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にじゅうごにち 3

あの後も何度か2人で歌う事になった。

その度、小雪の不満げな表情が如実になっていき、宥めるのが大変だった。


「えー、橋下君歌上手いね。カラオケとかよく行ってんの?」

「ううん、家族とたまにぐらいかな」

「こいつと遊びたかったら俺に言ってな?」

「いや、あんたとは遊びたくないから」


橋下君達のグループはとても楽しそうにしている。

それを尻目に、私は壁にかけられた時計に目を配らせる。

もう少しで、21時になりそうだった。


「私、帰るわ」

「えぇ!?しーちゃん帰るの!?」

「うん」


座っていた席から立ち上がると、小雪に袖を掴まれる。永遠の別れかのように泣きじゃくっている。


「やだぁぁぁあぁ!!」

「こら、小雪。白奈は家遠いんだから」


美咲の言う通りで、この居酒屋から私の家は歩いて20分はかかってしまう。

夜も深くなってきたし、1人で帰るには危ない


「補導されたらだるいし」

「うちのお母さん迎えにきてくれるから、一緒に帰ろうよ」

「あんたの家、真反対でしょ。私と」


そんな苦労をかけるのは申し訳なさすぎる。

仲良くなった人達に帰る旨を伝えるために立ち上がる。


「じゃあね、私先帰るよ」

「え!早くない?」

「木ノ下さんって、意外と真面目なんだ」

「まぁね。寒いのも苦手だし、家遠いし」

「そっかぁ残念。じゃ、また休み明けね!」

「うん」


小さく手を振って、最低限の挨拶はする。

こんなにも賑やかなクリスマスはとても久しぶりだった。

大体は、自分の家でゲームするしかなかったから、凄く新鮮な気持ちだった。

今回のクリスマスパーティーはとても思い出に残るものになった気がした。


色んな人に手を振りながら出口を目指していく。


「お?木ノ下さん、帰んの?」

「帰るよ。そろそろ時間やばいし」

「うわ、確かに。1人で帰んの?」

「そう」


東郷君の表情が変わる。ニマニマと何か楽しそうな事を思いついたかような、悪い笑顔だった。


「橋下っ!出番だぞ!」

「え」


勘弁して・・・。


表情にこそ出さないが、正直な話。橋下君との2人きりは避けたかった。

あまりにも気まずいし、流石に断るだろう。


「・・・俺、も帰るよ」

「いや、いいよ。悪いから」

「全然、どこらへん?」


まじか。


どうやら、送ってくれるらしい。

夜道が安全になるのはとても嬉しいことではあるけど・・・。


「デパートの、近くだけど」

「うわ、橋下の家反対じゃん」

「いや全然余裕だよ。ちょっと待って、親に遅くなるって言っとく」

「あ、えぇ・・・。大丈夫だよ、悪いって」


「俺、木ノ下さんの為なら何でもするからさ」


爽やかな笑顔を浮かべられて、困惑してしまう。


──困る。


果てしなく、困る。


どうして、お願いしてもないのに、こうやって自分の優しさを押し付けてくるのか。


「見て、やっぱそうなんじゃない?」

「きゃぁ・・・。やばぁ」


周りは私達を見て、冷やかしてくるし。


「おけ、連絡送った。じゃ、行こうか?」

「・・・ありがとう」


出口に手をかけて、居酒屋を後にする。

もう、どうやら送ってもらう事は確定したらしい。


なら、とっととこの場を後にして速足で帰ろう


「あ、待って!」


橋下君も、それに釣られて私の後ろを追いかけて来た。



「みさみさぁ〜・・・」

「まぁ、白奈も悪いとこあるし」

「えぇ〜・・・」

「ちゃんと言わないとダメなんだよ。ほら、2人を追いかけようとしない。ステイッ!」




外は、あまりにも寒かった。


しんしんと降ってくる雪達は、静かに私の体温を奪っていく。


「今日、まじで寒いね。俺厚着してきたのに」

「んね」


私の横でブルブルと震える橋下君。マフラー、厚手のコートを見るに、寒さ対策は万全らしい。それでもなお、この冬の寒さは無慈悲だ。


「これ使う?」

「え、カイロじゃん。いいの?」

「うん」


バックに入れていたカイロをひとつ渡すと、心底嬉しそうにそれを受け取る橋下君。

宝物でも貰ったみたいに。


「うわぁ!ありがとう、大切に使わせてもらいます」

「・・・これでチャラね」

「え?」

「橋下君、私にカイロくれたじゃん。だからこれでチャラ」


結局、使う事は無かったけど。それでも善意は嬉しかった。

だから、私もそれを返すべきだと思った。


「・・・覚えててくれたんだ。なんか、嬉しいな」

「いや、忘れないでしょ。そんな薄情に見える?」

「うーん、ちょっとだけ!」

「あはは」


雪は降り続ける。


積もる雪は、白奈と橋下の足跡を残す。

大きさの違う、2人の足。



──もし、これが。


鳥海さんだったら。



「木ノ下さん」

「ん?」

「具合悪い?疲れた?」

「全然、平気」

「あんま無理しないでね。歩き続けると疲れるだろうし、休みながらさ」

「速く帰りたいから、あんま休みたくはないかな」


スマホを確認する。もうすぐ、短針は9を刺そうとしていた。


「俺は、もう少し木ノ下さんと・・・一緒にいたいけど」

「あんまそういう事、言わない方がいいよ」

「勘違いとかする?」

「しない」

「はは、まぁ。木ノ下さんは俺の気持ち知ってるしね」

「・・・」


更に気まずくしてきて、私にはもうお手上げ状態だった。どうしてこの人は、こうも自分の墓穴を掘りにくるのか。


しばらく歩いたおかげで、デパートが見えてくる。ここまで来ると、人は多くなる。


別れるなら、ここだ。


「橋下君、ここまででいいよ。もう近いし」

「え?いや、大丈夫だよ。家まで送るよ」

「ほんと、すぐそこだからさ。あんまり付き合わせるの、嫌だし」

「そ、うだね」


渋々と了承してくれる。そうだよ、橋下君はちゃんと言えば分かってくれるのだ。


「ありがとう、ここまで送ってくれて。お礼はちゃんとするよ」


バイバイ、と付け足して。白奈は歩き出す。しかし、その足は前に進まない。


「え?」

「待って・・・ほしい」


──掴まれていた、私の手が。



・・・橋下君に。



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