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なんで僕が!?  作者: へたれ度100%
40/79

同志

※時津風視点の物語です

今日、生徒会が「ガンマ(宣戦布告)」を始動した。

これにより、生徒会は臨時の戦闘部、「治安維持部」を組織。

そして、「治安維持部」を使い、「敵(絆同盟)」を叩き潰すべく・・・

教室に「治安維持部」を向かわせていた。



・・・足音が聞こえる。

徐々に近づいてくる。


・・・チッ、予想より早いおでましじゃねぇか・・・

生徒会ってのは、やることなすこと早いな・・・

ご苦労なこった・・・



「・・・おいでなさったか・・・」


皆が武器に手をかける。

こっちもやる気は十分ってか・・・



「いいか、絶対に治安維持部そのものの生徒を傷つけるなよ。」

「わかってるっぺ。生徒を傷つけたら、俺たちも生徒会の連中と同じだっぺ。」



生徒会と同類・・・か。

まぁ、それじゃ俺たちのしてることは意味のねぇもんになっちまう。



「相手の武器のみを粉砕すればいい。」


それは俺とお姫様の仕事・・・か。

でもって、抵抗できないように眠らせるのが、中島の仕事。

もうマンネリ化だな。



ドアが思いっきり開く。

相変わらず生徒会の連中は態度がでかいぜ・・・



「生徒会所属「治安維持部」だ。お前ら、おとなしくしろ。」


ったく・・・

いきなり教室に入ってきて、おとなしくしろだぁ?

こいつらは「礼儀」ってもんを知らないのかねぇ・・・



「おいおい・・・人様の教室に勝手に入り込んでおいて、そりゃないんじゃねぇのか?」


門前払い・・・

早急にお帰り願いたいが、そうもいかないのが現状。



「・・・時津風。」


きいたことのある声だ・・・

よく見てみれば、モトチューの奴じゃないか。

まぁ、モトチューとは面識があるから、あまりバトりたくないんだけどねぇ・・・



「よぅ・・・」


が、さすがは生徒会。

一歩もひかない態度。

相手はモトチューだろうが、なんだろうが関係ねぇ・・・ってか。



「お前・・・やっていることの大きさをわかってるのか?」


理解してるさ。

理解してなきゃ、生徒会に喧嘩なんて売らねぇ・・・



「お前こそ・・・お前らのやってることが「正義」だと思ってるのか?」


まぁ、「正義」なんてもんは見た目によってかわるさ。

俺たちからみれば、俺たちの行動は正義かもしれねぇが、生徒会から見れば「悪」だ。


「正義」ってのは、自分が信じたこと、それだけなんだぜ。

だから、生徒会は自らのことを正義と思ってる。

もちろんこっちもこっちで正義だと思ってる。


世の中に、正義と悪の戦いなんてもんはない。

お互いに信じていることが正義。

なら・・・正義と正義の戦い。

自らの信じる正義を貫いてこそ、本当の正義ってもんだ。


・・・まぁ、例外の「悪」はいるが。(たとえば「世界征服」しようとか考えている輩とかな)




「お前らのしてることは、反逆も同然だぞ!」

「反逆・・・ねぇ?ならお前らがしてることは支配も同然だな。」



やはり・・・見方の違いだな。

こんなもんだ。

絶対に物語に登場する者全員が「正義」といえる「正義」なんてもんはねぇのかもしれない。



「俺たちはお前らの支配から学校を解き放つ。・・・太平洋戦争のときの日本みたいにな。」



太平洋戦争時の日本だって、見方によっては、正義にもなるし、悪にもなる。

正義としてみるのであれば、アジアを開放させるために戦った。

悪としてみれば、武力を暴走させ、帝国主義国家となり、やりたい放題をした。



仮に「大日本帝国」を正義とみるのであれば・・・

自らを犠牲にし、アジアを開放させた。


それと同じだ。

俺たちも、俺たちを正義としてみれば、学校そのものを解放させる。

まぁ・・・唯一違うのが・・・



「だが・・・唯一太平洋戦争の日本と違うのは、自らを犠牲にしないってとこだな。」



やると決めたら、貫くのが男っもんだ。

土壇場キャンセルなんて、優柔不断野郎がすることだ。



「この絆同盟が、お前ら生徒会に負けるはずがねぇ。」


俺は絆同盟を正義としてみる。

そして生徒会を悪・・・とまでは見ないが、敵とみる。


生徒会は自らを正義をみる。

絆同盟を悪・敵としてみる。


お互いがお互いを正義としてみるなら・・・

結局はぶつかり合って、それでも貫いたほうが正義となる。

正義と正義の戦い。


・・・お互い、正々堂々とやろうじゃねぇか。



「下がりなさい!」


すると、卯月が前のでた。



「貴方たち、生徒会だろうがなんだろうが、勝手な行動は慎みなさい。」

「・・・なんだ、てめぇ?」


・・・女ってのはわからないもんだ。

どういうことだ?



「・・・こいつが、卯月咲良か。」

「・・・なるほどな。」


生徒会の連中が納得しているが・・・

こっちはサッパリである。



「学校から、勝手な行動は慎むように言われたはずです。」

「いえいえ、麗しいお嬢さん。校長に言われただけで、学校そのものの総意ではありません。」

「・・・」



(くっ・・・昨日、「じぃや」が学校に話をつけてくれた・・・はず。援助の話しでこちらは有利だった。それで「じぃや」は学校は帝国主義を捨てることを承諾したといっていた。・・・なのに、学校そのものの総意じゃない、だと?)



そう・・・

昨日、卯月咲良は独断で、比叡を動かし、学校と契約を結んだ。

それは「帝国主義を捨てないと、今後一切援助を行わない」という、半脅し。

そして、学校は帝国主義を捨てることを約束した。

が!

実際は、総意じゃないと理由で、昨日の契約はなかったことになっていたのである。


もちろんそのことは卯月咲良以外は誰も知らない。



「いくら大企業の娘で、学校に多くの援助をしているからといって・・・生徒会の敵となれば、学校そのものを敵にまわしますよ?」

「実際、あなた方からの援助がなくても、学校はやっていけます。」

「くっ・・・」



(完全に断られた・・・援助がなくてもやっていける・・・だと?・・・いや、待て。今までの援助を学校が溜め込んでいたとすれば・・・)



