた。


「なっ!?」


俺はそのとき、初めて壇上に桶狭間が上がっていることに気づいた。

何しろ俺は生徒会警備部の責任者と今後どこを中心に警備するかを壇上に行くための入り口少し入ったところで話し合っていた。

壇上は死角となっているため、見えなかった。



「急いであいつをたたき出せ!壇上で暴言など許すな!」


次に耳に入ったのは、会長の怒りの声。

俺も急いで生徒会本隊と合流して、階段を上る。


壇上にでるまであと少し・・・

というところでとまった。


なんでとまったか?

それは・・・そこに・・・



「・・・時津風?」



友である「時津風 斬」がいたからである。


やはり・・・

姐さんと時津風は絆同盟に入ったか。



「よぅ、川口。元気にしてるか?」

「そこをどいてもらおうか、1年坊主。」


会長が時津風をにらみつける。

だが、それは時津風にはきかない。



「は?きこえねぇな、3年ガール。女ってのは、もう少しおしとやかなもんだぜ?」

「なんだと!?」


これ以上会長を怒らせるとまずい。



「おい、時津風!そこをどけ!」

「へっ、絶対通すかよ。何が何でも、死守するって、決めてんだからよ。」


だが・・・

時津風の意思も絆同盟に入ったことでかたくなっていた。



「なに?」

「あいつと・・・絆同盟の意思をこんなところでとめるわけにはいかねぇんだ。」

「・・・」

「ここを通りたかったら、俺をぶん殴ってでもいくんだな。・・・まぁ、当然正当防衛はとらせてもらうがな。」


時津風は竹刀の先端をこちらにむける。

下手に突っ込めばけが人がでる。

あいにく今は集会ということで、皆、武器をもっていない。


・・・待機するしかなかった。


待機している間に桶狭間はいろんなことをいっている。

たしかに賛同できるところもある。

だが・・・

そうしているのは、生徒が動かないからだ。

動かないなら動かさないと、腐りきる一方である。



「大体、明日体育祭の予定だったのに、急に来週に変更だ。生徒会の都合のせいでコロコロとかえられて、おかしいと思わないのか?」

「!!」



この声がきこえたとき・・・

生徒会の皆の顔色がかわった。



「何も知らないくせにテキトーなことをほざきやがって!!」


2年副会長が珍しく逆上する。

・・・どういうことなのだろうか?




その後も桶狭間は奮闘するが・・・

やはり生徒たちは動かない。


桶狭間・・・

そして絆同盟。

お前らはわかっていない。


生徒たちはお前らが今見ているように動こうとしない。

だから、無理やりでも動かさないといけないんだ。

生徒会は正しい。




「最後に一言。俺は・・・生徒会ならびに霧島第3高校に宣戦布告する!!!」



そういい残すと諦めたのか逆方向の出入り口に去る。


姐さん・・・

こういう意味だったんですか・・・

「宣戦布告」というのは。


ですが・・・

生徒会は正しい。

間違っているのはあなた方絆同盟です。



「あっちには先生たちがいるはず。」

「・・・いくぞ。」


会長はそういうと出入り口をでる。


・・・校長室か。




校長室前につくと会長は言う。


「ここから先はお前に任せる。」

「はい?」

「これはお前の責任だ。・・・言っている意味がわかるな?」


同じ学年・・・

そして同じクラスのやつがここまで大きいことをしでかしたのだ。


誰の責任?

ときかれれば、馬鹿でも俺の責任というだろう。


しかも俺は引き金となる「封筒」を学校に渡したのだ。

なおさらである。



「わかってます。」

「私は生徒会本部会議室で会議をひらく。あとで報告しろ。」

「はい。あ、警備部を何人か置いておいてください。」

「わかっている。」


そういうと会長は皆を引き連れ、会議室へと戻っていく。

さぁ、俺も桶狭間の説得といこう。



校長室に入ると、すでに話し合いは始まっていたのだろうか・・・

だが、空気は気まずく、校長や学年主任も桶狭間も口を開こうとしない。


俺が席について少ししてから・・・



「・・・いつまで黙っているつもりだね?」


校長がようやく口をひらいた。



「いつまででも黙ってますよ?」

「ふざけるな!!」

「ふざけてなんてないっすよ?」

「・・・なぜきみはあんなことをしたんだね?」


校長は冷静にきく。

何事も冷静が一番である。

これでやっと話が進む。



「だっておかしくないですか?この学校は「生徒一人一人が意見をしっかりもてる学校」を目指すんですよね?そんなデカデカと目標をいっておきながら、上からの命令は絶対服従・・・それじゃぁ、意見なんてもてませんよ。」

「・・・」



校長は下をむく。

このままでは押される一方。

反撃しなければ。


こちらが説得されるわけにはいかない。

間違っているほうに説得されるわけにはいかないのだ。

たとえ一部あっているとしても。



「桶狭間・・・いいか、この学校は「意見をもつ」のを目標にしてるんだ。」



そう・・・

ここは「意見を持つ」ことのみを目標にしている。

決して「意見を発言する」ことを目標にしているわけではない。




「「意見」を言うことを目標にしているわけじゃない。」

「・・・はぁ・・・」



彼からでるのはため息。

呆れているのだろうか・・・

だが、間違ったことは言っていない。



「意見を持つだけなら、誰にだって出来る。それを言うことが大切だって・・・小学校で俺は習ったぜ?」

「だが、現に学校は「持つ」ことを目標にしているだけで、「言え」とはいっていない。」



すると彼は苦笑した。

なぜ・・・この状況で笑う?



「なるほど。理解した。」



彼の口から出た言葉は「理解」を示す言葉。

意外と簡単に説得できたのだろうか・・・


だが彼の言葉には続きがあった。



「・・・つまり、この高校は・・・社会で役立つことは何も教えてくれないくそ高校だってことだな。」

「なっ!?」



今の発言は・・・

学校代表の校長がいる前で言う言葉なのだろうか?

こいつは・・・

生徒会と学校。

2つとも敵にまわすつもりか!?




「お前、口を慎め!!」

「あぁ?てめぇこそ口を慎んだらどうだ?じじぃ。」

「なに!?」

「校長室ってのは静かにするもんだぜ?・・・うるせぇんだよ、ギャーギャーとよ。」

「!!」



桶狭間は学年主任をにらみながらに言う。


やはり挑発をかけている。

冷静さを奪うのが目的なのだろうか・・・



「やめなさい。」

「・・・申し訳ありません。」

「まぁ・・・退学にしたけりゃすればいいさ。」


次に彼からでた言葉は意外な言葉。


まったく・・・

次から次へとびっくりさせてくれる男だ。



だが・・・

こいつは「退学」を恐れていないのか?




「なに?」


つい聞きなおしてしまう。



「けどな・・・そしたら俺はこの高校がバリバリの帝国主義だって、世間に公表するぜ。」

「!!」


一瞬で校長室が青ざめる。

凍りついたように・・・


今まで何回かこの学校は生徒に公表されたことがあるが・・・

毎回学校・生徒会の協同で、それをもみ消している。

生徒たちにも「帝国主義」の圧力をかけ、嘘の証言をいわせている。


だが・・・

それでも、そろそろ限界である。

何度もそれが通じるわけもない。




「なぁに、俺は退学しちまえばもうこの高校には何の用もない。なんだって言えちゃうもんね~。」


これはブラフ(脅し)じゃない・・・

こいつは退学になったら・・・

ホントにやるつもりだ。


くっ・・・

弱みばかりをついてきやがって・・・


だが生徒会の正義はそんな簡単には折れん。

折られてたまるか。



「貴様!!!」

「うるせぇっつってんだろ・・・じじぃ。」

「わかった、退学は免除しよう。だが・・・この高校の考え方をかえるつもりはない。」



校長の「退学は免除する」という言葉をきいて・・・

安心するのやら、焦るのやら・・・


生徒としてはうれしいが、生徒会としては面倒である。

複雑な心境だ。

だが、やはり自分が救ったわけし、複雑な心境だが、それでも1人退学免除となるのはうれしいことだ。



彼の「退学」を免除するかわりに、この高校の考え方も曲げない。

フェアなやり方である。


だが・・・

それでも彼は納得してなかった。



「それじゃ意味ねぇんだよ。俺のことを退学させるかわりでもなんでもいいから、この帝国主義を正しやがれ。」



自らを犠牲にしてまでこの高校の考え方を正すことを要求している。


なぜ?

