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ゴシップ

 ガイア王の崩御から三日後──


 訃報は帝国のみならず、大陸全土に知れ渡った。

 しかし、騎士団長のクーデターであることは王位継承評議会が最高機密としたため、帝王の死には様々な憶測が飛び交った。


 ギールの復讐か、共和国による暗殺か……。王位継承評議会は架空の反逆者をでっちあげて、この2つのどちらか都合のいい世論を後押しすることに躍起になっていた。


「店長、ちょっといいですか。最近、よく聞く王位継承評議会って何なんですか? そんなに偉いんですか?」


 俺は夕食をとっているトロに尋ねる。


「評議会っていうのはね、国王がいない間、国王の代わりになって色々決めていくんだよ。それと、建国前のルールみたいなものがあって、次の国王を評議会が決めるんだ」

「へぇ〜、流石ですね店長」


 店長は毎朝新聞を読んでいて、この世界のルールについてよく知っている。


「本当にお姫様がいるのかしらね。どんな人なのかしら……やっぱり、噂通りすごくキレイなんでしょうね!」


 マロンは頬を赤らめて話す。まるでゴシップを語ること自体がご馳走であるかのようだ。

 噂程度だった王女がここ最近で急に話題になり始め、次期国王なのではと話す客も多い。町はその話で持ちきりだ。


「……」


 俺は夕食を終えると、エンバーと一緒にベッドに入る。


 そして──深夜。


「タクト、寝ている場合じゃないぞ」

「……」


 窓から入ってきたリアクに起こされる。

 たしか、カギを掛けていたんだけどな……。


「さて、ミーティングを始めるかのう」

「……」


 いつの間にか、ギールが部屋にいてランプに明かりを灯す。

 こっちのドアもカギを掛けていたはずだが。


 すると、カチャリとドアが開いた。

 スススッとすり足で入ってきたのは──藍色のワンピースに黒のベールを被った女性だ。


「ルナ王女」


 リアクが椅子を勧めると、そこに座りベールを外す。

 銀色の髪がランプを反射して、ほのかなオレンジに染まる。湖面のような青い瞳は、城の祭壇のプールを思い出させた。

 その高貴なオーラに気圧されて、さすがに俺は起き上がった。エンバーは横でいびきをかいて寝ているが。


 ──マロン、ここに《《噂のお姫様》》がいるんだよ。


 ルナはダンケルクの謀反の直後に城を脱出していた。

 父であるガイア王へ常に耳を傾けていたルナは、すぐに異変を察知し、決められた場所でリアクと合流。当然、ガイア王の監視はなくなっていた。


 そして、帝国で最も安全な場所──四つ角の宿(ここ)に身を隠すためにきたというわけだ。


「──戴冠式たいかんしきまでもうすぐ……。評議会は私を王位に就けることで一致しているようです。三人とも本当によく働いてくれました」


 ルナはゆっくりと頭を下げる。

 評議会とやらが次の王様を決めるのだが、実際は戴冠式というイベントで初めて王位に就くらしい。そこには、評議会のメンバーと次の王が同席する必要がある。


「しかし……ダンケルクの行き先は未だ不明。わしの部下たちも町の隅々まで探しているが、手がかりが掴めていない」

「まあ、ダンケルクだけならどうにかなるだろう? 騎士団全員と城の兵士を相手にツッコんでくる馬鹿じゃないからな」


 リアクは冷血非道なダンケルクが困っている様を想像して、ニヒルな笑みを浮かべる。


「果たしてそうかな……あのガイア王を殺した男だぞ、相当に腕が立つのではなかろうか。おっと……ルナ王女、失礼した」

「いえ、構いません。今はこれから先の戦略を練ることが最優先。死者を悼むときではありません。ギール様の言うとおり、ダンケルクはタクト様が戦ったときよりも一段と強くなっているはず。どのような力を持っているか未知数です」

「して、ダンケルクはいったい、どんな技をつかったのか?」


 ルナは頭を横に振る。


「……父が死ぬ寸前に聞いたのは、ダンケルクが風の塔で何かをしたこと……ぐらいしかわかりません。おそらく、風の地脈と関係があるのではないかと……」

「もしかすると、このエンバーみたいに強力な魔法が使えるようになったとか……?」


 俺は隣で寝ているエンバーを指さした。

 精霊の地脈といえば、火の精霊ヴルカが地脈を閉じるときエンバーを生み出したことを思い出す。エンバーが変身するブレスレットのように、強力な装具を手にれた可能性はある。


「タクト様にお渡ししたのは水の地脈の装具です。それはほんの一部の精霊の力……もし、地脈そのものを閉じるほどの力が込められているのならば、私たちが経験したことのない魔法を使えるのかもしれませんね」

「新しい精霊の装具か……。わしの見立てでは、両者とも居所が分からず戦況は五分五分といったところかの。とにかく、少ない人員ではあるがもう一度洗い直してみるか」


 ギールはそう言って、足早に部屋を出ていった。リアクも窓から出ていこうとしたが、何か思い出してルナの前に跪いた。


「ところで、ルナ王女。ここでの生活は問題ありませんか。……このような宿で窮屈でしょう、食べ物など口にあわなければ城からお持ちします」


 おいおい、仮にも作っている人の前で言うな、と俺はリアクに冷たい視線を送る。


「とんでもありません! 王宮よりもずっとこの宿のほうがよいですよ。興味深いものばかりで、私は『オムレツ』という料理がとても好きになりました」


 ルナの表情がパッと明るくなり、おっとりした気品ある笑みに部屋の空気が和らいだ。リアクもとろとろに溶けた顔で、目がハートマークになるぐらい頬を赤くする。


「そ、そうですか……! 私もぜひ『オムレツ』とやらを食べたいと思います!」

「ええ! ぜひリアク様にも食べていただきたいです」


 ふふん、と俺は二人の横で得意げに鼻を鳴らして、オムレツの作り方を教えてあげた。


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