むしろ、あんな莫大な金額、一気に使うのが無理な話。

となれば、溜め込んでいるはず。

それも、相当。


となれば、今後の援助は不要。

もともと国から出された金を使い・・・

仮に足りなくても、その溜め込んだ金を使っていけばいいのだから。




「咲良さん、あなたがこちらにつけば、我々の勝利は確実。自ら危ない橋を渡る必要はありません。」



生徒会の連中は、こちら(絆同盟)の味方を減らさせることから始めるってわけか・・・

汚ねぇやり方だぜ。



「あなたがこちらにつけば、生徒会の指揮権をゆだねると会長が言っています。」



これまたずいぶんとでかい権力を引っ張ってきたもんだ。

まぁ・・・どうせ嘘っパチだろうがな・・・

単に一時的でも、大企業の娘である卯月咲良を絆同盟から離せれば、絆同盟を守っているシールド強度が大幅に低下する。

卯月はあちらからみれば邪魔な存在。

引き抜き、味方にすれば、心強い存在。



だがな、生徒会。

お前らが卯月を見る目は単に「心強い」だけだ。

絆同盟は卯月のことを「仲間」としてみてる。

そこが俺らとお前らの違いだ。


・・・それはおそらく卯月も気づいているはず。

となれば・・・卯月の答えは1つだろう。



「却下します。私は彼らが間違っているとは思いませんし、彼らと危ない橋を渡ると誓い合いました。」



絆同盟は大きな太い「絆」で結ばれている。

そう簡単にきれるもんじゃねぇぜ・・・生徒会。



「それに・・・仮に全指揮権を私に委ねるのであれば、この「ガンマ」を解除しなさい。」

「・・・わかりました。」

「!」



・・・皆が顔色をかえる。


だが・・・

この「わかった」というのは、俺たちの期待のしている「わかった」ではない。


竹刀に手をかける。




「あなたの意思は理解しました。これより治安維持部は卯月咲良も敵と認識し、行動を開始します。」

「!!」

「天王山会長から、何があっても、「ガンマ」は解除しないという命令がでています。」

「・・・そう・・・」



卯月が下を向く。

すると、それを「隙」としてみたらしく、モトチューの奴が、バットを振り下ろす。


・・・いくらモトチューの仲でもな・・・

やっていいことと悪いことってのはあるもんだ。

女性を傷つけること、そして・・・

何より、俺たち「絆同盟」の「仲間」を傷つけることは、俺たち「絆同盟」そのものが許さない。


竹刀を使い、バットを弾き飛ばす。


「!」

「ケッ、女性をバットで殴るってのは関心しねぇぜ?」



そういって、竹刀の先端をモトチューのやつに向ける。




「咲良ちゃん、下がって!ここは俺らがやる。」


すると、いつの間にか横には桶狭間が立っていた。

彼は「任せろ」といわんばかりに、微笑む。

・・・俺だけにいい顔はさせねぇ・・・てか?


・・・いいぜ、お前にも活躍の場面ってのを与えてやるぜ。

俺も・・・正直1人で舞台で踊るのはつらいからな。



「・・・わかってるな?」


将軍が念を押す。

桶狭間は頭に血が上ると、暴走するところがある。

そこを理解しての、念押しだろう。

ったく・・・将軍が一番皆を理解してるかもしれないな。


さすがは「将軍」だぜ。

そういえばいつしかに、関ヶ原がこいつのことを「最高の将軍」っていってたな。

・・・あのときは、ある程度の納得しかできなかったが・・・

今なら、大きく納得できるぜ。



「上等!治安維持部、かかってきな!!」


桶狭間はニヤリとする。



「・・・いくぞ!」

「うらぁ!」


あちゃ~・・・

後ろにまわされたか・・・


ここはもういっちょ暴れ・・・


すると、お姫様が進んでいった。

・・・ったく、どいつもこいつも目立ちたがり屋だぜ。

まぁ・・・俺もだがな。



お姫様は、空手の黒帯。

金属バットを曲げることぐらい楽勝・・・


って・・・

バットがまっ二つになった。


・・・お姫様の蹴りは久々に見たが・・・

衰えてるどころか、進化してやがるぜ。



「ったく・・・世話がやける男だ。」

「・・・川中?」

「・・・へっ、言ったろ?お姫様は「黒帯」だって。」



場は静まり返る。

生徒会の連中も絆同盟の皆も、さすがに「金属」をまっ二つにできるとは思っていなかったようだ。



「く・黒帯!?んなのきいてねぇぞ!!」

「くっ・・・逃げろ!」



なんだ?

あいつら・・・お姫様が黒帯だって知らなかったのか?


・・・まぁ、あとは任せたぜ。

中島。



ドアが閉まり、催眠スプレーをかけられる。

・・・相変わらずだが、見事な手際だぜ。



「3人上がりってところだな。」



五月雨が親指をたてる。

俺とお姫様、桶狭間も親指をたてた。


・・・へっ、やはり絆同盟ってのはいいもんだ。

彼らを傷つけさせはしない。


そんなことを考えていると、お姫様が頷く。

・・・んだよ・・・

考えてることはお見通しってわけか?



「・・・んじゃぁ、お前ら、先にこの学校を出てろ。」

「は?」



皆は目を丸くする。



「ここで俺とお姫様が乱舞してやる。」

「生徒会のひきつけ役は任せとけ。」

「お・おい、お前ら。お前らも一緒に行くんだろ?」


桶狭間・・・

悪いが、俺はお前らとはいかない。

敵をひきつけ、お前らの安全を可能な限り高める。

それが今、俺にできることだ。



「んな全員でいったら、生徒会の連中に囲まれちまう・・・そっちはそっちで頼むぜ。」


桶狭間だって、男だ。

さっきだって、生徒会治安維持部の竹刀をバットでへし折った。

大丈夫だろう。



「何をいって・・・」

「早くしねぇと、次がきちまう。早く行けって。」


皆は考え込んでいた。

・・・まぁ、「音島」中学で、最強コンビといわれていた俺らが簡単に生徒会の連中にボコされるわけねぇだろうが。



「まぁ、俺らは生徒会にフルボッコにあったりはしねぇって。」

「あぁ。どちらかといえば、フルボッコにする側だからな。」

「いやいや、お姫様、怖ぇって・・・」


お姫様がいうと、マジでリアルだ。

怖いったらありゃしない。

何も知らずにくる治安維持部の連中が可哀想だぜ。



「お前ら・・・俺らを信用しろって。」

「・・・わかった。じゃぁ、後で合おうぜ。」

「OK。じゃぁ、後で・・・絆同盟の朝の集合場所にな。」


皆にウインクをする。

皆も親指を上げる。




「・・・中島、催眠スプレーを1つくれ。」

「今日はたくさん使うと思っていましたので・・・どうぞ。」


今日は・・・ねぇ?

・・・やっぱ女ってのは怖ぇもんだぜ。


中島は川中が「1つでいい」といっているのに、「2つ」くれた。

へっ・・・川中と俺のぶん・・・

1つずつってか。



「2つも!?」


お姫様が久々にびっくりしている。

いやぁ~、珍しい光景を見ちまったぜ。

こりゃぁ、レアもんだぜ?



「大丈夫です。たくさんありますから。」


・・・この女はたくさんあるということを強調するな・・・

そんなに催眠スプレーをもって、どうする気なんだろうか・・・




「今のうちに皆に配っておきましょうか。」



すると、皆に1本ずつ配り始める。

・・・いや、ホントにどんだけもってんだ?



