返答
さて・・・今、僕は歩いている。
隣には「卯月咲良」がいるといういつもどおりのこと・・・
なのだが、昨日、僕が怒鳴ってしまったせいもあり・・・
非常に気まずい状態である。
どちらもお互いに話しかけるのが怖いのである。
ここは男として、僕がいくべきだろう。
強いて言うなら、「十六夜、いきま~す!!」みたいな感じだ。
いやぁ・・・目の前にカタパルトがないのが残念。
「・・・なぁ、卯月。」
「なに?」
とりあえず話す。
歩きながら話す。
そこから始めよう。
僕は空を眺め、歩きながら口をあける。
「・・・お前の家って、ホントに広いな・・・びっくりしちまったぜ・・・」
なんてどうでもいいことをいう。
違うだろ!自分!!
何を恐れているんだ!?
この雰囲気をぶち壊すためにも、謝るんじゃないか!
だけど・・・
もし、謝って許してくれなかったらどうしよう・・・
急に大きな不安がうまれる。
・・・僕はへたれだ。
「えぇ・・・まぁ・・・卯月コーポレーションの社長の家・・・だから。」
彼女は真面目にこたえる。
いつもは「はぁ?お前の家が狭すぎるんだろう・・・」
とかいって、侮辱してくるのに・・・
別に「M」というわけではないのだが・・・
なんか、ないと寂しいものである。
いつもの卯月のような感じがしない。
そういえば前に五月雨が・・・
「いつもおちゃらけている人が、静かに素直に答えるときは怒ってるときだ。」
とかどうとかいっていたな・・・
こいつの場合、おちゃらけているというか・・・
まぁ、気が強い?
いやいや、でもホントは優しいやつだ。
そろそろ空が赤色にそまってくる時間帯だ。
いつものように黒い鳥が僕を馬鹿にする時間。
「・・・なんか・・・元気ないな。」
遠まわしに、言う。
なんで僕はいつもそうなんだ!?
我ながら、自分に呆れというものがやってくる。
隣のやつがいつもは元気なのに、元気がないのは僕のせいだろうが!
「・・・そう?」
「うん・・・元気ない。」
「そう・・・かもね。」
会話が続かねぇ~・・・
僕ってなんて男らしくないんだ!!
ここはスッキリズバッと「ごめん!」って謝ればいいじゃないか!
自分へのイライラが募っていく。
そんなときだ。
「アホー」
カラスがないた。
それに続いて、多くのカラスが鳴く。
「アホー」
「アホー」
「アホー」
・・・カラス、お前・・・
そうだ、僕はアホだ!!
アホならアホなりのやり方があるじゃないか!
「だぁ~!!!なんで僕はいつもこんなに男らしくないんだ!!」
抑えていた怒りが表にでる。
「!?」
そんな大声に隣の卯月は驚いたようだ。
そりゃぁそうだ。
なにせ、静粛をいきなり僕が破ったのだから。
一度あふれた怒りはとどまることを知らない。
「カラス!!てめぇら、うるせぇんだよ!!いつもいつも侮辱しやがって!こっちがどれだけ迷惑してると思ってやがる!!」
まぁ、たった二言だったが・・・
スッキリした。
よし、男としていくぞ。
「昨日はごめん!!」
「!」
やっといえた。
卯月は許してくれるだろうか・・・
「・・・その・・・昨日、卯月は何にも悪くないのに、全部お前に押し付けて・・・」
「・・・私のが悪い。」
「え?」
彼女は口をひらいた。
「私があんなこと言わなければ、あの楽しい空気を壊さずにいられた!なのに・・・私が・・・」
やっぱ思ったとおりだ。
彼女は自分を責めてる。
・・・全部この僕が悪いのに。
彼女は悪くないのに。
「なんでそうなるんだよ!?昨日のは全部僕が・・・」
「違う!あなたは何も悪くない。むしろ怒って当然。だって、昨日、私・・・最低だったから。」
こいつ・・・
まさか僕と同じで全部自分のせいにしてたのか!?
そこまで自分を責めていたのか?
やっぱ・・・優しいやつだ。
「お前は最低なんかじゃない。むしろいい奴だ。」
「そんなこと言って貰える権利は私にはない・・・昨日、あの空気を全部壊したのは私なんだよ?全部全部!!」
どうしてだよ・・・
どうしてそこまで自分のせいにできるんだよ・・・
よく考え見ろ、卯月咲良。
お前の悪いところなんてどこにあった?
