性格
日曜日は何もなく平和にすぎた。
おかげで僕はパソコンに集中することができた。
思えば久々にパソコンに打ち込んだ気がする・・・
久々に「ハンゲーム」をしたら、なかなか面白かった。
久々に2chにいったら、盛り上がっていた。
久々に動画サイトへいけば、新たな動画があがっていた。
少し見ないだけでずいぶんとかわるものである。
そういえば・・・
土曜日。
僕がおそらくボディーガードとしての役目をまっとうできた日。
あの日の最後に彼女・・・
今、一番の僕の問題である「卯月咲良」はなんといったのだろうか。
よくきこえなかった。
まぁ、あいつからしてどうせあまりいいことではないだろう。
悪口の1つや2つなんだろう。
やれやれだ。
なんてことを思いながら、ボォ~ッと空を見ながら歩いている。
今日は雲の流れが早い。
「行雲流水」とはこのことか!!(←間違っています)
「あの!!」
不意に声をかけられる。
いや・・・なんか悪寒が体のなかをほとばしる。
「・・・お前・・・何やってるんだ?」
「失礼ですね、あなたを待っていたんですよ。」
・・・はぁ?
てか、これは確実に「待ち伏せ」という立派な戦略である。
どうせ僕がこの道を通ることを、こいつは使用人に調べさせたのだろう。
まったく・・・どこまで金持ちなんだか・・・
「・・・」
「これから私は毎日あなたと登校しますので!」
「はぁ!?」
なんだその展開は!!
それは学校に着く前から家に帰りたくなるような展開じゃないか!!
やばい・・・ホームシックになる・・・
そんなことを思いながら途方にくれている。
まったく週初めでこの運のなさはなんなんだ・・・
「とぅ!!」
「かはっ!」
すると不意に後ろから蹴りをいれられた。
いや・・・普通の蹴りならまだ許せる。
が!!
ハイキックをモロに喰らってしまった。
「よぅ、朝から一緒に登校なんて、もうラブラブじゃん。」
「・・・桶狭間・・・てめぇ・・・」
こいつは桶狭間。
面白いやつだ。
「ごめんのぅ・・・ボケ狭間は朝からテンションがいかれとんじゃ。」
すると後ろから関ヶ原がやってきた。
いつもの展開だ・・・
「だぁ~!!てめぇ、朝から俺のことをボケっていうんじゃねぇ!」
「あぁ?よくきこえないな・・・」
「・・・関ヶ原・・・喧嘩うってるのか?」
「そんな商売はあまりしたくないものだね。」
いつもどおりのやり取り。
本来なら苦笑いなのだが・・・
となりに「こいつ(卯月)」がいるとなると、超苦笑いになってしまう。
「よぅ、十六夜。」
すると後ろから僕の親友がやってきた。
「よぅ、五月雨。」
「朝から元気だな。」
「元気じゃねぇ~よ・・・朝っぱらからハイキックは喰らうは、待ち伏せは喰らうは・・・」
「ハハハ、充実してるじゃないか。」
「してない!そこは断固否定する!!」
いつものメンツ+1人でいつものように騒いで、学校へと登校した。
教室につくと、やはりこのクラスはいい。
そう思わせてくれる。
僕やいつものメンツが教室に入ると「おはよう」といってくれる。
それだけでどれだけ気分が良いことだろう。
「よぅ、長篠。進んでる?」
「おぅ、十六夜。」
彼はいつものようにゲームをしている。
戦略ゲームだ。
画面を見てみると・・・
彼にしてはずいぶんと負け越している。
「・・・なんかやばくないか?」
「いや、ここからどう逆転できるかが楽しいところだろ。」
ということはわざとこの場を作り上げたと。
「それはうまい人ならではの考え方だよ・・・僕には100年あってもできないよ・・・」
「ハハ、お前らしいじゃねぇか。」
その後、流れるように授業があった。
そして、3時間目が終わって、僕は少し息抜きのために、非常階段へと出る。
「ふぅ・・・」
ここはいつきてもいい。
静かだし、町も見渡せる。
鳥の鳴き声がよくきこえる。
雲の流れが地上よりも見やすい。
僕にとって、とっておきの場所のうちの1つである。
「ここは非常階段だぜ?んなとこにきていいのか、真面目くん。」
「?」
後ろを見ると、「時津風 斬」がいる。
同じクラスメイトだ。
話すのは・・・今回が初めてだろう。
「・・・時津風くん。」
「よぅよぅ、まずその「くん」とやらをなんとかしてくれないかねぇ?」
「え?」
「同じクラスメイトなんだしよ。」
時津風 斬。
初めて話したが、なんともしびれる空気を漂わせている男だ。
彼のことは以前、関ヶ原がいっていた。
なんでもゲームに関しては詳しい・・・だとか。
「わかったよ、時津風。」
「そうそう、それでいい。」
それになかなかのマイペースだともきいている。
「で、僕に何か?」
「いや、クラス一の真面目くんが非常階段を下りていくのを見てね。なんとなく気になっただけだよ。」
「・・・なぁ、ならお前もその「真面目くん」とやらをやめてくれないか。」
大体僕はクラス一の真面目くんでもなければ、頭がいいわけでもない。
てか!
