破綻
次の日になった。
相変わらず朝に僕は弱い。
「・・・ん~と・・・今、何時だ?・・・」
と寝ぼけて時計を見てみると・・・
「ぬぉ!?もうこんな時間!?母さん!!なぜおこしてくれなかったんだぁ~!?」
「あら?今日って学校あったの?」
ダメだこりゃぁ・・・
ってそんな場合じゃない!
学校に8時40分につかないといけない。
そのためには、この家に遅くても8時ピッタリにはでないといけない・・・
のだが!
もう5分である。
急いで制服を着る。
いつも以上にワイシャツのボタンが多いことに苛立つ。
「あぁ~!なんでこんなにボタンが多いんだ!?」
するとインターホンがなった。
「だぁ~!!!この忙しいときに!親父、でてくれ!」
「あ~・・・眠・・・ったく・・・」
親父は頭をかきながら、大きなあくびをして、玄関へと向かう。
インターホンは再度なる。
しかも連打で。
・・・まずい!!
「親父!やっぱいい!!」
「なんだよ・・・まぁ、ここまできたし・・・」
「親父ぃ~!!」
「うるさいな・・・はいはい、どちら様ですか?」
親父は僕が焦る姿を見ると、少しニヤりとして、玄関に向かった。
・・・オワタ。
ガチャリと玄関をあける音がした。
あ~・・・親父・・・やってくれた・・・
「・・・どちらさまですか?」
「おはようございます。私は霧島第3高校1年B組で十六夜くんと同じクラスの卯月咲良といいます。」
おぉ!なかなか礼儀正しい挨拶をしている!!
見直したぞ!!!
・・・ってそうじゃねぇ~!!!
「あ、ちょっと待っててね。」
と親父が急に声が真面目になった。
そして、僕の部屋のドアがあいた。
「星矢、お友達がきてるぞ。」
「あぁ。今行くっつっといて。」
「・・・なぁ、ずいぶんと可愛いガールフレンドだなぁ?お前もなかなかやるな・・・」
「違うっての・・・」
「そんな照れるなんて我が息子ながら可愛いぞ!」
・・・だから嫌だったんだ・・・
卯月のことを知れば、絶対馬鹿親父と母に馬鹿にされる・・・
そういう関係でもないのに・・・
勝手に話を進められるから嫌なんだよなぁ・・・
急いで玄関に向かえば今度は母さんが卯月と話している。
「あら、そうなの?・・・うちの星矢をよろしくねぇ。」
「そんな、こちらこそよろしくお願いします。」
何について話しているかは知らんが、こんなところで遊んでいる場合じゃない!!
「よぅ、卯月。」
「よぅ、じゃない!!今、何時だと思ってるの?このままいけば遅刻よ、遅刻!!」
なんだよ・・・
今日はまともじゃないか・・・って、そうか。
うちの親がいるからか。
「あなたも幸せ者ね。こんな美人さんが彼女で・・・」
「はぁ!?」
すると卯月はニコニコとしていた。
「・・・おい、卯月・・・お前、うちの母さんに何を吹き込んだ?」
「何も。ただ事実をいっただけよ。」
・・・その事実とやらは正しいのか?
非常に疑問である。
「それより星矢。」
なぜ下の名前で呼び捨てなのだ!?
「いつものように咲良って呼ばないの?」
なんだ、そのシチュエーションは!?
僕はまだ生涯でこいつのことを一回も「咲良」なんて読んだことはないぞ!!
「呼ばねぇ~よ!てか、読んだこともねぇ~だろうが!」
「そんなに怒らなくてもいいのに・・・星矢の馬鹿!」
・・・出た、猫かぶりモード・・・
「ホントにあんたって子はなんて子なの!・・・ごめんね、咲良さん。」
ってなんでそっちについてるんだ、母さん!
「・・・あ・・・」
「・・・なんだよ?」
マジマジとこっちを見つめてくる。
「ワイシャツ・・・ボタン、ずれてる。」
「え?・・・あぁ~!!急いでたから・・・くそ、面倒くさい!このまま・・・」
「ダメよ・・・待ってて・・・直してあげるから。」
・・・こいつ、いつまで猫かぶってる気だ?
うちの親は親で、こいつの策略に見事にハマってるし・・・
それより、うちのくそ親は、なんであんなにニヤついているんだ!?
気に食わん!
