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有意義な土曜日 4

「ドリンク、凄い豊富でした。とりあえずコーラ持ってきましたけど」

「ありがとう〜、気配りできる男の子はモテるよ〜」


狭すぎる・・・とはいかないものの、多少の

窮屈さは感じる。まぁでも、これで防音なのだから、文句は言うものではない。


「店員さんの表情見た?だるそうだったね」

「そりゃ・・・金をケチってる様に見えたかもですし」


ほぼ1人用のスペースに2人で来るのだ。店員からの印象は正直良いものではない。


「飛鳥くんが容赦なく、鍵付きの個室を選ぶ時はちょっと、緊張したけど」

「周りに聞かれるの、不味いですから。椅子、どうぞ座ってください」

「え?いやいや、飛鳥くんが座りなよ」


お互いが譲り合う無駄な時間が勿体無い。有無を言わなせないまま、飛鳥は適当に地べたに座り込む。


「ま、座らないならいいですけどね」

「・・・」

「いや・・・なんで隣に来るんですか」

「なんとなく」


ここに第三者がいたら、だいぶおかしな状況だ。ゲーミングチェアの存在意義がまるでない


「・・・あの」

「ん〜?」


 肩にのしかかる重み。鼻腔をくすぐる、甘い香り。同じ家に住んではいるが、シャンプーは別であった。だからこそ、この人が家族ではなく、他人であるという。現実を、嫌でも認識してしまう。

 

 これはちょっと、よくない。


そう思い、少し奏から距離を取る。


距離を取られて、少し悲しそうな表情をする

義姉に胸が痛む。


「・・・流石に、ダメか」

「その役割は俺じゃないです」

「酷いね。怖いなら俺がいる。じゃないの?」


先程言った言葉を反芻される。どうやら、俺の言った言葉の意味を、正しく理解していないらしい。


「物理的に寄りかかるのは勘弁してください」

「なんで?」

「重い」


恥ずかしい。なんて言えなかった。だから、冗談混じりに、物理的に伴う問題を提示する。

けれども、奏の表情は更に曇った。


「・・・だよね」


・・・やべ。


「物理的な意味です。奏さん自身が重たいとは言ってないです」

「・・・日本語って難しいね。どっちの意味でも傷つくけど」

「どうすりゃいいんだ」


ここで日本語の弊害である。これでは義姉のメンタルケアするために来たのに、タイムアップで何の成果も得られませんでした。なんて笑えない。


どうしたもんか、ほんと、こういう時の女の子への声のかけ方って、何が正解なんだ。


俯く奏さんを尻目に一考する。


・・・ダメだ。もっと脳を働かせるため、メロンソーダを喉に流す。甘くて冷たくて、とても美味しい。


「・・・んーー!!!!よし!!」

「え?」


伸びをして、義姉は立ち上がる。


「ゲームやろう!せっかく、ゲーミングPCあるんだし!」

「え、あ、ええ?」


チェアに勢いよく座り、PCを起動する。その

慣れた動作は、綺麗であった。


「なにやろ?ヴァロ?」

「えと、奏さんの好きなゲームやればいいと思います」


思考。


「・・・LoLかな」

「なら、それでいいと思いますよ」


デスクトップにある、大きなLと書かれたアイコンをダブルクリック。出てきたのは、ログイン画面。


「えーっと、パスワード・・・」

「終わる時、ちゃんとサインアウトしてくださいね」

「わかってるよー」

「・・・どこやるんですか?」

「ミッド」


使用するチャンピオンはアーリ。九尾がモチーフの可愛いチャンピオンだ。プロゲーマーもよく使うほどに

わかりやすく強い、人気なキャラクターだ。


「・・・最近さ、思うんだよね」

「はい」

「私って・・・何やってるんだろって」


 モニターを見つめて、こちらを一切見ない奏さん。

その先に続く言葉を、俺は待つ。


マッチングの待機画面。人気のレーンを選んだのだ、待機時間は少し長い。もしかしたら、他のレーンに飛ばされる。




「家に引きこもって、ゲームとか、動画ばっか見てて」

「・・・」

「毎日毎日、パパへの罪悪感が積もる毎日」


 朝の9時に起きて、夜の大体12時ぐらいに就寝する。良い毎日だ。好きなことやって、好きに起きて、好きに寝る。鎖のない、自由。


けれど、それに伴う負担はいつも父が担っていた。責任も、父は背負っている。


鳥籠の小鳥は、翔けない。檻は空いているのに



「・・・そうですね」


同情のかけらのない言葉。それでも、奏は続けた。


「だからさ、嬉しかったの。飛鳥くんが、私の家に来てくれて。・・・ごめん、不謹慎だよね」

「いえ、気にしないでください」


この人も、一緒だ。有り余る時間を無駄に浪費して、好きに生きている。私と同類。


「勝手に親近感が湧いたの。ほんと、ごめんね」

「全然、光栄ですよ」

「お、嫌味か〜?」

「本心ですよ」

「あはは、そっか。・・・でも、飛鳥くんと私は違うよ」


対戦が見つかった知らせを伝えられる。スピーカーから急な爆音が鳴り響く。


「うるさ・・・」


慌てて音量を下げる。これで、だいぶマシになったはず。


「違うんだよね・・・私と、飛鳥くん」

「誰だってそうじゃないですか?」

「そうだね。飛鳥くんは前を見てて、私は下を見てる」


地面に転がる小石に怯える私と、転ぶことなんて怖くないと言うかの様に、前へと進む飛鳥くん。


「君は、ちゃんと前を向けた」

「・・・それは」


違う。と言おうとしたら


「あ死んだ」

「え、下手すぎ・・・」


アナウンスで、奏さんが負けたことを知らされる。レーン戦が始まってまだ10分ちょいである。


「うーん、やっぱ私にLoLの才能はないかも」


負けたことなんて気にしない、そんな笑顔を向けられる。


「・・・同級生がね?ママが死んじゃったこと知ってたの」

「・・・はい」


何も言えない。デリケートな話である故、選んだ言葉はこの当たり障りのない2文字。


「それで、言われたの」


お前のお母さん、死んだの?


