破壊
※卯月視点の物語です。
さて・・・
今日も日差しがさす。
明るい光。
鳥の声がきこえる。
癒される声。
私は昨日、実は彼のことが好きになっていた、ということを自覚した。
さて・・・
そんなわけで、彼との距離をつめよう。
まず最初は思い切って下の名前で呼ぶんだ!
と気合をいれて、玄関を飛び出す。
「いってきま~す!!」
「いってらっしゃませ、お嬢様。」
じぃやは相変わらず微笑んでいた。
とりあえず早く彼に会いたい。
彼のことが好きだと自覚してから、彼のことをより一層強く想うようになった。
それは自分でもわかる。
いつもの集合場所についた。
いつもより10分も早くついてしまった。
今のうちに、どうやって下の名前で呼ぶシチュエーションをつくるか・・・
考えておこう。
と一人ではしゃいで、一人で悩んで早12分がたった。
「・・・遅い。」
あの男・・・
まさかまたしてもこの私をおいていったのか!?
「チッ・・・おいていった罰をあたえてやるか。」
昨日、後輩の家にいったとき・・・
彼は自分の家じゃなく、後輩の家を選んだ。
ということは、きっと家にこられた困る事情があるのだろう。
まぁ、これぐらいはいいだろう。
彼の家は以前いったことがある。
というのも、前に使用人に調べさせたからだ。
場所なんて1回いったらわかる。
そして彼の家についた。
「・・・インターホン・・・ならしても怒らないよね?」
少し不安が高まる。
彼がもし、本当に私が自分の家にきてほしくないのなら・・・
もしかしたら怒るかもしれない。
・・・それは嫌だな。
しかしきてしまったものは仕方ない。
それに時間を無駄にはしたくない。
思い切って押す。
・・・が、反応がない。
いないのだろうか?
前のように連打で押せば、でてくるだろうか・・・
ということで、面白半分で連打してみる。
それから少ししてドアが開いた。
びっくりした。
でてきたのは彼ではなく・・・多分、彼のお父さん。
ということはやはり彼はいないのだろうか?
「・・・どちらさまですか?」
しまった!!
ボ~ッとしすぎた。
ここは礼儀正しくいこう。
なにせ彼の父である。
いつも以上に礼儀正しく。
「おはようございます。私は霧島第3高校1年B組で十六夜くんと同じクラスの卯月咲良といいます。」
「あ、ちょっと待っててね。」
そういうと、彼のお父さんは家のなかへ戻っていった。
すると今度はお母さんがでてきた。
「あらあら・・・え~と・・・どちらさま?」
「霧島第3高校1年B組で十六夜くんと同じクラスの卯月咲良といいます。」
お母さんはなんとも、気のぬけたというか・・・
ほのぼのとした人だと思った。
「そうですか。うちの馬鹿とは仲良くしてあげてもらえると助かります。」
・・・あいつ・・・
私だけではなく、実の母にまで「馬鹿」といわれているのか?
まぁ、実際あいつは馬鹿だが・・・
なんか、残念である。
「そんな・・・こっちが逆に仲良くしてもらって助かってます。」
「そうですかぁ~・・・あの・・・もしかして・・・うちの子のガールフレンド・・・とかだったりしますか?」
う~む・・・
なんと答えよう・・・
まぁ、今は違うが、いつかなる!!
いや、これじゃダメだ。
よし、この際、今後なるのだ。
今から・・・といっておいても悪くはないだろう。
「アハハ・・・まぁ・・・その・・・星矢くんとつき合わさせていただいてます。」
「まぁ~・・・うちの子も手が早いこと。こんな美人さんと付き合ってるなんて・・・」
彼の母でさえ、私のことを「美人」という。
なのに、なぜ彼は私のことを「美人」といってくれないのだろう・・・
時々、自分から「私は美人だからな!」とかいうが、「自分で美人っていうな」一言で終わらされる。
彼は私をどう見ているのだろうか・・・
「私から告白したんです。」
「あら、そうなの?・・・うちの星矢をよろしくねぇ。」
「そんな、こちらこそよろしくお願いします。」
なんて、ないことをあたかもあるように話している自分がいる。
この場面を彼がみたら、さぞ怒るだろう。
まぁ、今後付き合う予定だし、いいだろう。
すると彼がでてきた。
あの様子からすると寝坊・・・か。
珍しいこともあるようだ。
「よぅ、卯月。」
「よぅ、じゃない!!今、何時だと思ってるの?このままいけば遅刻よ、遅刻!!」
あいにくここでは彼を責められない。
なにせ、彼の親がいる。
「あなたも幸せ者ね。こんな美人さんが彼女で・・・」
「はぁ!?」
うんうん・・・お母さんは私のことを彼の彼女と思ってくれているようだ。
なんともうれしいことである。
そんな私をみてか、彼はいった。
「・・・おい、卯月・・・お前、うちの母さんに何を吹き込んだ?」
彼は「下手なこといってねぇ~だろうな?」という目でみてくる。
なるほど・・・彼が私をここにこさせたくなかったようにみえたのはあたっていたか。
まぁ、平たい話、両親に誤解されるのが嫌だったのだな。
だが!!