なぜそこまでして、この学校の考え方を正そうとする?


俺にはその理由がわからなかった。

だからついついきいてしまう。



「お前・・・退学が怖くないのか?」

「怖くなんてねぇよ。」



帰ってきた言葉は退学を恐れない姿勢と、絶対的な意思。


なぜだ?

なぜそこまでする?



「・・・なんでだ?なんでお前はそこまでこの学校を正そうとする?」

「・・・」



だが彼は黙り込む。



「なぁ・・・なんでだ?」

「どうだろうな?なんとなくだ。」



こんな大きな覚悟をしておいて「なんとなく」?

そんなわけがない。


だが・・・

時に男というのは、正当な理由があっても、「なんとなく」で済ますことがある。

それは一応自分も男だから理解できることだ。


おそらく説明するのが面倒なのだろう。

残念だ。

興味あったのだが・・・



「なんとなく・・・か。まぁ・・・自らが間違っていると思ったことを正すのをなんでだときかれたら、なんとなくって答えるだろうな。」



なんて念を押してみる。

が、彼は苦笑のみで黙談である。


なるほど・・・

何があっても意思をかえないつもりか。


彼の意思を曲げるのは不可能。

そう理解した瞬間だった。



「・・・お前の意思、理解した。」



これで・・・

思いっきりやりあえる。


お前が意思を曲げないというのならば・・・

生徒会の「敵」としてみるしかない。

それを防ぐために交渉してきたわけだが・・・

ダメなら仕方がない。


生徒会の正義を乱すものは誰だろうと許さない。




「帝国主義はこの高校の柱となっているものだ。それを抜いたら、倒壊するのみなのだ。理解してもらいたい。」


校長はすでに交渉で彼の意見を曲げるのは無理だとわかっているのに交渉を続ける。




「理解なんてできるかよ。まぁ、この学校にいていいってなら、地味にみんなを説得してでも、この学校を正してやるぜ。」

「ふん、たかが1年一人じゃ何もできないだろう?」



学年主任が鼻で笑う。


実際は1人じゃない。

今まで絆同盟を敵にまわすのは抵抗があったが・・・

もう完全になくなった。


生徒会は正しい。

「自ら正しいと思った道を進む」。

それは生徒会側にたつこと。

その証拠として、生徒たちは立ち上がらない。



するとドアが開いた。



「悪ぃ、邪魔するぜ?ここに桶狭間っつ~馬鹿はいないか?」



・・・時津風か。



「時津風!?」

「おぅ、いたいた。」


なぜ彼がここにいる?

ここの前には警備部を待機させておいたはずだ。



「おい、川口。」

「・・・なんだ?」

「校長室を警備するなら、もう少しまともな人材を使えよな・・・」

「あぁ。この俺・・・初心者でも、バットで勝てるレベルだったっぺ。」



・・・まさか・・・

警備部の連中を倒したってのか?

いや、時津風ならできる。




「・・・けが人は?」

「いねぇよ。」


え?

なら・・・

どうやってここまできた?



「ただ・・・少し寝てもらってるだけだ。」

「・・・寝てる?」


気絶させたのではなくて?

寝ている・・・

だと?




「これですよ。」

「えぇ?」


すると中島が前にでて、小さなスプレーをみせる。



中島華癒輝・・・

絆同盟3人目の女。

ということは・・・

金曜の痴漢扱いされたとかいうのは・・・

こいつか。



「護身用の催眠スプレーです。」



催眠スプレー?

そんなもの・・・護身用などあるのだろうか?


だが・・・

絆同盟は暴力を使わなかった。

力押しでもこれたはずだ。


こちらもこれで「ベータ」と「ガンマ」はだせないな。


そう思うと若干安心感にひたる。


ったく、自分は生徒会の立場にたっておきながら、相手の心配をするなんて・・・



「んで、話し戻すけどよぉ・・・学年主任のじじぃ、こいつ一人じゃないぜ?」

「あぁ、俺たち8人もこいつの仲間だ。」

「これで9人。絆同盟全員集合ってとこだな。」



さすが「絆」と名づけただけある。



「ったく・・・お前だけに特攻なんてさせっかよ。」


長篠・・・

クラスで将軍と呼ばれる天才。


「お前だけにいい顔はさせねぇぜ?」


関ヶ原。

クラスのムードメーカーの1人で、運動神経がいい男。


「それに、もともとは僕と咲良が原因だしね。」


十六夜星矢。

この騒動の根源の1人。

優しい男。


「えぇ。1人でも犠牲がでたら・・・その地点で負けよ。」


卯月咲良・・・

この騒動の根源のもう1人。

十六夜と出会ってからだいぶかわった女性。


「まぁ、スプレーで眠らせちゃいましたし・・・もう後戻りはできませんね?」


中島。

普段はオロオロとしているが・・・

まさかここまでハキハキと意見する女性だとは・・・



「ったく、どいつもこいつも熱いんだから・・・まぁ、そんな絆同盟に入った私も悪いんだがな。」


姐さん。

本名、川中 水旋。

空手黒帯の女性で、尊敬する人物。



「親友の親友はやはり親友。そんな親友を見捨てられるほど、俺はできてないからな。」



五月雨。

十六夜の親友で、いい奴。

やるときにはやるタイプの男。



「これで9人。これでこそ、絆同盟だな。誰も失わせないぜ?この同盟の絆にかけてな。」


そして・・・

時津風。

友達の1人で、剣道が上手い。



この9人で1つのチーム。

これが・・・これからの「敵」。



「やべぇ・・・ちょっと格好良すぎたな・・・最後の絆にかけてってのは、やっぱお前が言うべきだぜ・・・桶狭間。」

「お前がここまで熱くなるなんてな・・・似合わないぞ?」

「お・お前ら・・・」

「援軍到着ってわけです☆」



生徒会と敵対するチームには申し分ない。


絶対にお前らの目を覚まさせてやる。

お前らが・・・間違っているということを気づかせてやる。


たとえ・・・

尊敬する人物を敵にまわしても・・・

生徒会の正義を貫く。


あちらが「退学」覚悟済みなら・・・

こちらは生徒会の「務め」を貫く覚悟済みだ。



「・・・姐さん。」

「川口、封筒の件、感謝するぞ。」

「えぇ。」


封筒・・・

あの封筒のおかげで、自分のなかで生徒会が「正義」だと気づくことができた。

なにしろ、桶狭間があんなに求めても誰一人動こうとしなかったのだから。

感謝しなければならないのはむしろこっちのほうである。




「おい、貴様ら!!ここは校長室だぞ!」

「あぁ、聞こえねぇな、じじぃ。」

「声が小さいぞ?」

「そろそろ腰が弱ってきちゃったんじゃないですか?だから声がでないんじゃぁ・・・」

「なるほど・・・中島、お前、いいところつくな。」

「星矢、あんたもなんかいいなさいよ・・・」

「貴様ら!!!俺をなんだと思ってる!!!」

「うるさいですよ、学年主任のじじぃ。校長もさっきいったばかりじゃないですか・・・」



たったこれだけで、あのうるさい学年主任を黙らせた。


・・・目を覚まさせるにはほねがおれそうである。



「お前ら!!ただで済まされると思うなよ!!」

「うるせぇっつってんだろうが・・・この竹刀で頭ぶったたかれたいか?」

「そのあとはこのスプレーでおやすみなさい・・・でどうです?」


念の押しも悪くない。

かなりの強敵となりそうである。

だが、どれほど手がかかっても俺は彼らに生徒会が正義であることを認めさせる。




「くっ・・・」

「桶狭間・・・お前だけに責任は押し付けないぞ。」

「俺たちは9人で絆同盟だっぺ。」


チームワークはすでに生徒会の上である。



「さぁ、話し合いの続きと行こうぜ!!」

「・・・とりあえず君たち・・・席に座りたまえ。」



校長の冷静な声に皆は頷く。

こちらは熱くなってはならない。

熱くなったら冷静な対処ができなくなるからだ。


ここはクールに対処していくんだ。



「・・・では確認するが・・・先ほどの騒ぎは、彼1人ではなく、きみたち9人全員が関係しているのだね?」

「はい、その通りです。」


姐さんがはっきりと答える。

姉さんはやはり絆同盟側か・・・

改めて自覚する。



「きみたちが・・・退学が怖くないのかね?」

「そんなのもう覚悟済みです。それに・・・いざ退学となれば、絆同盟全員でやめる覚悟です。」

「・・・」


先ほど桶狭間一人にきいた質問。

・・・やはり皆も覚悟済みか。

玉砕覚悟の特攻・・・


だが・・・お前らに玉砕などさせない。

その特攻、軽くうけとめてやる!