「・・・っ」

「胸が抉られるって、このことかって。高校1年生の時に、痛感したよ」


なんとも言えない苦しみが身を蝕んだ。熱い何かが喉に迫っているのに、頭はどこか冷え始めて。


学校に、もう行きたくない。そう思った。


「それで今の私が完成した。知らなかったでしょ」

「・・・そうですね。知らなかったです」


 コーラを飲む。炭酸が喉を刺激する。それと

同時に、身体に悪い甘さに囚われる。


「・・・分かってるの。クラスの人は、別に悪気があったわけじゃないって。事実確認をしたかっただけなんだって」

「それでも、聞かれるのは・・・辛いと思います」


自分がそうであった。ドアを開けば、憐れみと

可哀想な者を見る目を向けられるのかと。

・・・実際はそんなことなく、みんなはいつも通りに接してくれた。

だからこそ、俺は辛い記憶に惑わされなかった


「あ、また負けた」

「・・・」

「うむ、難しい・・・」


横に置いた、袋を撫でる飛鳥。


「ま、引きこもった経緯とか、知ったところで感あるよね」

「ううん。教えてくれてありがとうございます」

「・・・どういたしまして」


照れくさそうに、笑われる。


「パパさ、私に学校に行ってほしいな。って思ってるじゃん?」

「・・・まあ、親ですから。そう思うのが当たり前ですよ」

「辛いのはわかるけど、良い加減吹っ切れて欲しいんだなぁって、感じ」

「そ、そこまで鬼ではないと思うけど」


健吾さんの言っていた、見習ってほしいって

そういう意味だったのか・・・。


「・・・応援、してくれるかな」

「はい」

「わぁ、即答」


 健吾さん的には、きっと・・・学校に行くというよりも、立ち上がって歩き出してほしいと願っていると思う。憶測でしかないけど


「やりたいことを見つけて、歩き出す。それが

健吾さんの1番の願いですよ」

「・・・うん」


また1デス。




「・・・悩みは、それだけじゃないですよね」

「お見通し?」

「うーん、そうですね」


また、マイクの入った袋を撫でる。


「Vtuberになるのが不安だ〜。とか、思ってません?」

「正解。胸の内が読まれてて、恥ずかしい反面

・・・ちょっと嬉しい」


ニヤニヤとこちらを見られる。いいから、リスポーンしたならプレイに集中してほしい


「これを失敗したら、また健吾さんに心配をかけてしまう。とか」

「・・・うん」

「繊細な人ですよね。ほんと」


自分の失敗で、周りのことを想ってしまうのは

美徳ではある。けれども、それによって一歩を踏み出す勇気を失ってしまっては、本末転倒なのには変わりない。


「周りが怖いんじゃ・・・出来るわけないのにね、Vtuberなんて」

「でも、なりたいんですよね」

「うん。なりたいよ?でも・・・いざ、貴女はこれから、しんふぉにーの一員ですよ。って言われたらさ」


 固めた決心が、揺れてしまう。日常が壊れて

先のわからない未来へと飛び込むのだから、そう考えてしまうのはごく自然なこと。


「怖いですよね」

「・・・怖い」


心ここにあらず、全然ゲームに集中していないのが見てとれる。


「配信機材も買えないでいるのも、自信が無いから・・・。そんなこと気にする必要ないのに」

「無駄になるじゃん。転んだら」


 もし、Vtuberデビューで結果を出せなかったら?


毎日毎日、使わない配信機器が目に映って虚しくなる。あぁ、またお前は転んだと。下ばかり向いた自分が、語りかけてくる。


「なりませんよ」

「なんでそう言い切れるの」



まぁ、言える理由が俺にはある。



「奏さんが、俺にとっての光になったから」

「・・・ぇ」


 暗闇だった。手を握って歩き出しても、いつだって寂しさが、俺の足にまとわりついた。


「健吾さんに拾われても、本当の家族じゃない。凄く心細かったです」

「・・・」

「けど、そんな思いはすぐに無くなりました」

 

 あの時、声をかけてくれた奏さんの笑顔と優しい声色。


ゲームをやろう。その言葉と、優しさだけでどれだけ救われたことか。



そう、健吾さんが居場所をくれたなら・・・


「奏さんは、きっかけをくれた」

「・・・っ」

「俺の人生を変えたんです。向いてると思いますよ

Vtuber」


鼻を啜りながら、こちらに振り向く。涙がポロポロと

溢れている。


「ほ、ほんとぉぉ〜・・・?わ、たし・・・」


ガラガラな声で、そう言われる。答えは決まってる。


「はい」


当たり前だ、と。だって、奏さんは



「不安なら、俺を思い出してください。・・・あいつの人生変えたんだって、自信を持ってください」


言えたいことは、言えた。後は、奏さん次第かな。

ガタッと、音が鳴る。


「・・・飛鳥くんっ!」

「うお!?」


ゲーミングチェアから思いっきり飛び降りて

朝と同じように、抱きつかれる。


「頑張る・・・私、頑張るよ!!」

「はい、そのいきです」

「うん・・・!」


奏さんの綺麗な茶色い瞳が、俺の瞳と交差する。潤んだ瞳が、俺を捉え続ける。


「ありがと・・・」

「どういたしまして」


花のように、綺麗な笑顔。うん、この人はこうでなくては。




安心して一歩を踏み出す時です。奏さん




話の構成考えるのって、やっぱむずいです

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