そんなこと知ったことか。
「何も。ただ事実をいっただけよ。」
そう・・・今後の事実を。
しかし・・・ここでなら例のプラン・・・
というほどのものでもないが・・・
実行に移すにはさぞ最適である。
それにいつもこいつのせいで、苛立たされる。
こういうチャンスをみると、いじめたくなるものである。
「それより星矢・・・」
とりあえずここまではいえた。
せっかくだ、彼にも下の名前で呼んでもらおう。
「いつものように咲良って呼ばないの?」
つい照れ隠しで、からかっているようにいってしまう。
そのせいで、彼は私が彼の両親の前だからからかっている。
そうとらえたようだ。
「呼ばねぇ~よ!てか、読んだこともねぇ~だろうが!」
「そんなに怒らなくてもいいのに・・・星矢の馬鹿!」
相手が反転してくるなら・・・
こっちは押すのみ!!
「ホントにあんたって子はなんて子なの!・・・ごめんね、咲良さん。」
お母さんは私側についてくれた。
うん、いい人だ!!
そんなことを思うとフッとあることに気づく。
「・・・なんだよ?」
それは・・・
「ワイシャツ・・・ボタン、ずれてる。」
「え?・・・あぁ~!!急いでたから・・・くそ、面倒くさい!このまま・・・」
なんてテキトーな人・・・
あぁ・・・朝から寝坊はするし、ワイシャツのボタンはずれてるし・・・
もう少しちゃんとしてほしいものである。
・・・どうしてこんな人を好きになっちゃったんだろう・・・
我ながら、少しの後悔が生まれてくる。
とりあえず直してあげよう。
「ダメよ・・・待ってて・・・直してあげるから。」
「え?あ・あぁ・・・」
彼は少し顔を赤くした。
それが本来のテレならうれしい限りである。
のだが!!
この鈍感男の場合、単に親が前にいるから、恥ずかしい・・・
それぐらいだろう。
「・・・はい、直った。」
「あ?・・・あ・あぁ・・・サンキュー。」
少し彼はとまどったようだった。
というか・・・
なぜ「サンキュー」なのだ!?
普通、「ありがとうございます」だろうが!!
この私にそんな手抜きな感謝の仕方で許されると思っているのか!?
「んじゃぁ、いってきます!!」
「おぅ、気をつけてこいよ。」
「咲良さんも気をつけてね!」
「はい!ありがとうございます。」
私は彼の親に、最大限の笑顔とともに、手をふった。
・・・いい人たちじゃないか。
それから遅刻しそうなので、思いっきり走った。
正直、女性である私のほうが先に体力がきれるのが普通のはずなのだが・・・
先にきれたのは彼のほうだった。
「はぁ・・・はぁ・・・そろそろ歩くか・・・」
相変わらず体力がない。
頼りない。
・・・なんでこんなやつを好きになってしまったのだろう・・・・
なんかさっきより微妙に悪い表現になっている気がするが・・・
まぁ、本心である。
「まったく・・・誰のせいで走ってると思ってるんだ!?」
「はいはい、僕が寝坊したのが悪いんですよ。悪ぅござんした!」
な!?
貴様、私がわざわざお前の家にいって、遅刻しないために走ったというのに・・・
その態度か!?
本当にこいつは礼儀というものをもっているのだろうか・・・
「・・・その謝り方・・・気に食わない。」
「あ~あ~、そうですかい。」
「・・・」
「・・・」
ほんの少し、沈黙がはしった。
「星矢・・・貴様、この私をなめているのか?」
さりげなく下の名前で呼ぶ。
が、いつも鈍感のくせに・・・
こういうところだけは鋭い。
「・・・てか、いつまで星矢って呼んでるつもりだよ?」
「あ~、これか?これはな、これからずっと呼ばせてもらうことにした。」
「・・・はぁぁぁぁぁ!?」
彼は「納得いかん!」という顔をしている。
まぁ、ある程度予想していた反応だ。
それで「うん、わかった」と笑顔でかえされたら、逆にひく。
いつものこいつじゃないみたいだからだ。
「・・・お前・・・それだけは勘弁してくれ。」
残念だったな、星矢。
これはすでに決定事項なのだ!
したがって、かえるつもりはない!
「これはもう決まったことなのだ!」
彼はいつものように言い返してこなかった。
というか・・・すでに諦めている感じだった。
ほぅ・・・少しは成長するものなのだな。
「そのかわりといっては何だが、これからこの私のことを「咲良」と呼んでいいぞ。」
「断る!」
しかし、彼の回答は早かった。
まさに神速といっても過言ではない。
「・・・呼んでもいいぞ?」
もう一度念を押す。
「断る!!」
が、今度はさっきより強く否定された。
ここまでハッキリ否定されると、ムカッとくるものである。
「・・・呼べ。」
ついに命令形になってしまった・・・
まぁ、最終的に呼んでくれればそれでいいのだ。
文句はない。
「・・・なんで?」
「いいから。」
「断固断る!」
なんて頑固な男だろう・・・
なんて心のせまい男だろう・・・
つくづく思う。
・・・どうしてこんなやつに恋なんてしてしまったのだろう・・・
というか!!
私は彼のどこが好きなのだろうか・・・
優しい?
なら、他の草食系でもいい。
でも、彼のいいところなんて、昨日も確認したとおり、「優しい」ぐらいしかない。
やはり・・・私の素を理解してくれているところ・・・だろうか。
「・・・ケチ。」
「あ~、どうせ僕はケチですよ。」
にしても!
