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最終決戦


 ダンケルクの大剣と、エンバーが生み出した光の剣がぶつかる。


「!?」


 剣と剣がぶつかり合うと、赤いカケラが飛び散った。

 王宮で戦った時のように大剣は溶けず、形を保ったままだ。

 

 よく見れば光沢のある鉄ではなく、分厚い黒石で岩石特有の穿孔があった。赤熱して砕けたのはほんのわずかで、それらは流星のように火花を散らして落ちる。


「激レアの武器を手に入れた甲斐があったぜ」


 また、ぼんやりとダンケルクの姿が霞む。

 死角に注意し、ダンケルクの突きに反応して構えた。しかしそれはフェイントだった。


「タクト! 上だっ!」


 ガンッ!


 ダガーが剣の腹に当たり鈍い音を立てた。横やりにダンケルクは赤の瞳を燃やし、ギールを睨む。

 空中で身動きできないダンケルクを俺は下で待ち構えた──が、片耳のイヤリングが微かに煌めく。


「うぐっ!」


 声を出して倒れたのはギールだ。

 ダンケルクの剣先がギールの脇腹を刺していた。


「ギール!」


 俺は集中射撃(フォーカスショット)の狙いを変えて撃ち込んだ。

 しかし、翡翠のイヤリングがまた怪しく輝くと、ダンケルクは忽然と姿を消し炎の弾丸は空を裂いた。


時操騎士(クロノナイト)の能力じゃない……」


 時間を止めたときに発生する残像がなく、移動する距離が長い。

 風の人柱だったマーリーが以前言っていた。召喚という転送魔法は風の魔法に近いものがあると。

 

 瞬間移動──これが、ガイア王を倒した力なのか。


「よっしゃあ! ギール撃破!」


 ダンケルクは再び祭壇に立って姿を現す。

 満面の笑みで子供のように奇声をあげて喜ぶ姿に、ゾッとするものを感じる。

 

「あとは裏ボスのタクト、貴様だけだ!」

「……!」


 朱色の墨汁を垂らすかのように、残像が迫ってくる。

 光の剣を向けるが容易にフェイントを入れられ、視界の外に残像がちらつく。


「くっ!」


 早すぎる。

 俺は剣の達人でもないし、明らかにダンケルクの方が戦闘経験値が高い。

 剣術についてギールとリアクに稽古をつけてもらってはいた。だからこそ分かる、圧倒的な修練の違い──。

 

 パキン!!

 

 後方で水の障壁が割れる音がした。

 大剣の切っ先が俺の衣服に触れている。完全に死角からの攻撃だった。


「かってーな、ルナのバリアは」


 自動防御(オートディフェンス)のおかげで、隙だらけの後方をルナのネックレスが守ってくれていた。

 ダンケルクは剣を引き抜いて、一旦俺との距離をおいた。


「ははっ、弱くて一人じゃ勝てねーから、他人の力に頼るのか。恥ずかしくないのか?」


 ……恥ずかしいだって?

 

 ルナやギール、リアクの手助けを受けて恥ずかしいと思ったことは1ミリもない。

 たしかに俺は、魔力が膨大なだけで使い方もろくに分からない高校生だった。けれど、たくさんの人たちが助けてくれたし、今ダンケルクと戦えるほどになった。

 それは、俺が正しいと思う道がたくさんの仲間の道と繋がっていたからだろう。

 

 俺は一人じゃない。だからダンケルクを倒すことができる。


「ダンケルク、俺は仲間から託されたものを恥ずかしいと思って使うことはない。仲間の手助けも恥ずかしいとは思わない。……恥ずかしいことは仲間を見捨てること、同じ願いを叶えられないことだ!」


 光の剣をもう一方の手に握る。


「うるせーっ!」


 怒りにまかせた攻撃をパリィして払いのける。そしてもう一方の光の剣を前にして踏み出した。

 消えたダンケルクの姿をかすめ、わずかにダンケルクの腕を傷つけた。


「クソッ! 何が仲間だっ!」


 傷口を見て額に血管を浮かべ、ギリギリと大剣のグリップを握り締める。

 また姿を消すと、水の障壁に無数の斬撃が叩きこまれた。

 出鱈目に打ち込まれた嵐のような剣閃。火花が散り、ダンケルクの姿が残像と実体とで入り乱れる。

 

