転機
今日にも朝がきた。
どんな日のあとにも必ず朝はくるもので・・・
今日も平和に小鳥たちが鳴いている。
いつものように目覚ましがなり、飛び起きる。
なんで飛び起きるかって?
遅刻をしたら、あいつに怒られるからだ。
なんだか習慣付いてしまった。
飛び起きて、顔を洗って、今日の学校の準備をして、飯を食べて、歯磨きをして、トイレにいってGO!
というキツキツのスケジュールを送っている・・・
皆は平和そうというが・・・
実際僕も大変なのだ・・・そこを理解してもらいたい。
時計をみると、いつもより約5分早い。
これなら少しゆっくり飯が食べれそうである。
「ふぅ・・・」
今日もまた「宣戦布告」のせいで、「治安維持部」の連中にかこまれるのだろうか・・・
そう思うと、ドッと疲れがくる。
「あらあら・・・お疲れね?」
母はそういいつつ、ご飯を出す。
今日のご飯は、納豆とそれにいれる長ネギ。
それに味噌汁である。
・・・うん、日本人だ。
朝飯は和食が多く・・・
毎回のごとく、自分が日本人であることを自覚する。
すると、親父も寝癖でグチャグチャになった頭をかきながら、大きなあくびをして、僕の隣の席に座った。
「・・・どうなんだ?」
何がだ?
親父・・・悪いが、僕は動詞のみじゃ理解できない。
主語を入れてくれ。
「なにが?」
「ほら・・・前に来た和服が似合いそうな女の子・・・」
あ~・・・
前に親父が勝手な妄想ではしゃいでたやつか・・・
まぁ、おかげで親父に救われることになったが・・・
「咲良か?」
「そうそう、咲良ちゃん。・・・どうなんだよ?」
「だから、何が?」
あのなぁ・・・親父。
一応「咲良」という主語がきたわけだが・・・
主語と動詞のみでも理解するのは難しいんだぞ?
日本語は「○○が○○で、○○した」などという、最低でも3つの説明が必要なのだ。
「だから・・・お付き合いの進行状況。」
「・・・」
どいつもこいつも勘違いして・・・
どうせ否定しても、信じてはくれないのだろう。
「仲直りはしたよ。」
「そうかそうか。」
親父はにこやかに頷く。
それを確認したかったのだろうか。
「・・・ねぇ、星矢。」
「なに?」
珍しく母が真剣な顔で問う。
「あなた・・・まさか危ない道を通ってるんじゃないでしょうね?」
「別に。大丈夫だよ。」
いやいや・・・
実際かなり危ない道を通ってるじゃないか。
昨日だって一歩間違えたら、フルボッコだった・・・
「実はね、昨日学校から電話がきたの。」
「!」
学校から?
・・・やはり校長と担任の桐山先生は味方についても学校は敵なのだろうか・・・
「全部きいたわ。」
「・・・親父も?」
「あぁ。」
やれやれ・・・
全部・・・か。
やべぇな。
「そんな危ないこと、やめなさい。」
母は真剣な眼差しで言う。
それは目を逸らせないほどに真剣である。
「だけど!・・・もうみんなを巻き込んでる。」
「なら、チームを解散させなさい。」
おいおい・・・
簡単にいってくれるが、僕には絆同盟を解散させる権限なんてない。
「嫌だね。僕や皆はもう決めたんだ。誰がなんと言おうと、もう道からそれない。」
これは初めて親に歯向かった言葉かもしれない。
まわりが「反抗期」というものになるなか、僕はフツーだった。
・・・別にマザコンとか、そういうものではない。
が、家族は大切である。
基本、歯向かうことはなかったのだ。
「フッ・・・立派に意見するようになったじゃないか・・・」
すると父である「蒼侍」が頷く。
「まぁ、星矢。お前のやりたいようにすればいいさ。」
「親父・・・」
「お父さん、なにをいって・・・」
母は親父をにらむ。
親父はそれをみて、「やれやれ・・・」というかのように、目をとじて、前にあるコーヒーを飲む。
一口コーヒーの飲み終わり、カップをおく。
「・・・高校生活ってのは一番楽しい時期だ。泣いても笑っても3年しかない。」
「関係ないでしょうが・・・」
「いやいや、たった2ヶ月で星矢はここまで成長した。自分の意見を立派に言えるまでにな。・・・そんな良い友達がいるなら、その友達たちと無茶をさせてもいいじゃないか。」