「よし、いくっぺ。」



そういって、皆は出て行った。




「やれやれ・・・お前も本気だな。」

「あぁ。絆同盟ってのは、思ってた以上に居心地がいいもんだぜ。」


なんて苦笑する。


「熱くなるのも悪くねぇぜ・・・絆同盟と一緒ならな。」

「・・・少しわかるような気がする。」


今度はお姫様が苦笑する。



「しかし・・・初めてだな。「音島」中学で最強コンビといわれた俺らが、実際にバトるのは・・・」

「そうだな。まぁ、「音島」は平和だったからな。」



いや、この高校も平和だと思うぜ・・・

フツーに生活してればの話だが。



しかし・・・

なにが「音島」最強コンビだよ・・・

今はなき「第5同盟」を結成して、少ししてから言われるようになった。


こいつは黒帯・・・

俺は・・・まぁ、チョコッと剣道ができるぐらいじゃねぇか。

実際、仁村の馬鹿には勝てなかったしな・・・


お姫様が空手の黒帯なんて知っているのは、この高校で絆同盟と俺らモトチューのみだろう。

普段はあまり空手なんて使わないからな。


「いいのか?」

「何がだ?」

「空手は「喧嘩」に使うもんじゃないだろ?」

「たしかにな。だがこれは「喧嘩」じゃない。」



いやいや、「生徒会」と思いっきり喧嘩してるじゃねぇか・・・

絆同盟全体でな。



「これは自己防衛手段と、仲間を守るためだ。実際私たちが攻めているわけではない。」



まぁ・・・たしかに絆同盟は「暴力」では生徒会を攻めないな。

・・・最高レベルでも眠らせるぐらいだからな。


「だから良いのだ。」

「ならいいんだけどな。」

「それに、それをいったらお前の剣道だってそうだろう?」


・・・痛いところを突いてくるぜ・・・



「まぁ・・・そうだな。」

「だろ?」

「しかし・・・お前の蹴りは相変わらず強力だな・・・」

「まぁ、空手は続けてるからな。」


・・・んじゃぁ、むしろ俺を守ってもらいたいもんだぜ。



「はぁ・・・お姫様、念を押しておくが、生徒を傷つけるなよ?」

「わかっている。」



ホントにわかってるのかねぇ・・・

今回はホントにわかってもらいたいもんだぜ。

ミスって、蹴りが生徒に当たった・・・

なんてことになれば、その生徒は一生歩けなくなるかもしれねぇ。



すると、廊下から足音が再びきこえる。


「・・・」



さっきより明らかに多い。

相手も力押しできたか。


竹刀を持ち、いつでもスプレーを撃てるように、胸ポケットにいれておく。

お姫様は片手にスプレー。

まぁ・・・蹴り中心だしな。



ドアがまたもや思いっきり開く。

ったく・・・生徒会の連中は皆、こうなのか?