今日のこいつの態度はマジで腹が立つ!!
殺したいとまで思う。
この私にそんな対応をしていいと思っているのか!?
まぁ、とりあえず勧誘を進めることにする。
「はぁ・・・この私が許可しているんだぞ?これを逃したら一生、このチャンスはこないかもしれんぞ?」
「そんなチャンスいらん。」
この男・・・
人が優しく勧誘していれば頭にのりやがって!!
いっそ、蹴りを2~3発お見舞いしてやろうか・・・
いやいや、ここは冷静が一番だ。
「・・・再度いう。呼べ。」
「だから断る。」
なるほど・・・
そこまで反抗的態度をとるか!
なら、私にも考えがある!!
「ほぅ、そんなこといっていいのか?」
「・・・なんだよ?」
「そんなこといってると、お前が私のことを昨日、襲ってきた・・・と皆に報告するぞ。」
救ってもらって悪いが・・・
昨日のことは最大限に脅しとして使えるネタである。
これにはさすがの彼も顔色をかえた。
「お前!あれはわざとじゃないだろうが!」
「でも、証人はいる。あとは使用人に探させれば決定的証拠となるのだが・・・」
うん、やろうと思えば簡単にできるのだぞ!!
この私を侮るな!!
「お前なぁ・・・それって下手したら僕が刑務所行きになるかもしれないじゃないか。」
「そんなのは知らん。ちなみに私は裁判では勝たせてもらうからな。」
やるとなれば、徹底的にやってやるさ。
「うちは金持ちだから、いくらでもいい弁護士を雇えるからな。」
さぁ、ここまで脅せば、さすがに折れるだろう。
ここでもう1回救いの手をだす!!
・・・なんか悪徳商法みたいだな・・・
買い手を不安にさせてから、救いの手を差し出す。
・・・まぁ、悪徳商法なら「クーリング・オフ」というものがきくが・・・
私にそんなものは効かん!!
「まぁ、これから私のことを「咲良」と呼べば、昨日のことは忘れてやる。」
彼は黙り込んでしまった。
考えているのだろうか?
それとも馬鹿なこいつのことだ・・・
理解できてないのだろうか・・・
いや、さすがにそれはないか。
「さぁ、優柔不断男!決断しろ!」
「うるせぇ!誰が優柔不断だ!」
「・・・で?どうするんだ?」
攻めて攻めて攻めまくる!!
攻撃は最大の防御とはよくいったものだ。
「・・・わかったよ・・・」
フッ、最初から認めていればこうならずにすんだものを。
貴様がこの私に戦略で勝てると思っているのか!?
甘い、甘いぞ!
貴様が私にはむかうなど、100億年早いわ!!
「よし、勝った!!」
「・・・負けた・・・」
にしてもうれしい勝利である。
この勝利はきっと、「真珠湾攻撃」のときぐらいだろう。
フッ、いつまでも「大艦巨砲主義」なんていう古臭い考えをしているからそうなるのだ!!
今の時代は航空機が主役だ!
さて、その後、1時間目が終わると彼はグッタリとしていた。
そういえば、飯を抜きできたんだっけ・・・
育ち盛りの男にはつらいものだろうか・・・
・・・仕方ない。
可哀想だから、あげよう。
「・・・ほら、やるよ。」
こいつとの集合場所に行く前にコンビニ・・・
略さずにいうと、コンビニエンスストアで購入したメロンパンを投げる。
彼は意外という目でみてきた。
「・・・お前の腹の音がうるさいから、これでも食って、ならないようにしろ。」
さすがに可哀想だったとはいえない。
・・・なんでって?
・・・恥ずかしいから。
「・・・サンキュー・・・恩にきるぜ・・・卯月。」
彼は私に感謝した。
うん、そうだろうそうだろう!
もっと私に感謝しろ!
・・・って、卯月?
私は無意識に彼のことをにらむ。
「おっとそうじゃない・・・咲良・・・だったな。」
なんというか・・・
彼に下の名前で呼ばれると、照れる。
このことを彼にいったら・・・
「お前が強制したんじゃねぇ~か!」
といわれるだろう。
たしかに私が言い出したことだが・・・
まぁ、いいか。
「うん、よろしい。」
とりあえず彼に下の名前で呼んでもらって、満足である。
4時間目が終わり、今度は彼は購買部に飯を買いにいこうとする。
まぁ・・・暇だし、付き合ってやろう。
「おい、星矢。」
「なんだ・・・う・・・じゃなくて、咲良。」
「お前、どうせ購買部で何か買うのだろう?」
「あぁ、そうだが?」
「よし、私もついていってやろう!」
「・・・いや、いいよ。」
相変わらず冷たいやつだ。
それが将来の「彼女」にいうべき台詞だろうか・・・
「そう硬いこというな。」
「別にいいよ、お前に悪いし。」
なんだ、私に悪いからいっていたのか!!
