ふたつの意味 2
貰った手袋を大事に握りしめて、私は有り得ないぐらい泣いてしまった。
「なんで・・・。なんでなんで!!」
「き、木ノ下?ごめん、嬉しくなかった・・・?」
困らせたいわけじゃない。
嬉しくなかったわけじゃない。
でも、何故か思っている事とは違う事を口に出してしまう。
「どうして、好きでもない人にここまでしちゃうの・・・」
「え?」
これは・・・正直言うと、恨み言だ。
私は嬉しかった。
こんな大事な日に贈り物をくれて。
そこにはちゃんと、理由があって。
ただ、私にはもう。それを貰う権利はない。
「そういうことを私にしたら・・・。悲しむ人がいるじゃん!なんでそれがわかんないのっ」
「え、え?」
プレゼントなんて渡したければ渡せばいい。
けれど、そういう優しさを向けるのは恋人にだけであるべきだ。
ただの友達である私に、そんな意味のある贈り物するのは・・・間違っている。
「嬉しいよ、凄く嬉しい・・・。私の事考えて選んでくれて、嬉しいよ」
「じゃあ、なんで・・・」
「鳥海さん、恋人いるじゃん・・・」
「いないぞ・・・」
涙が急に引っ込んだ。
「──え」
「こ、恋人?何の話?」
目を合わせて互いに次の言葉を待つ。けれど、両者一向に口を開けずに、ただひたすら時間がだけが過ぎていく。
「「どういうこと?」」
その言葉を皮切りに、2人は小銃の様に言葉が飛び出した。
「誰がそんな事言ったんだ?全くもって身に覚えがないんだけど!?」
「あの時、言ったじゃん!実は出来たって!?
あれは何だったの????」
「あの時っていつだよ」
「イブ前に話したじゃん!!その時、私相手いるの?って聞いたら最近出来たって!」
「相手?本当に何言ってんだ・・・。振り返ってみても、彼女いるなんて一言も言ってない」
「じゃあなんでイブは予定なかったの!?」
「桃子さんに焼肉誘われたんだよ、奏さんのついでに」
「クリスマスイブなのに!?」
近所迷惑なんて気にしないのか、白奈と飛鳥は
言葉を交わす。
双方に勘違いがあったと理解するには、少しだけ時間が必要だった。
「じゃあ・・・本当に私の勘違い?」
「ぽいね」
相手、空いて。
日本語の難しいところである。
「・・・〜〜〜ッッッッ」
「んーと、まぁ。誰にだって間違いはあるよ」
「ごめんなさい、鳥海さん」
「謝る事かな・・・」
思い出すのは、あの日の夜。
勘違いをして、それが悔しくて悔しくて、でもそれ以上に悲しくて寂しくて。
鳥海さんの顔と声と暖かい掌を想像しながら・・・。
「あ、あぁぁ、ぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!」
「木ノ下、近所迷惑になるから・・・」
死にたくなった。今なら、積もった雪に埋もれて凍死する事も出来る。とにかく、この世から消えてしまいたい。
「穴があるなら入りたい。雪が積もってるなら凍死したい・・・」
「やられすぎだろ!?」
「法律が許すなら、鳥海さんと道連れになりたい・・・」
「裁く対象がいない法律が可哀想だから、やめようね」
どこに気を遣ってんだ。
「・・・とにかくごめん。勘違いして、鳥海さんの事困らせた」
「いや、うん。だいぶ焦ったけども」
困った様に笑う鳥海さん。何度、そんな表情を向けられただろうか
「そんなことより、ほら。手袋つけてみてよ」
「うん」
貰った手袋に、手を入れてみる。
モコモコしていて、凄く暖かい。
「うん、めっちゃいいね。可愛い」
「・・・すぐ褒める」
恋人がいないと知って、今度はその言葉を素直に受け取ってしまう。
──どうしよう、嬉し過ぎて。にやけてしまう
「あ、ありがとうございます。まさか、プレゼント貰うなんて思ってなくて・・・」
「気にすんなって、俺が渡したくて渡したんだから」
「律儀だね」
「まぁ、贈り物をするのが好きっていうのがあるから。それでだよ」
──きっと、鳥海さんと付き合う人は苦労するんだろうな。
この人は悪気なくそう言うんだから、どうしようもない。
「鳥海さん、人たらしって言われそう。もしくは財布」
「とんでもなく鋭い悪口だな・・・」
「気をつけてね。贈り物を渡す相手は慎重に選んで」
「心配すんなって、大切にしたい人に渡すようにしてるから」
「・・・も、もう知らないっ。全く、本当に気をつける気あんのかな」
「あんまり、嬉しくなかった・・・?」
今度は胸を貫かれる。
なんだこの人。
なんなんだこの人──ッ!!!
「う、嬉しいから。こんな可愛い手袋貰って嬉しくない人いない!」
「なら、良かった。鳥海サンタのセンスは流石だな」
何だこの人可愛いな・・・。
「じゃあ、速く家に帰ろう。メインイベントが待ってるぞ」
「2回目のクリパだ、私」
「それだけじゃないぞ」
「え?」
前を歩く鳥海さんは、凄く楽しそうに。
この日を待ち望んでいた子供みたいに嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「今日、奏さんの誕生日なんだ」




