始動
※桶狭間視点の物語です。
「おい、てめぇら!!よく耳をかっぽじってききやがれ!!!」
俺は今、全校生徒が集まっている体育館の壇上で、大声をあげた。
それによって全校生徒は皆、俺へと注目する。
・・・こうなった理由?
それは金曜日にさかのぼることになる。
「・・・桶狭間、話しがある。」
そう、川中に呼ばれ、俺は物置地域にいった。
そこで川中に俺はある1枚のプリントを渡された。
「・・・これは?」
「体育祭実行委員作成書だ。責任者はお前ということになっている。」
「・・・」
俺には川中がこれを俺に託した理由が不明だった。
「これと同じプリントを川口に渡した。」
「!?」
川口に!?
どういうことだ?
「川口を通じて、学校に送ってもらう。生徒会からなら、学校も動くはずだ。」
「・・・でも・・・体育祭実行委員なんて作って何になるんだ?」
「月曜日に全校生徒が集まる大規模な集会がある。そこでお前が体育祭実行委員として、壇上に立つんだ。」
・・・それって・・・
まさか・・・
「おい・・・それって・・・」
「あぁ。生徒会に堂々「宣戦布告」できるってことだ。・・・しかも全校生徒を味方につけてな。」
たしかにそれができれば、とんでもなくことは有利に進む。
だが・・・
「川口が学校にとどけるという確証は?」
「ない。」
・・・やはり。
川口だって、生徒会の人間だ。
自らの敵と認識した者たちの言うことをきくようにも思えない。
「ここは川口を信じるのみだが・・・仮に届けてくれたのならば、月曜日に教室にお前を迎えに生徒会の人間がくるはずだ。」
「・・・」
「絆」同盟のことはまだ1年B組のなかでしかひろまっていない。
まだバレてはいない。
そこは確信できる。
「月曜にお前は学校に早めにいき、もし呼ばれたら・・・やることはわかってるな?」
「・・・」
「これが実現すれば、絆同盟は勝利の第一歩を歩むことになる。」
・・・わかってる。
けど・・・
確証がない。
「まぁ・・・できなければ、次の作戦を考えればいい。」
「・・・」
「・・・どうだ?」
川口が学校にその川中が託したプリント・・・
おそらく封筒か何かにいれたのだろうが・・・
それを学校におくるとは思えない。
が・・・
確率がゼロなわけではない。
「それって・・・マジな話しか?」
「あぁ。」
「お前・・・やるじゃねぇか。」
・・・
・・・
こうして・・・
絆同盟のすべてのメンツにやるべきことを伝えた。
もちろん五月雨と中島にも。
月曜日。
つまり今日。
俺と関ヶ原、将軍と時津風は早めに学校にきた。
いつもどおりに装って、ダラダラしていると・・・
見事に生徒会「準備部」の連中が俺を呼びにきた。
それは川口が学校にプリントをまわしてくれたということだった。
・・・川口、サンキュー、助かるぜ。
そして・・・
「え~、これより体育祭説明会を始めます。」
体育館の舞台裏で俺は準備をしていた。
舞台は中央。
右と左に各1箇所ずつ出入り口がある。
そこの封鎖を3人に任せた。
3人は各自「武器」とよべるものを携帯していた。
それは、力押しでこられたら、中断させられてしまう・・・
そうならないために、出入り口は「死守」しなければならない。
仮に力押しでこられたときに、素手だと苦しいものがあるが・・・
武器となるものをもっていれば、相手も下手に突っ込んでこなくなる。
相手に怪我をおわせる予定などない。
あくまで「死守」のためだ。
「・・・よし、作戦決行だぜ。」
「へっ、出入り口閉鎖は任せときな。」
将軍の言葉がいつもより力強く聞こえる。
「桶狭間・・・お前は「演説」に専念するっぺ。」
いつも突っ込んでくる関ヶ原も、今日という今日は心の奥底から信頼できる。
「なぁに、「演説」は中断なんてさせねぇ。出入り口は俺らが「死守」してやるよ。」
時津風のウインクが今日ほど心強く思えた日はない。
「へっ・・・お前ら、最高に格好良いじゃねぇか・・・」
「なぁに、お前のいい格好させるんだ・・・俺たちもせめて見えないところぐらいでは格好よくないとな。」
将軍は苦笑しながらにいう。
「その通りだっぺ。今日、何かおごれよな。」
関ヶ原も親指をたて、ニコやかに笑う。
「んじゃぁ、今日が終わったら、サイゼリアでドリンクバーとしますか!!」
時津風も親指を立てて、テンション高めでいう。
「いいじゃねぇか。」
「皆で飲みにいこうだっぺ。」
「・・・といっても金曜にお姫様におごってもらったんだけどねぇ・・・」
なんて時津風が苦笑しながらにいう。
「へっ・・・ここまできたなら引き返せねぇ・・・でかい花火をあげてやろうぜ!」
そういって時津風はこぶしを前にだす。
皆がこぶしとこぶしを無言でぶつけ合って、そのまま各自の持ち場へとついた。
「それでは、体育祭実行委員より、説明してもらいます。」
さぁ・・・
あの3人に裏仕事を任せてるんだ・・・
主役が失敗するなんて許されねぇぜ。
そして、ゆっくりと壇上へと出て行った。
壇上にたつと、よく見えるもんだ。
下を向いてるやつ、後ろを向いて話してるやつ・・・
全部丸見えだぜ。
さて・・・
楽しい楽しい祭りの始まりだ!!
