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精霊

「さあさあ! こちらにどうぞ!」


 ウォーザリは25号室に招き入れると、椅子を引いて俺に座席を勧めてくる。

 座ると、隣に自分の椅子をもってきた。


「見てください……すごい威力、カッカッカッ!」


 帽子を脱いで焦げた先端部分を指差して笑う。

 紅茶を注いで俺の前に置くと、貼り付けたような笑顔のまま横の椅子に座った。


「それで……話というのは?」


 頂いた紅茶を口に運ぶと、ウォーザリが突然シーズーみたいな潤んだ目で見つめる。


「タクト様」


 ウォーザリはとうとう様まで付け始め、急に白髪の頭を下げた。


「わしを弟子にしてください」

「ブフッ!」


 思わず口に含んだ紅茶を吹き出してしまった。

 あやうく、そのフッサフサの白髪を濡らすところだ。


「すすみません!」


 いつも携帯している掃除用の雑巾でテーブルを綺麗にした。


「ああっ……! 気になさらず! わしが急なことを言ってビックリされたんでしょう」

「ええ……また、なんで弟子入りなんて……俺、まだ16ですよ」

「魔法使いに年齢なぞ関係ありません! わしは、タクト様を師として記録を残したいのです」

「記録?」

「ええ、ええ」


 ウォーザリは鞄を開けて何かを探す。牛革製の鞄は色褪せていて、小さい冷蔵庫ぐらいの大きさがある。


「わしが書いたんです。世界中の魔法の書を編纂してまとめたんですよ」

「へぇ」


 魔法の成り立ちや魔法の種類、そして魔法界の著名人までまとめられている。


「すごい! これ借りてもいいですか?」

「どうぞどうぞ!! 読んでくだされば、わしの魔法に対する真摯な思いも伝わると信じています!!」


 つい「貸して」なんて言ってしまったが、まんまとウォーザリに乗せられてしまった感がある。


「そちらの本にも書いてあることなのですが、タクト様は精霊と会ったことはありますか?」

「精霊? 会えるんですか?」

「ええ、ええ。この町にも精霊はいますよ。大抵、人が集まって町ができる場所は、精霊の在りどころですからね。火と水と風……この三元要素は人の生活に欠かせないものであり、そのバランスが取れている場所こそ自然と栄えるものです」

「へぇ〜」

「精霊は魔法と密接なつながりがありまして、もう精霊より魔法に詳しいのは、神様ぐらいだと言っても、過言ではないでしょう」

「つまり、魔法の暴発も何故起きているか分かるってこと?」

「この世に確実なものはひとつとしてないですが……ほぼ間違いないと思います」


 全体的に言い回しが……くどいな。

 しかしながら、魔法の先生だけあって知識はある。


「さすが先生ですね。そしてその精霊の場所って、この町のどこにあるんですか?」

「お教えしたいところですが……人の(サガ)の深さでしょう。精霊の力を独り占めしたりする輩もいて、なかなか場所は分からないのですよ……わしが、知っているのはただ一つ、城内の鍛冶屋です」

「城内かぁ……」

「ええ、そこのインドルというドワーフが、火の精霊ヴルカの力を使っているらしいですぞ」


 朝、夢の真っ最中に突然叩き起こされた。


「タクト! タクトだな!!」


 耳の奥に響く、男の野太い声が俺のまぶたをヒクヒクさせた。


 毛布をはぎとられ、バンバン背中を叩かれる。


「起きろっ! 騎士団からの命令だぞ!」


 体を起こすと、部屋に二人の兵士が入ってきていた。


「ん……」


 なんで兵士が?

 夢かな……。


「待ってください! タクトくんは大事な従業員なんですよ! なんですか急に連れて行くなんて!」


 入口を塞ぐ兵士にトロが問い詰めていた。


「ええい! 邪魔だ!」


 バン、と払いのけるとトロが壁に頭をぶつける。


「ううっ!」

「俺達の邪魔をするということは、騎士団に歯向かうことになるんだぞ! こんな宿、一日で取り壊しになるぞ!」


 やっと頭が回ってきて、視界がはっきりしてきた。


「待て、俺が行けばいいんだろ? 今すぐ行くから……」


 ベッドから降りて立ち上がる。まだ頭がふらふらして、足にあまり力が入らなかった。


 突然兵士から呼び出された理由はわからないが、こいつらが宿に来れば悪いことしか起きない。

 おとなしく連れて行かれたほうが、トロやマロンの迷惑にならないだろう。


「タクトくん!」


 宿の出口でマロンが呼び止めた。


「マロンさん……なんかよく分からないけど、なるべく早めに帰ってきます。すみません、急に仕事に穴をあけちゃって」

「そんなの……どうでもいいよ。すぐに帰ってきてね?」

「はい。心配しなくても大丈夫です。すぐに帰ってきます」


 俺は兵士たちに連れられて、宿を出ると、高くそびえる城に向かう。そして、一度追い出されたときに通った門を前にしていた。


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