ふたつの意味 5
「お風呂ありがと・・・あれ?」
借りていたお礼を言いながら、リビングに戻ってみると、居るはずの2人がいなかった。
「どこ行った?」
散らかっていたテーブルは綺麗に片付けられている。キッチンには、使われていたお皿が沢山置かれていた。
そのことから、私がお風呂に入っている間に片付けたのだろう。
「・・・手伝ったのに」
「あ、お風呂上がった?」
「わっ!?」
突然、後ろから話しかけられて驚いてしまった。
「う、うん。ありがとう色々」
「ま、クリスマスだし」
理由になっているのだろうか・・・。
「ふぁ〜・・・。ん、俺、もう寝るから」
「私は?」
「寝たい時に寝なよ」
「違う、どこで寝ればいい?」
「奏さんの部屋以外にあるか」
それもそうだが。
そうだけども。
少しだけ湧いていた淡い希望はすぐに潰えてしまった。まぁ、そう言うだろうとは思ったけど
「布団敷いてあるから。ベッドがいいなら潜り込みなよ」
「無断で?」
「笑って許すでしょ」
許してくれるだろうけど、勝手に寝床に入るのは良いのだろうか。
「んじゃ、俺もう眠いから寝る」
「あ、うん・・・。おやすみ飛鳥」
そう言って、飛鳥は自分の部屋へと行ってしまった。
「んー、ぐぅ・・・」
奏さんはぐっすりと眠っている。元々夜は強くないのか、それとも夜更かしでもしたのか。
見るからに深い眠りに落ちていた。
床に敷かれている布団よりも先に、私はデスクトップ周りに目を向ける。
「・・・カメラ?」
そして目についたのは、モニターにつけられた
一個の存在だった。
もしかして、配信とかしてんのかな。
「・・・んぅ」
「な訳ないか」
もしかしたら、仕事で使うために買ったのかもしれない。
今時、リモートでの仕事なんてザラにあるし。
ま、色々詮索するのはよくないし。さっさと寝てしまおう。
そう思い。私は、布団に潜り込んで目を瞑る。
今日が終わってしまうのは・・・。
──少しだけ忍びなかった。
「・・・うう、トイレ」
突然襲いかかってきた尿意に、私は目を覚ましてしまった。
眠気を振り払いながら、もう慣れた足取りで私はトイレへと向かった。
「あぁぁぁ〜、眠い・・・」
ジャーっと水が流れる音を後ろ手に聞きながら
扉を閉める。手を洗うために、洗面台に向かい合う。
「・・・ふふ」
今私は、飛鳥の服に包まれている。パーカーとズボン。なんというか、こう・・・。
込み上げてくるものがある。
「いかんいかん・・・。何をしようとしてんだ私は」
邪念を払って、私は奏さんの部屋へと向かっていく。
「・・・うん、よし」
けれど、振り払えないものだって確かにある。
奏さんの部屋の前で止まり。私はもう1人の
寝室へと向かっていく。
「ふぅ、はぁぁ・・・ふぅ」
深呼吸して、ドアノブに手をかける。
バクバクと拡張と収縮を繰り返す心臓の動きを感じながら、私は覚悟を決める。
・・・一歩を、踏み出すんだ。
勇気を振り絞って踏み出した世界は、意外にも質素だった。特段目につく代物は、デスクトップPCのみだ。
部屋で鳥海飛鳥という男を理解するのは、難しいだろう。
なんて、名探偵ごっこをしながら私は目的地へと歩く。
2、3歩進んで。私は好奇心と胸に込み上げる感情のまま、それを覗いた。
「──かわいい」
元より可愛い顔立ちをしているけれど、寝ているとそれはあどけなさに変わり、私の思考回路がひとつの感情に支配される。
好き。
「どうしよう・・・。やばい・・・」
もし。
もし私が、ここで飛鳥に──。
一瞬目を瞑って、私は一度呼吸を整える。
したい。
姿勢を低くして、眠ったままの飛鳥を見やる。
規則的な呼吸はとても静かで、生きているのかさえ疑問に持ってしまう。
──重ねたい。
心を・・・。
唇を──
「しろな・・・?」
「ぁ」
その言葉は、燃え上がった私の炎を簡単に消してきた。