「・・・」


治安維持部か・・・

しかも、今度は問答無用らしいな。

治安維持部の連中は武器を持ち、走ってきた。



「・・・援護は任せたぞ。」

「へいへい、お姫様。」




その頃、脱出する本隊はというと・・・

ちょうど視聴覚室を占拠し、皆がバラバラに散らばった頃であった。



「・・・なぁ、桶狭間。」

「なんだ?」


ここ(視聴覚室)には、将軍と桶狭間が待機していた。



「縄・・・中島1人でいかせて大丈夫なのか?」

「大丈夫だろ?催眠スプレーを持ってるし。」


桶狭間は言う。



「俺たちは俺たちの仕事は果たすまでだ。」

「・・・だが、実際、多くの生徒会の生徒を縛るんだ。縄もかなり必要だろう?」

「・・・」

「手伝ってこいよ。」


桶狭間は考え込む。


たしかに女性一人は危険だし・・・

縄も一気にはもってこれないだろう。

となると・・・

何往復かするだろうが、そのときに「警備部」のパトロール隊に出会う確率も否定できなくはない。



「はぁ・・・将軍がいけばいいだろ?」

「疲れる。」

「はぁ!?」


桶狭間は目を丸くする。

もちろん、将軍も本心ではない。



「そりゃねぇぜ・・・」


将軍はその「疲れる」という言葉が桶狭間相手だと逆効果だと気づいた。

目を細める。


そして、本当のことを言うことにした。



「嘘だよ。少し考えたいことがあるんだ。」

「・・・考えたいこと?」

「明日の対策だよ。」

「・・・なるほどな。さすがは将軍。絆同盟の軍師だぜ・・・」


なんて桶狭間が言う。


「・・・」

「わぁ~ったよ。・・・視聴覚室の守りは任せたぜ。」

「あぁ。」


すると、彼は物置地域へと走り出した。



「はぁ・・・さて・・・明日、どうしたものか・・・」






再び教室。

いろんな音がきこえるが・・・

あまり良い音ではない。



「くっ・・・嘘だろ・・・バットが・・・」

「寝てろ。」



次々と治安維持部の生徒たちが眠らされていく。



「くっ・・・」


そのなかで生徒の1人が携帯を取り出す。



「陽炎さん!教室は難攻不落です!応援を!!」


携帯で、生徒会本部会議室に「援軍」要請を行っていたのである。



「チッ・・・」



時津風はそれを見つけるとすぐにそちらへ向かう。


冗談じゃねぇぜ・・・

ここに俺らしかいない、なんてことを連絡されたら、俺たちのやってることは何の意味もなくなっちまう・・・



竹刀を使い、携帯を吹き飛ばす。


あ~・・・

悪ぃ・・・

強く叩きすぎた・・・



携帯は竹刀に叩かれ、上画面と下の操作部がまっ二つになってしまった。



「くっ!」

「ったく・・・面倒だから寝てろ。」


別に「面倒」じゃなくても、眠らせるがな。

悪いが、生徒会本部に別働隊がいることを覚られるわけにはいかねぇんだ。



「ひっ・・・」

「・・・」


プシュ~とスプレーの音が響く。

最後の一人が眠らされたのだった。



「はぁ・・・やっと全員片付いたか。」

「いや・・・援軍がくるだろうな。」


何しろ、援軍要請をされたのだから。

まぁ、それはそれでこちらが目をつけられる。

陽動にはもってこいである。




生徒会本部会議室・・・



「教室は難攻不落です!応援を!!」

「なに?何をして・・・」



陽炎が言葉を言い切る前に、「バキッ」という、悲惨な音がきこえた。



「・・・くっ、治安維持部は全滅・・・か。」

「なに?」


陽炎は、教室に強力な敵がいる・・・

そして、味方が「援軍要請」をしてきたということは・・・

すなわち、苦戦中・・・


そんななかに連絡不能ということは・・・

おそらくかなり押されている。

全滅も目の前ということだ。



「仕方ないか・・・会長と副会長はここでお待ちを。私は1年B組へと向かいます。お前ら、付いて来い。」


すると、部下である3名。

治安維持部1チームを陽炎は率いて、生徒会本部会議室をでようとする。



「・・・俺も行こう。護衛も付いて来い。」


川口も立ち上がる。

護衛・・・

それは「警備部」の1チーム。



「しかし・・・」

「俺も副会長だ。現状で何が起きているかを把握する必要がある。」

「・・・わかりました。」


陽炎は頷く。



「会長はしばしここでお待ちを。」

「ちょっと行ってきます。」



治安維持部3名、警備部3名、計6名を引きつれ、陽炎と川口は出陣した。




出陣した生徒会治安維持部教室攻略隊の応援は、階段を上がっていく。



「・・・おかしいな。ここには警備部を待機させておいたのだが・・・」

「先ほどパトロール隊と合流させ、校内をくまなく捜索するように命令しておいた。」


川口が階段を上りながら冷静に言う。



「なぜです?ここは階段・・・包囲網の重要拠点の1つですよ?」

「先ほど警備部パトロール隊から別働隊の存在を確認したと報告がきている。」


陽炎は目を細める。



「・・・それは本当のことですか?」

「あぁ。」


(今の状況からして・・・たしかに別働隊の存在は否定できない・・・か。)


陽炎は「一応」理解した。


(ったく・・・その場ででた理由にしてはうまくだませたか。・・・しかし、なぜ警備部がいない?)


川口は川口で目を細める。

そのときの川口は夢にも思わないだろう。

その場にだしたテキトーな理由が、まさか本当のことだとは。






さて・・・

薄暗い場所をさまよう影が一人。



「縄・・・どこでしょうか・・・」



ここは物置地域。


実際たしかに「いろいろある」のだが・・・

さすがは物置。

いろいろありすぎて、縄がどこにあるのかわからないらしい。


そんなときに、物音がきこえた。

中島は急いで、ライトを消す。




「おい・・・ホントにこんなところなんて確認する必要あるのかよ?敵は教室にこもってるんだろ?」

「まぁ・・・念のための確認だよ。」


(くっ・・・警備部パトロール隊・・・ですか。)



中島は目を細め、もっているスプレー缶をさらに強く握る。


パトロール隊はライトを照らし、どんどん中島のいる奥部へと近づいてくる。


ライトの光は2つ。

つまり、相手は2人。

珍しく、3人チームではない。



(これはラッキーです。物陰に隠れて、スプレーをうてば・・・)



まず1人は確実に睡魔のなかへといく。

が、問題はもう1人。


よく見てみると、1人はバットをもっているが・・・

もう1人は何ももっていない。


バットはリーチが長いため、危険だが・・・

何も持っていないのであれば、近づかれる前にギリギリでスプレーをうてるだろう。


どうせ見つかるのであれば・・・

奇襲をかけたほうが、安全性があがる。


中島はそう判断した。



中島は物音を立てないように静かに闇にまぎれて、相手を待ち伏せる。



「・・・やっぱ戻ろうぜ?薄気味悪ぃよ。」

「俺らはパトロールが仕事だろうが。」

「にしても、こんなところには絶対いないって。」


(今のうち・・・ですかね。)


そう思って体を静かに前でだすと、わずかに積み重ねていたアルミ缶にあたる。

アルミ缶は、ぶつかった衝動で、下へと落下した。


静かで、暗いなか・・・

アルミ缶が落ちる音なんてわずかなはずなのに・・・

より一層に響いた。



「!!」


生徒会パトロールの2人は体をビクッとさせる。



(いくしかない!!)


中島は思いっきり飛び出した。



「誰だ!?」


ライトで照らされる前に、手にもっているスプレーをバットの持っている生徒へうった。

生徒は、いきなりのことでつい息を吸ってしまう。

・・・バッタリ。

1人完了である。


(よし、あと1人・・・)


そう思って、もう1人のほうへスプレーを向ける。

すると、いきなり手を叩かれ、スプレー缶が空へと舞った。



(竹刀!?)


相手は竹刀をもっていた。

おそらくこの暗さのせいで、見えなかったのだろう。


いそいで、予備の催眠スプレーに手をかけるが・・・

相手の動きが早く、首根っこをつかまれ、壁へと押し付けられる。



「つかまえたぜ!」

「くっ・・・」



つい声をあげてしまった。



「・・・女?」


生徒会警備部の男はライトを照らして、よく見る。

間違いなく、自分がつかまえているのは女性であることを確認する。



「こりゃぁいい。」


男はそういうと、中島を今度は押し倒す。


(なっ!?)



「なにをするんですか!?」

「へへっ・・・ここには俺とお前しかいない。」



暗闇のなか、2人の声は響く。


ようやく中島は男の言った言葉の意味を理解した。

・・・そして、かなりピンチであることも。



「た・助けて!!」

「助けを呼んでも無駄さ。」



それは中島自身も理解していた。

ここは物置地域。

しかも、その奥部である。


普段からあまり人がこないのに・・・

奥となれば、なおさらである。


唯一可能性がありそうな仲間・・・

絆同盟も、今は各自やるべきことがあるため、ここにくるはずがない。



「今は「ガンマ」がだされてる。何をしてもいいんだ!」


男は微笑む。

その微笑は「安心感」などを一切与えない冷酷な笑み。

中島を恐怖のどん底へと突き落とす。



(眠らせないと!)


焦って、スプレーに手を伸ばすが、手を男につかまれ、抵抗できなくなった。



(くっ・・・動かせない!!)



これは力の差の問題である。

当然、女性より男性のほうが力が強い。

これが一般的な常識である。


・・・例外は時々いるが。(例・川中)



(もう・・・だめ・・・ですか・・・)


そう諦めた瞬間に声が響く。



「諦めるには まだ早すぎる~♪」



それは当然中島の声でも・・・

そして、男の声でもない。



「!?」

「だ・誰だ?」


男が振り向いた瞬間に「シュ~」という音がした。

そして、男性は倒れた。



「ったく・・・変態野郎が。我が同盟の貴重な女性になんてことしてくれやがる。女性はもっと丁寧に扱いな。一発殴っておきたいところだが、ここは俺の心の広さに感謝・感動しやがれってんだ。」


この声は・・・



「桶狭間くん?」

「よぅ、ご苦労さん。」


(嘘・・・なんで彼がここに?)