なら話は簡単だ。
「私が行きたがっているのだ!」
「・・・」
「ほら、もう45分だ!いくぞ!」
そういって私は彼の手を引っ張る。
・・・やはり彼は違う。
今まで、全力で尽くした恋以外は、男性と手をにぎっても何も感じなかった。
けど・・・
今は彼の手をにぎっていると、すごく暖かい気分になる。
「ちょっ!マジで危ないって!それは死ぬから!マジで!!誰か助けてくれぇ~!!!」
階段になると、彼はさけびはじめた。
相変わらずギャーギャーうるさいやつめ・・・
でも・・・
やっぱり彼というと楽しい。
心が落ち着く。
さて・・・いざ購買部についた。
・・・のだが・・・
「げっ・・・めちゃ混みじゃん。」
「だからいったろ・・・悪いって・・・」
たしかにこの状況で、こいつが私のことをさそったら、殴るだろうな・・・
が!
今回は私が言い出したのだ。
・・・そうだ!
彼を少し手伝ってやろう。
「フッ、こんなのでこの私がへこたれると思ったか!」
「・・・」
「よし、私がおとりになる!そのうちにお前は買いにいけ。」
「お前・・・アクション映画の見すぎだぞ・・・」
「こういうのを陽動作戦というらしい!」
ちなみにこの「陽動作戦」というのは・・・
昨日、辞書をひらいたらたまたま目にはいった語句だ。
意外に印象に残るものである。
「んなこと知ったことか!!」
とりあえず彼をださないと、「陽動」もなにもない。
「よし、いけ!」
「あ・あぁ・・・」
彼はしぶしぶといく。
そんなに私のことが信用できないのだろうか・・・
よし、見ていろ。
私の力を!!
「皆、注も~く!!!」
私は出来る限りの大声で叫んだ。
その甲斐あって、一瞬で私のほうへ皆の視線がきた。
「いいですか?今から私が問題を出します。もし正解したら、頬にキスしてあげます。」
「おぉ~!!!」
男たちは盛り上げる。
フン、やはり男なんてチョロいものだ。
・・・あの男・・・
十六夜はもし私が「キスしてやる」といったらどういう反応をとるだろう?
・・・多分、「いや、いらん」で終わるだろうな。
彼はそういう人だ。
「チョー最低ッ!」
「マジありえない・・・」
なんて女子の声がチラホラ聞こえる。
んなこと知ったことか!!
私は彼の・・・
十六夜のためにやっているのだ。
別に遊びでやっているわけではない。
彼の役にたてればそれでいいのだ。
「ただし制限時間があります。それはこっちで指定。それまでに答えがでなければそれでおしまいです。」
こういっておかないと、あとで抗議されても困る。
が、男子たちはそれでも盛り上がっている。
だす問題はすでに決まっていた。
まぁ、多分答えはでないだろう、と思う問題。
「問題~!!昨日、私は彼氏に何をされたでしょう?」
この「彼氏」という言葉に男子たちは少しガックシしたようだった。
誰がお前らとなんか付き合うか!
あいつはお前らなんかとはぜんッぜん違うんだ!
「・・・終わったぞ。」
そんなことを思っていると、その「あいつ」が戻ってきた。
「はい、終了!じゃぁ、さようなら~!!」
私は彼の手をまた引っ張ってサクッと階段をのぼる。
上り終えてから、私は口をひらいた。
「いやぁ~、星矢を信じてよかったです。あと少し遅いと正解がでてしまいそうでしたから・・・」
「・・・そもそも正解なんてないだろうが。」
「え?ありますよ?」
私の「ある」という言葉に彼は驚いたようだ。
まぁ、答えを知ったら驚くだろう・・・
「で?正解は?」
「襲われた。」
「・・・は?」
彼はやはりこういう反応をとる。
まぁ、そうだろうな。
「・・・なんでしょうか?」
「・・・一応確認するぞ。その彼氏とやらって・・・誰だ?」
「嫌ですねぇ~、ここにいるじゃないですか。」
「・・・」
「星矢くん、あなたですよ、あなた。」
最大限の猫かぶりを発動させていう。
まぁ、彼にはきかないことぐらいわかっているが。
「僕はいつからお前の彼氏になった!?」
「う~ん・・・ずいぶん前から?」
「そんなの記憶にない!断固否定するぞ!!」
今日のこいつは「否定」するのが好きなようだ。
マイブームなのだろうか・・・
「否定」するのがマイブームって・・・
現実逃避じゃん・・・
「あれ?そうですか?おかしいですねぇ~・・・」
なんてとぼけてみる。
「おかしいですねぇ~・・・じゃねぇよ!ったく・・・」
「さて、皆さんとご飯を食べましょうか!」
「・・・そうだな。」
さりげなく話しをすり替える。
鈍感男はここには気づかなかったようだ。
やはり鈍感というのは考えようによっては、私からみればいいものなのかもしれない。
さて、その後6時間目となった。
6時間目は2週間後となった体育祭の各自の出場種目を決めることとなり、皆は異常に盛り上がっていた。
皆がうかれるなか、彼は「はぁ・・・」とため息だけついていた。
空気の読めない男。
でも・・・それでも好きなんだからしょうがない。
それから少しして彼も考え始めた。
すると、桶狭間があえて一番つらい「手取り足取り」に彼を推薦した。
「じゃ・じゃぁ私も・・・手取り足取りにしようかな・・・」
もちろん、これにした理由は彼と組みたいから。
「やっぱそうだっぺね。2人は仲いいからなぁ。この2人で間違いなしだっぺ。」
そうだろうそうだろう。
反対する人なんていないはずである。
が!!