「ですが・・・」
「あとからあのときこうすればよかった、って後悔しても遅いんだ。今、息子は大きく成長しようとしている。親はそれを見守ってやろうじゃないか。」
親父はそういうと、またもコーヒーを飲む。
「星矢、人生にはたくさんの壁がある。それを打ち砕いてこそ、男ってもんだぞ。」
親父は珍しく、まともなことをいっている。
普段は「メイドさん雇いてぇ~」とか言うくせに。
「・・・星矢、大丈夫なの?」
「あぁ。僕には心強い仲間がいる。」
親友で何より僕を理解してくれている五月雨。
絆同盟の軍師で、頼りになる将軍、長篠。
誰よりも真っ直ぐで、こうと決めたら道からそれないリーダー的存在の桶狭間。
ひたすらに前だけを見続け、ホントはとても熱くて優しい男、関ヶ原。
剣道がとても強くて、絆同盟がくじけそうになると、いつも励ましてくれるムードメーカーの時津風。
空手黒帯で、厳しいことをいって隙を作らせないように気遣ってくれる、川中。
おしとやかだけど、油断できない隙を見せない女性、中島。
そして・・・
最初は面倒だと思ってたけど、ホントはすごく優しいところがたくさんある女性、咲良。
この8人といれば、どんな困難にだって勝てる気がする。
「それに・・・もし誰かがピンチならみんなが助けに行く。僕たちのチームはそんな団結力が強い良いチームだよ。」
「・・・わかったわ。もう少し様子を見るわ。」
母は納得してくれたようだ。
すると、親父に肩を叩かれる。
「男なら、自分の決めた道からそれるなよ。やりきるんだぞ。」
「あぁ、わかってる。」
「いい心構えだ。・・・存分に暴れて来い。」
いやいや・・・
暴れちゃダメだろ・・・
まったく・・・
朝からテンションが上がる。
母の承諾を得て、親父からの応援をうけた。
もうあとには引けないのは理解しているが・・・
これじゃぁ、勝利をつかむ以外にすることがないじゃないか。
テンション高めで道を歩いていると声をかけられる。
「お、先輩じゃないか。」
この声は・・・
「不知火じゃないか。」
「お久しぶりだな。」
・・・そんなか?
「なんだ?テンションが高めに見えるが?」
「あぁ。高いぜ。」
「それはいいことだ。何かいいことでもあったのか?」
あぁ・・・
朝からありまくりでヤバイぐらいだぜ。
「いろいろとな。」
「いやいや・・・前に先輩を見かけたときはずいぶんと考え込んでいる様子だったから声をかけなかったのだが・・・」
そりゃぁ、いつの話だ?
「今の先輩のほうが断然いいぞ。」
「ありがとよ。」
「・・・なんか大変らしいな。」
ん?
外にまでもれているのか?
「なんでも、今、霧島第3高校は荒れているそうじゃないか。なんでも、学校に歯向かってるやつらがいるとか・・・」
それ・・・
僕たちのことじゃないか・・・
「まぁ、人生は山あり谷あり。「悩むより動け。ピンチは最大のチャンスなり。」と教えてくれたのは先輩だぞ。」
たしかにそんなことを言ったような言わなかったような・・・
「先輩、そんな不良グループ、やっちゃってくださいよ。」
いやいや・・・
だからそのお前のいう「不良グループ」とやらが僕たちなのだが・・・
「おっと・・・私はこっちだ。」
「・・・大会、頑張れよ。」
「あぁ。「疾風」の名前にかけて・・・それと先輩からの応援のダブルコンボで頑張るぞ!!」
すると、僕は微笑み、彼女は去っていった。
「疾風」の名前にかけて・・・か。
あいつも、前は自分の名前を嫌っていたのに、ずいぶんと誇りをもつようになったもんだ。
「悩むより動け。ピンチは最大のチャンスなり。」・・・か。
たしかに悩むよりは動いたほうがいい。
それに・・・
今、ピンチだけど・・・
これほどの思い出、そう簡単には作れない。
・・・僕の高校生活はずいぶんと充実しているものだ。
それも・・・あいつのおかげか。
あいつが僕に告白してきたことから、すべてが始まったんだ。
おかげで今、僕はこんなに充実した高校生活をおくれている。
あいつには感謝しなくちゃな。
さて、やはり今日は少し早めだ。
約3分前に集合場所についたわけだが・・・
げっ・・・
あいつ、早ッ!