桶狭間は視聴覚室で、将軍と待機しているはずである。



「「助けて」ってきこえたときは何事かと思ったぜ・・・」


やはり助けを叫んでおいて正解だった・・・

そう中島は思う。



「どうしてここに?」

「まぁ、「仲間」のピンチとあらば、すぐに駆けつけるぜ!!」


桶狭間はガッツポーズをする。



「・・・なんて格好良いことは言えねぇんだがな。」

「え?」

「実際は、将軍にいわれて、ここにきたんだ。お前を手伝って来いってな。」


なんて、呆れ顔をする。


なるほど・・・

そうか、将軍がここに彼をよこしたのか。


中島はこの状況を理解する。



「・・・てか、服装なおしたらどうだ?」


気づいてみれば、若干Yシャツのボタンがはずれている。

ホントに危ないところだったのだと、実感する。



「いつまでも、んな格好してると、興奮した俺が今度は襲っちまうぜ?」


なんて彼が苦笑する。



「・・・助けてくれたのにですか?」


急いで服装をなおしつつ、彼にきいている。



「んまぁ・・・男の本性というか・・・本質というか・・・まぁ、本能だからな。」


彼は苦笑いを続ける。



「本能?」

「そうそう、男はみんな、エロいから。それが男の本能だからしょうがないんだ。」

「・・・そうなんですか・・・」

「あぁ。まぁ、そういう意味では、そこに倒れてる変態野郎も、本能に従ったまで・・・なんだがな。」


(・・・まぁ、変態野郎。お前の気持ち・・・わからなくもないぜ・・・)



なんて桶狭間は心の底で思いつつ、苦笑いを続ける。



「・・・十六夜くんもですか?」

「え?」



あれは・・・

うん、まぁ・・・なんといえばいいのだろうか・・・

少しずれているというか・・・


まぁ、何事にも例外がいるということだ。



「あれは例外だ。」

「そうですか。」


(って・・・俺は中島に何を吹き込んでるんだか・・・)


桶狭間はやっと自分がしゃべっている相手を自覚する。

ついつい暗闇だから忘れてしまうが・・・

前にいるのは、男ではない。

女性なのだ。


まぁ・・・でも、今回のことで中島も少し学んだだろう。


なんて勝手な解釈と充実感が彼の心のなかでグルグルとまわる。


さて、そんな「くそ」がつくぐらいどうでもいい話をしている間に、中島は服装を整え終わった。

しかし・・・

まだ少し恐怖というものが残っているのだろうか・・・

座り込んだままである。



(やれやれ・・・)


なんて桶狭間は頭をかいて、苦笑する。

それから手を差し出す。



「?」

「・・・「Northen Lights」、いい曲だよな。」


そう・・・

それは治安維持部が教室に来る前に彼女が歌った曲。



「・・・知ってるんですか?」

「前々に十六夜たちとカラオケにいってな。そのときにあの馬鹿が「87点以上をとらないと僕のプライドが許さない」とかなんとかいって、5~6回歌ったんだよ・・・おかげで耳にめちゃくちゃ残ったぜ。」



なんというか・・・

彼らしい。



「プッ・・・」


中島は思わず吹きだしてしまう。

彼ならやりそうである。



「ったく・・・普段プライドとかなさそうなのに、変なところにプライドをかける野郎だぜ。」


なんて桶狭間も苦笑する。



(たまには十六夜も役に立つ知識を盛り付けてくれたもんだぜ・・・)


なんて地味に十六夜に感謝していると・・・

手をグイッと引っ張られる。

中島が彼の手をひいたのである。



「うっしゃぁ!」


桶狭間はそういって、彼女を引き上げた。



「こいつらは縛っておくか・・・」

「えぇ。ここら辺にはたくさん縄もありそうですし。」


そして2人を縛ってから、大量の縄を持つ。



「さて・・・と。こんな危ねぇところ、縄をもってサクッと抜け出そうぜ。」

「そうですね。」


中島はいつものように微笑んだ。



(強ぇやつだな・・・まぁ、これでなんかあったら、あの変態野郎を俺がフルボッコにするがな・・・)






再度教室へ。



ドアが今度はゆっくりと開く。



やっとまともな生徒会がきたか・・・



「邪魔する。」

「・・・」


首には、菊の紋章2つに赤い線2つ。

赤い線1つなら、臨時に編成された「部」の人間。

2つなら、そのリーダーということになる。



「ほぅ・・・ここによこした治安維持部は5チーム・・・すなわち15人全員を眠らせたのか。」


リーダーと思われる男は、この状況なのに微笑む。


ちなみに、さきほど「援軍」要請をしたのは、警備である。

15人中14人が治安維持部、1人が警備部ということになる。

つまり、1チーム、治安維持部2人、警備部1人のところがあったということだ。




「なぜ眠らせたとわかったんだ?」


お姫様がきく。



「見てみればすぐにわかる。武器が結構壊れている物が多い。おそらく無防備になった瞬間にスプレーをうったのだろう。」



今までの生徒会は問答無用で襲い掛かってきたのに・・・

この男は冷静である。



「まぁ、空手黒帯と元剣道部がいれば当たり前か。」

「!」



今度はお姫様が空手の黒帯と知っていた。


すると、開いたままのドアからさらに生徒会の者が入ってきた。



「よぅ、川口。」

「時津風・・・姐さん・・・」

「・・・」



なるほど、川口がいったのか。

そういえば、前々にお姫様が口を滑らせて、黒帯のことを川口にいってたな・・・


それから、こいつがお姫様のことを「姐さん」っていうようになったんだっけか・・・

いや、たった2ヶ月だってのに、懐かしいもんだぜ。




「なぜお姫様が黒帯だってことを、治安維持部の連中にいわなかった?」

「んなことをいったら、こいつらがビビッて何もしなくなっちまうだろ?」



なるほど・・・

さすがは治安維持部のリーダー。

尊敬するぜ。



「・・・ここにはお前らしかいないのか?」


川口がきく。



「あぁ。俺たちは陽動役だ。」


(まさか・・・ホントに別働隊がいたということか・・・)


川口が目を細めて、先ほどのテキトーなことがあたってしまったことに衝撃をうけていた。




「さて・・・じゃぁ、陽動役の諸君。治安維持部15人を眠らせたお前らの実力、見せてもらおう!!」


そう陽炎がいい、指をパチンとならし、合図する。

すると、彼の後ろにいた治安維持部3人が彼らめがけて一直線にいく。



「お前らも警備部としての誇りを見せてみろ!」


川口も彼らに指をさし、合図する。

後ろにいた護衛3人も走っていく。



バットと竹刀がぶつかりあう。



「ケッ・・・こいつら、強ぇ・・・」

「当たり前だ。彼らは武道をやっている者だ。」


なるほど・・・

治安維持部のリーダーの部下は、精鋭隊ってか・・・

治安維持部そのものが生徒会の精鋭隊だってのにな・・・

ったく・・・ご苦労なこった。



さすがは武道をやってる連中だ・・・

今までの雑魚に比べたら、隙がぜんぜんねぇ・・・

が!