 時操騎士(クロノナイト)と風の装具の力をランダムに使い、どこから攻撃するのか分からない。自動防御(オートディフェンス)の弱い箇所を探っているのか。

 

 だとすれば──

 

「上だっ!!」


 俺は水のネックレスの能力を知るため、ギールの依頼で色々と試していた。そして気づいた、ネックレスの障壁は上部が薄いことに。

 両方の光の剣をクロスさせて、上空に向かって構える。

 案の定、頭上が陰り、巨大な剣先が落ちる──首元まで迫る刃の腹を、二つの光の剣で挟んだ。

 

 大剣を握っているせいなのか、ダンケルクは瞬間移動をしない。


「クソッ、放せっ!」

「おりゃーーッ!!」


 渾身の力で光の剣を交差させる。

 

 ガキィィン!

 

 炎の裂け目が大剣の悲鳴とともに刃を走る。


「な、なんだとっ! 俺の最強武器が……」


 大剣は横から真っ二つに千切れた。

 断面は生々しい血のような閃光を噴く。


「諦めて武器を置け!」


 ダンケルクは距離をとると、横たわっていたギールに壊れた大剣を向ける。ギールを手当していた者たちを蹴散らして、息を切らしながら喚いた。


「武器が違いすぎるんだっ! はぁはぁ……その光の剣は特殊な魔道具なんだろ……? 分かってるんだ……! それを俺に寄越せっ」


 脇腹を抑えるギールの首に折れた断面を押し当てた。


「うぐぐっ!」

「……分かった」


 俺は剣を装備解除して、炎のブレスレットを外した。

 装備品になったままのエンバーを床へ転がし、ダンケルクに渡した。

 ダンケルクはそれを受け取る。


「ハハハッ! これだこれだっ! これこそが隠された最強武器だったか!」

「……」


 火の魔法を唱えれば、ダンケルクの手には煌々と輝く光の剣があった。


 ──喜ぶ顔が苦痛に歪み始めるのは、割と早かった。


「あ、がっ!?」


 ダンケルクは白目を剥いて、膝をつく。光の剣はダンケルクの魔力を目一杯放出し続ける。


「あガガガッ……」


 やっと放出がおさまるころ、ダンケルクは痙攣して顔面を床に打ち付けた。


 王宮を脱出したとき、俺もこうなってたのか……?


 ダンケルクは自分がもつ以上の魔力を放出して、魔力切れを起こしたのだった。風の魔法による瞬間移動や、火の魔法による光の剣。これらは、莫大な魔力が必要だ。


「なんか、おいしいところをもっていって、悪いナ」


 イグアナの姿になったエンバーが、ペロペロと舌を出しながら俺の元に歩いてきた。


 ギールの配下がすぐに手当にもどってくる。どうやら傷は浅いようだ。


「はぁ……」


 俺は全身の力が抜けて、疲弊しきった体を大の字にしてステージの壇上に寝転がった。


 終わった……。


 そこに、ふわりとした布が頬に当たる。


「タクト様、本当にありがとうございます」

「ふぇ……?」


 目を開けるとルナを下から見上げていた。


「おわっ、ルナ王女!」


 慌てて座り直した。

 周りを見れば、客席の大勢の人が喜びとともに拍手を送っている。


 ルナが安堵の笑みを浮かべると、俺も自然と笑みがこぼれた。


 ダンケルクは拘束されて壇上から退場させられる。評議会の老人とルナ王女が俺の目の前で向かい合った。


「本当にそのままでいいんですよ」


 そう俺に言って、ルナは戴冠式を続ける。

 司祭と思われる老人だけは相変わらず緊張した面持ちで、帝国の王冠をルナ王女に戴冠した。俺は本当に疲れていて、その様子を見届けると壇上で眠ってしまった。


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