「・・・よぅ。」
「ん?ふむ・・・3分前か。まぁ、よしとしてやろうじゃないか。」
相変わらず挨拶はかえさないんだな・・・
「ん?どうした?そんな真顔になって・・・」
今日、まず一番言いたいことを言っておかなくちゃな。
右手で彼女の頭を軽くなでる。
「ありがとよ。」
「!?」
彼女は赤くなる。
・・・赤くなる要素なんてあったか?
「な・なにが、ああありがとうな・なのだ?」
かみすぎだぞ・・・
「教えてやるかよ。」
んなこと、教えてやらねぇよ。
まぁ・・・理由はなんとなくだが。
「お・お前!この私を馬鹿にしてるだろ!!」
「してねぇよ。」
彼女は顔を真っ赤にさせて言う。
やれやれ・・・
風で長い髪がなびく。
照れ隠しなのだろうか・・・
なびく髪を手で押さえて、ゴムでとめる作業をしているが・・・
どうにもこうにもうまくいっていない・・・
相変わらず「可愛い」やつめ・・・
もちろん、彼女の表情的意味でだが。
こんな表情をみていると、余計にからかいたくなってしまう。
やべぇ・・・僕って地味に「S」派?
「ほら・・・」
そういうと、手を差し出す。
「なんだ?この手は?」
「ゴム・・・かせよ。とめてやるから。」
「!」
またまた彼女が真っ赤になる。
やれやれ・・・
こりゃぁ、からかいがいがあるというものだ。
「じゃ・じゃぁ・・・お願いする。」
そういうと、ゴムを渡してくれた。
・・・実際やったことなんてないんだけどねぇ・・・
どうしましょ?
まぁ、髪を引っ張らないように丁寧にやる。
「・・・痛ッ!」
「あ、悪い。」
「お前・・・地味に恨みをこめているだろ?」
いつ、僕がお前を恨んだ?
あ・・・最初のほうと喧嘩したときか・・・
が、今はこめる必要なんてない。
「こめてねぇよ。むしろ感謝してるんだからよ。まぁ、何に感謝してるかは教えてやらんがな。」
なんていいながらに、髪をとめる。
よし、できた!!
何気に難しいもんだな。
「できたぜ?」
「・・・ふむ・・・上出来じゃないか。」
と、後ろの髪をさわって確認している。
「・・・」
すると彼女が黙り込んだ。
・・・何かミスったところでもあったか?
「・・・なぁ・・・」
「なんだよ?」
すると、彼女は真っ赤の顔を下に向けてボソッといった。
「似合ってるか?」
「・・・あぁ。」
いやいや、実際はどうなのかわからないが。
すると今度はさらに小さな声でボソッという。
「か・可愛い・・・か?」
まぁ、ボソッといったため、きこえたが、きこえなかったことにする。
「あぁ?なんていったんだ?声が小さくてきこえねぇぞ。」
「・・・」
「・・・なんだよ?」
毎度お決まりのにらみつけがはいってくる。
いやぁ・・・相変わらず目つきが悪いぞ?