それでも「隙」そのものがないわけじゃない。



「うらぁ!」


攻撃と攻撃の合間にスプレーをうつ。

相手の武器を弾きとばしたわけではないが・・・

眠らせられればそれでいい。


お姫様はというと・・・

あ~・・・さすがというべきか。

もうすでに5人眠らせている。

武器をお得意の蹴りで粉砕すれば、もうどんな奴でも雑魚ってか?


ん?待てよ・・・

5人ってことは・・・

今、俺が1人やったから・・・

もういねぇじゃねぇか!


・・・俺、役にたってねぇ~・・・



「・・・許可を。」


陽炎は川口のほうを見ていう。


・・・リーダーがでる許可を求める・・・

ってことか?


・・・ってことは、これからボス戦かよ・・・

冗談きついぜ。

そろそろ疲れてきたんだが・・・



「・・・お前に任せる。」

「了解しました。」



そういうと、陽炎はもっていた竹刀を両手で握る。



「いくぞ!」

「チッ・・・」


俺の疲れが見えてきていたのだろう・・・

お姫様が前にたった。

助かるぜ。


お得意の蹴りで一気にケリをつける・・・ってか?

面白くもねぇ、似合わないジョークを心の奥底で思いつつ、竹刀を持ち、自らも前へと進む。



が!!

・・・ケリはつかなかった。



「かわされた!?」

「残念だったな・・・」



あの竹刀の動き・・・

空手黒帯のお姫様の蹴りより速い!?


陽炎の持つ竹刀が川中へと振り下ろされる。



「まずい!!」



竹刀と竹刀がぶつかる。

今日で一番大きな音がしたように感じる。

手がジィ~ンとしびれる。


しかし・・・

どうして、生徒会ってやつらは、女性にたいしての気遣いがないのだろうか・・・



「ったく・・・何度いわれればてめぇらは理解するんだ?女性をボコすのはあんまり関心しねぇぞ。」

「・・・俺はお前に言われたのは初めてだけどな。」



だが、俺は生徒会の連中にもう2~3回はいってるはずだぜ?



「・・・お前、名前は?」


おいおい、リーダーさんよ・・・

社会のルールってのを知ってるだろう?



「人に名前をきくときは自分から名乗りな。」

「・・・フッ、「陽炎かげろう 刃斬はざん」。刃斬の「は」は「やいば」と書く。「ざん」は「きる」という字だ。」



ご丁寧に漢字まで教えてくれた。

・・・ったく、剣道をするために生まれてきたみたいな名前をしてやがる。

というか、むしろ・・・

戦国時代なら大活躍できたかもしれんな。


さて、今度は俺の番か。

まぁ・・・俺もこいつのことをいえない名前をしてるんだがな。




「俺は「時津風 斬」。「ざん」はお前の「ざん」と同じ漢字だ。」

「なるほど・・・」


陽炎と名乗る男は頷く。



「・・・お前は?」

「私は「川中 水旋」。「すい」は「みず」。「せん」は旋風の「せん」。」



んだよ・・・

みんな珍しい名前じゃねぇか・・・




「・・・おい、川中。」

「なんだ?」



久々にこいつのことを「川中」と呼んだぜ。

いつもは「お姫様」だからな。



「お前は先にあいつらと合流してろ。」


もちろん「あいつら」というのは「絆同盟」である。



「なにをいって・・・」

「へっ・・・こいつと1対1でバトりたい。」

「お前、正気か!?」

「もちろん。正気すぎてヤバイぐらいだぜ。」


自分でいっておいてなんだが・・・

日本語の使い方を間違えてるぜ?



「・・・俺を信用しな。」

「・・・」

「サクッと片付けて、例の集合場所にいくからよ。」


(・・・こいつ・・・とめても、ひかないつもりか。)



川中は時津風のことをそれなりに理解している。

時津風はマジでこうと決めたら、なかなか考えをかえない頑固なところがある。


それに・・・

このマジさは川中を説得したときと同レベルか・・・それ以上。


彼がここまでマジになるのは川中自体も初めてみる光景なのかもしれない。



「・・・わかった。」


川中は頷くしかなかった。



「・・・サクッと片付けてこいよ?」

「あぁ。そうさっきいったろ。お前こそ、気をつけろよな。」



まぁ、言うまでもないがな。

黒帯がそう簡単に負けるはずもねぇ。



「・・・」


それから、川中は静かに教室を出て行った。



(くっ・・・なんなんだよ!?私が邪魔だってのか!?)