仮に昨日、こいつが暴走したところが悪いといったやつがいたなら・・・
僕はそいつを思いっきり殴る。
容赦なく殴る。
だって・・・そいつはぜんぜん卯月のことをわかってない。
より卯月を責めさせてる。
もう一度よく考えてみろ。
悪いのは全部僕じゃないか。
僕がいなければ、こんなことにはならなかったんだ。
なのに・・・こいつは・・・
「ホントにごめんなさい!!あんなことになるなんて思わなくて・・・つい、怒りが暴走して・・・」
下を向いたまま、頭を何度もさげて・・・
たくさんの涙を流して・・・
僕は卯月の涙を代償に何を得た?
何も得てない。
ただ・・・果てしなく卯月を責めさせている・・・それだけだ。
仮に僕に時間を操れる力があるのならば、僕は迷わず昨日の僕を殴る。
殴って殴って殴って、昨日の僕が自分が最低だと気づくまで殴り続ける。
しかし・・・このままではいくらたっても進展がない。
下手なことをいえば、もっと彼女の傷を深くする。
ここは冷静に・・・だ。
「・・・心配すんな。僕はもうぜんぜん怒ってない。」
「え?」
「それに怒りが暴走するなんて・・・よくあるこった。」
そう・・・昨日の僕のように。
「・・・グスッ」
「泣くなよ・・・お前は悪くない。お前は・・・」
「・・・ダメだよ・・・」
「え?」
彼女はそれでもしたを向いたまま。
なにがダメなんだよ?
「そんなこといったら・・・自分が昨日、悪くないみたいに本当に思っちゃう・・・」
そうだよ。
そう思えよ。
だって、お前は悪くないんだから。
「私は・・・最低なんだよ・・・」
「なんでそういう結論にいたるんだ!?昨日のことは・・・」
まるで成長しないとはまさにこのことだろう。
どう頑張っても結局は同じところにたどり着く。
ゴールというゴールまでたどり着けない。
「私が全部悪いの・・・」
んなこと知ったことかよ・・・
くそ・・・
こうなりゃぁ・・・最終手段といくしかない。
もう昨日の過ちを犯さない。
だから・・・あえて昨日と同じでいく。
過ちを善にかえるんだ。
「いい加減にしろ!!!」
「!!」
彼女はビクッとした。
やっぱ僕は最低だ。
怒鳴ることでしか・・・人を説得できないなんて。
「どうしてお前はそうやって自分を責めるんだ!?悪いのは全部僕じゃないか!!」
「そっちこそ・・・」
「え?」
「そっちこそいい加減にしてよ!!!」
それは始めてみる光景。
彼女が怒鳴った。
侮辱することはあっても、怒鳴ることはないのがこいつだ。
「全部全部悪いのは私なんだよ!?なのにどうして自分ばっか責めるの!?」
そうか・・・
僕も彼女も同じだ。
ずっと自らを責め続けている。
自分が悪いと思い続けている。
そんなんなら、2本の線はずっと平行線のままだ。
どうしてこんな簡単なことに気づかなかったのだろう・・・
「じゃぁ・・・お前が悪い。」
僕はだらしない。
人に頼ることしかできない。
昨日の僕はもっとだらしない。
自分が悪いのに、それを相手にしか押し付けられなかった・・・
なにが「don`t say ’lazy’」だ・・・
「そう・・・全部私が悪いの!」
「それは違う!」
「え?」
「・・・お前は昨日、たしかに悪かった。けどな・・・」
けどな・・・
・・・卯月、耳をかっぽじってよくききやがれ!
「僕もお前と同じぐらい悪い。」
自分を許さなければ、他人も許せない・・・
とはよくいったものだ。
そういう意味でも「don`t say’lazy’」は神曲だなぁ・・・
と実感する。
「な・・・」
「よくききやがれ!僕が好きなアニソンのなかの1つの曲の歌詞にはな、「自分を許さなければ、他人も許せない」って歌詞があるんだよ!!」
「・・・」
この状況で何を語っているんだ?
だけど・・・
もう正式とか公式とか礼儀とかそんなの関係ない!
僕は・・・僕のやり方でいくんだ。
「だから、僕は昨日の僕を許す。だから・・・」
「・・・」
「お前も昨日のお前を許せ!!」
「!」
どうだ?
僕のやり方はよくひかれるけど・・・
使い方をうまく使えば、人を説得することだってできる。
「・・・無理だよ。」
「!!」
どうしてだよ!?
どうしてそこまで・・・
だけど、もう僕のやり方をとめるわけにはいかない。
「ケッ、この頑固野郎が・・・」
いくらマイナス思考たっぷりのこいつでもさすがにこれはきくだろう。
「な!?頑固って、貴様!!」
「そうだ、てめぇは頑固野郎だ。少しはまわりを見て見やがれ!!」
「なにを・・・」
「よく考えてみろっつってんだ!その上で昨日と自分と向き合って、昨日の自分を許せ!」
今、僕、さりげなくすごく格好良いことを言ったのでは?