その「反対する人」がでてきてしまった。
これが悲劇とよべる破綻の始まりだった。
「・・・そうかな?俺はやめたほうがいいと思うぜ?」
「え!?」
最初に名乗りをあげたのは、「時津風」。
もと同じ中学の男子である。
彼は意見する立場となると非常に強い。
それは中学のときに見てきた。
「お前ら、十六夜はいつも卯月につき合わされているだけだろうが!そんなのも見ていてわからねぇのかよ!」
「そ・それもそうだな。」
「俺も反対だ。」
彼を先頭に、反対派がでてきてしまった。
だが理解者がいないわけでもない。
「いやいや、お前らに何がわかる!十六夜と卯月さんはお互いを下の名前で呼び合うほど仲がいいじゃねぇか。」
「そうだっぺ。・・・ここはとりたくないが、桶狭間。助太刀するっぺ。」
「ここは共同戦線ってやつだな。」
彼らの協力がある。
まだ対抗できる。
が!
またしても「川中」という邪魔が入ってしまう。
「・・・姐さん、どうします?」
「私も時津風の意見に賛成だ。」
この彼女の一言で情勢が一気にかわった。
「おぉ!?クラス委員長が反対派にまわったぞ!?」
「そうだそうだ!十六夜が可哀想だ!!」
クラスの委員長と、それに従う副委員長兼1年副生徒会委員長の反対派への賛成。
この2人につけば、負けはほぼない。
だから、どっちでもいい人まで、ついには反対派へとまわってしまう。
気づけば、反対派のほうが人数が多く、賛成派は少ししかいなくなっていた。
ここは私自らも参戦したないと勝てる気がしない。
「ちょっと待ってよ!私は・・・星矢とやりたいの!文句ある?」
「そうだよな、卯月さん!本人がやりたいっつってんだ!文句あるのかよ!?」
「お前らは何もわかってない!お前ら、ホントに友達として十六夜の近くにいるのか!?」
「なんだと!?」
言い争いはだんだんと激化していく。
まるで、今、中東でおきている、多国籍軍と非政府軍及び対多国籍軍組織との戦いのようだ。
だが・・・
ここで中立の男が意見をだした。
さすがは「将軍」とよばれる人物だ。
いかなる時も冷静である。
「・・・んならよぉ・・・十六夜の意思にまかせりゃいいじゃねぇか。」
この勝負で決着がつく。
「ねぇ、一緒にやろう?」
私は彼をさそう。
だって・・・やりたいもん、彼と。
逆に彼意外の人とはあまり組みたくない。
私には彼しかいない。
彼が好きだから・・・彼とやりたい。
だから・・・彼を信じる。
彼は困っているようだった。
「おい、十六夜。お前はいつも大変じゃねぇか・・・ここら辺で手をきっておいたほうがいいと俺は思うぜ。」
時津風も負けずと対抗してくる。
「だいたいなぁ、毎回毎回、卯月は十六夜に接触しすぎなんだよ!十六夜がどれほど困ってると思ってるんだ?」
「そ・そんなこと・・・」
たしかに接触はたくさんしてる。
彼をもしかしたら困らせていることもあるかもしれない。
けど・・・私は彼といたい。
彼を信じたい。
「・・・ないよね?」
でも・・・
自信がない。
彼は毎回私にしぶしぶ協力してくれる。
そう・・・「しぶしぶ」。
「・・・僕としては・・・」
ついに彼が口をひらいた。
私は彼を信じる。
信じることにする。
そうだ・・・だって、今まで私と彼はたくさんたくさん一緒にいた。
その思い出は彼にしか否定できない。
彼はその思い出を肯定してくれる。
そう・・・信じる。
「その・・・もう少し、接触は・・・控えてほしい・・・かな。」
だけど・・・
彼の答えは私が求めた答えと違った。
そう・・・「肯定」ではなく「否定」だった。
・・・どうして?
こんなに信じてたのに・・・
せっかく・・・好きになったのに・・・
「・・・そんな・・・」
目の前が真っ暗になる。
今までにないほどの「敗北感」。
・・・信じてたのに裏切られた。
好きだったのに・・・否定された。
それは大きな怒りへとかわっていった。
「で?手取り足取りのことはどうするんだ?」
「・・・」
相変わらずの優柔不断男。
「・・・嫌なら嫌って言えばいいじゃない。」
「え?」
つい口にでてしまった・・・
だが・・・もう口をあけてしまったらとめることはできない。
「嫌なら嫌っていえばいいでしょ!この優柔不断男!!最低!!!」
「・・・」
彼は下を向いた。
それで逃げられると思っているのか!?
お前は!
この私を!
この私の期待を!
この私の信頼を!
すべてを裏切ったのだぞ!?
「ありえない!!最低よ、最低!!あんたなんて・・・」
・・・あんたなんて・・・好きにならなければよかったよ・・・
「・・・おい・・・卯月・・・ちゃん?・・・さすがに言いすぎだぜ・・・」
「そうだっぺよ・・・」
そうだ・・・
もとはといえば、こいつらのせいじゃないか!
こいつらがこんなことをいいはじめなければ、こんなことにはならなかった!!
もっと・・・彼と楽しい時間をすごしていられた!
なのに・・・
こいつらのせいで!!