イライラとしながら、川中は階段を下っていくのだった・・・




「・・・女は逃がしたか。敵ながら、なかなか見ごたえのある男だ。」

「・・・」



川中は空手・・・

剣道とはリーチの長さが違う。

明らかに不利だ。


それは先ほどの戦闘で証明された。


・・・となれば、川中が無傷でいられる可能性は極めて低い。

女性を守るのが、紳士ってもんだぜ。

なんて、柄にもねぇことを思ったりしている。



「・・・お前、関東大会にでたんだったな。」

「あぁ。」



陽炎 刃斬。

この学校の生徒なら、名前だけなら誰もが知っている。

何しろ、1年で剣道部のエースで、関東大会まで出場した男なのだから。



チッ・・・

こいつが生徒会だなんてな・・・

厄介な敵がいたもんだぜ。


しかし、まぁ・・・

俺もお前と同じなんだがな。



「奇遇だな。」

「なに?」

「俺も中学で関東大会にでた。」

「!!」



このことは、モトチューの・・・しかも剣道部の連中しか知らないはず。

剣道部の連中には口をすっぱくして言うな、といってあるし・・・

いざ県大会でもらった賞状などは、自ら強く断って、学校の集会やらなにやらでお披露目されることもなかった。




「お前も剣道をやってる人間なら、仁村を知ってるだろ?」

「仁村?・・・仁村愁都か?」

「あぁ。俺はあいつの親友だ。」

「・・・なるほど。」


俺の親友で、何気なへたれ・・・

白湯美代子を泣かせた馬鹿野郎の仁村は・・・

全国大会2位の男だ。


まぁ、当然俺なんかが勝てる相手でもないわけだが・・・

そんなすげぇ奴が近くにいれば、勝手に腕が上がるってもんだ。

しかも俺はあいつの親友。

皆より多く仁村というわけだから・・・

より腕が勝手に上がっちまってた。


これが「音島」最強コンビと呼ばれる理由の原点。

おそらく大半の連中は俺と川中の関係を勘違いして茶かすためにいっていたのだろう・・・

本当は、川中は黒帯、俺は剣道関東大会出場という意味だった。

剣道部の連中が言っていたのが、広まったのだ。

もちろん剣道部には、俺が関東にでたことなんていわせないようにしてたし、学校も仁村のほうを大々的にいっていたから、俺が関東にでたことは広まらずにすんだ。


まぁ・・・それでもお姫様にはかなわない。

俺はチョコっと剣道ができる程度なのだからな。





「・・・なぜ隠してた?」

「別に自慢することでもない。それに、んなことで自慢もしたくねぇしな。」


武道はあくまで自ら身を守るためのもの。

それがチョコっとできるからって、自慢するもんでもない。


まぁ・・・これは個人的な見方だけどな。


こう思えるのは仁村のおかげかもな。


仁村は全国2位だ。

十分自慢できるレベルでもあった。

だが・・・

あいつはそれでも謙遜していた。

だから、俺はあいつを心の底から尊敬したのかもしれない。

だからこそ、こういう考えをもつようになったのかもしれない。




「まぁ・・・お前にいったのは、正々堂々勝負したいからだ。」

「ハハ・・・敵ながら、かなり見所のある男だ。気に入ったぞ。」

「ありがとよ。」

「・・・なぜ剣道部に入らなかった?」



それは・・・

「第5同盟」とともに・・・

卯月咲良をとめると誓ったからだ。

今度こそ、被害を出さない。

そう・・・誓ったのだ。


中学では、「第5同盟」と「剣道」。

2つやってたから、2つとも中途半端で終わった。


どちらかを捨てるとなれば・・・

「剣道」となった。

まぁ、重たい決断だったが・・・

何しろ、これ以上、中学で見てきた悲劇を増やしたくなかった。

そう考えると、結構サクッと答えがでたわけだ。


しかし・・・

今ではこうして、卯月咲良の味方として動いてるわけだ。

俺も・・・お姫様もかわったもんだぜ。




「まぁ、いろいろとあるんだよ。」



一々説明するのも面倒だ。




「いろいろ・・・か。」



陽炎は夕焼けから、少し黒い色に変わり始めた空を見つめながらにいった。



「さて・・・じゃぁ、中学関東大会レベルと、高校関東大会レベル・・・どっちが強いか、やりあうとしようじゃねぇか。」

「あぁ。そうだな。」


こいつは話がわかるやつだ。

俺が勝てば潔く道をあけてくれるだろう。

邪魔っちいので、催眠スプレー缶を教室に捨てる。


そして、お互いにお互いを目掛けて走りあった。


竹刀と竹刀が幾度となくぶつかり合う。



「ケッ・・・やるじゃねぇかよ。」

「当たり前だ。中学レベルに負けるわけにはいかねぇ。」



おいおい・・・

こりゃぁ、苦笑いなんてしてる暇ねぇぞ!!



「強ぇじゃねぇか・・・」

「諦めるか?」

「残念だが・・・俺には負けられない理由がある。」


お姫様と約束しちまったんだ・・・

サクッと片付けて、集合場所へ行くってな。



それに・・・


「それに、相手が強いと燃えるぜ!」

「・・・お互いに強いやつが相手だと燃えるってことか。」


お互いに本気の勝負ってか・・・

やれやれだぜ・・・


すると、1本隙ができた。

自分でもわかった。


「痛ぇ・・・」



陽炎が時津風の左腕を竹刀で思いっきり叩いたのだった。

防具をつけていないから、ちょくでダメージがくる。



(ったく・・・左でよかったぜ。「右腕ききうで」を潰されたんじゃ、戦闘継続不能になっちまう・・・)



「なんだ?中学関東大会レベルってのはこの程度なのか?」

「言ってくれるじゃねぇか。」

「これで俺に1本だな。」

「すぐに取り返してやらぁ!」


また竹刀と竹刀がぶつかり合う。

竹刀がぶつかり合うたびに、大きな音が響く。


幾度と大きな音が響いて・・・

今度はあちらに隙ができた。


(今だ!)


相手の竹刀を弾き飛ばすべく、竹刀を振り上げ、攻撃する。

が!

竹刀があたった感覚はない。




「汚ねぇぞ・・・その動きは反則じゃねぇのか?」



あたらなかった理由。

それは陽炎そのものが後ろへ下がった。

それによって、見事にからぶったのである。



「これは剣道であって剣道じゃねぇ。ルールなんて無用なんだよ。」

「ほぅ?いいんだな?」

「なに?」

「俺もどっちかというと、そっちのほうが得意なんだぜ?」



それに・・・

ルール無用のほうが、面白い。



「俺もそっちのほうが得意。・・・お互い、そっちのほうが得意なら、文句はねぇな?」

「上等!!」



普通の剣道のルールに沿わなくていいというのであれば・・・

俺も最大限に動くぜ?



先ほどより強く・・・

大きく・・・

多く・・・

竹刀がぶつかり合う。


動きももはや剣道ではない。


だが・・・

これ以上に面白いことはない!


中学で剣道をやってきて、今にいたるが・・・

これほど面白い戦いをするのははじめてかもしれない。


やはり絆同盟と組んで正解だった。

じゃなきゃ、こんな面白い戦い、できなかった。



「へっ・・・時津風・・・久々に熱くなる戦いだぜ。」

「俺もだ。」

「こんな戦い・・・ホントに久々だ。」



普通の試合だと、動きも限られる。

ルールも多い。

だから、少し飽きというものがくるが・・・


ルール無用なら、飽きなんてこない。

むしろ、楽しすぎて、楽しさに飽きがくる。



「こうしてみると・・・小さい子供のチャンバラみたいだぜ・・・」

「なら・・・ハイレベルにするか。」


そういうと、陽炎がニヤリとする。


「こいつは絶対に使うことのない技だと思ってた。しかも名前もない技だが・・・まさかこんな状況で使うとはな!」


そういいきると、彼は竹刀を真上へ投げた。

それを追うように、机の上に飛び乗り、さらにジャンプする。

あっという間に真上につかれた。



「くっ・・・」



重力の力で威力を倍増させるつもりか・・・

守りに徹するしかない。

今からだとかわすってのも、間に合いそうにない。



「うらぁ!!」

「くっ・・・」



彼の技をガードした。

のだが・・・

これは喰らったも同然のダメージだぜ・・・

めちゃくちゃ手に反動がきている。

ピリピリしてやがる。



「これをガードできるとはな。」



正直ヤバイぜ・・・

もう一度あの攻撃を喰らったらまずい・・・

左手をさっき喰らったせいで、フルで力がだせない。


こいつは冗談抜きでまずいぜ・・・



相手は今は普通に攻めてきているが・・・

おそらく隙ができた瞬間にもう一度あの技を使ってくるはず・・・

あれをちょくで頭に喰らえば、下手したら意識が飛ぶぜ・・・

どうにかしねぇとまずいぜ・・・


だが・・・

左手をやられてるせいで、隙ができるのも時間の問題・・・



(諦め時・・・ってやつか・・・)



お姫様・・・

こいつはサクッと片付けられないっぽいぜ・・・



そんなときに1つの曲が頭にうかぶ。


(諦めるには まだ早すぎる~♪)


そう・・・

中島が教室で歌った曲だ。



んだよ・・・

こんなときに・・・

応援歌のつもりか?