・・・まぁ、いいか。
「・・・よく・・・」
「それでも自分を責めるならお前は救いようのない馬鹿だ!頑固野郎だ!!」
「お前!!私はお前のことを思って・・・!!」
やっと・・・
本性をだしたか。
「僕のことを思って?ならやっぱ僕が悪いと思ってたんだろ?だけど、それを僕のせいにしたら僕がお前を嫌う。だから、自分を責め続けてる・・・そうじゃねぇのか?」
「そういう意味で、お前のことを思っているわけじゃない!」
この頑固者は文字通り難攻不落ってところか。
だが、ゲームだってなんだってそうだ。
そういう「難攻不落」を落としてこそ、面白いんじゃないか!
「じゃぁ、どういう意味で思ってるんだ?」
「・・・それは・・・」
卯月は下を向いた。
ここだ!
ここで攻めて攻めて攻めまくる!
「あいにくなぁ・・・僕はそんなわがまま野郎じゃない。・・・昨日はそうだったかもしれねぇが、今日はまた一歩進化してるんだ。」
「・・・」
「大体なぁ・・・誰がお前のことを嫌いになるかっつうんだ・・・」
「え・・・」
彼女はやっと僕の話をきく姿勢となった。
「お前は優しい奴じゃないか。昨日は気づかなかったけど・・・パンをくれたり、買い物を手伝ってくれたり・・・遅刻しそうな僕を迎えにまできてくれたじゃねぇか。自分だって僕を待ってたら遅刻しちまうのに・・・」
「そ・それは・・・」
彼女に反撃の隙なんて与えさせない。
攻撃に徹して、相手の反撃チャンスをなくすんだ。
「お前は優しいやつなんだよ。そんなお前を・・・嫌いになんてなったら、神様に殺されるじゃ済まされないぜ。」
「・・・私は・・・優しくなんて・・・」
「優しいんだよ!てめぇは昨日のことを思いすぎで、そんなことまでわからなくなっちまったのか!?」
「・・・」
彼女はただただ下を向いたまま・・・
反応なんてしてくれなくてもいい。
僕の独り言だと思って聞いてくれてかまわない。
だから・・・僕の話をきいてくれ。
「大体なぁ、お前みたいな美人がこんなさえない男の僕にかまってくれる、それだけで超がつくほど僕は幸せ者なんだよ。」
・・・実際美人かどうかは僕には判断できないが。
「それに昨日、いろいろと助けてくれて・・・これのどこが優しくないってんだ!?答えて見やがれ!!」
やべぇ・・・
僕、超上から目線だ・・・
「・・・私が・・・優しい?」
「そう、優しいんだ。」
自分が優しいと認めろ。
だから、つい悪くないとわかっているのに、自分を責めてしまうと認めろ。
全部全部、認めやがれ!!
「そう・・・認めろ。」
「・・・じゃぁ、あなたも認めて。」
な!?
ミスった・・・
反撃のチャンスを与えてしまった・・・
「何を?」
「あなたも十分優しいってことを。」
僕が優しい?
野菜野郎の間違えじゃないのか?
大体、僕は昨日、お前を責めたんだぞ・・・
悪くないお前を。
それを優しいというのか?
「あなたは・・・私の無理な注文にこたえてくれた。それどころか・・・毎回私に付き合ってくれた。」
そりゃぁ・・・まぁ・・・
だが・・・
僕は昨日の僕を許す気はない。
「自分を許さなきゃ、他人も許せないんでしょ?だったらまず認めろ。」
!!
・・・へっ・・・自分でいっておきながら・・・
僕はまだ自分を責めていた。
・・・こんなんだから、僕は・・・
これじゃぁ・・・彼女のことをとやかくいえる権利なんてねぇな。
「あなたが優しいと認めれば私も認める。昨日の自分を許す。」
この野郎・・・
この期におよんで、僕を「ナルシスト」というものに仕立て上げるつもりか?
だが・・・
僕はそれと同じことを卯月にいった。
いった本人がいったことができないなら意味ないなんてもんじゃない。
だらしなすぎるぜ。
クズすぎる。
そんな奴・・・てか、僕・・・ごみだ。
「いいぜ。僕は超優しい。毎回毎回乗り気じゃないお前の提案にわざわざ手伝ってやってる。・・・これでどうだ?」
・・・これは本心なのだろうか?
いや・・・本当は楽しかったのではないか?