「私たちは誰一人見捨てはしません。どんな困難も私たちの絆で乗り越える、それがこの同盟の名前の由来です。」


やはり相手には絶対的覚悟がある。

彼らの言葉がその証拠である。



「君たちの意思はわかった。・・・で?何が目的だね?」

「この学校を「帝国主義」から解放するのが目的です。」

「・・・そこにいたるまでの経路は?」

「最初は十六夜と卯月の生徒会の権限「アルファー」解除のために動く予定でした。・・・が、考え方がかわりました。」



やはり「アルファー」が原因か。

しかし、この高校の治安維持のためにはアルファーは使用不可欠。



「・・・なるほど。・・・だが、ここで帝国主義を解除したら、この高校の柱がなくなる。」


その通りだ。

最悪、荒れ果てる可能性も否定できなくはない。


生徒会は、自ら動こうとしない皆を動かしつつ、治安維持にも努めている。


これほどの正義、どこに「悪」があるのだろうか?



「その前に「生徒一人一人がしっかり意見を持てる学校」というのが目標でしたね?」

「矛盾してるんじゃねぇのか?」



絆同盟の切り札はやはりこれ。

学校目標のことである。



「失礼だが・・・あんたらはこの目標を達成しようとする気はあるのか?」

「・・・」

「ないなら、こんな目標、世間に堂々いうべきではないんじゃないじゃないですか?」



どの高校にも「目標」というものが設定されている。

この高校も、やはり「高校」。

目標を決めなければならない。

表向きに「帝国主義」と主張していないため、その関連ではいえない。


こちらにもこちらの事情がある。



「やろうとする気はある。・・・だが、今や帝国主義はこの高校の柱であり、象徴であり、伝統なのだ。」

「伝統を守るのは大切だ。」



この帝国主義は戦前からずっと続いてきたという。

それは生徒会無敗の歴史ともつながる。


これらの歴史は我々には誇りであり、守っていかなければならない。


だが・・・

守る必要などない。

何しろ、生徒会のやっていることは間違ってなどいない。

となれば、守る必要もないのだ。



「・・・裏でこそこそと続けてるのが、伝統だというんですか?」

「伝統に裏も表もない。続けてればそれは伝統なんだ。」

「だとしても・・・裏で続けているような伝統を本校の象徴にするのはどうかと思います。」

「伝統を象徴にすることの何が悪い?」

「良い伝統は本校の象徴として残すべきだと思いますが・・・いらない伝統は捨てるべきです。そんな伝統、本校の象徴にも誇りにもなりません。」



絆同盟と学校が直接対決をしているものの・・・

お互いにひく気を見せない。

学校側としても、帝国主義を解除するのは不安なのだろう。

何しろ、それがなくなれば荒れる可能性がある。

その場合、もうプライドもくそもない。



「・・・きみは・・・」

「卯月です。・・・卯月咲良。」

「!!」



校長室の空気がかわった・・・

一帯なんだと言うのだろうか?



「・・・なぜ言わなかったのだね、学年主任。」

「・・・すみません、隠してたことは謝ります。ですが、いくら卯月家の人間でも、生徒に学校の方針をかえさせるわけにはいかないんです。」



卯月咲良という人物は学校となんらかの関係があるようだ。



「・・・というか、なんでそこまで帝国主義にこだわるんだ?」

「帝国主義は、上下関係をしっかり教えるための要となる。今の子供はお前らのように、上の人間にも平気で暴言をはくからな。」



それは違う。

そんな上下関係のためじゃない。


学年主任の無能が・・・

余計なことを・・・



「あのなぁ・・・これは考え方の問題だ。地位なんて関係ねぇんだよ、じじぃが。」

「ふん・・・桐山先生、あなたはどう思いますか?」



学年主任はB組の担任、桐山先生に尋ねる。


やはり学年主任は好きになれない。

やり方が汚い。



「・・・私がこの高校にきて早3年。最初はおかしいと思いましたが、今はむしろ帝国主義は上下関係をはっきりわからせるために必要だと思います。」


桐山先生も・・・

上下関係を重視しているというのか?


この高校の先生たちはどいつもこいつも皆、上下関係を意識している!?


俺のなかで何かがかわった気がした。



「ですが・・・彼らの必死な様子をみていて、考え方を改める必要があると思いました。」

「なに!?」

「彼らは今、実際にこの高校の目標である「生徒一人一人がしっかり意見をもてる学校」というのを実現しています。」

「・・・」

「もし・・・彼らのように、のびのびとどの生徒でも意見をいえるようになれば、どれほどいいことでしょう。」

「のびのびと・・・だと?単に生徒が生意気になるだけだ。」

「帝国主義は子供たちが意見をいえなくしているだけです。それどころではない、個性・性格までも、抑圧しています。」



まさか・・・

帝国主義は皆を導いているのではなく・・・

皆を抑圧している!?

だから皆は動けない。


いや・・・そんなことはあるはずがない。

あるはずが・・・

だが必ずしも否定はできない。


この新たな可能性は俺を絶望の淵へたたせる。




「帝国主義はたしかに抑圧しているかもしれんが、この高校には必要なのだ。」


学年主任が抑圧していると認めた。


今まで正しいと思っていた帝国主義が・・・

生徒会のやり方が・・・

味方である学校側の人間に否定されたというのか!?


いや、学年主任は無能だ。

・・・無能の言葉など信じなくても良い。



「学校とは勉学を教えるところであり、同時に生徒一人一人の個性・性格・意見をのばすところでもあります。その学校で抑圧していれば、何の意味もありません。」

「じゃぁ、仮に帝国主義をぬいて、この高校が荒れたらどうするつもりだね?」

「それこそ、我々教師の仕事でしょう。間違っていることは間違っていると生徒に自覚させる。こんな抑圧よりよっぽど効率的だと思います。」

「貴様!教師だろうが!彼らは学校に歯向かっているんだぞ?注意するのが普通だろうが!!」

「彼らは彼らで正しいと思っていることをやっているのみです。それを私にはとめる権限はありません。」


桐山は教師というものの意味を理解している。

桐山先生はホントの教師魂をもっている。


その桐山先生が帝国主義を否定した・・・

となれば・・・

皆が動かない原因は帝国主義?


じゃぁ、帝国主義を解除すれば皆は動くのか?

生徒会はより良い方向へ導く。


その考えはかわっていない。


今の生徒会はホントに・・・

正しいのか?


俺のなかで、生徒会への疑惑が浮かび始める。



「我々は教師です。教師の仕事は生徒たちの指導・育成であり、抑圧ではありません。」

「帝国主義と抑圧はイコールではつながらない。」

「私たちは生徒たちの意見をきき、それが正しいか間違っているか、そこを指導しなければなりません。その意見を言えなくている帝国主義は抑圧とイコールでつながります」



桐山の意見はたしかに正しい。

絆同盟もおそらくそれに同意見。


となれば・・。

生徒会の正義が間違っているというのか!?




「やめたまえ。」

「・・・」

「・・・」



校長の一言で再び気まずい空気がながれる。



「桐山先生のいうことは正しい。学校は生徒の心を育てるところだ。」

「・・・」


あぁ、桐山先生の意見は正しい。

間違っているところなど・・・ないだろうか・・・




「私は、彼らをとめることはしません。むしろ・・・「絆同盟」を応援します。」


桐山先生が絆同盟についた。


だが、今の俺にはそんなことはどうでもよかった。

生徒会は正しいのか、それとも今のやり方が皆を押さえつけている原因なのか・・・

そのことで頭がいっぱいだった。



「絆同盟・・・それが君たちのチームの名前かね?」

「あぁ。」

「・・・」


校長は少し考え込んでいる。

何か次の手を打つきか?



「・・・彼らとゆっくり話しがしてみたくなった。すまんが、皆は席をはずしてくれないか?」


校長も彼らの意見に惹かれたのだろうか?


俺も知らず知らずに彼らの意見と、彼らのくじけない意思、絶対的覚悟に魅了されていた。






それから校長室前で1人考え込む。


今まで正しいと思ってやってきたことが急に怪しくなった。


「・・・今まで・・・俺がやってきたことは正しかったのか?」



今まで必至こいてやってきたこと。

皆のつらそうな顔を見ても、皆のためだと思ってやってきたこと・・・


それらが皆・・・

間違っていたというのか?