まず僕は真面目くんじゃないだろう!
「ほぅ、いうねぇ。まぁ、いいけどね。」
「・・・」
「わかったよ、十六夜星矢。」
今度はフルネームか・・・
まぁ、「真面目くん」よりはいい。
「お前・・・ゲームに詳しいんだって?」
「まぁな。基本、ゲームはなんだって好きだしな。」
「へぇ・・・なら今度、面白そうなゲームを教えてよ。」
「いいぜ。面白そうなじゃなく、面白いゲームを教えてやるよ。」
最初は少し気まずい空気が流れていたし、若干怖いやつだと思ったが・・・
結構いい奴だ。
「ところでよぉ・・・お前、あの「卯月咲良」と付き合ってるのか?」
彼の顔が急に真剣になる。
目つきが鋭くなる。
「・・・いや、付き合ってない。」
「断ったのか?」
「うん・・・まぁ、おかげで追い回されてるんだけどね・・・」
「なるほど・・・断った・・・か。こりゃぁいい。」
彼は少し満足気な顔をする。
「・・・なるほどな・・・だからあいつ・・・お前のこと追い掛け回してるのか・・・」
勝手に1人で納得している。
よくわからないやつだ。
「ねぇ?何がいいたいの?」
「・・・フッ、1つだけ忠告しておいてやる。」
「え?」
それは彼からの忠告。
アドバイスという優しい言葉では表せない。
明らかな忠告。
「あの女には注意しておけ。」
「え?」
「俺な、あいつとモトチューなんだよ。」
モトチューとは現代語訳で、元同じ中学。「元中」ということだ。
「あの女はチャラいぜ。それに・・・付き合えばとことんこき使われる。」
「・・・なんでそんなことを・・・」
「知ってるのかって?モトチューだからだよ。」
「・・・」
「俺はあの女のせいで、悲しんだ友達を何度も見てきた。・・・これ以上は見たくないからな。」
彼の目は嘘はついていない。
「時津風は・・・卯月と?」
「いや・・・俺はかかわらなかった。・・・かかわりたくもない。」
彼はまるで彼女そのものを嫌っているようだった。
「・・・まぁ、そういうこった。とりあえず忠告はしといたからな。」
「・・・」
「まぁ、仮に付き合う予定なら、相当覚悟を決めておくんだな。」
そういうと、彼は出て行った。
たしかに彼女は二面性がある。
けど・・・そんなに悪く言うほどの女性なのだろうか?
そこまで悪いようには見えないのだが。
その日の帰り道。
「・・・で?なんで付いてくるの?」
「いやぁ、付いていっているわけではありません。帰り道が一緒なだけです。」
「・・・お前の家、明らかに逆方向だろうが!」
「あっれー?そうでしたっけ?」
でたな・・・
得意のとぼけ技。
相変わらずとぼけるということがうまい奴だ。
「もしかして・・・方向音痴ですか?」
「なんでそういう結果になるんだよ・・・」
挙句にボロくそ言われそうだ・・・
まぁ、とりあえず帰ろう。
うん・・・帰ろう!
ということで歩く。
・・・のだが。
やっぱり後ろをずっと付いてこられると気になる。
すると彼女のほうから話かけてきた。
「そういえば今日の理科の授業、わかりましたか?」
「え?・・・あ~、あまりわからなかったな。」
とりあえず答える。
下手な答え方をすると、殺されそうだし・・・
「ですよね!!意味わからないですよ!!」
「・・・そうだな。」
自分でもわかる。
僕の返事は今日は特にそっけない。
その理由は・・・
まぁ、時津風にあんなことをいわれたからである。
「・・・何かあったの?」
さすがに彼女のほうも気づいたようだ。
・・・どう答えればいいのだろう。
とりあえず・・・ごまかそう。
「・・・いや、なんでもないよ。」
なんてことをいうが・・・
実際なんでもなくない。
さりげなく時津風の「忠告」とやらが、耳から離れない。
それはまるで、ガラスの破片のように心に食い込んでいた。
忘れようと意識すれば、逆にみるみると、傷を悪化させていく。
「・・・嘘だよ。」
が、彼女には何でもお見通しのようだ。
そういえば、僕はあまり嘘をつくのが得意じゃない、とよくまわりに言われるっけ・・・
それでも、さすがにこれはいえないことである。
ごまかすしか道はない。
「なんでもないって。」
「嘘でしょ?」
「・・・」
「・・・嘘つけない人って大変だね。」
それは皮肉か?
なんてことはどうでもいい!
この状況をどう打破するかが問題である。
「・・・どうしたの?」
またこの言葉。
どうしてここまで追求してくるのだろうか?
