乱入
※これは桶狭間視点の物語です。
ここは校長室。
狭い空間だが、ピリッとした空気が張り詰まっている。
なんだか、ギュウギュウの満員電車に乗った感じに似ているものがある。
上には初代校長から前校長までの写真・・・
それから、国からもらったありがた~い、それはそれは本校の誇りとなる賞状が並んでいる。
「貴校は生徒たちに優れた文型指導をしたことで、ここに証する。」
へっ・・・
お国も平和なもんだぜ。
さすがは「平和主義」だ。
当たり前の平和すぎて、平和が当たり前と思えてきちまう。
平和ボケってやつだな・・・
実際、こうしている間にも世界には貧困と戦争・紛争に巻き込まれて亡くなっている人々がたくさんいるというのに・・・
この国はホントに平和なもんだぜ。
お国は完全にだまされてやがる・・・
この高校が根っからの「帝国主義」だなんて・・・
なにが「生徒一人一人が意見をしっかり持てる学校」だよ・・・
大嘘つきめ。
まぁ、この高校に入っちまったら、生徒たちもいえないんだろうけどな・・・
だからこそ!
内部で解決する必要がある。
・・・のだが、俺はそれを主張すると、見事にこの「満員電車(校長室)」につれてこられたのである。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
しかも・・・だ!
誰一人しゃべらないから、これまた気まずいときた。
1秒が1時間に感じるぜ。
目の前には校長がいる。
それだけで緊張ものなのに・・・
担任の「桐山」に、学年主任の先生、川口までいやがる。
生徒会会長の「天王山」は、川口に任せたらしい・・・
まぁ、あの女がいないだけでも、よしとするか・・・
「・・・いつまで黙っているつもりだね?」
おい、校長。
それをいうなら、まずネタふりをしやがれってんだ・・・
「いつまででも黙ってますよ?」
「ふざけるな!!」
学年主任がぶちぎれる。
嫌だねぇ・・・短気は。
「ふざけてなんてないっすよ?」
「・・・なぜきみはあんなことをしたんだね?」
やっと話しが進むぜ・・・
まぁ、最初は様子見。
防御に徹するとしよう。
下手に攻めて、敵の罠にかかったらひとたまりもねぇぜ・・・
「だっておかしくないですか?この学校は「生徒一人一人が意見をしっかりもてる学校」を目指すんですよね?そんなデカデカと目標をいっておきながら、上からの命令は絶対服従・・・それじゃぁ、意見なんてもてませんよ。」
「・・・」
それをいうと校長は下を向いた。
やはり、このことは学校にとっては、苦しいところなのだろう。
「桶狭間・・・いいか、この学校は「意見をもつ」のを目標にしてるんだ。」
川口は冷静に静かに、なおかつ堂々と確実に言う。
「「意見」を言うことを目標にしているわけじゃない。」
「・・・はぁ・・・」
呆れてため息がでるぜ・・・
なに、「意見を持つ」ことが大切?
持っただけじゃ何もかわらないじゃねぇか・・・
意見ってのは、自らで考えた考え方で、それを主張するのが一番大切なんじゃねぇのか?
「意見を持つだけなら、誰にだって出来る。それを言うことが大切だって・・・小学校で俺は習ったぜ?」
「だが、現に学校は「持つ」ことを目標にしているだけで、「言え」とはいっていない。」
なるほど・・・
よくわかったぜ、川口。
お前・・・川中が渡した封筒の中身を知ってたな?
それを知っていてわざと学校に渡した。
それで、わざと俺をあそこに立たせ・・・
惨敗させる。
なぁに、生徒たちは生徒会の力の中にある。
反抗する勇気があるやつなんていない。
そうして、絆同盟を・・・
生徒会に反抗する奴らを・・・
これから生徒たちが反抗しないように、見せしめに「退学」にさせるつもりだったんだな。
ハハ・・・見事にやられたもんだぜ。
今のところ、こいつの計画したとおりに進んでいるだろう。
だがな・・・
んなの、ぶっ壊してやるぜ。
何しろ、俺は百年かけても、校長を説得する自信がある。
「なるほど。理解した。・・・つまり、この高校は・・・」
やべぇ・・・
また暴言になっちまうな。
これでイエローカード2枚目だぜ・・・
「社会で役立つことは何も教えてくれないくそ高校だってことだな。」
「なっ!?」
「お前、口を慎め!!」
うるせぇんだよ、学年主任。
少し偉いからってえばってんじゃねぇ。
これは考え方の問題だぜ。
地位なんて関係ねぇんだよ。
「あぁ?てめぇこそ口を慎んだらどうだ?じじぃ。」
「なに!?」
「校長室ってのは静かにするもんだぜ?・・・うるせぇんだよ、ギャーギャーとよ。」
「!!」
学年主任は顔を真っ赤にさせてる。
沸騰してやがる・・・
おぉ・・・怒ってる怒ってる・・・
怖い怖い・・・
「やめなさい。」
「・・・申し訳ありません。」
所詮、いつも偉ぶってる学年主任も、校長の前ではペコリペコリか・・・
「まぁ・・・退学にしたけりゃすればいいさ。」
「なに?」
川口は目を丸くする。
「けどな・・・そしたら俺はこの高校がバリバリの帝国主義だって、世間に公表するぜ。」
「!!」
一瞬で校長室内が凍りついた。
「なぁに、俺は退学しちまえばもうこの高校には何の用もない。なんだって言えちゃうもんね~。」
そう・・・
これが俺の切り札だ。
「貴様!!!」
「うるせぇっつってんだろ・・・じじぃ。」
嫌だねぇ、物覚えの悪いやつって・・・
さっきそこのお偉い爺さんに言われたばっかだろう?