「・・・もういい!!」
あ~あ・・・
グレちゃった・・・
そんな話をしながら、絆同盟の集合場所までやってきた。
いやいや、みんな早いものだ。
すでに全員集合である。
「おはよう。」
「おはよう。」
なんていって、挨拶をする。
どっかの誰かのようにかえしてくれない、なんてことないから気分が晴れる。
「あら?卯月さん、髪をとめたんですか?とても似合ってますよ?」
「そ・そう?」
なんて女性2人が話している。
「もしかして、髪型をかえて、十六夜くんをおとす作戦ですか?」
「なっ!?なにをいって・・・」
「やりますねぇ~。」
相変わらず人をからかうのがうまい奴め・・・
「こ・これは、星矢がとめてくれたんだ。」
あ~・・・
馬鹿が・・・
地雷を踏んだぞ。
「へぇ~?そりゃぁ、ずいぶんと仲がいいじゃないかよ?」
なんて五月雨がニヤつく。
おい、親友!!
都合のいい方向にもっていくな!!
「もう根っからのラブラブっぷりですね。」
中島・・・
いい加減、その深みがある微笑みをやめてくれ・・・
「彼らが困ってるっぺ。そろそろやめてやるっぺよ。」
そういって、関ヶ原が中島の肩に手を置く。
すると、中島がビクッとする。
・・・なにかあったのだろうか?
(やれやれ・・・昨日のはやっぱ若干のトラウマか?)
なんて思いつつ、桶狭間が苦笑する。
昨日にあんなことがあったのだ・・・
むしろ男性に体をふれられて、怖がらないほうがおかしい。
桶狭間は中島の心境を理解していた。
「おいおい、関ヶ原。今のは、「セクハラ」ってやつじゃねぇのか?」
おい!
一番下心がありそうなお前が何を言う、桶狭間!!
「俺もおちたもんだっぺね・・・まさか超がつくほどの変態のボケ狭間に注意されるなんて・・・」
「てめぇ、禁句はダメだろうが!!」
なんて男性2人が言い合っている。
「はぁ・・・嫌だねぇ・・・朝っぱらから男同士の暑苦しい言い合いは・・・」
なんて時津風が苦笑する。
・・・お前・・・
女性同士が言い合ってたら、「品がない」とかいって文句いうじゃねぇか・・・
結局、男だろうが女だろうが、関係ないんだろう?
「うるさい男どもだ・・・」
と川中はあきれている。
これも毎回のことだな。
「まぁ・・・それが彼らの長所だからな。」
と将軍。
おい、将軍・・・
お前、今、すご~く関ヶ原と桶狭間に失礼なことをいわなかったか?
「あぁ、言った。」
「!!」
こいつ・・・
人の心をよめるのか!?
いやいや、将軍は戦略家だ。
どうせ、次に言う言葉を予想していたのだろう。
相変わらず頭がいいぜ。
「そうでもないぜ?」
・・・すげぇ・・・
常に言葉を言う前に禁じられるという・・・
さてさて・・・
教室にやっとついた。
まだ関ヶ原と桶狭間は言い合っている。
まぁ、どっちもどっちだな・・・
ドアをあけて、僕たちが教室内に教室内がざわついた。
それもそのはずである。
生徒会に「ガンマ」をだされて、次の日に無傷でこれたのは今までに1チームもいないらしい。
つまりその日にいきなり奇襲にあうわけだ。
まぁ・・・僕たちもあったが・・・
「なんだ?俺たちの顔になんかついてっか?」
なんて桶狭間が言う。
それから、朝学活が始まった
担任の桐山先生が入ってくる。
「お!絆同盟の諸君、無傷だとは素晴らしいじゃないか。」
やはり先生たちは知っていたのだろう・・・
が、とめられなかったのだ。
何しろ、この学校は「帝国主義」を語ってるくせに、何かを決めるときは「民主主義」。
しかも、語ってる「帝国主義」も表にだしてないときた。
面倒な学校である。
「結構大変だったですよ?」
なんて時津風がいう。
「お姫様なんて、狂気乱舞してやがった・・・」
「・・・時津風・・・お前、腰の骨を砕かれたいか?」
「やれるもんならやってみな。」
あ~・・・
あそこは仲がいいのやら悪いのやら・・・
「ところで、警備部の2人がまだ行方不明なのだが・・・知らないか?」
あれ?