「・・・はい、直った。」
「あ?・・・あ・あぁ・・・サンキュー。」
とりあえずこいつの素ではないとしても感謝しておくことにする。
・・・正直気に食わないが。
「んじゃぁ、いってきます!!」
「おぅ、気をつけてこいよ。」
親父は笑いをこらえている顔で手をふる。
くそ、あとで覚えてろよ・・・
「咲良さんも気をつけてね!」
「はい!ありがとうございます。」
・・・いつまで母も母でこいつの策略にハマってるんだか・・・
さて、いつもの道を走ってずいぶんたった。
「はぁ・・・はぁ・・・そろそろ歩くか・・・」
「まったく・・・誰のせいで走ってると思ってるんだ!?」
あ・・・素に戻ってる。
「はいはい、僕が寝坊したのが悪いんですよ。悪ぅござんした!」
「・・・その謝り方・・・気に食わない。」
「あ~あ~、そうですかい。」
「・・・」
卯月はこっちをいつものようににらんでくる。
「星矢・・・貴様、この私をなめているのか?」
「・・・てか、いつまで星矢って呼んでるつもりだよ?」
「あ~、これか?これはな、これからずっと呼ばせてもらうことにした。」
「・・・はぁぁぁぁぁ!?」
ちょっ!
お前、それはダメだろう!
そんな呼び方を学校でしてみろ!
一瞬で「バカップル」呼ばわりだぞ・・・
しかも「桶狭間」の前でやったら最後だ。
「・・・お前・・・それだけは勘弁してくれ。」
「これはもう決まったことなのだ!」
こりゃぁ・・・とめられないな・・・
「そのかわりといっては何だが、これからこの私のことを「咲良」と呼んでいいぞ。」
「断る!」
即答だ。
応えるのに1秒もたってないだろう。
「・・・呼んでもいいぞ?」
「断る!!」
再度断る。
これも即答。
「・・・呼べ。」
「・・・なんで?」
「いいから。」
てか、なんで「~してもいいよ」という許可型から、「しろ」という命令・強制になってるんだよ・・・
「断固断る!」
「・・・ケチ。」
「あ~、どうせ僕はケチですよ。」
悪いがお前のことを皆の前で「咲良」なんて呼ぶのは死んでもごめんだ。
とくにいつもメンツの前。
さらにとくに「桶狭間」の前では。
「はぁ・・・この私が許可しているんだぞ?これを逃したら一生、このチャンスはこないかもしれんぞ?」
「そんなチャンスいらん。」
これも即答。
我ながら即答すぎて、素晴らしいとさえ思えてくる。
「・・・再度いう。呼べ。」
「だから断る。」
すると、今度は卯月が少しニヤりとした。
「ほぅ、そんなこといっていいのか?」
「・・・なんだよ?」
「そんなこといってると、お前が私のことを昨日、襲ってきた・・・と皆に報告するぞ。」
・・・き・汚ねぇ~!!
「お前!あれはわざとじゃないだろうが!」
「でも、証人はいる。あとは使用人に探させれば決定的証拠となるのだが・・・」
こいつの場合はマジでやりそうで怖い・・・
くっ・・・こいつを「咲良」と呼ぶか・・・
それともありもしない重い罪をかぶるか・・・
・・・てか、よく考えたらそれって犯罪じゃねぇ~か!
下手したら刑務所いきだろうが!
「お前なぁ・・・それって下手したら僕が刑務所行きになるかもしれないじゃないか。」
「そんなのは知らん。ちなみに私は裁判では勝たせてもらうからな。」
・・・こいつ、血も涙もねぇ・・・
正真正銘の鬼だ・・・
「うちは金持ちだから、いくらでもいい弁護士を雇えるからな。」
くそ・・・
金の力って強ぇ~・・・
僕はそんな汚い手に破れていいのか!
「まぁ、これから私のことを「咲良」と呼べば、昨日のことは忘れてやる。」
・・・こんなことなら、こいつを昨日、助けなければよかったぜ・・・
・・・さぁ、どうしよう・・・
「さぁ、優柔不断男!決断しろ!」
「うるせぇ!誰が優柔不断だ!」
「・・・で?どうするんだ?」
正直認めたくないが・・・
しかも呼びたくないが・・・
僕には負けの道しか残されていないじゃないか!!
「・・・わかったよ・・・」
「よし、勝った!!」
「・・・負けた・・・」
この敗北感は、きっとミッドウェー海戦以上だろう・・・
くっ、あと5分早ければ、空母を失わずに済んだのに!!
