有意義な土曜日 1
土曜日が訪れた。学生にとって、とても貴重で、とても有意義に過ごせる日である。
「これとか良さそう!」
「へぇ」
悲しきかな。飛鳥の有意義な1日は、義姉の
力によって、亡きものされてしまったのだった。
「俺の休日が・・・」
鳥海飛鳥の朝は速い。休日だというのに起床時間は6時である。カーテンを開けて、登りかけの朝日を浴び、台所にたって朝食を用意する。そして、用意が出来たら義姉の部屋へと足を運ぶ。
「奏さん。朝食できましたよ」
「うん、今行く」
当然のことながら、奏さんは起きている。
素晴らしい。鳥海家の姉弟は、早起きが習慣付いているのか。
残念だが、違う。
「・・・また寝てないんですか」
「あ、あはは」
目の周りの隈を凝視する。そこまで濃くはないが、悪化するのも時間の問題か。
はぁ、とため息を溢す飛鳥に、奏は弁明するかのように、喋り出した。
「わ、私!!しんふぉにーに入るんだよ!?だからさ!他の人達と並べるように、ランクを上げようと思っててさ!!だから、この徹夜は必要なことだったわけで!!」
「どこまで上がったんですか?」
「・・・ふふ、見たまえよ」
デカデカと、映し出された紫色の印。
「凄いですね。ダイヤまで行ったんですか」
飛鳥がそう褒めると、余程嬉しいのか。
ゲーミングチェアから飛び降りて、薄っぺらいその身体で、力一杯に義弟を抱きしめる。
「これがお姉ちゃんの実力だよ!飛鳥くん」
「流石です。さ、朝食食べましょう」
雑に褒めても、それでも嬉しいのか顔は花が
咲いたように笑っている。
「飛鳥くんに褒められちゃった」
「・・・トースト、硬くなるんで」
抱きつかれたまま、引きずるような形で食卓へと
足を運ぶ。
・・・だいぶ軽いな。ちゃんと食べさせてるのに、なんでこんな薄いんだ。
引きこもって運動もしていないはずなのに、どうしてこの義姉はここまで太らないのか。
飛鳥のちょっとした疑問であった。
「いただきます」
「いただきまーす」
朝8時のニュースが垂れ流される。特に会話もなく、お互いはボーッとテレビを眺めながら朝食を味わっていた。
「・・・飛鳥くん」
「はい?」
両者の沈黙を破ったのは奏の方であった。
その目はテレビに吸い込まれている。
「今日の予定は?」
「え?うーん・・・特にはないですね。勉強したら、LoLやろうかな、ぐらいです」
「ズバリ、暇ってこと?」
「今日の過ごし方を教えましたよね?暇ではないです」
「家電行かない?」
「聞いてねぇや」
目の前の義姉は、どうやらまともに会話をしてくれないらしい。もしかしたら、徹夜のし過ぎで疲れてるのかもしれない。
「って、なんで家電?」
「配信機材とかさ、買わないとな〜って」
「へー、そういうのって家電に売ってるんですか?」
「え、知らない」
「知らないで俺の予定が潰されそうなんですか」
勘弁してほしい。無駄足だったらどうするつもりなのか。そもそも、家電なんかに行かないで
ネットで買えばいいんじゃないか?
「通販じゃダメなんですか?」
「・・・今日、天気いいじゃん?たまには、陽の光を浴びてやらんこともないかなって」
「殊勝な心掛けですね。手遅れだとは思いますが」
「ひどい!」
ガビーんと聞こえてきてそうなほどに落ち込む
奏。それを見ながら、自分の分のトーストを
食べ終わり、流しへと持っていく。
「食べ終わったら、流し台に置いといてください」
「ねぇー、行こうよぉ」
「機材がある確約もないのに行きたくないですよ。もう・・・速く食べ終わってください」
「わかった!」
「ふぅ」
「・・・あるって!!」
「は?」
ドヤ顔でスマホを見せつけられる。どうやら
メッセージで誰かに聞いたみたいである。
<ちはやさん>
<どしたん>
<家電量販店に配信機材って売ってます?>
<んー、無くね?秋葉とかなら、ワンチャンってかんじ>
ないって言ってるけど。
「秋葉行こ!」
「いやだるいだるい」
更に行き先が遠くなってない?これだったら
近所の家電量販店のほうがよかったよ。
「むぅ・・・。飛鳥くん」
「はい?」
「誰のおかげで、LoLができてるか。わかってないのかなぁ」
「あー、なんか。秋葉行きたいなぁ」
それを出されたら負けである。それはもう
完全敗北。飛鳥を一撃で仕留めるワイルドカードであった。
「ふふふ。わかればよろしい」
「くっ・・・」
俺がLoLを気にいるやいなや、奏さんはどこからか出したデスクトップPCを俺に渡して来たのだ。曰く、前使っていたもの。
「楽しみだなぁ。ね、飛鳥くん」
「楽しみですから・・・。速く食べ終わってください。洗いたいんですけど」
「あ、ごめんごめん」
こうして、俺の土曜日が半日、潰されるのが
確定したのだった。
配信機材って家電量販店に売ってるんですかね。
ちょくちょく見るような気がしたんですけど