1チームは3人じゃなかったか?
「あ~、多分それなら物置地域の奥でもがいているはずですよ?」
「そうだな。あそこのやつらも眠らせて縛っておいたからな。」
桶狭間と中島が微笑みながらに言う。
いやいや、その警備部、可哀想だな・・・
・・・待てよ・・・
ってことは1日中学校にいたってことか?
・・・ご苦労さん。
「マジかよ・・・生徒会のやつらに勝ったのか?」
「退学にもなってないし・・・すげぇな。」
なんて声がチラホラと聞こえる。
さて、1時間目前の休み時間。
五月雨と将軍が真剣な顔で話している。
「何を話してるんだ?」
「次の行動をどうするか・・・考えてるんだ。」
「何もしないと、治安維持部の連中に襲われるだけだからな。」
なんて2人がいう。
「やっぱ生徒会本部会議室に話をしにいくのがいいんじゃないのか?」
「あそこは以前より強固な守りで固められてる。そう簡単には近づけない。」
「そうだったのか?」
たしかに生徒会本部会議室前の警備部を眠らせちまったし・・・
警備が厳しくなってもおかしくはないが・・・
「さっきここに来る前にみてきた。」
と五月雨が言う。
「あそこらへんは、パトロールも尋常じゃない。休み時間は要塞と化すぜ。」
マジかよ・・・
生徒会も立派な盾と矛をもったもんだぜ。
盾(警備部)で守りをかためて、矛(治安維持部)で攻める。
怖いったりゃありゃしない。
「あの数はいくらなんでもゴリ押しじゃきつい・・・か。」
「つまり・・・交渉の手段はない?」
「あぁ。」
まずいな。
となれば・・・やはり皆を立ち上がらせるしかないが・・・
何しろ「宣戦布告」が出されてる。
皆も怖くて下手に動けないのだろう。
するとドアが思いっきり開いた。
皆が一瞬で静まり返る。
治安維持部の連中が教室に入ってくる。
「チッ・・・こりねぇ野郎どもだぜ・・・お姫様、門前払いしにいくぞ。」
「あぁ。」
時津風と川中が席を立ち上がり・・・
桶狭間や関ヶ原がバットを構え・・・
中島や咲良、五月雨や将軍が催眠スプレーに手をかける。
「おい、お前ら、こい!!」
「はぁ?てめぇら、何様のつもりだ?ここは俺たちB組の教室だ。生徒会は引っ込んでな。」
「なんだと!?」
時津風は治安維持部を挑発している。
「それとも何か?昨日みたいに眠らされないと気がすまないか?」
「くっ・・・」
「今度は、お前らそのものを昨日のバットや竹刀のようにしてやってもいいんだぞ?」
時津風と川中は治安維持部に脅しをかけている。
治安維持部も馬鹿ではない。
昨日の出来事で彼らがどれだけ強いかを知っているはずだ。
「・・・」
治安維持部の者たちは川中の言葉に怯えていた。
何しろ、金属のバットを粉砕できる蹴りを使えるのだ。
そんな蹴りをモロに喰らって、生きていける保証はない。
そんな治安維持部の様子をみて、クラスメイトたちもザワつき始める。
「おい、お前ら、何してる?」
すると声がした。
「チッ・・・面倒なのがきやがった・・・」
時津風の表情がかたくなる。
「か・陽炎さん。」
一人、教室に入ってきた。
襟には、菊の紋章2つと赤い線2本。
治安維持部のリーダーだ。
ということは・・・
こいつが剣道部エースの陽炎という男か・・・
「お前ら、誰の命令で動いてるんだ?俺は命令をだした覚えはないんだけどな。」
「え~と・・・その・・・行方不明になった警備部の2人のことをききにきてました。」
「なら武器はいらねぇんじゃねぇのか?」
どうにも、陽炎という男の様子がおかしい。
生徒会治安維持部のリーダーなのだが・・・
どうにもこうにも、攻めてこない。
むしろ、治安維持部の部下を攻めている感じである。
「・・・陽炎さん、実は昨日、あなたが絆同盟に負けたという情報がひろまっています。」
耳元で治安部のおそらく副リーダーがいう。
「ほぅ?どこからひろまったんだ?」
「わかりません。」
「・・・わかった。諸君、よくききやがれ!!」
陽炎はこの教室全体にきこえるように、大声を出す。
時津風は目を細める。
・・・いったい何がしたいんだ?
