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12月のシルバーウルフ

どこか変な点ございましたら、容赦なく言ってくださると幸いです。

12月を思い浮かべて、真っ先に寒いという感情が湧いて出る自分はきっと、マイナス側の人間なのだろう。


「寒すぎだろ・・・へくち」


ヒートテックにダウンジャケットを備えているのに、寒さは俺の肌を撫で付けてくる。全くもって、迷惑にも程がある。


「ただいま」


家の中はやはり、暖かい。暖房はこれでもかと

温風と、心地よさをこの家にもたらしてくれている。いつもありがとう。無機物だから、感謝を伝えても、応答などしないけど。


「ありがとう〜。おかえり」

「買ってきました。もう・・・これからは、ちゃんと自分で買ってくださいね」

「えぇー、負けたのは飛鳥くんじゃん」


その通りである。


ゲームで負けた方がコンビニまで行ってお菓子を買う。そんなルールを持ってきたのは、誰でもなくこの義姉。


最初は、そんなもの断ったのだが。


「あ、負けるの怖いんだぁ〜」


なんて、喧嘩を売られた、そんなの買わなければ男ではない。



そして、負けた。

そしてお菓子を買った。全くもって、悲しいことだ。


「おぉ、ナイスチョイスだね」

「甘い物ばっかり。身体壊しますよ」

「糖分補給は大切でしょ?」

「過剰摂取っていう言葉があります」

「私には無縁の話だね」


縁ありまくりだろ。現にこの家のお菓子は

ほとんど奏さんによって消費されている。


「栄養過多。ぴったりじゃないですか?」

「あ、ひどい。お姉ちゃん悲しいよ」


事実だと思う。目の前のお姉ちゃんは、妹かい?と聞かれてしまうぐらいには、ちんちくりんである。


「飛鳥くんってば、私には辛辣だよね。淡々と棘投げてくる・・・」

「なら、生活を改めてください」

「ひどいよぉ〜。お姉ちゃんのことが大好きなくせにー!」

「だから心配してるんです。早死にしますよ?ほんとに」

「・・・ひ、否定してね。そこ」


白い頬が、赤く染まる。自分で言っといて

照れてしまうのだから、よくわからない。攻撃力に全振りして、耐久面はダメダメなのかもしれない。




「配信日、決まったんですか?」


 スマブラの対戦中、言葉を投げたのは飛鳥の方であった。

健吾さんから許可を貰ったあの日から、実は

気になっていたことである。


「うん、31日」

「え、案外速いんですね」


想定よりもずっと速い。しんふぉにーの仕事の速さに驚いてしまう。


「そういうもんだよ〜、新人さん来た!って思ったら、その数ヶ月後にまた新しい子!?なんて・・・何度味わったか」

「そうなん...ですか!!」

「あは、また負け〜」

「・・・俺はこの苦渋を何度味わえばいいのか」


なんというか、自分のゲームセンスの無さに

毎度驚く。


「LoL上手いのに、それ以外はてんでダメだね」

「返す言葉もないですね・・・あの」

「流石に、何度もお菓子買いに行かせるとかしないよ」


よかった、またこんな寒空の下にほっぽり出されたら、涙が出るところであった。


「31日・・・健吾さん、見てくれますかね」

「絶対見るよ。って、飛鳥くんが心配するんだね」

「いやだって・・・ねぇ」


あの時、言われた言葉を思い出す。


<その、実はね?僕、明後日からあっちこっちに行かなきゃ行けなくて・・・来月まで、ここに帰ってこないんだ>