となれば・・・

俺の今までやってきた2ヶ月は何の意味もなくなる。

単に皆を押さえつけていた・・・


より良い方向へ導くはずが・・・

より悪い方へと導いていた。


そうなるのだろうか?


いや、まだそうと決まったわけじゃない。

冷静になれ。





そんなことを考え続けて、どれほどたっただろうか?

俺の頭のなかは同じ考えをグルグルとまわしている。

無限ループというやつだ。

いつまでたっても結論がでない。


すると校長室のドアが開く。

おそらく話し合いが終わったのだろう。


先頭には姐さんがいる。



「・・・川口。」

「・・・姐さん。」


再び気まずい空気がながれる。



「・・・お前ら、本気で生徒会とやりあうつもりか?」

「あぁ。」

「・・・退学になるかもしれないんだぞ?」

「んなの覚悟済みだって何度いれば気が済むんだ?」


この絶対的意思と覚悟・・・

彼らはなぜこんなにも大きな敵を作っているのに諦めない?くじけない?



「だが・・・」

「俺たちは俺たちの正しいと思ったことをやってるだけだ。」



「自分の正しいと思った道を進め」・・・

この言葉が思い浮かぶ。


彼らも彼らの正義がある。

その正義を貫く覚悟があるからこそ、くじけない。

そういうことなのか?


正義とは・・・

見方によって、かわる。

そう前に時津風がいっていた。


なら・・・

今は、正義と正義の戦い・・・

そういうことなのか?



「今こそ立ち上がれ き~りしまのために♪・・・てな。」


十六夜がさりげなく歌う。


霧島?

霧島第3高校?

そのため?


やはり彼らは帝国主義が皆を押さえつけていると思っているらしい。


もし・・・

そうならば、彼らは敵でもなんでもない。

むしろ「勇者」となる。

そして・・・「同志」だ。


同じく、学校をより良くしようと務める者としての。



それから彼らは去っていた。


彼らは同志としても見ることが出来る。


・・・生徒会は正しいのか?

今の俺には判断できなくなっていた。



「・・・様子をみるか。」



様子をみて、それで判断しよう。

生徒会と絆同盟・・・

どちらが正しいのかを。

どちらがより学校のために努めているのかを。



「今こそ立ち上がれ き~りしまのために♪・・・か。」


きいたことのない曲だが・・・

リズム的には悪くない。


もし生徒会のやり方が間違っているのであれば・・・

この曲そのものとなる。

皆は今まで帝国主義に怯えていたが・・・

それを跳ね返すために、立ち上がらなければならない。


・・・この戦い、最後まで見極める。





次の日・・・

早朝から会議があった。

会長からじきじきに緊急招集がかかったのだ。


生徒会本部会議室にはいわば生徒会という組織の「幹部」といえる者たちが集まっている。




「朝早く集まってもらい感謝する。これより緊急会議を開始する。」


この部屋はピリッと張り詰めた空気になる。



「さっそくだが本題といくとしよう。今、我々に敵対している「絆同盟」だが・・・」



昨日、俺は会長にありのままに報告した。

そうすれば必ずこの組織は動く。

それらも見て判断することにした。




「彼らにすでに警備部は1回眠らされている。役立たずも同然だ。」


会議室内はざわめく。



「突っ立っているだけではやられるだけ。専守防衛などという緩い考えは捨てるべきだと思うが・・・皆はどう判断する?」


それはつまり・・・

「ベータ」を始動させることにするということか?



「私は異存ありません。」

「私もです。」

「生徒会の正義を破壊するものは取り除くべきです。」



皆が賛成しだす。

たしかに「ベータ」の始動は懸命な判断かもしれない。



「よし、ならすぐに全員へ報告しに行け。」

「はい!!」

「報告し終わったら再びこの部屋に集合すること。」

「はい!!」


そういって、皆は散り散りとなる。


「ベータ」の始動。

これには俺も異存ない。

守りに徹していたらやられる(眠らされる)だけだ。

すぐに彼らを捕まえるために動かすのが上策である。




その後、再び皆を集めて会議を続ける。

さて時間もだいぶたち・・・

生徒たちも登校し始める時間となったが・・・

以前会議は終わる気配を見せない。

すると、1人がこんなことを言い出す。



「会長。「ガンマ」を始動させるのはどうでしょう?」

「・・・」


天王山会長は目を細める。



「それに関しては皆の判断に任せる。民主主義の基本の多数決で決めるとしよう。」


個人的には「ガンマ」はやりすぎだ。

生徒たちを導くはずの生徒会が、生徒をボコすのはおかしい。



すると突然にドアが開く。



「よぉ、朝早くからご苦労なこったな。」

「お・お前たち!?」



時津風が竹刀を片手に会議室へと入ってくる。

それを先頭に絆同盟の者たちも入ってくる。


馬鹿な・・・

おかしい。

生徒会本部会議室の前には警備部がいたはずだ。

・・・まさか「ベータ」を発動したにもかかわらず眠らされたというのか!?



「・・・」


天王山会長はおそらく怒っている。

誇りある生徒会が敵に本部進入を許したのだ・・・



「なぁ?ここら辺で「帝国主義」を解除してくれねぇか?」


そんなこともお構いなしに桶狭間は言う。

どう見ても会長は怒っている。

それは誰の目から見てもわかることだ。

だが、それを華麗にスルーして言う。




「我々生徒会は誇りある組織だ。そんなことはできんな。」

「誇りある?だったら、汚ねぇ真似はしねぇよな?」


「ガンマ」か・・・

たしかにこれは汚いやり方だ。



「汚い?」

「あぁ、「ガンマ」だよ。」

「フッ、今まさにその話をしていたところだ。」


その通りだ。

俺はそんな汚い手は使うべきではないと思うが・・・

これで確実になってしまった・・・



「やはり諸君らはこの学校では危険な存在だな。」

「いや、生徒会にとって・・・だろ?」


お互いに退くことをしない。

となれば・・・

やることは1つ。



「・・・どうだろうな?学校はこちらについている。」


俺にできることは・・・

その汚い手を生徒会に出させないこと。

それを出させたら、明らかに生徒会が悪くなる。



「おい、お前ら。「ガンマ」を出される前に、諦めろ。」

「へっ、川口・・・警告サンキューな。けど・・・もう俺たちは道を決めてるっぺ。」

「あぁ、やるときになりゃぁ、やるしかねぇだろう。」


頭のかたい連中め・・・

なぜ諦めない!?


・・・まぁ、その答えはもうでてるけどな。

あっちもあっちで正義だと思っているなら・・・

お互いの正義を貫くためにやりあうしかない。

「正々堂々」とな!



「なぁ、もう一度きくぜ?・・・帝国主義を捨てないんだな?」

「あぁ。貴様らこそ・・・諦めないんだな?」



だが・・・

今の生徒会は「正々堂々」やりあっているといえるのか?

