大雨の前の嵐
短めです。次のために
今日の夜ご飯はカレーである。
1日経ったカレーは美味しい。それに気づけた人に拍手を贈りたい。こうやっておたまで混ぜているだけで、今日の夜食ができあがるのだから。インスタント食品並に簡単な過程のはずなのに。
ちなみに、美味しくなる理由としては、うまみ成分が溶け出してコクが出るから。らしい
火を通して、固形になりかけていたカレーが
液体へと溶けていく。・・・コク出てるのかなんて、正味わからない。うま味もわからない。
「・・・」
「奏さん、健吾さんはまだ帰ってきませんよ」
「わ、わかってるよ」
秋葉から帰ってきて、奏さんはずっとこの調子であった。
主人を待つ子犬。とは、誰が言ったのだろうか?
俺か。
「何を言うか、ちゃんと考えました?」
「うん。ま、まずVtuberになることをね」
「当たり前ですよ。それ・・・俺が言っているのは、その後のことです」
「・・・」
「ダメって言われたらどうするんですか」
義姉の顔が青ざめていく。そりゃそうだ
ここでダメを貰ってしまえば、しんふぉにーに迷惑をかけてしまう。
最終面接をパスしてしまった弊害である。
・・・普通、許可を貰ってから応募するものだろう。
「まぁ、万が一を考えて言葉は探しといた方がいいかもですね」
「あぁぁぁぁ・・・怖いこと言わないでぇ〜」
テーブルに突っ伏してしまった。死刑判決を待つ囚人じゃあるまいし、もっと自信を持ってほしい。けど、不安にさせてしまったのは、事実俺である。
「マイク以外の機材ってどうするんですか?また
買いに行くんです?」
「あ、そこら辺は相談してみたら貸し出ししてるみたい・・・。高校生の懐事情を察してくれる良い事務所だよね」
「奏さんは一般高校生の倍のお小遣いだと思いますけどね」
健吾さんから、お小遣いを貰った時は目を丸くした。諭吉が影分身を覚えて、俺の目の前に立ちはだかってきたのを、今でも思い出せる。
そんなに貰っても特に使い道なんてないし、諸事情で財産はかなりあるので、丁重に断った
「だとしても高くない?最低ライン2万だよ」
「学生の2万は辛いですね・・・」
なんて言っているが、奏はPCを2台買っていることを、忘れてはいけない。
「ん」
「帰ってきますね」
お互い、携帯を開く。メッセージが飛んできていた。
<もうすぐ、家に帰ります>
労働を終えて、1日ぶりに帰宅するこの家の家主を迎える準備はできている。
カレーはほどよくほぐれて、煙がお腹の虫を
鳴らす匂いを運び外に放出している。
「・・・」
また固まってしまった。先程まで小粋な雑談をしていたというのに、汗まで垂らしはじめた
「や、やっぱ今日じゃないとダメ?」
「ずるずると先に伸ばす方が辛いですよ」
「・・・うぅ」
両手を握り、胸の辺りに持っていく奏。心を落ち着かせるためにやっているのかもしれないが、力身すぎて顔が真っ赤になってしまっている。
「ほら、深呼吸してください」
「うん・・・すぅー、はぁ。・・・良い匂い」
「昨日のカレーですよ」
どうやら煙が鼻へと侵入したらしく、気の抜けた顔でそう言うのだから、緊張は薄まりつつあるらしい。深呼吸の力って偉大
「お腹すいたぁ・・・」
ほんと、深呼吸の力って偉大
「ただいま」
鳥海健吾の帰還。ドアに鍵をかけながら、帰宅の報告。
「おかえりなさい」
「お、おか、おかえりー!」
いつも通りの飛鳥。挙動不審の奏。健吾の関心は、後者へとひかれた
「あ、ああ。ただいま。珍しいね、奏」
「うん、たまには・・・」
「・・・」
助けてと、アイコンタクトを送られる。
いや、速すぎだろ。そう思い、敢えてそれを無視する。
「お疲れ様です。ご飯とお風呂、どっちにします?」
「んー、今日の夜ご飯は?」
「カレーです」
先にお風呂にしてくださいと祈る奏。
けれども、その願いは神様に届かない。いや、むしろその願いを弾いたかのように
「じゃ、先にカレーをいただくよ」
暖かく優しい笑顔で、家主は食欲を優先した。