だが・・・

その応援歌・・・

効いたぜ!!


あんなカッコつけといて・・・

なさけねぇ姿でお帰りってのは、冗談じゃねぇぜ・・・


それにここまで面白い勝負・・・

そう簡単に負けを認めてたまるかよ。



「これで終わらせてやる!!」

「!」



チッ・・・

知らず知らずのうちに隙ができてやがったか・・・



「いくぜ!!」


彼は竹刀を空中へとなげた。

やはり先ほどの技か。


土壇場での対処法だが・・・

うまくいくかはわからねぇが・・・

やってみるしかねぇ。



陽炎が空中で竹刀をつかんだ。



(今だ!!)


その瞬間に時津風も竹刀を真上に投げる。

そして、竹刀を追う様にジャンプする。

これは彼と同じ技。

同じ技で勝負をつける。


いわばパクり戦法だが・・・

そこは気にしないことにする。



「なっ!?」


陽炎は落ちるしかない。

時津風が陽炎の上へといく。



「くっ・・・」



陽炎が着地すると同時に急いで防御しようとするも・・・

わずかに時津風の落下攻撃のほうが早かった。


竹刀が弾き飛ばされた。



「・・・へっ・・・ギリで勝利ってか?」

「・・・俺が・・・負けた?」



結果は時津風の勝利だった。


やはり攻撃力がでかいってのはいいもんだ。

落下にあわせて、攻撃力倍増。

おかげで、普段は絶対に弾くことができないだろう、陽炎の竹刀を弾くことに成功した。



「残念だったな・・・生徒会。」

「くっ・・・まだ1本と1本。並んだだけだ!!」



おいおい・・・

マジかよ?

俺はもう戦闘継続不可能なんですけど?



「いや、陽炎。お前の負けだ。」


すると川口が言った。



「な!?」

「お前は時津風の左腕を容赦なく攻撃した。だが、時津風はお前を攻撃することなく、竹刀のみを弾いた。」

「・・・」

「お前ならわかるだろう?相手の体を攻撃するのと、相手の竹刀を弾き飛ばすの・・・どちらが難しいかを。」

「くっ・・・」



陽炎は下を向く。




「たしかにそうだな。・・・お前の勝ちだ、時津風。久々に楽しい勝負をさせてもらった。」

「へっ・・・お互いにな。」


実際、あんなに楽しかったんだ。

嘘はついてない。

めちゃくちゃ疲れたがな。



「この技は・・・「緋蒼斬」という名前にする。」

「は?」

「お前は俺の冷静さを奪うほど、熱くさせてくれる。そんなお前を打ち砕く技・・・そういう意味でつけるぜ。」


いってろ・・・



「緋色はお前。蒼は俺。・・・「斬」ってのは共通の漢字だ。」



・・・なるほど。



「この技でいつか絶対お前を打ち砕くぜ。」

「・・・」


まぁ、面白いバトルだったし・・・

また暇があればやってやるさ。


さて、時間もずいぶんと稼いだだろう。

というか・・・稼ぎすぎたか。


もう外は真っ暗である。



「へっ・・・んじゃぁ、俺は帰らせてもらうぜ。」

「・・・」

「・・・」



川口と陽炎が道をあけた。


・・・ったく、助かったぜ、川口。

お前が俺の勝ちだといってくれなかったら・・・

俺は明日、なさけねぇ姿で学校へやってくることになってた。



彼が去った後の教室。

2人も静かに教室を去る。



「・・・よかったのですか?」

「あぁ。今回は生徒会の負けということだ。」

「この様子を見てると・・・警備部も全滅・・・ですか・・・」

「いや、天王山会長の護衛が残ってるだろう?」

「あ~・・・たしかに。」

「これから、眠らされた連中を探さなくちゃな。」






夜。

街灯が道を照らす。

左手はちょっとまずい状態になっている。

皆にバレないように、さりげなくポッケに手を突っ込んでいる。


そのため、疲労MAXの右手で竹刀をもっている。


集合場所につくと・・・


「やれやれ・・・」



つい言葉がでてしまう。

こんな時間だってのに・・・



「時津風!!」


絆同盟は待ってやがった・・・

ご苦労様だぜ・・・

ホントにな。



「よぅ。」

「てめぇ、何してやがった!俺らがどんだけ心配したと思ってやがる!!」


んなこといったって・・・

こっちだって結構大変だったんだぜ?



「悪ぃ悪ぃ、意外と手間取ってな。」

「・・・」

「まぁ・・・川口のやつに感謝しなくちゃな。」

「え?」

「俺を見逃してくれた。・・・おかげで助かったぜ。」



さっきのでわかったぜ。

川口は俺たちの味方だ。

生徒会の連中の動きを抑えてるんだろうな。



「さて・・・全員の無事を確認したし、帰るか!!」



それから、俺たちも別れた。


暗い街灯のなか、お姫様と2人で帰る。

まぁ・・・家の方向が一緒なのだ。



「こんな遅い時間に帰るのは久々だな。」

「誰のせいでこうなったと思ってる?」


はいはい・・・

一人でカッコつけて、死に掛けた(負けかけた)俺のせいですよ!



「・・・で?」

「なんだよ・・・で?って・・・」


お姫様はこちらをにらんでくる。



「お前・・・いつまで左手をポッケに入れてるつもりだ?」

「悪いか?」



いやいや・・・

今日のお姫様は地味に鋭いじゃねぇか・・・



「あぁ・・・見せてみろ。」



ポッケに手を入れてることを悪いといいやがった・・・

俺の人権の尊重とやらはどうなってるんだ?


仕方ない。

覚悟を決めますか。



「ほら。」


左手は陽炎に竹刀で打たれたせいで、少し青色・・・

というか、あざっぽくなっていた。



「はぁ・・・馬鹿が・・・やはり私も残ればよかった。」

「いやいや、いい勝負ができたぜ。」



あいつと俺は・・・

似た者同士。

同類。

いわば・・・

「同志」だな。


同じ剣道の道を歩んでいたわけだし。



「・・・ここを押すと痛いか?」


グイッとお姫様が押してくる。



「痛たたたたた!!」


実際ぜんッぜん痛くないが。



「悪い。」

「ったく・・・これだから空手女は・・・」

「なんだと!?」

「力の加減というものを知ってほしいぜ。」

「貴様!!人がせったく心配してやったというのに!!」



まぁ・・・

とりあえず左手だけで済んだんだ・・・

よしとしようじゃねぇか。


それに・・・

絆同盟の連中は皆無事だった。


それなら・・・

今日は初の勝利なのかもしれねぇな。



そんなことを思いながら、暗い闇の中、家に向かっていくのだった。



                         「同志」   完

最近、一定のキャラが前に立ちすぎている気がします・・・(たとえば時津風とか)

ある程度バランスもとりたいものです(苦笑

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