そして学校にギリギリのところでついた。
いつものメンツは皆、学校に休むことなくきていた。
「おぅ、バカップル。今日は仲良く2人で遅刻かと思ったぜ・・・」
なんて桶狭間が茶かしてくる。
「うるせぇ・・・」
今は敗北感で胸がいっぱいである。
「星矢が遅刻してくるからいけないんだよッ!」
「・・・あ~・・・そうだな・・・(棒読み)」
すると卯月はこっちをにらむ。
それはまるで・・・
「早く私の名前を呼びなさい!さもないとバラすわよ!!」
という目だ。
「うっ・・・さ・咲良・・・」
・・・完全なる敗北・・・
くっ・・・これも昨日の出来事がなければ!
「おぉ~!お前ら、もうそんなとこまでいっちゃるけんだっぺか!?」
「・・・」
なんも言えねぇ~・・・
あるのは敗北感のみという悲惨な日だ。
今日・・・僕、やってけるかな・・・
すると長篠がこっちに歩いてきた。
おぉ、助けてくれ、長篠!!
すると長篠はスッと僕の肩に手を置いた。
「・・・おめでとう。」
「!?・・・将軍・・・」
「・・・まぁ・・・ドンマイ。」
と小声でいってくれた。
どうやら、目で合図したのが、効いたらしい。
とりあえず1人理解者ができただけでうれしい限りである。
教室の端・・・
「・・・なぁ、あれ、どう思う?」
「・・・強制だな。目をみればわかる。」
「やっぱりか。そろそろとめないとまずい・・・か。」
「十六夜が可哀想だしな。」
川中と時津風が静かに外を見ながら話していた。
授業は1時間目を終えた。
のだが!!
腹が減った・・・
「そういえば朝・・・何も食べてないもんなぁ・・・」
気分は最悪。
腹は減るし、朝から敗北するし・・・
「・・・はぁ・・・ほら、やるよ。」
すると不意に卯月に声をかけられた。
気づけば、僕がグッタリしているすぐ横にたっていた。
ちなみにくれたのは「メロンパン」。
税込み315円と高価なものだ。
さすがは金持ちといったところか・・・
しかし・・・意外なこともあるもんである。
「・・・お前の腹の音がうるさいから、これでも食って、ならないようにしろ。」
そういえばこいつの席って隣だったな・・・
腹が減って、そのことすら忘れていた。
「・・・サンキュー・・・恩にきるぜ・・・卯月。」
するとまたしてもにらまれた。
「おっとそうじゃない・・・咲良・・・だったな。」
しかしなれないものである。
まず女性を下の名前で呼んだことがない。
しかし、そう呼ぶと彼女は満足気な笑みを見せた。
「うん、よろしい。」
まったく何がしたいのやら・・・
4時間目が終わり、飯の時間になった。
とりあえず財布はもってきているので、購買部で飯を買いにいこう。
・・・たしか購買部は12時45分にならないとあかない。
今は40分なので・・・あと5分ある。
なんとも不便なことだ。
「おい、星矢。」
相変わらず呼ぶのもそうだが、呼ばれるのも慣れない。
「なんだ・・・う・・・じゃなくて、咲良。」
「お前、どうせ購買部で何か買うのだろう?」
「あぁ、そうだが?」
「よし、私もついていってやろう!」
・・・いや、意味わからねぇ~し。
てか、お前がくる必要ねぇ~し。
「・・・いや、いいよ。」
「そう硬いこというな。」
これは硬いとかやわらかいとかそういう問題ではないだろう・・・
それにくる必要がないのにつき合わせたら、悪い。
「別にいいよ、お前に悪いし。」
「私が行きたがっているのだ!」
「・・・」
毎回思うことだが・・・
なんて押しの強い奴。
「ほら、もう45分だ!いくぞ!」
すると、彼女は強制的に手を引っ張っていく。
意外にも彼女は早い。
しかも、階段はくだりなのに、2歩分とばすので・・・
こっちがついていけない。
「ちょっ!マジで危ないって!それは死ぬから!マジで!!誰か助けてくれぇ~!!!」
こんなにも僕は大変なのにもかかわらず・・・
まわりは僕のことを「幸せ者」ととらえているようだ。
おかげで僕は誰にも救いの手をさしのばしてもらえない。
購買部についた。
相変わらず人で賑わっている。
狭い廊下に人がいっぱい並んでいる。
「げっ・・・めちゃ混みじゃん。」
「だからいったろ・・・悪いって・・・」
「フッ、こんなのでこの私がへこたれると思ったか!」
・・・それはプラス思考というものなのか?