「ガンマ」をだせば決定的になる。

あちらは話し合いで決着をつけようとしているなか、こちらは暴力である。

明らかに「正々堂々」とはかけ離れている。



「諦めてもなんにもならないからな。」

「フッ・・・理解した。」


天王山会長は瞳をとじる。


瞳をとじるとき・・・

それは瞬き、眠いとき、見たくないものが目の前にあるとき・・・

そして、覚悟を決めたとき。



「全指揮可能部に緊急連絡!!これより「ガンマ」を始動する!!!」

「はい!!」


おそれていたことが起きてしまった。

正義と正義の戦いは「正々堂々」。

だが、生徒会はそのルールを破ったのだ。





その日、大規模な指揮可能部の人材入れ替えがおこった。

全体から運動部で喧嘩事になれている連中を抜け出して、「治安維持部」を作成。

さらに、ほとんどの指揮可能部から、多くの人材を「警備部」へと移した。


そして放課後。

今までに行われたことのない生徒会史上最大の作戦が行われることとなる。



会議室には陽炎・俺・会長・・・

俺と会長の護衛チーム各1。

それに治安維持部第1チーム・・・

放課後の闇討ちを始める、幕開けチームがいる。



「いいか?最初は交渉しろ。それがダメなら・・・お前らの判断に任せる。」



先ほどに俺が大反対をしたので・・・

まず交渉をしてから・・・

ということになったが・・・

多分無駄だろう。



「相手は絆とつけるぐらいだ。団結力がある。いいか・・・交渉では卯月咲良を引き抜け。」



卯月咲良・・・

昨日の話し合いで名前がでただけで校長室の空気がかわった女性・・・

あれから学校から、卯月にはできるだけ丁重な対応を・・・

ときている。


いったい卯月は何をしてるんだか・・・



「こちらに寝返るかわりに「生徒会全指揮可能部を動かせる座」を与える、といえ。」

「は・はい。」



この言葉には意外だったらしく、治安維持部の連中も驚いている様子だ。


チッ・・・

そこまでして相手のチームを引き裂くか・・・

相変わらず汚いやり方だが・・・

あいつらがそう簡単に引き裂かれるわけがない。



そんなことを思っていると不意にいわれる。


「配置は陽炎・川口の判断にまかせる。」

「・・・」


警備部・治安維持部総動員で絆同盟を潰す・・・

闇討ちである。


また・・・生徒会の総力戦でもある。


今までのこれほどの人材を投入したことはない。

それほどに危険視しているということか・・・



「私は逃げられないように包囲網をはるべきだと思います。」

「ほう?一点集中のほうが早いだろ?」


陽炎が目を細める。

隣にいる陽炎は剣道部エース。

そして・・・1年でありながら、治安維持部のリーダーである。



「絆同盟には空手黒帯の川中水旋と剣道でかなりの腕をもっている時津風斬がいる。。」


俺はこんなこと反対である。

情報を与えるフリをして、隙を作り出す。


中島が催眠スプレーをもっていることなどはいわない。

だから会長たちはなぜ警備部が眠らされたかを知らない。


それに桶狭間や関ヶ原も運動神経がいい。

絆同盟なら各個撃破のほうが楽だろう。



「・・・剣道でかなりの腕をもっている・・・か。」



陽炎はニヤリとする。

だが・・・

彼に動かれてはさすがにまずいことになる。



「お前は治安維持部のリーダーだ。ここに残り、皆に指示をだすべきだと思う。」

「・・・」


陽炎は黙り込む。



「私も同感だな。それにリーダーは最後の最後にでるべきだ、」


すると陽炎は納得したようだ。


(治安維持部が全滅すればそれほどの腕の持ち主ということが証明される。そして俺も動けるようになる。・・・ここはみていたほうが得策だな。)


陽炎はそんなことを思っていた。



「御意。承知しました。」


・・・「御意」も「承知した」も同じ意味なのだが・・・



「で?川口・・・包囲網の話を続けろ。」

「はい。」


よしよし・・・

皆は話を信じている。



「そのため教室を攻めると、相手は本隊を逃がし、2人が陽動する可能性が高くなります。その別れたとき、無防備の本隊をつくのが一番のやり方だと思います。」



実際そんな危険なことをするはずがない。

今回のようなときはかたまっていたほうが断然安全である。




それからさらに時間がたった。


「・・・もうこの高校には一般生徒はいないだろうな?」

「確認済みです。」


ついに・・・

始まる・・・か。



「これ以上・・・生徒会の立場を危うくしてはならない!」



え?

この言葉に俺は過剰に反応した。

校長室での話しがなければ・・・

生徒会に疑惑をもっていなければ・・・

スルーしていただろう。


生徒会は、皆を導くためにやってきたのではないのか?

今の言葉からすると、立場を守るだけ・・・

・・・立場を守るだけのためにここまでしたというのか?

ということは、会長は・・・

学校を良い方向へ導く意思などない!?




俺のなかで結論がでた。

間違っているのは・・・

生徒会だ。



この戦いの引き金をひいた俺にできることは・・・

この戦いを終わらせるために努めること。

いわば終戦工作を行うこと・・・のみ!



いや・・・そんなんじゃぁ、絆同盟のいうように何もかわらない。

「自分の正しいと思った道を進め」

ならば・・・

絆同盟が勝つように仕向けること・・・

それが今まで間違っていることを繰り返してきた・・・

そして、我が同志を敵としてみていた・・・

唯一の俺の償いだ!!




「治安維持部、全チーム、予定配置場所につきました。」

「これより、「闇討ち」を開始する。」



とりあえず、この「闇討ち」を阻止しなければ。


生徒会が間違っていると気づくまでは、このやり方に反対だけだったが・・・

気づいて、絆同盟に勝たせなければならない。

ならば!

こんなところで絆同盟を潰させるわけにはいかない!!




「会長!やはり中止すべきです!「ガンマ」はやりすぎです。」


最初から反対していたが・・・

今回は強めで反対する。

だが・・・


「お前も生徒会の副会長なら覚悟を決めろ。」


会長の意思は折れない。


というか・・・

副会長としての覚悟ってなんだよ?

生徒会の立場を守るためだけに生徒がボコされるのを見ていろ・認めろ・・・

そう言うのか?



「・・・ですが、それでも今回はやりすぎです!!」



何がなんでも阻止しなければ!



「生徒会の危険はすべて排除するのみ。」



だが・・・

絆同盟と同レベルに会長の意思もかたい。

くそったれが・・・



会長はまずは交渉しろと命令していた。

そう俺が反対したからさせたが・・・

会長は交渉に「生徒会を動かせる権力の座」を使う気だ・・・


先ほどここに待機させていた治安維持部第1チームにそういっていた。


だが・・・

彼らはおそらく割れない。

となれば・・・

交渉決裂しかない。



・・・阻止するべきだが、これ以上いうと怪しまれる。

・・・これまでか。




それから15分。

5分交渉、5分戦闘だとしても10分。

かかりすぎである。



「「治安維持部」第1チームの連絡がきませんね。」


交渉・もしくは暴力で潰しが成功したら、陽炎の携帯に電話、もしくはメールがくる予定である。

のだが・・・

15分かかっても、その連絡はない。



「・・・眠らされたか。」


天王山会長は目を細める。



「はぁ・・・」


陽炎はため息をつくと、自らの携帯をだして、何かをしている。

ここでゲームはまずないだろう・・・



「・・・よし。」

「何をした?」

「「治安維持部」全員で教室を制圧しろ、とメールしたのみです。」



・・・力押しか。

まぁ、姐さんと時津風がそう簡単にやられるわけがないが・・・





それからさらに15分。

陽炎の携帯に電話がかかる。


「・・・成功したか?」

「今、でます。」


そういって、陽炎は携帯をひらき、耳にあてる。



会長はおそらく陽炎が「よくやった」というのを期待していたのだろう・・・

だが・・・実際は・・・


「なに?」


陽炎の焦る姿だった。



「何をして・・・」


彼が途中まで言おうとするが、やめた。

・・・電話がきれたのか?



「・・・くっ、治安維持部は全滅・・・か。」


マジかよ・・・

ホントに絆同盟はやったというのか?



「なに?」


会長はにらむ。

予想外の展開だったのだろう。



「仕方ないか・・・会長と副会長はここでお待ちを。私は1年B組へと向かいます。お前ら、付いて来い。」



陽炎が動き出す。

もし仮にヤバくなったら、俺がとめなくては・・・


「・・・俺も行こう。護衛も付いて来い。」



これ以上、事を面倒にするのはごめんだ。

面倒にするスイッチを押した俺だからこそ、終わらせたい。



「しかし・・・」

「俺も副会長だ。現状で何が起きているかを把握する必要がある。」


もっともな理由をつける。



「・・・わかりました。」


よし・・・

怪しまれずになんとかうまくいった。



「会長はしばしここでお待ちを。」

「ちょっと行ってきます。」



おそらく絆同盟は攻めてはこない。

だから会議室は大丈夫だろう。

それにいざとなれば警備部の護衛がいる。




会議室をでて、廊下を歩き、階段をのぼっていく。


だが・・・

おかしい。


会議室をでた地点で気づいたが・・・

警備部の連中がいない・・・


会議室前だけでなく、重要拠点である階段の警備部すらいなくなっている。

まさか本当に教室には姐さんと時津風のみなのか?

いや、そんな危険な真似はしないだろう・・・

ならどうなっている?



そんな疑問に頭を悩ませていると、陽炎も気づいたようだ。


「・・・おかしいな。ここには警備部を待機させておいたのだが・・・」

「先ほどパトロール隊と合流させ、校内をくまなく捜索するように命令しておいた。」


そのとき、口からでたでまかせである。

本当のことではない。



「なぜです?ここは階段・・・包囲網の重要拠点の1つですよ?」

「先ほど警備部パトロール隊から別働隊の存在を確認したと報告がきている。」


とりあえずは「別働隊」ということにしておく。

チームの配置のときにいったことが実現しているように言う。



「・・・それは本当のことですか?」

「あぁ。」


陽炎は少し悩んでから・・・

頷いた。

おそらく理解してくれたのだろう。



(ったく・・・その場ででた理由にしてはうまくだませたか。・・・しかし、なぜ警備部がいない?)