この男は・・・
「我々生徒会は昨日、治安維持部ならびに警備部総動員で彼ら9人の「闇討ち」作戦を決行した。」
くっ・・・
やはり、皆に脅しをかけるつもりか・・・
これで皆と絆同盟との関係を遮断する。
生徒会の権力を使った見事な戦略である。
「今、昨日、我々は敗北したという情報が流れているらしいが・・・」
権力を使って否定するか・・・
それじゃぁ、まるで太平洋戦争時の日本じゃないか。
嘘の情報で、洗脳させるってか・・・
汚ないやり方だ。
「それは紛れもない事実である。」
「・・・は?」
・・・え?
今、敗北を認めた?
無敗のプライドの高い生徒会が、負けを認めたというのか?
「ちょ!陽炎さん、なにをいって・・・」
「黙ってろ!」
「ひっ・・・」
どうやら、治安維持部の連中も陽炎には逆らえないらしい。
「我々生徒会は総動員したのにもかかわらず、そこにいるわずか9名に破れたのである。」
間違えない。
これは敗北通告。
だが・・・
こんなことをして何の得がある?
「そして・・・この俺自身もそこにいる時津風 斬という男に敗れた。」
教室はザワつい始める。
「おい・・・剣道部のエースだぞ?あいつ・・・」
「関東までいったってのに・・・マジかよ?」
なんて声が上がり始める。
「だから・・・俺は自らのプライドを取り返すために・・・時津風 斬、お前に宣戦布告する。」
おいおい・・・
宣戦布告?
どうする気だ?
時津風・・・
「・・・」
時津風は目を細めたままに何もいわない。
「これは生徒会としてではない。あくまで・・・俺自身としての宣戦布告だ!」
そういうと、陽炎は襟にある菊の紋章を力ずくではがす。
「陽炎さん!なにをして・・・」
「おい、手ぇだせ。」
「は?」
「いいから。」
「は・はい・・・」
副リーダーと思えれる人物が手を出すと、そこに陽炎は自らがしていた菊の紋章をおとす。
「今後はこれでお前が指揮をとれ。俺はもう治安維持部、ならびに生徒会は脱退させてもらう。」
そういうと、陽炎は時津風に近づく。
「・・・昨日の勝負・・・楽しかった。俺はあくまで暇つぶしで生徒会をしていただけだ。・・・他にやることができちまったからやめる。」
「・・・俺を倒すってか?」
「あぁ。お前を倒すことに全力をそそいでやる!そっちのほうがぜんぜん楽しいしな。」
そういわれると、時津風はしばしの間、目をとじる。
それから目を再びあけて、言う。
「・・・今は無理だぜ?」
「わかってる。」
「・・・へっ、ならまた今度やろうじゃねぇか。俺も昨日は久々にガチで楽しく戦かわせてもらったからな。」
そういうと二人はこぶしをぶつけ合う。
「上等。」
そうお互いに言い合った。
「さて・・・帰るとすっか。」
陽炎が帰っていく。
「ちょ!待ってください、陽炎さん!」
それをおって、治安維持部の連中も帰っていく。
治安維持部は結局リーダーがいないと何もできないのだろうか・・・
「お前もすげぇのを敵にまわしたもんだな。」
と桶狭間が呆れ顔でいう。
「ハハ・・・まぁ、成り行き上、しゃぁねぇだろ?」
「まぁ・・・な。」
なんて2人がいっているなか・・・
教室は静まり返っている。
「な・なぁ?もしかして・・・俺たちが立ち上がれば、この帝国主義を潰すことができるんじゃねぇか?」
1人の生徒が立ち上がる。
それに連鎖するように生徒たちが立ち上がる。
生徒たちの心に火がついた瞬間である。