・・・そう受け止めておこう。
「よし、私がおとりになる!そのうちにお前は買いにいけ。」
「お前・・・アクション映画の見すぎだぞ・・・」
「こういうのを陽動作戦というらしい!」
「んなこと知ったことか!!」
・・・やはり映画の見すぎだ・・・こいつ。
てか、やっぱ金持ちも映画をみるのだな・・・
「よし、いけ!」
「あ・あぁ・・・」
とりあえず僕が人ごみのなかへいくと・・・
「皆、注も~く!!!」
それは一瞬で皆の注意をひいた。
「いいですか?今から私が問題を出します。もし正解したら、頬にキスしてあげます。」
「おぉ~!!!」
男の欲望丸出しだな・・・
というか、そんなことを約束していいのか?卯月!?
「ただし制限時間があります。それはこっちで指定。それまでに答えがでなければそれでおしまいです。」
正直あっちの展開も傍観者として気になるのだが・・・
せっかく彼女曰く「陽動作戦」をしているのだ。
ここはさっさとかって、さっさと教室に戻ろう!
「問題~!!昨日、私は彼氏に何をされたでしょう?」
・・・彼氏なんていねぇ~じゃねぇ~か。
そもそも答えのない問題。
いや、こいつはやっぱセコいやつだ。
そんな問題に男たちは食いつく。
あぁ~・・・同じ男として、恥ずかしいというかなんというか・・・
見てはいけない現実がそこにあるような気がした。
とりあえず買い物を済まし、彼女のもとへ戻る。
「・・・終わったぞ。」
「はい、終了!じゃぁ、さようなら~!!」
一気に男たちは「えぇ~!?」という声があがるが・・・
そんなのおかまいなしにとっとと教室に戻る。
「いやぁ~、星矢を信じてよかったです。あと少し遅いと正解がでてしまいそうでしたから・・・」
「・・・そもそも正解なんてないだろうが。」
「え?ありますよ?」
僕は彼女の「正解がある」というものより「彼氏がいた」というほうに驚いた。
へぇ~、まぁ、モテるからな・・・この女。
「で?正解は?」
「襲われた。」
「・・・は?」
「・・・なんでしょうか?」
笑顔でとぼけられても困る。
一応確認しておこう。
「・・・一応確認するぞ。その彼氏とやらって・・・誰だ?」
「嫌ですねぇ~、ここにいるじゃないですか。」
「・・・」
「星矢くん、あなたですよ、あなた。」
くっ・・・猫かぶりモード全開だな・・・
だが、僕にはそれは効かん!
「僕はいつからお前の彼氏になった!?」
「う~ん・・・ずいぶん前から?」
「そんなの記憶にない!断固否定するぞ!!」
まったく・・・
どうして、僕のまわりには「桶狭間」といい、「不知火」といい、「卯月」といい、ないことをあたかもあったことのようにいう奴が多いのだろうか。
「あれ?そうですか?おかしいですねぇ~・・・」
「おかしいですねぇ~・・・じゃねぇよ!ったく・・・」
そこは死んでも否定する。
僕の最終防衛線。
絶対防衛圏だ。
「さて、皆さんとご飯を食べましょうか!」
「・・・そうだな。」
さりげなく話しをすりかえられた気がしたが・・・
そこは気にしない。
その後、みんなで楽しく(?)飯を食べ・・・
5時間目の授業を終え、6時間目となった。
6時間目は「ロングホームルーム」。
いわゆるクラスの決め事をきめたりするのに活用する時間だ。
黒板の前に川中と川口。
「川」組みがでてきた。
「よし、お前ら!とうとう体育祭まで残り2週間となった!そこで今日は各員の種目を決めることにする!!」
「おぉ~!!!」
皆は異常に盛り上がっていた。
それもそのはず。
「桶狭間」いわく、体育祭はカップルが増える高校最初の行事・・・らしい。
まぁ、正直僕は興味のないことだが。
「あ~・・・俺はお前とは死んでも組みたくないぜ・・・関ヶ原。」
「俺もお前となんか組みたくねぇ~よ!」
なんて会話がチラホラきこえる。
そして時間は刻々とたち、ある程度皆がでる種目は決まってきた。
そろそろ僕も入ろうか・・・
今残っているのは・・・
・・・って、全部つらい種目じゃないか!!