「わかった、退学は免除しよう。だが・・・この高校の考え方をかえるつもりはない。」
そうくるか。
けどな・・・
俺はもうとっくの昔に「退学」を覚悟してるんだ。
そんな免除なんていらねぇんだよ。
「それじゃ意味ねぇんだよ。俺のことを退学させるかわりでもなんでもいいから、この帝国主義を正しやがれ。」
皆が目をまるくする。
まぁ、そうだろうな・・・
退学を免除するっていわれたら、フツーのやつは喜ぶだろう。
だが・・・
俺は違う。
仮にこの高校にいられなくなっても、帝国主義を正すことで、笑い合えるやつらを俺は少なくても一組は知ってる。
それだけじゃねぇ。
帝国主義で、生徒会の圧迫から解除されれば、この高校はより綺麗な花を咲かせることができる。
そう・・・
それこそまさに「生徒一人一人がしっかり意見をもてる学校」が実現する。
優れた軍隊の指揮官なら・・・
この「部隊(学校)」の総勢600人とわずか1人の犠牲。
どちらかを選べといえば、確実に1人で済むほうを選ぶだろう。
といっても、600人ではないか・・・
生徒会の連中は悔やむだろうな。
これを置き土産に退学なら、まだ納得できるぜ。
「お前・・・退学が怖くないのか?」
川口はきいてきた。
当たり前だろ。
前の前から・・・
あいつらと・・・
絆同盟を組んだときから、俺は「退学」覚悟済みだぜ。
「怖くなんてねぇよ。」
「・・・なんでだ?なんでお前はそこまでこの学校を正そうとする?」
正そうとする?
ってことはお前も間違ってると思ってるのか?
まぁ・・・生徒会の人間だ。
間違ってるとは思ってない・・・か。
「なぁ・・・なんでだ?」
んなの決まってんだろ・・・
あの馬鹿どもの笑顔が・・・
あいつらが笑ってるところを見るのが・・・
好きだからだよ。
「人間、誰かのためなら本気になれる」
とよくいうが・・・
こいつは素晴らしく正しい言葉だぜ。
今の俺は確実に正しいと思える。
「どうだろうな?なんとなくだ。」
だけど・・・
俺にその言葉は似合わなすぎるぜ。
いわゆる「豚に真珠」ってところだ。
「なんとなく・・・か。」
川口は苦笑する。
まぁ・・・「なんとなく」でこんな大騒動するやつなんて・・・
フツーいないよな・・・
「まぁ・・・自らが間違っていると思ったことを正すのをなんでだときかれたら、なんとなくって答えるだろうな。」
ったく・・・
何がいいたいんだか・・・
「・・・お前の意思、理解した。」
それはどういう意味だ?
「帝国主義はこの高校の柱となっているものだ。それを抜いたら、倒壊するのみなのだ。」
校長は静かにいう。
「理解してもらいたい。」
それで理解できたら俺はこんな大騒動しねぇっての。
頭の固いじじぃどもめ。
「理解なんてできるかよ。まぁ、この学校にいていいってなら、地味にみんなを説得してでも、この学校を正してやるぜ。」
「ふん、たかが1年一人じゃ何もできないだろう?」
学年主任・・・
いってくれたな?
その言葉、いつか後悔する日がくるぜ。
そう思っていると突然にドアが開いた。
「悪ぃ、邪魔するぜ?ここに桶狭間っつ~馬鹿はいないか?」
この声は・・・
「時津風!?」
「おぅ、いたいた。」
なぜか時津風は竹刀をもっている。
「おい、川口。」
「・・・なんだ?」
「校長室を警備するなら、もう少しまともな人材を使えよな・・・」
「あぁ。この俺・・・初心者でも、バットで勝てるレベルだったっぺ。」
まさか・・・
警備部の連中をぶっ飛ばしたのか!?