僕にはその地点で謎である。
「・・・お前に関係ないだろう。」
「なっ!?」
ごまかし技を使ったも・・・
これはミスったようだ・・・
地雷を踏んだ。
「関係ないだろ!?人が気を使ってやっているというのに!!」
「・・・」
「・・・といえば、教えてくれるかな?」
・・・はぁ・・・
相変わらずか。
まったく、こっちはお前のその二面性の使い分けを見習いたいよ・・・
「なぁ・・・お前さぁ、そんなに本心を溜め込んで、ストレスたまらないのか?」
「!?」
彼女は驚いたようだった。
まさか・・・僕が彼女の二面性に気づいてなかったとでも思っていたのだろうか・・・
「な・なんのことですか?」
「・・・いや、何のことって・・・」
ここまでいっても、通そうとするのだろうか?
よっぽどのものである。
「・・・たまるよ。」
「え?」
「・・・たまる。ものすごくたまる。」
やれやれ・・・やっと白状したか。
いや、待て待て。
僕は白状させようなんてことは思っていないぞ。
まぁ・・・いいか。
「ならなんでそんなに使い分けてるんだよ?」
「だって・・・私は卯月コーポレーション社長の娘だから・・・」
いや、意味わからないし。
てか、それは言い訳にならないだろう・・・
「あなたにはわからないよ。」
あぁ、全力で意味わからん!!!
「私は大企業、卯月コーポレーション社長の娘なのよ!?完璧でなくちゃいけないのよ!」
「なぁ、さっきからよくわからないことを並べてるけどよ・・・」
「あなた、ホントに馬鹿ね!!」
はぁ・・・本性をいざ相手にすると・・・
覚悟を決めていたとはいえ、疲れる。
「まぁ、馬鹿なのは認めるけど。・・・でもさ、その大企業社長に娘さんに、性格って関係あるの?」
「あるに決まってるじゃない!だって世界のトップをいく会社は皆、弱点がない。それは娘だってそう。」
まず会社の対立を自分の娘にまで持ち込んでいる社長たちに問題ありだと思うのは僕だけか?
「なんでも完璧にこなせる娘じゃないとダメ。そう思うのはどこの会社の社長も同じなのよ。」
「・・・」
「私の父だってそう!私を完璧な女性にしようとしている。わかる!?いつも綺麗な言葉を使っていないと、ご飯すらぬきになるのよ!?何かうまくできないと、すぐ先生にボロくそいわれる。」
「だから、お前は完璧でおしとやかな可愛い女の子を演じてるってのか?」
「それしかないじゃない。」
その顔は今まで見たこともないのようなつらい顔。
そりゃぁそうか。
自分の会社のために、好きでもないのに、無理に完璧な自分を作っている。
何か気に食わなくても、口にはだしてはいけない。
心のなかでためこんでる。
本音を言ってはいけないということが・・・
素をあかしてはいけないということが・・・
どんなにつらいことか。
それはいわば人権をも否定するやり方なのかもしれない。
「・・・はぁ・・・僕にはやっぱ、その考え方はわからないよ。」
「は?」
彼女は目を丸くする。
「だってさ、そんなの会社の前でだけいい子にしてりゃいいんだろ?プライベートなんて関係ないじゃん。」
「だからそれは・・・」
「それにその先生とやらが何かいうなら、言いたいだけ言わせておけばいいんだよ。」
「え?」
「その代わりに、思いっきり反抗してやればいいのさ。」
「・・・」
彼女は呆れて何もいえないようだった。
「そんなことしたら、ご飯も抜きになるし・・・」
「んなら、僕ん家で食べてく?」
「は?」
彼女は僕の予想外の言葉にただただびっくりするだけだった。
「そんなことまでしたら、追放される・・・」
「いや、いくらなんでも自分の娘をそんなことは・・・」
「する。父はそんなに甘くない。」
「・・・はぁ・・・じゃぁ、家でもいい子にしてればいい。けどさ・・・」
「?」
「せめて僕の前だけなら、素でいていいよ。」
それは僕の精神が壊れるかもしれない。
けど・・・可哀想過ぎる。
「フッ・・・なにそれ?告白のつもり?」
「・・・どうとったら、そう解釈できるんだよ・・・」
相変わらずそっちにつなげるのは得意みたいだ・・・
だが、そういう意味でいったわけではない。
「本当に・・・素でいていいのか?」
「うん。」
「・・・報告しない?」
「誰に?」
「・・・なんでもない。」
・・・てか、僕がそんな報告するような嫌な野郎に見えるか?
・・・というか、まず誰に報告すればいいかわからん・・・
「なら・・・お前を信用してやろうじゃないか。」
「おう、任せとけってんだ!」
なんて威勢のいいことをいったが実際、僕の精神力でもつだろうか・・・
まぁ、と・とりあえず言っちゃったんだし、頑張ろう!
それに・・・彼女のほうがずっとつらいだろうし。
その後、今日は何も起こらずに、終わった。
明日が怖い。
まぁ・・・とりあえず頑張ろう!!
歩数は1歩を重ねて、増えていくものだ。
そしてこの決断の1歩は、また前進する1歩となる。
「性格」 完