この疑問は教室につくまで解決しない。




教室についた。

教室につくと・・・

まさか、先ほどのでまかせが本当になっているとは・・・


教室には姐さんと時津風しかいない。

あとは寝ている治安維持部の連中だ。



「ほぅ・・・ここによこした治安維持部は5チーム・・・すなわち15人全員を眠らせたのか。」


陽炎は関心しているようだった。



「なぜ眠らせたとわかったんだ?」

「見てみればすぐにわかる。武器が結構壊れている物が多い。おそらく無防備になった瞬間にスプレーをうったのだろう。」

「まぁ、空手黒帯と元剣道部がいれば当たり前か。」

「!」


陽炎には時津風は剣道が上手いとかいっていないが・・・

なに、武器をピンポイントで弾き飛ばすのだ・・・

相当な腕・・・

部活か習い事でやっていないとこんなことはできない。



「よぅ、川口。」

「時津風・・・姐さん・・・」

「・・・」


気まずい空気がながれる。

最近は姐さんや時津風と会うたびに気まずくなる。



「なぜお姫様が黒帯だってことを、治安維持部の連中にいわなかった?」

「んなことをいったら、こいつらがビビッて何もしなくなっちまうだろ?」


その通りだ。

そんなこといったらどいつもこいつも何もしなくなる。



「・・・ここにはお前らしかいないのか?」



目で見てわかることだが・・・

念のため、一応きいてみる。



「あぁ。俺たちは陽動役だ。」


(まさか・・・ホントに別働隊がいたということか・・・)


そんな危険な行動・・・

しないと思っていたが・・・

常識を貫いてくるな。




「さて・・・じゃぁ、陽動役の諸君。治安維持部15人を眠らせたお前らの実力、見せてもらおう!!」

「お前らも警備部としての誇りを見せてみろ!」



陽炎が先に合図し、それに続いて俺も警備部をいかせる。

まぁ・・・邪魔だから警備部にはやられて(寝て)もらおう。



「ケッ・・・こいつら、強ぇ・・・」

「当たり前だ。彼らは武道をやっている者だ。」


さすがにつらいか・・

だが・・・



「うらぁ!」


1人やられた・・・

いや、すでに6人全滅か。

姐さんが5人倒している。



「・・・許可を。」


陽炎はリーダーが行くことの許可を求めてきている。

ここで断れば怪しまれる。

・・・仕方ないか。




「・・・お前に任せる。」

「了解しました。」


そういうと陽炎は竹刀を強く握る。



「いくぞ!」

「チッ・・・」



時津風はだいぶ疲れている・・・

それを見切ってか、姐さんが前にでて、黒帯の蹴りを撃ちだす。


が!!



「かわされた!?」

「残念だったな・・・」


姐さんの蹴りがかわされた。

・・・これが剣道部のエースの実力・・・



「まずい!!」


姐さんに振り下ろされる竹刀を時津風がガードする。

すさまじい音が響く。



「ったく・・・何度いわれればてめぇらは理解するんだ?女性をボコすのはあんまり関心しねぇぞ。」

「・・・俺はお前に言われたのは初めてだけどな。」


お互いはにらみ合う。



「・・・お前、名前は?」


「人に名前をきくときは自分から名乗りな。」

「・・・フッ、「陽炎 刃斬」。刃斬の「は」は「やいば」と書く。「ざん」は「きる」という字だ。」

「俺は「時津風 斬」。「ざん」はお前の「ざん」と同じ漢字だ。」

「なるほど・・・」

「・・・お前は?」

「私は「川中 水旋」。「すい」は「みず」。「せん」は旋風の「せん」。」



お互いに名乗っている。

これが「スポーツマンシップ」というものなのだろうか・・・




「・・・おい、川中。」

「なんだ?」


すると珍しく時津風が姐さんのことを「川中」という。

最近を見ていると、「お姫様」と呼ぶことが多かったのだが・・・



「お前は先にあいつらと合流してろ。」

「なにをいって・・・」

「へっ・・・こいつと1対1でバトりたい。」


時津風はあまりに無謀なことを言い出した。

それは俺だけでなく、姐さんもびっくりしていた。



「お前、正気か!?」

「もちろん。正気すぎてヤバイぐらいだぜ。」

「・・・俺を信用しな。」


時津風はウインクする。

彼がウインクをするときは大抵大丈夫なときだ。


「・・・」

「サクッと片付けて、例の集合場所にいくからよ。」

「・・・わかった。」


姉さんは頷いた。

こんなマジな時津風・・・初めてみたかもしれない。



「・・・サクッと片付けてこいよ?」

「あぁ。そうさっきいったろ。お前こそ、気をつけろよな。」


お互いにお互いの無事を願って、姐さんが教室をでていく。



「・・・女は逃がしたか。敵ながら、なかなか見ごたえのある男だ。」

「・・・」


沈黙がはしる。



「・・・お前、関東大会にでたんだったな。」

「あぁ。」


時津風はめちゃくちゃマジな目で陽炎をにらむ。



「奇遇だな。」

「なに?」

「俺も中学で関東大会にでた。」

「!!」


なっ!?

陽炎も驚いているようだが・・・

俺もかなり驚いている。

そんなことをきいたのは初めてである。




「お前も剣道をやってる人間なら、仁村を知ってるだろ?」

「仁村?・・・仁村愁都か?」

「あぁ。俺はあいつの親友だ。」

「・・・なるほど。」


よくわからないが・・・

おそらく剣道で有名人なのだろう。



「・・・なぜ隠してた?」

「別に自慢することでもない。それに、んなことで自慢もしたくねぇしな。まぁ・・・お前にいったのは、正々堂々勝負したいからだ。」


「正々堂々」か・・・

今の生徒会に聞かせてやりたい言葉だ。



「ハハ・・・敵ながら、かなり見所のある男だ。気に入ったぞ。」

「ありがとよ。」

「・・・なぜ剣道部に入らなかった?」


おそらく「第5同盟」を優先するためだろう・・・

それぐらいは俺でもわかる。



「まぁ、いろいろとあるんだよ。」


だが彼はそれを「いろいろ」だけですませた。

相変わらず面倒嫌いな男だ。



「いろいろ・・・か。」


それに陽炎も頷いていた。

男は細かいところは気にしないってか・・・



「さて・・・じゃぁ、中学関東大会レベルと、高校関東大会レベル・・・どっちが強いか、やりあうとしようじゃねぇか。」

「あぁ。そうだな。」


竹刀と竹刀が幾度とぶつかり、そのたびにすさまじい音をだす。



「ケッ・・・やるじゃねぇかよ。」

「当たり前だ。中学レベルに負けるわけにはいかねぇ。」

強ぇじゃねぇか・・・」

「諦めるか?」

「残念だが・・・俺には負けられない理由がある。」



負けられない理由・・・

絆同盟のためか。

時津風がこんなにも熱くなるなんて・・・

珍しいことだろう。



「それに、相手が強いと燃えるぜ!」

「・・・お互いに強いやつが相手だと燃えるってことか。」



すると陽炎の竹刀が時津風の左手にあたった。

あの剣の速さだ・・・

相当なダメージだろう。



「痛ぇ・・・」

「なんだ?中学関東大会レベルってのはこの程度なのか?」

「言ってくれるじゃねぇか。」

「これで俺に1本だな。」

「すぐに取り返してやらぁ!」


またすさまじい音が響き始める。



今度は陽炎があたりそうになったが・・・

陽炎はバックステップを大きくとり、回避した。



「汚ねぇぞ・・・その動きは反則じゃねぇのか?」


剣道では防具があるため、こんなに大きくバックステップはできない。



「これは剣道であって剣道じゃねぇ。ルールなんて無用なんだよ。」

「ほぅ?いいんだな?」

「なに?」

「俺もどっちかというと、そっちのほうが得意なんだぜ?」

「俺もそっちのほうが得意。・・・お互い、そっちのほうが得意なら、文句はねぇな?」

「上等!!」


彼らは本気で戦っている。


・・・俺はどうだ?

生徒会を本気でとめる気でいるのか?