しかも全部2人用という・・・
とくに「手取り足取り」なんて最悪だ。
2人で二人三脚をしながら、2人で縄跳びをして、走りながら次の走者へタスキをパスするという・・・
つまり二人三脚と、縄跳びの駆け足とびがまざったものだ。
すると・・・
「俺、思うんですけど・・・「手取り足取り」には十六夜がいいと思います!!」
「な!?」
桶狭間・・・てめぇ・・・
桶狭間はこちらを見ると、ニヤりとした。
「じゃ・じゃぁ私も・・・手取り足取りにしようかな・・・」
と卯月。
なんでそんなに僕にこだわるんだよ・・・
「やっぱそうだっぺね。2人は仲いいからなぁ。この2人で間違いなしだっぺ。」
くそ・・・関ヶ原・・・念を押すんじゃねぇ・・・
「・・・そうかな?俺はやめたほうがいいと思うぜ?」
「え!?」
まわりは一瞬にして、さめた。
誰もが賛成だとされていたこのメンツに・・・(もちろん僕は除く)
反対派がでたからである。
一番最初に反対派の名乗りをあげたのは、時津風だった。
「お前ら、十六夜はいつも卯月につき合わされているだけだろうが!そんなのも見ていてわからねぇのかよ!」
「そ・それもそうだな。」
「俺も反対だ!」
すると、チラホラと反対派があがってきた。
「いやいや、お前らに何がわかる!十六夜と卯月さんはお互いを下の名前で呼び合うほど仲がいいじゃねぇか。」
「そうだっぺ。・・・ここはとりたくないが、桶狭間。助太刀するっぺ。」
「ここは共同戦線ってやつだな。」
なんとも面倒なことになってしまったような気がした。
いや、面倒なことに実際すでになっている。
「・・・姐さん、どうします?」
川口は川中にきいた。
「私も時津風の意見に賛成だ。」
「おぉ!?クラス委員長が反対派にまわったぞ!?」
「そうだそうだ!十六夜が可哀想だ!!」
いつの間にか反対派のほうが人数が上回っていた。
「ちょっと待ってよ!私は・・・星矢とやりたいの!文句ある?」
これに卯月は自ら先陣をきって、賛成派に参戦する。
なんか・・・大変なことになってきたなぁ・・・
「そうだよな、卯月さん!本人がやりたいっつってんだ!文句あるのかよ!?」
「お前らは何もわかってない!お前ら、ホントに友達として十六夜の近くにいるのか!?」
「なんだと!?」
討論はだんだん言い争うにかわっていく。
「・・・んならよぉ・・・十六夜の意思にまかせりゃいいじゃねぇか。」
長篠の一言で一瞬で場の空気が静まり返る。
そしてその視線は僕に向けられた。
「ねぇ、一緒にやろう?」
卯月からの誘い。
別に断る理由もない。
のだが・・・
「おい、十六夜。お前はいつも大変じゃねぇか・・・ここら辺で手をきっておいたほうがいいと俺は思うぜ。」
時津風がいう。
それを先頭に反対派は「そうだそうだ」という。
僕はどうすればいい?
ここで本音をいったら・・・
卯月を傷つけてしまうのではないか?