「うるさいうるさい!!大体、お前らが勝手なことを言うから!!」
「なっ!?」
「・・・」
「桶狭間、お前はいつもうるさすぎる!!関ヶ原、お前は変なしゃべり方がウザ過ぎる!!!」
それはまったく関係のないことまでいってしまった。
彼らそのものを否定してしまった。
きっと彼は・・・それが許せなかったのだろう。
だって彼は優しいから。
誰にでも。
どんな人にも。
だから・・・
「いい加減にしろ!!!」
それは今まで私が・・・
いや、きっとこのクラスの皆がきいたことのなかっただろう。
静かで優しいからが怒った。
そう、それはいつものように少しのからかいをまぜたものなどではない。
すべて・・・・100%の怒り。
「ふざけんなよ!!桶狭間も関ヶ原もお前のことを思って抗議したんじゃないか!!!それに負けて、なんでこいつらのせいにするんだよ!!しかも・・・悪口までいって・・・ありえないよ・・・」
彼にいわれて気づいた。
・・・私・・・最低だ。
そうだ。彼のいうとおりだ。
彼らは何一つ悪くない。
むしろ責任を感じていたはずだ。
なのに・・・私はそれをより押し付けた。
そしてなにより一番自分を許せなかったのは、いつも優しい彼を本気で怒らせてしまったこと。
別に怒らせるつもりはなかった・・・
ただ・・・笑っていたかっただけなのに・・・
結果、彼を怒らせてしまった。
「・・・くっ・・・グスッ・・・」
私はそのとき、本当に久しぶりに心から涙した。
私のことを思ってくれた友達にひどいことをいってしまった後悔・・・
彼を怒らせてしまった悲しさ・・・
そして、この楽しい空気をぶち壊した申し訳なさ・・・
すべて全部が私に押し寄せる。
大きな責任と悲しさで、胸が押しつぶされそうになる。
だが・・・時間はとまってなんてくれない。
「悪いが、今回はお前の涙を見ても謝ることはできない。」
「・・・十六夜。」
「・・・」
彼はすごく怒っている・・・
・・・彼はぜんぜん悪くないのに・・・
全部私のせいなのに、彼につらい思いをさせてしまった・・・
それが本当に好きな人にやることなのか・・・
・・・ありえないよ・・・最低だよ・・・私。
「・・・悪い、気分が悪くなった。僕は早退する。」
彼はそういって、荷物をもって出て行った。
担任がやってきて彼と話したが、もうあのときは担任にでも彼をとめることはできなかっただろう。
多分担任の桐山はそれをすべてわかっていたから、何もいわずに彼を通したのだろう。
「・・・先生。私も帰る。」
もう・・・今、ここにはいられない。
そして・・・彼を追わなくちゃ。
急いで荷物をもって、教室を飛び出す。
彼を追う。
走って走って走って・・・
とにかく走った。
いつもかえる時間帯は空にカラスがとんでいて、「アホー」とないている。
でも、今はいない。
彼もいない。
極度の寂しさに襲われる。
そして、やっと彼を見つけた。
私は近寄ろうと走った。
すると彼は立ち止まった。
背を向けたまま・・・彼はいった。
「・・・なぁ、卯月咲良。」
「・・・」
初めて彼にフルネームで呼ばれた。
昔、本で読んだことがある。
人がフルネームで他人を呼ぶときは大抵怒っているときだ・・・と。
「・・・何しにきたの?」
彼の反応は冷たかった。
もちろん彼を追いかけるためにきた。
なんてこと・・・今の状況ではいえるわけがない。
「・・・その・・・ごめんなさい・・・」
私はただ・・・謝ることしかできない。
「何が?僕に悪いことはしてないでしょ?謝るんだったら、桶狭間と関ヶ原に謝ってくれば?」
彼は背を向けたまま、ただただいった。
「・・・その・・・」
「じゃぁ、僕帰るから。」
私は彼を追おうとした。
話を最後まで終わらせたい。
ちゃんと彼に謝りたい。
「・・・ついてこないでね。今はそういう気分じゃないから。」
でも・・・
それさえも否定された。
まぁ、当然といえば当然である。
・・・こんな最低な女となんて進んで帰りたいと思うほうが珍しいものである。
「・・・」
それでも・・・
いつもの彼より反応が冷たすぎて・・・
悲しかった。切なかった。
この感覚は・・・昔を思い出す。
私が全力で尽くしたときのことを。
あのときも喧嘩をした。
あのときは彼が明らかに悪かった。
だからわかれても、開き直ることができた。
けど今回は?
今回は明らかに私が悪い。
これでもし・・・もう彼と話すことさえしなくなってしまったら・・・
もう前のように笑い合うことさえできなくなってしまったら・・・
もう・・・開き直れるわけがない。
昔の嫌な記憶を思い出す。
彼が悪いのに、私は何度も謝った。
けど・・・許してくれなかった。
それが原因で関係が終わった。
今回も・・・また前と同じ展開になるの?