いや・・・いつも諦めている。

ったく・・・俺もまだまだクズだな。



「へっ・・・時津風・・・久々に熱くなる戦いだぜ。」

「俺もだ。」

「こんな戦い・・・ホントに久々だ。」


この戦いにもはや「生徒会」も「絆同盟」もなかった。

ただ、男と男の真剣勝負だった。



「こうしてみると・・・小さい子供のチャンバラみたいだぜ・・・」

「なら・・・ハイレベルにするか。」

「?」

「こいつは絶対に使うことのない技だと思ってた。しかも名前もない技だが・・・まさかこんな状況で使うとはな!」


そういうと、陽炎は見たことのないような動きをする。

いつの間にか時津風の真上にいる。

そっから思いっきり下降して重力の重さと本来の攻撃力のダブルでかなり攻撃力が上がっている。

教室中に、まるで爆撃されたんじゃないかと思うほどのすさまじい音が響き渡る。



「これをガードできるとはな。」


やはり陽炎は関心している。


また幾度と竹刀と竹刀がぶつかるが・・・

先ほどの音でまだ耳がジィ~ンとしている。


「ん?」


あることに気づく。

さっきより時津風の動きがわずかに遅くなっている。


・・・まさか・・・

先ほど陽炎から左手を打たれたせいで、フルに力がだせないのだろうか・・・



「これで終わらせてやる!!」

「!」

「いくぜ!!」



これで終わる・・・

普通に考えれば、時津風はフルに力をだせないので陽炎の勝ちだが・・・・

時津風も黙ってやられるような男ではない。



その勘通り、陽炎が空中で竹刀を握った瞬間に時津風も彼と同じ動きをする。

時間差攻撃である。


着地した陽炎は急いで守りに徹しようとするが・・・

間に合わない。

攻撃力のあがった攻撃・・・

自ら編み出した技によって、陽炎は竹刀を弾き飛ばされ、敗北した。



「・・・へっ・・・ギリで勝利ってか?」

「・・・俺が・・・負けた?」


陽炎は自ら手をみつめる。

負けたことが信じられないようだ。



「残念だったな・・・生徒会。」

「くっ・・・まだ1本と1本。並んだだけだ!!」


まずい!!

これ以上やったら時津風が負けるのは目に見えている。

疲れと左手のダメージ・・・

ここは負けを認めさせるしかない、



「いや、陽炎。お前の負けだ。」

「な!?」

「お前は時津風の左腕を容赦なく攻撃した。だが、時津風はお前を攻撃することなく、竹刀のみを弾いた。」

「・・・」

「お前ならわかるだろう?相手の体を攻撃するのと、相手の竹刀を弾き飛ばすの・・・どちらが難しいかを。」

「くっ・・・たしかにそうだな。・・・お前の勝ちだ、時津風。久々に楽しい勝負をさせてもらった。」


意外とあっさり負けを認めた。



「へっ・・・お互いにな。」

「この技は・・・「緋蒼斬」という名前にする。」


ずいぶんと悲しみがこもった名前だな・・・

「悲壮」なんてあまり言い名前には聞こえないが・・・


「は?」

「お前は俺の冷静さを奪うほど、熱くさせてくれる。そんなお前を打ち砕く技・・・そういう意味でつけるぜ。」

「・・・」

「緋色はお前。蒼は俺。・・・「斬」ってのは共通の漢字だ



あ、なるほど・・・

「ひそう」っての「悲壮」じゃなく「緋蒼」ってかくのか。



「この技でいつか絶対お前を打ち砕くぜ。」

「・・・へっ・・・んじゃぁ、俺は帰らせてもらうぜ。」


それから時津風は静かに教室からでていった。



「・・・よかったのですか?」

「あぁ。今回は生徒会の負けということだ。」

「この様子を見てると・・・警備部も全滅・・・ですか・・・」


おそらくそうだろう・・・

皆、別働隊に眠らされたというところか。



「いや、天王山会長の護衛が残ってるだろう?」

「あ~・・・たしかに。」

「これから、眠らされた連中を探さなくちゃな。」



とりあえず本部会議室に入る。



「・・・どうだった?」

「してやられましたよ。まさに完敗です。」

「なんだと!?」


天王山は怒り狂う。



「んな怒らないでくださいよ。まずは皆を探し出すのが先でしょう?」

「・・・」

「おい、お前ら。ただちに皆を探してこい。」

「はい!」


天王山の護衛3人は走っていく。



「・・・どういうことだ?」

「いや、この俺もやられましたよ。相手は強いっすね。」


陽炎は苦笑で言う。



「お前!この敗北の責任をどう取る!」

「はぁ・・・というか、もうやめませんか、会長。」


え?

陽炎が・・・

「やめないか?」

そういった?



「なに?」

「相手は話し合いでの解決を求めています。暴力なんて何の意味もありません。」

「それは違う。」

「いや、そうです。それに暴力でおしても、負けて生徒会の名前に泥を塗るだけですよ?」

「我々生徒会は無敗だ。負けなど・・・諦めなど許さん!!明日も放課後に行う!作戦を練っておけ!!」


そういうと会長は会議室からでていく。



「はぁ・・・」


するとドアが開く。

先ほどの警備部のうちの1人だ。



「皆を視聴覚室にて発見しました!!」

「よし。」

「ただ・・・2人ほど足りません。」

「なに?くまなく探せ!!」



が・・・

結局見つからなかった。

そのため捜索は次の日へと打ち切りとなる。





さて・・・

そして木曜日。


朝から会議・会議・そして会議である。

やっと朝学活となり、解散となった。


廊下を歩いていると前から陽炎がやってくる。



「お願いです、戻ってください!」

「・・・何してるんだ?」

「こ・これは会長!!」


1年の陽炎の付き添いは直立する。


「ん?」


よく見てみると陽炎の襟に菊の紋章がない。



「お前・・・襟・・・」

「やめることにした。

「なに?」

「これ以上あいつらをいたぶっても何にもならない。」



陽炎は陽炎で考えていたのか・・・



「それに・・・俺は今の生徒会より面白いことを見つけた。」


時津風か。



「だから・・・俺はぬけることにするぜ。」

「わかった。」



・・・陽炎がやめた。

・・・俺も覚悟を決めよう。




その日のホームルーム前にまたもや呼び出された。



「失礼します。」

「うむ。」


相変わらず会長室は静かである。

まぁ、会長1人しかいないからな。



「会長、陽炎がやめました。」

「そうか。」



・・・え?

それだけ?



「治安維持部の戦力として使えたのだが・・・所詮は1年か。」


会長は陽炎を「戦力」としてしか見ていなかった!?



「それより・・・報告しろ。」


報告とは、定期報告のことである。

まぁ、ホームルーム前の定期報告は初めてだが。



「うちのクラスだけでなく、もはや学校中で反生徒会の動きが活発化しています。」



そろそろ・・・

負けを認めてくれ。

終わらせてくれ。



「そうか・・・ならば仕方がない。」


・・・きたか?

これはきたのか?



だが・・・

答えは期待していたものとは大きくかけ離れていた。


「オメガを発動する。」

「オメガ!?」



「終焉」

別名「惨劇」・「大量虐殺」

今、そんなことをすればかなりの人数が退学となってしまう・・・



「それは絶対に反対です!!」

「生徒会に逆らう者は排除するのみ。」



なっ!?

くっ・・・くそが!