俺が一言この場で怒鳴っただけで、皆が一瞬にして、こちらに向いた。
右からは、生徒会の連中が出入り口へと入っていく。
左からは、先公どもが入っていく。
あいつら・・・大丈夫だろうか。
なんてことを気にする余裕はない。
なぁに、「退学」覚悟の一世一代の大演説だぜ。
てめぇら、心して聞きやがれってんだ。
出入り口右通路・・・
「急いであいつをたたき出せ!壇上で暴言など許すな!」
生徒会長、「天王山 薫」の声を先頭に、生徒会生たちが進んでいく。
だが・・・
急に生徒会生たちの脚がとまった。
「・・・時津風?」
「よぅ、川口。元気にしてるか?」
「そこをどいてもらおうか、1年坊主。」
天王山は竹刀をもっている時津風にいう。
「は?きこえねぇな、3年ガール。女ってのは、もう少しおしとやかなもんだぜ?」
「なんだと!?」
「おい、時津風!そこをどけ!」
1年副会長である川口と会長である天王山が時津風に怒鳴る。
「へっ、絶対通すかよ。何が何でも、死守するって、決めてんだからよ。」
「なに?」
「あいつと・・・絆同盟の意思をこんなところでとめるわけにはいかねぇんだ。」
「・・・」
「ここを通りたかったら、俺をぶん殴ってでもいくんだな。・・・まぁ、当然正当防衛はとらせてもらうがな。」
そういって、竹刀を生徒会生たちに向けていた。
出入り口左通路・・・
こちらは先生たちが桶狭間を取り押さえようと進んでいた。
「おい、先公ども。」
「・・・お前は長篠!ここで何をしている?」
「おいおい・・・俺を忘れてもらっちゃ困るぜ?」
「関ヶ原も一緒か・・・早くそこをどきなさい。」
先生たちは焦っていた。
ここで桶狭間に余計なことをいわれ、反生徒会の意思が全校生徒たちに宿ったら・・・
面倒なことになるのは目に見えている。
「嫌だね。先公たちはここで見ててもらいますぜ。」
「あぁ・・・あいつの・・・絆同盟の意思をな!」
そして、中央部。
すなわち、壇上。
「てめぇら、生徒会についてどう思ってやがる!!」
原稿なんてない。
すべてアドリブ。
極度の緊張と、責任。
そのなかでのアドリブは思った以上にきついもんだぜ・・・
だが・・・ここで俺が成功させないと、絆同盟が腐っちまうぜ・・・
「あぁ?なに?生徒会の連中の権限はおかしい?生徒会の権限のせいでおびえてなくちゃならないから、怖い?」
皆の反応はない。
いいさ、なら俺がマシンガントークしてやる。
「それとも学校に不満もってるか?「生徒一人一人がしっかり意見をもてる学校」という目標のくせに中身は帝国主義万歳だ!それを「詐欺」だと思ってるか?」
生徒たちはザワつきはじめる。
・・・皆だってわかってるはずだ。
だが・・・
それをいったら、生徒会の権限で「退学」になる。
それが怖い。
「てめぇら・・・いつまで殻にこもってるつもりだ!?このまま次の世代にも、このままでいかせていいのか!?」
ケッ・・・
やっと緊張が消えてきた。
「大体、明日体育祭の予定だったのに、急に来週に変更だ。生徒会の都合のせいでコロコロとかえられて、おかしいと思わないのか?」
生徒たちはザワつくことしかしない。
「大体てめぇらは生徒会をどう思ってるんだ!?おい、生徒会に不満のある奴、手をあげてみやがれ!」
だが・・・
誰1人手を上げなかった。
「お前ら・・・本当に臆病者だな・・・俺が独断でうちのクラスでひっそり確認したとき、確実に半分以上はいたぜ?」