・・・だが今はそんなことを考えている時間なんてない。
「そう・・・なら私も、お金持ちで美人なのに、わざわざお前というさえない男に付き合ってやっている。」
「・・・お前・・・」
「・・・あなた・・・」
「ナルシストだな。」
なんてかぶった。
「ハハ・・・」
「フフ・・・」
なんて笑いさえ浮かんでくる。
「・・・お互い様か・・・」
「みたいね。」
が、どうにかこうにかこいつを説得できたのだろうか・・・
「じゃぁ、結論を出すぜ。」
「えぇ。」
「僕たちは・・・2人とも悪い!」
「・・・真っ直ぐすぎね。つまらない。」
「うるせぇ・・・」
自分を許さなければ、他人も許せない・・・
だが、僕たちはそこまで甘えてもいない。
僕たちはともに悪い。
そのことを自覚し、相手に伝える。
それこそ・・・
仲直りってやつだぜ。
自らのミスを認めて、お互いにその痛みをわけあって・・・
次に、どちらかがミスしようとしたら、とめる。
次につなげる。
これが一番大切なことだぜ。
「さて・・・帰るか。」
「ちょっと待って!」
??
彼女はまたもや真剣な顔になった。
「私は・・・」
「?」
彼女は少し頬を赤色に染める。
「お前のことが・・・好きだ。」
「・・・」
知ってるさ。
今日・・・お前の執事の「比叡」さんと話して気づいた。
なんというか・・・
1回目の告白のときと雰囲気が違うんだ。
その移り変わりに気づかないほど、僕は鈍感じゃない。
そして、いつまでも決断を出さなかった僕が悪いんだと思った。
今さっき、お互いの罪をお互いで許し合い、お互いの罪を自覚した。
だから・・・「決断」をださなかったことは、お互いで背負っていくミス。
けど・・・それでも「決断」ってのは必要だ。
この告白に「返答」するってのは必要なのだ。
また・・・こういうことを起こさないようにするために。
「・・・僕たちは・・・今まで通りでいいと思う。」
だからこそ・・・
こう返事した。
そう・・・今まで通りで。
やっぱ僕は彼女の無理な提案に付き合うのが、心の奥底で・・・
または端っこで少し・・・
ほんの少しかもしれないけど、楽しいと思っていたのだろう。
なにが「もう少し接触は控えて欲しい」だ。
本当は「今まで通りでいい」って答えるべきだったんだろうが・・・
そんなことが引き金になったなんて・・・
馬鹿すぎて笑っちまうぜ・・・
が、前のことを後悔しても仕方がないことはわかっている。
今のこの状況を全力で見つめるんだ。
「・・・それって・・・」
「ごめん・・・お前の気持ちには・・・こたえられない。」
こんな優しい奴の告白を断るなんて僕はどうかしてる。
理解している。
けど・・・
僕には荷が重過ぎるし、何より僕は当初から別に付き合うとかそういうのに興味はなかったはずだ。
だから・・・当初のとおりでいく。
「フフッ・・・」
「?」
「そういうと思った。」
なんだよ・・・お見通しってか・・・
「お前のことだ・・・みすみすOKをだすとは思えん。」
なんか響きが非常に悪き聞こえるのだが・・・
「なぁ・・・お前は今まで通りといった・・・それは、今まで通り、お前の隣にいていいってことだよな?」
「あぁ・・・」
それ以上もそれ以下も僕は望まない。
僕はなんてわがままなんだ・・・
「なら・・・これからお前という男を私という1人の女性に惚れさせてやる!!」
「!」
それはとても意外なことだった。
なんだよ・・・「宣戦布告」ってか・・・
「ハハ・・・」
「絶対にお前に私を惚れさせてやる!!」
・・・言ってろ。
僕は・・・そう簡単には現実の人には惚れないぜ。
アニメの世界の女性なら惚れるけど・・・
だから・・・
お前のその「惚れさせてやる」とかいうのを・・・
どうくるか・・・楽しみにしててやる。
「そうだな・・・僕を惚れさせてみろ!そしたら・・・付き合ってやる。」
うわぁ~・・・こんな優しいやつを前に超上から目線・・・
やっぱ僕は最低だな。
いつか・・・僕はこいつと付き合うことになるかもしれない。
そのときは僕が恋したときだ。
今はまだそのときじゃない。
だから・・・卯月咲良。
そのときまで・・・楽しみにしてるぜ。
その後、僕は家に帰って、いつもどおりのことをして寝た。
明日は・・・学校にいこう。
いって・・・最後の償いをしなければならない。
明日も・・・頑張るぜ!
「返答」 完