もう俺もついていけない。

我慢の限界である。


手で襟の紋章を力にまかせてはがす。



「何をする?」

「これはお返しします。私はもう生徒会のやり方についていけません。」


この身を投じての説得。

ダメならやめる覚悟はある。

だが・・・・

できることなら退いてほしい。

とどまってほしい。




「・・・そうか。わかった。」

「!」

「・・・なら関係のない人物は入らないでくれるか?邪魔だ。」


・・・この身を投じての説得も無理だった・・・

生徒会も生徒会で絶対に負けを認めないつもりか・・・


俺が生徒会の務めを放棄した瞬間だった。




会議室からでると、姐さんがいた。



「・・・いいのか?」

「はい。私はもうついていけません。」

「だが・・・お前の夢はどうする?」


姐さんはきく。

だが・・・

答えはでている。



「それは貴方がた絆同盟に託すことにします。」

「・・・」

「私の思いを・・・よろしくお願いします。」


そういって、教室に戻った。


さぁ、最後の仕事をしよう。

皆に報告するため、前にでる。



「・・・やめさせられたのか?」

「いや・・・やめたんだ。」


答えにくい質問は姐さんが答えてくれた。

ありがたい。



「皆・・・生徒会副会長としての最後の報告をする。」

「・・・」

「会長が・・・「オメガ」の始動を宣言した。」

「!!!」


みなの顔色がかわる。

やはり・・・オメガはやりすぎだ。



「嘘だろ・・・せっかく皆が立ち上がったってのに・・・」


教室の空気が一気にさめる。



「くそ・・・せっかくここまできたってのに・・・」



絆同盟・・・

俺はお前らに俺の夢を託したんだ。

彼らを信じた俺が馬鹿らしくなってくる。

彼らには突き進んでもらいたい。



「絆同盟の諸君、こんなところで諦めていいのか?」

「え?」

「お前らはすでに「ベータ」と「ガンマ」を破った。お前らには負けられない理由があるんじゃなかったのか?」


せめてもの励まし・・・

とでも言おうか。

それを言う。



「まぁ、退学覚悟なんだし・・・最後までこのメンツで貫いてもいいじゃない?」

「ほら、将軍をうんっていってるし。」

「そうだな。このメンツでなら、退学になったっていいだろう。」

「ったく、熱い奴らめ。このクールな俺をここまでに熱くさせた連中をそう簡単に退学にはさせれねぇな。」

「お前が一番熱かったじゃねぇかよ・・・まぁ、たしかにもうずいぶん前に決めたことだっぺね。」


やはり彼らは立ち止まりということを知らない。

一度止まりかけても、決して止まったわけではない。



「ったく・・・「諦めるには まだ早すぎる~♪」って教えてくれたのはお前だろうが・・・」

「ですが・・・私たちがやめなければみんなが・・・」

「その必要はないさ。」

「え?」


すると桶狭間は机の上の乗り始める。

普段なら注意するが・・・

まぁ、今は生徒会じゃない。

大目に見ておこう。



「おい、てめぇら!!ここは俺らに協力するな!!」


桶狭間が皆に堂々と言う。

皆を巻き込まないため・・・か。

絆同盟らしい。



「ここは俺らに任せとけ。」

「おい、時津風!!俺のせっかくの決め台詞をとるなよ!」

「へっ・・・おいしいところはいただいたぜ。」

「くそ~・・・これじゃぁ、俺が机の上にたった意味がねぇじゃねぇか・・・」


相変わらずホントに仲のいい連中だ。



「痛ぇ・・・おい、お姫様・・・てめぇ、何しやがる!?」

「ふん、腰に軽~く蹴りをいれておいた。まぁ、腰を粉砕しないだけありがたいと思え。」

「さっきのをまだ根にもってやがったか・・・」


姐さんも立ち上がる。

あとは卯月だけのようだ。



「咲良・・・気づけばお前が発端だったな。」

「・・・」

「最初はすげぇ~困ったけど・・・今は感謝してるぜ。」

「え?」

「だって、今、こんなに楽しいじゃねぇか。絆同盟を結成して、最高の仲間と学校中を敵にまわして!」


絆同盟とやらは・・・

ホントに怖さというもを知らない。

学校中を敵にまわしているというのに楽しいと断言した。

こんな状況なのに!



「これ以上に面白いことなんて、僕には考えられないよ。」

「・・・」

「だから・・・最後までやりきろう?ここで諦めたら、絶対高校を卒業してから後悔するときがくる。」

「・・・」

「咲良・・・ありがとう。」

「!!」


卯月が反応した。

・・・なにか深い意味でもあったのだろうか・・・


「あれぇ~?卯月さん、せっかくの十六夜くんの誘いを断っちゃうんですか?」

「十六夜が誘うことなんて、百年に一回あるかどうかだぜ?」

「それも女をな。」


皆も念を押している。

治安維持部の連中にきいたが、ずいぶんと堂々宣言したらしいじゃないか・・・

絆同盟とともに危ない橋を渡るって。



「大丈夫、皆は巻き込ませないぜ。」

「・・・わかった・・・」

「よっしゃぁ!これでこそ、絆同盟だぜ!!」



よし・・・

これでまた絆同盟は進むことが出来る。




さて・・・

あっという間に放課後になった。


B組の皆は帰ったと見せかけて、実はF組のクラスを借りて別で会議している。

絆同盟が教室で会議しているため、B組と階が違い、なおかつ一番離れているF組を選んだ。

ちなみにF組はこの学校で最上階にある。



「どうせ頼んでもあいつらは入れてくれないよな・・・」


クラスメイトたちの火も消えたわけではない。


「あぁ・・・」

「ならこの際、俺たちも同盟作るべ。」


彼らも彼らなりに動く決心をしていた。



「悪い、俺、少しぬけるな。」



今までにいろいろと考えてきた。

だから少し休みたい。


最上階から町並みを見落とす。

本当は外にでたいが鍵がかかっているため出られない。

せめて窓をあけて、外の空気を吸う。


「ふぅ・・・」


外は少しずつ夕焼け色に染まってきた。

相変わらずこの町の夕日は綺麗だ。



「おい。」

「ん?」


不意に声をかけられ、後ろをむくと、姐さんがいた。



「姐さん。」

「なぁ・・・絆同盟に入らないか?」

「え?」


予想外な言葉。

あまりの意外さについ声をだしてしまう。


「お前の夢・・・絆同盟に託すといったが・・・やはりお前の夢だ。自分で解決させたいだろう?」


姐さんは微笑みながらにいう。



「ですが・・・」

「いいからいいから。面倒は話はあとだ。」

「・・・」

「てか、むしろ入れ。」


もし良いのならばお言葉に甘えたいところだが・・・

実際信じてもらえるともわからない。


「入ってもらわないと困るんだ。」

「・・・」

「とりあえずこい!こないと蹴りをいれる。」

「は・はぁ・・・」


なんて気抜けた返事をして、半強制で姐さんのあとに続き、B組の教室に入る。



「川口・・・」



皆は警戒を強める。

まぁ、当たり前のことだ。



「皆、大丈夫だろ・・・川口はもう生徒会副会長じゃない。」


長篠がそういい、少し警戒が和らぐ。



「で?どうした、川口?」

「こいつにも絆同盟に入ってもらおうと思ってな。」

「!」



皆は姐さんの驚いている。

まぁ、今まで敵だった男を入れるというのだ。

当然の反応だろう。



「まぁ・・・川口、お前もお前で大変だったみたいだしな。」


時津風がフォローをいれる。


「このクラスは「誰一人省かない」んじゃなかったっけか?」

「・・・そうだな。僕は賛成だぜ。」


時津風がそういうと、十六夜が少し考え込んでから賛成した。



「マジかよ・・・」

「だって、元生徒会副会長が味方になればいろいろと有利じゃん?」


十六夜が皆に説得してくれている。

ホントにありがたい限りである。


「覚悟はできてるのか?」

「あぁ。」


即答だった。

それもそのはずだ。

生徒会をやめた地点で覚悟は決めているのだから。



「しょうがないなぁ・・・親友の頼みは断れないし・・・いいんじゃない?」


今度は五月雨が賛成してくれた。



「まぁ、生徒会とやりあってる地点で危ないのに、時津風と川中をいれたんだ・・・」

「おいおい・・・ひでぇこというぜ・・・」

「いまさら・・・1つぐらい危ないが増えても大丈夫だろう。」

「まぁ・・・将軍がいうなら、大丈夫だろ。」


1人が賛成すると、皆も賛成してくれる。


前に十六夜がいってたな。

さっき時津風も言ってたが・・・

「このクラスは誰も省こうとしない。ただ詰め寄るのが苦手なだけだ」と。



「ってことで、全員一致でOKだぜ!」

「皆、信用してくれて助かる。感謝するぜ・・・絆同盟。」



こうして俺は生徒会から絆同盟所属となった。


その後、クラスメイトたちも「B組同盟」というものをつくり、協力を示した。

たしかにこのクラスは誰も省かないな・・・

あたってるぜ。




そんなこんながあり、今にいたる。

今、帰り道に。


「・・・」


空はもう夕焼け色から黒色になりかけである。



俺は生徒会としての務めを放棄した。

だがそのかわりに・・・

今度は俺は絆同盟として努める。

自らの夢をかなえるため・・・

生徒会をとめるために・・・

そして絆同盟に恩を返すために・・・



何が何でも奮闘してやる!!


少し暗い夕焼け空を見ながらに密かに心の奥底で誓うのだった。


                          


                          「努め」  完

長くなりすみません。

それからずいぶんと更新まで遅れてしまい、申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