「・・・けが人は?」
「いねぇよ。ただ・・・少し寝てもらってるだけだ。」
「・・・寝てる?」
寝てる?
それは気絶してるって意味か?
「これですよ。」
「えぇ?」
すると、中島が小さなスプレーをみせる。
「護身用の催眠スプレーです。」
・・・なるほどな。
「んで、話し戻すけどよぉ・・・学年主任のじじぃ、こいつ一人じゃないぜ?」
おい・・・
まさか・・・
「あぁ、俺たち8人もこいつの仲間だ。」
「これで9人。絆同盟全員集合ってとこだな。」
部屋内には、いつの間にか皆が入っていた。
「ったく・・・お前だけに特攻なんてさせっかよ。」
将軍が呆れ顔でいう。
「お前だけにいい顔はさせねぇぜ?」
関ヶ原が俺に指をさしていう。
「それに、もともとは僕と咲良が原因だしね。」
十六夜まで・・・
真面目な十六夜がこんなところまでくるなんてな。
「えぇ。1人でも犠牲がでたら・・・その地点で負けよ。」
卯月も・・・
いつも静かなのに。
「まぁ、スプレーで眠らせちゃいましたし・・・もう後戻りはできませんね?」
中島も笑顔で言う。
「ったく、どいつもこいつも熱いんだから・・・まぁ、そんな絆同盟に入った私も悪いんだがな。」
川中も微笑みながら言う。
「親友の親友はやはり親友。そんな親友を見捨てられるほど、俺はできてないからな。」
五月雨は苦笑気味でいう。
そして・・・
「これで9人。これでこそ、絆同盟だな。誰も失わせないぜ?この同盟の絆にかけてな。」
時津風がウインクする。
・・・相変わらず心強いウインクだぜ。
やはり敵にすると厄介だが、味方となると頼りになる男だ。
「やべぇ・・・ちょっと格好良すぎたな・・・最後の絆にかけてってのは、やっぱお前が言うべきだぜ・・・桶狭間。」
「お前がここまで熱くなるなんてな・・・似合わないぞ?」
なんて時津風と川中が話す。
「お・お前ら・・・」
ついつい、意外なことすぎて戸惑ってしまう。
「援軍到着ってわけです☆」
中島がピースしながらにいう。
「・・・姐さん。」
「川口、封筒の件、感謝するぞ。」
「えぇ。」
こっちはこっちで気まずい空気である。
まぁ、生徒会と絆同盟。
今後敵対する組織同士だしな。
「おい、貴様ら!!ここは校長室だぞ!」
「あぁ、聞こえねぇな、じじぃ。」
「声が小さいぞ?」
「そろそろ腰が弱ってきちゃったんじゃないですか?だから声がでないんじゃぁ・・・」
「なるほど・・・中島、お前、いいところつくな。」
「星矢、あんたもなんかいいなさいよ・・・」
みんながよってたかって、学年主任を馬鹿にする。
五月雨が親指を立てる。
なんだよ・・・シメは俺がやれってか?
「貴様ら!!!俺をなんだと思ってる!!!」
「うるさいですよ、学年主任のじじぃ。校長もさっきいったばかりじゃないですか・・・」
こういうと、皆が微笑んでくれた。
親指を立てたやつもいる、ウインクしたやつもいる、ピースしてるやつもいる・・・
俺は・・・
ホントにいい奴らを仲間にしたぜ。
そういや・・・
もうみんな、とっくの昔に俺と同じで「退学」覚悟だったんだっけな・・・
「お前ら!!ただで済まされると思うなよ!!」
「うるせぇっつってんだろうが・・・この竹刀で頭ぶったたかれたいか?」
時津風は竹刀の先端を学年主任に向ける。
「そのあとはこのスプレーでおやすみなさい・・・でどうです?」
中島はスプレー缶を上下にふる。
「くっ・・・」
「桶狭間・・・お前だけに責任は押し付けないぞ。」
十六夜・・・
ハハ、なんか気合入ってるじゃねぇか・・・
何かあったのか?
「俺たちは9人で絆同盟だっぺ。」
そうだったな・・・
そう・・・誓ったな。
OK、もう1人で特攻なんてしねぇさ。
どうせやるなら、みんな道連れにしてやるよ。
「さぁ、話し合いの続きと行こうぜ!!」
これからが・・・
本当の第2ラウンドだ!!
「乱入」 完