ふたつの意味 3
「ケーキ切りますよ〜」
俺の一言で、リビングで盛り上がっていた2人の視線がこちらに向けられる。
チョコケーキのホールをテーブルの真ん中に置いて、木ノ下と奏さんが席に着くのを待つ。
「隙あり」
「あ、こら!」
どうやら木ノ下が勝ったらしい。
いつぞや見た光景は少しだけ懐かしかった。
「木ノ下ちゃん、チョコケーキでよかった?」
「うん。ケーキの中で1番好きだよ」
「ほらぁ!ホールで買って良かったじゃん」
「1人分で120°を食うことになってますよ」
ホールでケーキを食べたいと言った時は正気かどうか疑っていたけど、これを見越しての事なのか・・・。
「女の子はケーキを無限に食べれるんだよ」
「すげぇ・・・」
「まぁまぁ、サイズはそこまで大きくないんだから。細かい事言わない」
それもそうかと思いながら、色とりどりのロウソクを刺していく。
サイズが小さいとは言うけれど、19本のロウソクは余裕に刺さるぐらいには大きい。
「奏さんって19だったの・・・?」
「そうだよ。言ってなかったけ?」
「初めて知った」
意外そうに目を向けられて奏さんは照れ臭そうに笑っている。
「も、もっと大人っぽく見えたかな・・・」
「え?いや──。うーん」
「ん?はっきり言って?」
「奏さん、火つけますから」
ライターを持って一本ずつ火を灯していく。
ロウソクが燃えて、記憶に残る匂いが充満していく。
「さ、じゃあ・・・ハッピバースデートゥーユー♪」
「トゥーユ〜」
「は、恥ずいなこれ」
俺と木ノ下のバースデーソングを聴く奏さんの耳が赤く染まっていく。けれど、嬉しそうに笑っているから、俺達は構わず続ける。
「ハッピバースデー、ディア奏さん〜」
「奏さん〜」
「ハッピバースデートゥーユ〜」
「いぇーい!奏さん!おめでとう〜!!」
「ありがとう〜!・・・ではっ」
スゥと、耳に入ってくるぐらいに大きく息を吸い込んで、その勢いのまま息を吹きかける。
見事、一息で19の火を消してみせた。
「おめでとうございます。奏さん」
「おめでとう!」
「へへ、ありがと」
嬉しそうに笑う奏さんを横目に、俺は木ノ下に目を向ける。
どうやらデパートで負った心の傷は少しでも和らいだようだ。
──今日、2人きりがいいな。飛鳥くん
まぁ、きっと・・・2人きりよりこうやって
祝われた方が嬉しいよな。
「さ、切り分けるか」
「綺麗に分けれるの〜?」
「馬鹿にすんな、誰だって出来るだろ」
「私出来ないけど」
「俺は木ノ下の将来が心配だ」
木ノ下の茶化し聞き流して、3等分に切り分けていく。
いや、120°食うのってキツくね・・・。
「飛鳥くんの、小さくない?」
「いいの?それで」
「逆に2人は食べれるの?」
不思議そうに、木ノ下と奏さんは互いの目を合わせた後に、口裏でも合わせたかのように言葉を揃えた。
「女の子だもん」
「女の子だし」
「そっか。やっぱり、木ノ下もいてよかった」
チョコケーキの甘味よりも、仄かに香る苦味が
俺には美味しく感じた。