「9人でもここまで奮闘できるなら・・・人数が人数ならもっといけるんじゃないか?」
連鎖は連鎖をよぶ。
まるでドミノ倒しのようである。
いわば・・・
「みんなでやれば怖くない」戦法ともいえる。
「あぁ、こいつらについていけば・・・もしかしたらいけるかもしれねぇ!」
「あぁ・・・もし勝てば、もう生徒会の言いなりになんてならなくていいってことだよな!!」
やはり・・・
皆は立ち上がる勇気がだせなかっただけだったのだ。
皆・・・帝国主義の考え方に不満をもっていた。
だが・・・
ここまで歯向かっている絆同盟は退学にもならなければ・・・
生徒会の「ガンマ」にも打ち勝った。
それは陽炎が負けを認めたことにより実証された。
それによって、絆同盟の奮闘が皆に勇気を与え、立ち上がらせる炎を震えたたせた。
絆同盟の諦めない気力・根性が認められた瞬間だった。
絆同盟が「退学」の脅威がないことを証明した。
陽炎が「ガンマ」の脅威がないことを証明した。
ならば・・・
これ以上に何の脅威があるのだろうか?
「リーダーを失った治安維持部の崩壊は時間の問題だろうな。」
将軍は言う。
「副リーダーが指揮るだろ?」
「あんなに陽炎にビビりまくりの坊やがか?」
五月雨が微笑みながらに言う。
気づいてみれば、絆同盟の皆は微笑んでいる。
そうか・・・
やっと理解者が現われたのだ。
皆が立ち上がったのだ。
これは・・・紛れもない。
逆転のチャンス。
転機である。
「・・・ったく・・・陽炎、感謝するぜ。」
時津風が陽炎が歩いていった廊下を見て言う。
陽炎が敗北通告をしなければ、皆は立ち上がれなかったのである。
「治安維持部」の崩壊。
それは、「ガンマ」に打ち勝ったことになる。
「ガンマ」がなくなれば、力のない者でも立ち上がれる。
「よっしゃぁ~!!俺たちに続けぇ~!!!」
「おぉ~!!!」
にしても盛り上がってるなぁ・・・
桶狭間・・・お前、すげぇ格好よく見えるぜ・・・
やべぇ・・・
味方が多いってのはいいことだ。
そう改めて実感した瞬間だった。
その日、生徒たちの火は新たな生徒たちに火をつける。
まるで水の流れのごとく、皆に伝わった。
・・・生徒会の敗北の知らせと共に。
「ガンマ」が破れた。
「治安維持部」が崩壊した。
となれば、暴力の心配はなくなった。
生徒会最大の脅威は消え去ったのだ。
いつしかその火は学校中にともっていた。
それほどまでに火の伝えをよくしたのは、「空駆ける天馬」作戦にあった。
絆同盟の皆が知り合いに持ちかけた話。
その知り合いたちが立ち上がり、皆を交渉し、火をつけたのだ。
そして、知り合いがその知り合いに、その知り合いがさらに知り合いに・・・
と、炎は引火していったのである。
しかしそんな明るい話も次の日には一気に消化されることになってしまう。
次の日のホームルーム。
川口が前に出る。
「お前・・・」
川口の襟には、菊の紋章がない。
「やめさせられたのか?」
「いや・・・やめたんだ。」
その質問には川中が答えた。
「皆・・・生徒会副会長としての最後の報告をする。」
皆が静まり返る。
「会長が・・・「オメガ」の始動を宣言した。」
「!!!」
そう・・・
まだ終わってはいなかった。
生徒会最後の奥の手・・・
「オメガ」。
「嘘だろ・・・せっかく皆が立ち上がったってのに・・・」
「オメガ」の始動により、また僕たちは絶望のどん底へと突き落とされるのだった・・・
「転機」 完