なんて言われたら、健吾さんの労働環境を心配するのも仕方ないのではないだろうか。

休みは取れているのかとか、色々と深く考えてしまう。


「31日・・・か」


年の終わりに、奏さんの新しいスタート。

縁起が良いような気がする。


「きっと、あっという間なんでしょうね。31日」

「だね。飛鳥くんが私に負けるぐらい、あっという間」

「棘、ありますね」

「お返し」


どうやら、意地の悪い俺への仕返しみたいだ。

子供のようでとても可愛いけど、大画面テレビに映る、スマブラの画面は可愛くない。えけづないコンボを決められる。


「LoL、下手なくせに・・・」

「どうやらそれ以外は平均的に上手いみたいでして」

「忘れてませんよ、ネカフェで見たアーリ」

「あは、私も忘れられないよ。・・・現在進行形の、飛鳥くんのカービィ」


ダメだ。これ以上やっても奏さんにいじられ続けるなこれ。それなら、とっとと退散した方が身のためだ


「勉強してきます」

「は〜い。楽しかったよ、飛鳥くん」

「俺もですよ」


ちょっとでいいから、俺もスマブラ上手くなりたいな。


部屋の机で、勉強道具を広げる。


課題はとっくに終わってる。なら、問題集でも

解いてるか。


俺の行く高校はそこまで偏差値は高くない。

射程内なのは変わりないけど、それでも何かを学ぶというのは、自分の為になる。





夢中で問題集の解説や問いを解いていくと。

気づけば、23時に突入していた。


もうそんな時間か、と伸びをしながら頭を休める。


外を眺めて、一考する。


「ふぅ・・・うん」


無性に、外を歩きたくなった。



 寒さをしっかりと対策して、リビングを通過する。そこには、先程まで、一緒にゲームをやっていた義姉の姿は見えない。恐らく、部屋で寝てるか、初配信のことで色々と考えている。


「・・・」


当たり前だが、健吾さんもいない。

 どこかのホテルで、ゆっくりと身体を休めているのだろう。


「行ってきます」


誰にも聞こえないであろうが、1人ぼそっと

呟いて、嫌悪している寒空の下へと向かった。








12月はあまり好きではなかった。


 行事がいっぱいで、周りは楽しそうな雰囲気に包まれているから。


息を吐いてみる。白い吐息が、風に運ばれて霧散する。


「・・・さむ」


1人、開かない扉の前で身を丸めながら座り込む。やってしまったな、と呑気に思考を巡らせる。


いきなり、隣の扉が開いた。隣人さんだ


「え、あ、ども」

「・・・こんばんは」


まるで、初めて会ったかのような困惑を示す

男の人。お化けかなんかかと思われたのかな


しばらく顔を見られて、男の人はどこかへと

去っていった。


おそらく、見ていたのは私の髪。


背伸びをして、サイドテールにした髪型。

・・・銀の髪色。地毛じゃない。染めたのだ


「はぁー」


また、息を吐いてみる。今度は白にしてみようかな。




スマホを確認する。23時14分。もう何時間ここにいるのだろう?カイロはやる気をなくして、誰かを温めることに飽きてしまったようだ


「冷たいね・・・」


この寒さを乗り越えるのはむすがしい。ここで一晩明かそうと思ったけど、浅はかすぎた。頭の悪い自分に、自嘲してしまう。


すると、規則的な足音が近づいてくる。


「あ」

「・・・」


お隣さんが、帰ってきた。その手にはココアが握られている。

お互い、挨拶なんてしなかった。こちらを少し見つめて、それを止める。

 