「だいたいなぁ、毎回毎回、卯月は十六夜に接触しすぎなんだよ!十六夜がどれほど困ってると思ってるんだ?」
「そ・そんなこと・・・ないよね?」
ここは本音を言おう。
でも、卯月をあまり傷つけないように、やさしめに。
・・・やっぱ僕って優柔不断かな・・・
「・・・僕としては・・・」
僕の一言で場が一気に静まりかえる。
その静けさは怖いぐらいだ。
「その・・・もう少し、接触は・・・控えてほしい・・・かな。」
「・・・そんな・・・」
この言葉は最大限に手加減を加えた言葉だった。
これ以上・・・軽くすることはできなかった。
「ほら、十六夜もそういってるじゃねぇか!!」
「そうだ、時津風のいうとおりだ!!」
反対派は一気に力を増し、賛成派は一気に口数が少なくなってしまった。
僕のたった一言で。
「で?手取り足取りのことはどうするんだ?」
「・・・」
正直どっちでもいい。
今回は断る理由もないからだ。
「・・・嫌なら嫌って言えばいいじゃない。」
「え?」
「嫌なら嫌っていえばいいでしょ!この優柔不断男!!最低!!!」
「・・・」
今度は僕が責められるばんだ。
でも、覚悟していた。
「ありえない!!最低よ、最低!!あんたなんて・・・」
「・・・おい・・・卯月・・・ちゃん?・・・さすがに言いすぎだぜ・・・」
「そうだっぺよ・・・」
賛成派もついに彼女についていけなくなってしまったらしい。
「うるさいうるさい!!大体、お前らが勝手なことを言うから!!」
「なっ!?」
「・・・」
「桶狭間、お前はいつもうるさすぎる!!関ヶ原、お前は変なしゃべり方がウザ過ぎる!!!」
桶狭間も関ヶ原も・・・
その他の賛成派はもちろん・・・
反対派ですら、下を向いていた。
だが・・・なにより責任を感じているのは、やはり賛成派の中心にたった2人だろう。
・・・もう・・・我慢の限界である。
「いい加減にしろ!!!」
「!?」
皆の下を向いていた顔が一気に僕のほうを見る。
それは今まで僕があげたことのないような大声で怒鳴ったから。
「ふざけんなよ!!桶狭間も関ヶ原もお前のことを思って抗議したんじゃないか!!!それに負けて、なんでこいつらのせいにするんだよ!!しかも・・・悪口までいって・・・ありえないよ・・・」
「・・・くっ・・・グスッ・・・」
彼女は・・・
卯月は泣いてしまっていた。
それは今まで見てきたこいつの涙よりもずっとずっと重たい涙のように感じた。
だけど・・・
これは正直いって自業自得だ。
「悪いが、今回はお前の涙を見ても謝ることはできない。」
「・・・十六夜。」
「・・・」
桶狭間と関ヶ原も今にも泣きそうな顔になっていた。
自分たちのせいで・・・
自分たちがこんなことを言い出さなければこんなことにはならなかった。
そう・・・責任を感じているのだろう。
「・・・悪い、気分が悪くなった。僕は早退する。」
そういって荷物をもつ。
さきほどの怒鳴り声をききつけて、担任がやってきた。
「おい、十六夜。何してる?」
「帰るんです。」
「は?お前、7時間目は?」
「すみません、気分が悪くなりました。失礼します。」
そういって僕は教室を飛び出した。
「・・・なんだ?おい、誰か・・・何があったか説明しろ。」
「・・・先生。私も帰る。」
そういって、卯月も荷物をもって帰った。
「・・・桶狭間、関ヶ原・・・お前らが責任を感じる必要はない。お前らが悪いわけじゃねぇんだ。」
「・・・時津風・・・」
「おい、お前ら、シャキッとしろ!シャキッと!!あいつら2人は保留にして、他のを決めるぞ!!」
「そ・そうですね・・・」
帰り道。
いつもはカラスが「アホー」と僕をまるで馬鹿にするように鳴いているのに、今日は鳴いていない。
それは寂しさを感じさせる。
「・・・」
僕が彼女に抱いた気持ち。
それは失望と怒りだった。
これは考えようによっては、しっかりと決断を出さなかった僕に問題がある。
僕の責任でもある。
だから1人だけ、その責任から逃れようなんて気持ちはぜんぜんない。
・・・決着をつけよう。
「・・・なぁ、卯月咲良。」
「・・・」
卯月はこれまでにないぐらいに暗かった。
下を向いたまま。
「・・・何しにきたの?」
「・・・その・・・ごめんなさい・・・」
「何が?僕に悪いことはしてないでしょ?謝るんだったら、桶狭間と関ヶ原に謝ってくれば?」
僕の反応は最低だった。
口をあければ、より彼女を傷つけてしまっていた。
そのことにすら、苛立ちでこのときは気づかずにいた。
「・・・その・・・」
「じゃぁ、僕帰るから。・・・ついてこないでね。今はそういう気分じゃないから。」
「・・・グスッ・・・」
今思うと、僕はとことん最低なやつだった。
自分が悪いのに、それを卯月のせいにして・・・
自分も逃げるつもりはない。
そう決めていたのに、実際に逃げていて。
卯月の気持ちも知らないで。
卯月の気持ちも気遣わないで。
もし、あのときに戻れるなら、やり直したい・・・
そう思う。
この最悪な日は最悪な結果で終幕した。
「破綻」 完
今回は非常に長くなってしまいました。
本題までのグダりが多すぎました・・・
長文、すみません。