・・・なるかもしれない。
前でさえ、彼が悪いのに許してもらえなかった。
なら、今回は私が悪いのだ。許してもらえるはずがない。
そう思うと・・・
「グスッ・・・」
自然と涙がでてくる。
不思議なものだ。
今まで、自主的に涙はだせた。
けど、本気で泣きたいと思っても、泣けなかったのに・・・
今は、何も思わなくても勝手に涙がでてくる。
私はその後、結局彼を追えなかった。
「・・・帰ろう・・・」
が、かえるも家に帰るには早すぎる。
少し時間をつぶそう。
とりあえず涙をぬぐって、歩く。
帰り道にはいろいろある。
そこで時間をつぶそう。
しかし・・・実際どこで時間をつぶそう・・・
こんなことがあって・・・テンションがあがる店があったらぜひ教えてもらいたいものだ。
そんなことを思いながら歩いていると、あるアイスクリーム屋が視界に入った。
あそこにしよう。
このアイスクリーム屋は一回彼ときたことがある。
そう、ボディガードをしてもらったときのことだ。
彼のオススメの場所として、ここも入っていた。
なんでも安くておいしい・・・と評判らしい。
とりあえず涙はとまってきた。
これなら注文できるだろう。
「え~と・・・」
(「で?この店のオススメは?」)
(「そうだなぁ・・・どれもおいしいと思うけど・・・オレンジ味はいいと思うよ。」)
そんな会話を思い出す。
前もそれでオレンジ味を食べたっけ・・・
「オレンジ味をください。」
「はい、ありがとうございます!」
あのとき・・・
私はたいしたことない味だといった。
けど・・・実際は結構おいしかった・・・予想したよりは。
けど、たいしたことないと私はあのときいって、彼は苦笑していた。
「はい、どうぞ。」
アイスをうけとって、席に座る。
「・・・おいしくない。」
おいしくなかった。
前よりぜんぜん・・・
・・・話す相手がいないことがこんなに寂しいなんて・・・
こんなに味に変化を加えるなんて・・・
「・・・」
それからボォ~と空を眺める。
彼もよく空を眺めていた。
・・・今も眺めているだろうか?
もし眺めていたら同じ空を眺めているということになる。
今日の空はあまり綺麗じゃない。
雲の流れをなんとなく目で追う。
そんな作業をしてどれくらいたっただろう・・・
「あれ?卯月さん?」
「?」
よく見てみると、同じ制服。
そうか・・・7時間目が終わって、もう下校時間か。
「もう帰ったのかと思ってたよ・・・」
彼女の名前は「中島」。
もと同じ中学。
よく桶狭間が「川中島」といっているうちの1人だ。
ちなみに「川中島」というのは、「川中」とこいつ・・・「中島」のことで、性格は正反対だ。
川中は何事にもまっすぐで、テキパキと自分の意見を言うが・・・
中島はいつもオロイロとしていて、男子いわく「守ってあげたくなる」らしい。
「・・・ごめんね。」
「え?」
急に彼女に謝られた。
何かされたっけ?
「今日・・・味方になれなくて・・・」
「・・・」
そういえば彼女も一応反対側についていた。
何も言っていなかったが。
「・・・私・・・本当は卯月さんのこと、応援してたの・・・」
「え?」
「だって・・・ほら。卯月さん、中学のとき・・・荒れてたじゃない?」
・・・荒れていたというか・・・
なんというか・・・
まぁ、そんなようなところだが。
「でも最近・・・卯月さん、すごく楽しそうだったから・・・」
「?」
「その・・・十六夜くんといると。」
「・・・」
楽しかったよ・・・
本当に。
「私・・・その・・・もし人数の少ない賛成派にいっちゃったら・・・みんなに嫌われるんじゃないかって思って・・・それで・・・まさかあんなことなるなんて思ってなくて・・・」
「・・・別にいいよ。」
彼女が悪いわけじゃない。
もちろん、十六夜でも桶狭間でも関ヶ原でも長篠でも時津風でも川中でも川口でもない。
全部私が悪いんだから。
「・・・彼のこと・・・好き?」
彼女がそんな質問をしてくるなんて・・・
少々驚きである。
でも今なら誰にでもはっきり言える。
「・・・うん・・・好き。」
「そっか・・・」
彼女は申し訳なさそうな顔をする。
「そんな顔しないで!あなたのせいじゃないんだから!!」
「・・・多分・・・彼も・・・十六夜くんも少し・・・卯月さんに少し気があったんじゃないかなって思うの・・・もしかしたら・・・彼自身気づいてないのかもしれないけど・・・それでも・・・気があったんじゃないかなって・・・」
「え?」
それはとても意外な言葉。
「だって・・・卯月さんが十六夜くんといるときのように、彼もまた・・・口では面倒とかいってるけど・・・楽しそうだったから。」
「・・・そう?」
「・・・うん、そうみえた。・・・お似合いにみえた。」
・・・それは、今日の朝に言われれば、すごくうれしいことだったかもしれない。
「だから・・・彼はあんなに怒ったんじゃないかな・・・」
「え?」
「信頼していたのに、自分だけじゃなく、友達まで侮辱した・・・それが許せなかったんじゃ・・・」
「・・・」
・・・わからない。
彼の考えていることなんて。
「なんで彼が私を信頼してたなんてわかるの?」
その理由をききたくなった。
なんとなくだけど。
「だって・・・彼・・・怒鳴った最後のほう・・・すごくつらそうだったから・・・」
「!!!」
(「「ふざけんなよ!!桶狭間も関ヶ原もお前のことを思って抗議したんじゃないか!!!それに負けて、なんでこいつらのせいにするんだよ!!しかも・・・悪口までいって・・・ありえないよ・・・」)
彼の言葉がよみがえる。
「・・・つらそうだった・・・か。」
やっぱ彼につらい思いをさせてしまっていた。
償っても償いきれない。
せっかくとまった涙がまたあふれだしてくる。
「・・・ご・ごめんなさい!」
「大丈夫・・・大丈夫だから・・・グスッ」
「・・・」
彼女は再び申し訳なさそうな顔をする。
「・・・あの・・・彼のこと・・・心配?」
「・・・うん。」
「じゃぁ・・・明日、謝ったら?」
「今日謝ったけど・・・ダメだった。」
「今日は今日。明日は明日。」
それは言い訳というものに属するのだろうか?