 そんなお隣さんは扉に手をかけて、固まった後。こちらを再び見て口を開いた。


「・・・あの、もう遅いし。中に入った方がいいですよ?」

「鍵無くした」

「え」


 入れるのならとっくに入っている。少しだけ

イラついた言葉遣いだと、言った瞬間に思う。


「家の人は?」

「いない」

「・・・どの辺で無くしたとか覚えてます?」

「ここ」

「あー、参ったな」


 何が参ったのか?自分の家の鍵でもないのに

どうして、困った顔をしているのか不思議でならない。


「ネカフェありますよ。近く」

「知ってる」

「なら、そこ行くのがいいと思います」

「お金ない」

「バイトとかしてないんですか?」

「・・・中学生です」


 また、驚かれる。もう彼の中で私の立ち位置は、関わるとめんどくさい不良になったのだろう。



 しばらく、こちらをジーッと見つめた後

家の中へと消えていった。


「・・・ぁ」


 おかしいな、そんな態度慣れてるはずなのに胸が締め付けられる。


「・・・バカみたい」


何を期待していたのか。彼が助けてくれるとでも?あるわけない、そんなこと。


また、スマホをつける。23時20分。




扉が開く。


「ネカフェ、一緒に行きましょう」

「は?」


靴紐を結び直して、鍵をかけてそう言われる。


いや、ないでしょ。普通に


「あの、犯罪に手を?」

「俺も中学生なんで、ギリ合法かなと」

「うそ・・・全然見えないけど」

「お互い様」


言われてみれば、顔立ちは幼なげで背も私とそこまで変わらない。ただ、どこか大人っぽく見えるのは、その振る舞いであった。


「夜中に女の子が1人で行くのは危ないんで、俺が一緒のがいいかなって」

「・・・」

「それが嫌なら、これを」


渡されたのは、5千円。いきなりのことで少し

警戒する。


「渡しとくんで、1人で行ってきてください」

「・・・」


何も言わず、それを手に取る。


正直、ありがたい。これ以上この寒波を浴びていたら、死んでしまいそうであった。


「それじゃ、お気をつけて」


もう一度、鍵穴を回して扉を開く。本当に、この人には下心というものがないらしい。


「ありがとう・・・ございます」

「いえ」

「・・・その」

「?」


もうここまでされたのだ。なら、最後まで甘えてしまおう。


「一緒に来て下さい。・・・ちょっと怖いんで」

「わかりました。じゃ、行きますか」


 申し訳ない。こんなことなら、速い段階で甘えておけばよかった。

立ち上がり、お尻についた埃等を払い、お隣さんの後をついて行った。





この人の歩く速さは、遅くもなく速くもない。

きっと、私の歩行スピードに合わせているのだろう。前を歩くお隣さんは、あまりこちらを振り返ることはないのに、器用なものだ。


「あ、私、木ノ下白奈って言います」


忘れていた自己紹介を今更する。お隣さんも忘れていたらしく、あー。と言って、こちらに振り返った。


「鳥海飛鳥です。よろしくお願いします」


面白みのない最低限の挨拶。それを終えると、再び歩き出した。


「にしても、隣の人っていたんですね。ずっと空いてたからいないのかと」

「えと、実は最近引っ越してきて。本当すみません。今更・・・」

「気にしないで、俺も気づかなかったし」


2週間前だろうか?こちらに引っ越してきたのは?


・・・面倒くさくて、挨拶をしていなかったツケが回っている。今ちょっと気まずい。


「・・・鳥海さん」

「ん?」

「なんで、助けてくれたんですか?」


こんなことを聞いた理由は、自分でもわからない。ただ、本当に聞いてみたくて。

周りから避けられ続けた自分にとって、目の前の好奇心に食いつく理由は、それだけで十分であった。


「まぁ、見てられないし」

「・・・え、それだけ?」

「はい」


特別な理由はないみたい。なんというか、変わった人なんだな。


「そんなことで、お金も出して、ネカフェまでついてきてくれるんですか?」

「うん」

「・・・変な人」


私の呟きが聞こえたのか、鳥海さんは薄く微笑んだ。それが妙に、大人っぽくて。

見かけだけの私とは、あまりにも違った。


「あまり、声掛けられないんで。最初驚きました」

「そうなの?」


返ってきたのは、信じられない。というような

物言いであった。


「え、その・・・私のこと変とか思わないですか?」

「別に」

「この髪、似合わないとか思ってません?」

「かっこいい」


まさかの肯定派。これは・・・ちょっとだけ嬉しいかも。


「気にしてるなら、戻したら?」

「いや・・・気に入ってるんで」

「そっか」


 なんというか、鳥海さんとの会話は、心地の良いものであった。

 壁にボールを投げたら、数回バウンドして

綺麗に、私の手元に帰ってくる。そんな感じ


「そういえば、ネカフェって中学生入れるんですか?」

「普通入れないけど、隠せばワンチャン」

「大丈夫?」

「制服だったら終わりだったけど、今の木ノ下さんの服装。大人っぽいし大丈夫。それに、適当なとこだし?俺、友達と来たことあるけど、年確されなかったかな」


それはそれで、どうなんだ。


「・・・悪いことしてるみたい」

「夜中にこんなところ彷徨いてる時点で、いい子ではないです」

「あは・・・そうですね」


なんて、話していたら着いたようだった。

ここと、指差す鳥海さんに釣られてその先をみる


「じゃ、俺はここで」

「・・・」

「さよなら」




そう言われた途端、寂しくなった。待ってと

言いたかったけど、これ以上この人に迷惑をかけるのは申し訳ない


「はい、また」


か細い声を捻り出すことしかできなかった。

あー、本当。ダサいな。私



「・・・あー、心配だし。受付もします」

「え?」

「行きましょう」


また、私の前を歩き出す。それに慌ててついて行く。


「あ、あの」

「お金」


言われて、渡された5千円札を渡す。

そのあとはあれやこれやで話が進んでいき、本当に年齢確認はされなかった。

 受付のお姉さんは、ニマニマとした表情で、私と鳥海さんを交互に見た。変な邪推をしているのだろう。



そして、お別れの時。


「その・・・本当にありがとうございます」

「いえ。それじゃあ、今度こそさよならですね」


「・・・」


また。また来た。心を締め付ける孤独感。

鳥海さんのさよならに、酷く反応してしまう。


「ま、また・・・明日」

「明日って・・・あははっ、はい!また明日」



その時見た鳥海さんの笑顔は、やっぱり大人ではないなと、そう感じさせた。





いや、明日学校じゃん。馬鹿だ私・・・


「どうしよ・・・」


・・・休むか。



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