生徒たちはやはりザワつくことしかしない。
どいつもこいつも臆病者だぜ・・・
「どいつもこいつも陰口はいえるくせに、表ではいえないってか!?」
だが・・・
皆の反応は冷たかった。
「俺は言えるぜ!!生徒会はくそったれで、この学校は腐ってる!」
やべぇ・・・
ここまでいうと、さすがに危ない人に見えてくるぜ・・・
「くそ!!なんで、お前ら、そんなに何もいわねぇんだよ!?このまま我慢し続けるってのかよ!?」
だんだんと敗北の予感がしてきた。
俺は・・・
この最高のチャンスをつぶすってのか・・・
「じゃぁ、この学校が狂ってるってなら、お前らは洗脳されてるぜ!!これがおかしいと思わないのかよ!!」
ダメだ・・・
俺がどれだけ強くいっても・・・
生徒たちは納得しない。
いや、納得は最初からしている。
だが・・・
生徒会と学校の協同戦線のせいで「恐怖」がある。
誰も「退学」なんてしたくはない。
その「恐怖」に負けちまってるんだ・・・
「おかしいだろうが!!そう思わないやつはどうかしてるぜ!!」
ダメだ・・・
これじゃぁ、たとえ百時間かけても、生徒たちは味方になんて付かない。
・・・チッ・・・
ここは潔く諦めて・・・
「第2プラン」といくか・・・
「第2プラン」。
それは学校の説得。
これほどのことをやらかせば、校長室は間違いない。
校長と担任と学年主任と・・・
まぁ、そこらお偉いさんと話すのだろう。
・・・そいつらを説得する。
だが・・・
これはきわめて成功率が低いといっても過言ではない。
けど・・・
ここでどれだけねばっても、無理だろう。
ここは一時撤退・・・か。
「わかった・・・てめぇらそういう態度なら俺は何も言うことができない。」
生徒たちはまた静まり返る。
「だが・・・いつか立ち上がってくれる日がきてくれると・・・俺は信じてる。」
チッ・・・
ここまでやったら、俺1人で全部やってやる。
絆同盟を巻き込むわけにはいかない。
へっ・・・神風特攻ってのも悪くはない。
「最後に一言。俺は・・・生徒会ならびに霧島第3高校に宣戦布告する!!!」
そういって、俺は壇上を後にした。
いうべきことはいった。
「・・・お前・・・いいのか?」
左通路でねばっていた、将軍がいった。
「あぁ。おい、先公ども。」
「桶狭間!!お前、ただで済むと思うなよ!!」
「わかってる。だがな、関ヶ原と長篠、それに右の通路にいる時津風は俺が脅してやらせた。」
「は?」
将軍と関ヶ原は目をまるくした。
俺は「いいから」というように目で合図する。
「本当なのか?関ヶ原、長篠・・・」
「いや・・・」
「関ヶ原!!!」
「!」
俺は関ヶ原に怒鳴った。
この惨敗を絆同盟に押し付けたら・・・
絆同盟そのものが消え去る。
「・・・」
「俺が脅してやれせました。どうぞ、くそ先公ども。校長室だろうと、国会議事堂だろうと、どこへでもつれてけってんだ。」
そういって、俺は先生たちのあとに続く。
・・・俺は諦めたわけじゃない。
1人ででも、第2プランを実行する。
校長どもを説得だ。
なに・・・俺には切り札がある。
最後の最後まで奮闘してやるぜ。
そう・・・
最初は惨敗という結果に終わった。
そして、俺は自ら1人で責任を背負う。
特攻という道を選ぶ。
俺は絶対にこのまま退学にはならない。
せめて何かしでかしてから、退学になってやる。
さぁ・・・
第2戦といこうじゃないか!
「始動」 完