難しいところである。
「・・・昔、私が好きな人ができたときに、一回断られて、私が泣いてたときに・・・一回がダメなら連打あるのみ!っていったの、誰だっけ?」
「・・・」
それはまぎれもない・・・
私だ。
中学の頃の話である。
中島はもと同じ中学では数少ない女友達だったからな・・・
「・・・でも・・・」
「そんなに重たく考える必要はないと思う。・・・卯月さんがそこまで重く考える理由は知ってる。けど・・・彼は彼であって、昔の彼氏じゃないでしょ?」
「・・・そう・・・だけど。」
実際、男なんて皆、原点は一緒。
そう思っていたけど彼は違かった。
もしかしたら・・・
「・・・明日・・・謝ってみる。」
明日がダメなら明後日も。
明後日がダメなら明々後日も。
明々後日もだめなら、その次の日も。
今度は絶対に諦めない。
前みたいにつらい思いはしたくない。
また彼と笑いあっていたい。
「あ、ごめん!そろそろ帰らなきゃ!!」
「・・・ありがとう。」
「うんうん、いいっていいって!じゃぁね!」
そういって中島は帰ってしまった。
・・・少し勇気がついた。
私も帰ろう。
そう思い、立ち上がろうとすると・・・
「よぅ、学校サボってこんなとこにいるとはずいぶんとなめくさってるじゃねぇか。」
「・・・川中。」
こいつ・・・
今頃、なにをしに・・・
「まぁ、少し話そうじゃねぇか。」
「いいえ、帰ります。」
「・・・そういうなって。」
「・・・」
・・・私にはわかった。
逃げられない。
「・・・わかった。」
そういうと席についた。
「・・・どうだ?カモに逃げられた気分は?」
「・・・」
カモなんかじゃない。
今回は・・・本物の恋。
まぁ、それをいってもこいつは信じないだろうが。
「・・・」
「はぁ・・・んじゃぁ、話をとっとと済ますか・・・おい、川口、説明してやれ。」
「はい、姐さん。」
すると川口も席についた。
「今日の出来事で生徒会は、正式に「危機レベル4」と判断したため、「プラン・アルファー」の処置がとられることとなります。」
「なっ!?」
彼ら・・・すなわち生徒会の判断する危機レベルのMAXは「5」。
そして危機レベル「3」から緊急の処置がとられることとなる。
それが「プラン・アルファー」。
通称「引き裂き」。
簡単にいえば、生徒会の監視がつき、問題の2人が話せなくなるようになるものだ。
本来は生徒会に反抗する問題児のグループをつぶすために、先生たち、そして学校と生徒会での協同で契約された、いわばルールである。
そのルールを破れば、生徒会はおろか、先生、そして「学校」そのものを敵にまわすこととなる。
最悪のケースは・・・「退学」である。
これも皆が生徒会を恐れる理由の1つだ。
「なんで私と十六夜の関係がレベル「4」なんですか!?」
「これ以上あなたが必要以上の接触を行うと、彼が壊れてしまう危険性があります。」
「そ・そんな!!」
「つまり・・・これ以上彼に近寄らないでください。」
せっかく謝ろうと決意したのに・・・
これから償っていこうと思っていたのに!!
「逆らった場合はどうなりますか?」
一応きいてみる。
「もちろん通常とかわらず、こちらで処理させていただきます。」
つまり・・・学校と先生との合同でつぶしにくるということか。
「これは生徒会じきじきの厳令です。あまり逆らわないことをオススメします。」
「くっ・・・」
「伝えるべきことは伝えたな。よし、我々は学校に戻るぞ。」
「えぇ。」
そういうと2人は学校にもどっていった。
それより・・・
面倒なことになってしまった。
まさか「引き裂き」が発令されるなんて・・・
どうしよう・・・
もしかして・・・もう彼とやり直すチャンスはないの?
もう・・・一緒に笑い合えないの?
・・・雨が降り始めた。
それはまるで私の心と同じようにあたりを暗くした。
当然かさはもってきていない。
「一緒に入るか?」と苦笑してくれる人も隣にいない。
びしょ濡れで家に帰った。
今日・・・私はたくさんのものを破壊された。
まず自らの手によって、桶狭間や関ヶ原の賛成派の心を破壊した。
そして、彼との関係も破壊された。
さらに生徒会によって、彼との関係を復興する機会も破壊された。
将棋でいうなら、もう王手・飛車取りというところだろう。
私はそのとき破壊されたものは直せないのだろうか・・・
と絶望と向き合った気がした。
「破壊」 完